補修技術活用推進検討会の状況について
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.緒言
補修技術活用推進検討会は、補修等の是正技術を原子力発電所に容易に適用できる環境を整備することにより、原子力発電所の安全性を向上させ ることを目指し、それを実現するための具体的方法を検討することを目的として、平成 27 年 9 月よ り活動を開始し、平成 28 年 4 月末までに 5 回の検 討会を開催している。 本講演では、これまでに議論した内容を紹介し、 平成 28 年秋を目標に進めているとりまとめの方向を示す。
2. 検討会発足の経緯
補修技術活用推進検討会発足の経緯については、 既に「保全学」で報告したので[1]、ここではごく 簡単に述べる。 第 12 回学術講演会「補修技術」セッションにお いて、補修等の是正技術は原子力施設の維持のた め福島第一事故後も依然として重要性を持ち続け ており、維持規格等の民間規格・ガイドライン類 整備の経緯と現状を確認するとともに、規制当局 による技術評価(エンドース)を踏まえて電気事 業者が是正措置技術を自由に活用できる環境作り が必要であり重要であるとの指摘がなされた [2][3][4][5]。このセッションの議論の結果、補修 技術活用推進検討会設置の提案があり発足し、平 成 27 年 9 月 3 日、第 1 回を開催するに至った。 以来、平成 28 年 4 月末までに開催した 5 回の検 討会での議論に基づき、検討状況を以下に述べる。 3. 検討状況 3.1 議論の対象項目 検討会では、最初にとりまとめのイメージを大 まかにつかむため、報告書目次案を考え、その後 詳細な議論に入った。ここでは、この報告書目次 案の主要項目を、議論の対象項目として活用し、 項目ごとに議論の概要を整理する形で紹介したい。 それらの項目は以下のとおりである。 ? 過去の問題の経緯と背景 ? 規制と自主的安全性向上 ? 保全の基本的考え方とあるべき姿 ? 規制制度と保全との関係 ? 国際的視点を含めた調査 3.2 過去の問題の経緯と背景 過去の主要問題の事実を整理しその背景をまと めていく。保全はマネジメントであり、1F 事故 の教訓から安全性をもっと強く意識した保全であ - 5 - るべきであったとの反省があり、プラント全体を システムと考え、システムの安全性と経済性を最 大化することを考えて保全をやっていくべきであ るとの趣旨で、今後、発電技検等に協力を求め火 力に関する事例の調査等も含めまとめていく。 3.3 規制と自主的安全性向上 法令、技術基準、民間規格、事業者自主規制と いう階層があることを踏まえ、規制だけでなく、 事業者向けにも過剰な部分は整理して全体を精緻 化すれば安全性が向上するという大筋の確認がな された。 当初はインセンティブ規制と自主的安全性向上 ということでまとめる考えもあったが、議論の結 果、事前/事後規制の現状をメインに記載する方 向とした。その他、事業者、学協会等のステーク ホルダにはそれぞれ持つべき機能があるので、各 ステークホルダに対して責任主体の再認識を促す 必要がある等の議論があった。 3.4 保全の基本的考え方とあるべき姿 保全学会では従来から安全に係る事項を機械系 と人間系に分けて考えることをやっており、補修 は明らかに人間系の対応である。あまり定量的に 積み上げるような検討をするのではなく、概念を 整理する考え方で取り組む。 過剰規制が起こる要因として、事故・トラブル の対策が対症療法的になり、科学的合理的なリス ク考慮からでなく情緒的な不安から都度新たに規 制を追加することが指摘されたこと、規制、産業 界の中立機関、学協会、事業者それぞれが持つべ き機能を理想の姿として整理することが必要との 議論があった。 3.5 規制制度と保全との関係 設計・建設と維持の許認可プロセスは確立して いるので、例えば、原子力規制委員会規則第六号 「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準 に関する規則」の第 17 条から第 19 条を見ると、 本来、機械系に対する設計要求(設計・製造段階の 要求)と人間系による保全管理に対する要求(維 持段階の要求)が峻別されていない等、体系化さ れていないので、保全の観点からそれでよいのか を議論する。米国 NRC の設計要求と保全管理要 求は非常によく整理されており、公開しているの で、これと比較する形で検討する。 設計・製造段階と維持段階、機械系と人間系に分 類して規制要求を整理すること、システム全体の こと、プロアクティブについても考える必要があ る、民間規格の尊重という価値を強調したい、等 の議論があった。 3.6 国際的視点を含めた調査 ASME, NRC 等、国際的視点からの補修技術活用 に関する調査を主として行い、その視点から国内 の状況を俯瞰する。 ASME がなぜ RRA(Repair Replacement Activities) を作ったのかがわかるだけでも大変貴重な成果と なる、ASME もニーズに応じて暫定補修工法の規 格を作ってきたのだろうが、その背景等について 今後も引き続き調査して充実させる等の議論があ った。 4.とりまとめの方向性 まず、補修技術活用を広く保全活動の中で捉え、 保全学会で伝統的に考えてきた機械系と人間系か ら成る安全機能の確保という概念に沿って、保全 のあるべき姿を描く。それを導くため、過去の問 題と経緯と背景を整理し、規制、事業者、学協会 それぞれの安全性向上に対する責任について整理 する。それらのバックグラウンドとして規制制度 と保全との関係を深掘りしてまとめることで、問 題認識やあるべき姿についての説得力を持たせ、 国際的視点も含めて汎用性を持たせる。 その上で、検討会の目的である補修等の是正技 術を原子力発電所に適用できるようにするための 具体的方法について提言する。 参考文献 [1] 青木,小山,堂﨑, 補修技術活用推進検討会 活 動状況報告, 保全学 vol.15-1 (2016) [2] 堂﨑浩二: “補修の規格―ニーズと活用―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会予稿集, pp.228-231, 2015 [3] 菅野眞紀: “補修の規格―技術評価上の課題 ―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会予稿集, pp.216-223, 2015 [4] 小山幸司, 北条公伸: “補修の規格―取組状況 と課題―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会 予稿集, pp.224-227, 2015 [5] 青木孝行ら: “補修の規格―保全活動における 是正措置(補修等)の重要性―”, 日本保全学 会第12回学術講演会予稿集, pp.232-238, 2015 - 6 -“ “補修技術活用推進検討会の状況について “ “青木 孝行,Takayuki AOKI,小山 幸司,Koji KOYAMA,堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,庄司 卓,Takashi SHOJI,渡士 克己,Katsumi WATASHI,菅野 眞紀,Masanori KANNO,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI
補修技術活用推進検討会は、補修等の是正技術を原子力発電所に容易に適用できる環境を整備することにより、原子力発電所の安全性を向上させ ることを目指し、それを実現するための具体的方法を検討することを目的として、平成 27 年 9 月よ り活動を開始し、平成 28 年 4 月末までに 5 回の検 討会を開催している。 本講演では、これまでに議論した内容を紹介し、 平成 28 年秋を目標に進めているとりまとめの方向を示す。
2. 検討会発足の経緯
補修技術活用推進検討会発足の経緯については、 既に「保全学」で報告したので[1]、ここではごく 簡単に述べる。 第 12 回学術講演会「補修技術」セッションにお いて、補修等の是正技術は原子力施設の維持のた め福島第一事故後も依然として重要性を持ち続け ており、維持規格等の民間規格・ガイドライン類 整備の経緯と現状を確認するとともに、規制当局 による技術評価(エンドース)を踏まえて電気事 業者が是正措置技術を自由に活用できる環境作り が必要であり重要であるとの指摘がなされた [2][3][4][5]。このセッションの議論の結果、補修 技術活用推進検討会設置の提案があり発足し、平 成 27 年 9 月 3 日、第 1 回を開催するに至った。 以来、平成 28 年 4 月末までに開催した 5 回の検 討会での議論に基づき、検討状況を以下に述べる。 3. 検討状況 3.1 議論の対象項目 検討会では、最初にとりまとめのイメージを大 まかにつかむため、報告書目次案を考え、その後 詳細な議論に入った。ここでは、この報告書目次 案の主要項目を、議論の対象項目として活用し、 項目ごとに議論の概要を整理する形で紹介したい。 それらの項目は以下のとおりである。 ? 過去の問題の経緯と背景 ? 規制と自主的安全性向上 ? 保全の基本的考え方とあるべき姿 ? 規制制度と保全との関係 ? 国際的視点を含めた調査 3.2 過去の問題の経緯と背景 過去の主要問題の事実を整理しその背景をまと めていく。保全はマネジメントであり、1F 事故 の教訓から安全性をもっと強く意識した保全であ - 5 - るべきであったとの反省があり、プラント全体を システムと考え、システムの安全性と経済性を最 大化することを考えて保全をやっていくべきであ るとの趣旨で、今後、発電技検等に協力を求め火 力に関する事例の調査等も含めまとめていく。 3.3 規制と自主的安全性向上 法令、技術基準、民間規格、事業者自主規制と いう階層があることを踏まえ、規制だけでなく、 事業者向けにも過剰な部分は整理して全体を精緻 化すれば安全性が向上するという大筋の確認がな された。 当初はインセンティブ規制と自主的安全性向上 ということでまとめる考えもあったが、議論の結 果、事前/事後規制の現状をメインに記載する方 向とした。その他、事業者、学協会等のステーク ホルダにはそれぞれ持つべき機能があるので、各 ステークホルダに対して責任主体の再認識を促す 必要がある等の議論があった。 3.4 保全の基本的考え方とあるべき姿 保全学会では従来から安全に係る事項を機械系 と人間系に分けて考えることをやっており、補修 は明らかに人間系の対応である。あまり定量的に 積み上げるような検討をするのではなく、概念を 整理する考え方で取り組む。 過剰規制が起こる要因として、事故・トラブル の対策が対症療法的になり、科学的合理的なリス ク考慮からでなく情緒的な不安から都度新たに規 制を追加することが指摘されたこと、規制、産業 界の中立機関、学協会、事業者それぞれが持つべ き機能を理想の姿として整理することが必要との 議論があった。 3.5 規制制度と保全との関係 設計・建設と維持の許認可プロセスは確立して いるので、例えば、原子力規制委員会規則第六号 「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準 に関する規則」の第 17 条から第 19 条を見ると、 本来、機械系に対する設計要求(設計・製造段階の 要求)と人間系による保全管理に対する要求(維 持段階の要求)が峻別されていない等、体系化さ れていないので、保全の観点からそれでよいのか を議論する。米国 NRC の設計要求と保全管理要 求は非常によく整理されており、公開しているの で、これと比較する形で検討する。 設計・製造段階と維持段階、機械系と人間系に分 類して規制要求を整理すること、システム全体の こと、プロアクティブについても考える必要があ る、民間規格の尊重という価値を強調したい、等 の議論があった。 3.6 国際的視点を含めた調査 ASME, NRC 等、国際的視点からの補修技術活用 に関する調査を主として行い、その視点から国内 の状況を俯瞰する。 ASME がなぜ RRA(Repair Replacement Activities) を作ったのかがわかるだけでも大変貴重な成果と なる、ASME もニーズに応じて暫定補修工法の規 格を作ってきたのだろうが、その背景等について 今後も引き続き調査して充実させる等の議論があ った。 4.とりまとめの方向性 まず、補修技術活用を広く保全活動の中で捉え、 保全学会で伝統的に考えてきた機械系と人間系か ら成る安全機能の確保という概念に沿って、保全 のあるべき姿を描く。それを導くため、過去の問 題と経緯と背景を整理し、規制、事業者、学協会 それぞれの安全性向上に対する責任について整理 する。それらのバックグラウンドとして規制制度 と保全との関係を深掘りしてまとめることで、問 題認識やあるべき姿についての説得力を持たせ、 国際的視点も含めて汎用性を持たせる。 その上で、検討会の目的である補修等の是正技 術を原子力発電所に適用できるようにするための 具体的方法について提言する。 参考文献 [1] 青木,小山,堂﨑, 補修技術活用推進検討会 活 動状況報告, 保全学 vol.15-1 (2016) [2] 堂﨑浩二: “補修の規格―ニーズと活用―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会予稿集, pp.228-231, 2015 [3] 菅野眞紀: “補修の規格―技術評価上の課題 ―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会予稿集, pp.216-223, 2015 [4] 小山幸司, 北条公伸: “補修の規格―取組状況 と課題―”, 日本保全学会第 12 回学術講演会 予稿集, pp.224-227, 2015 [5] 青木孝行ら: “補修の規格―保全活動における 是正措置(補修等)の重要性―”, 日本保全学 会第12回学術講演会予稿集, pp.232-238, 2015 - 6 -“ “補修技術活用推進検討会の状況について “ “青木 孝行,Takayuki AOKI,小山 幸司,Koji KOYAMA,堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,庄司 卓,Takashi SHOJI,渡士 克己,Katsumi WATASHI,菅野 眞紀,Masanori KANNO,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI