民間規格の活用及び維持規格補修章について

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カテゴリ: 第13回
1. 緒言
我が国では規制の性能規定化に伴い、発電用原子力設備に対する仕様規定として民間規格が活用されてきている。また、福島第一発電所事故を踏まえ、設備に関してもより安全に関する認識が高くなり、設備の維持保全のための活動の高度化の必要性も認識されつつあり規制の充実も図られてきている。このような状況のもとで、今後再稼動するプラントも増える見通しになっている。 本稿は、発電用原子力設備を対象に我が国の規制体系における維持段階に適用される民間規格の活用状況、とりわけその役割と活用状況を概説し、日本機械学会維持規格補修章の活用での課題について述べる。
2. 我が国における民間規格の活用
建設や運転段階での規制は、国の法令及び規制基準に 基づいて行われ、事業者が行う発電用原子力設備の設計、 製造、試験・検査(非破壊検査)、維持活動に関しては 国が行う審査、認可、検査のプロセスに関する法令が、 また、法令とともに保安目的を達成するための設備の材 料、構造等に関する基準がかつては国の技術基準として 詳細な仕様が規定されていた。また、設備の製造等にお ける溶接に関しても省令で性能要求が規定されているも のの、その性能確保のための具体的方法・手段は「解釈」 として規制当局により提示されていた。さらに、維持段 階の改造、補修のための溶接も基本的に建設段階と同じ 要求及び解釈が適用されてきていた。このため、事業者 が規制基準以外の仕様で補修を行う場合には、特殊設計 の認可を得る必要があった。このため、新技術を採用し ようとする場合、その仕様あるいは性能確保の具体的方 法・手段の妥当性をその都度示すことが要求されるため、 機動的に新技術を活用できない状況にあり、技術進歩の 迅速かつ柔軟な取込みが困難な問題があった。 このような状況を踏まえ、2006 年1 月に電気事業法の 省令が改正され、国の技術基準が性能規定化されるとと もに、この性能を満たす詳細な技術要求は、仕様規格と して国の技術評価を経て、日本機械学会発電用原子力設 備規格(JSME 規格)などの学協会規格類を活用する新た な技術基準・規格体系となった。JSME 規格は国の工事計 画認可における詳細設計及び製造の認可要件として規格 への適合性が規制当局により確認され、規制の一端を担 っているが、仕様規格として参照されるに留まっており, 産業界が自主的に適合性確認を行うまでには至っていな いのが実情である。 3.米国における民間規格の活用 1954年の原子力エネルギー法制定により、米国原子力 規制委員会(NRC)は原子力材料と構造物及びその施設 利用の両方を規制するための強力な権限を持った。しか し、多くのケースにおいて、NRCは規制分野の開発・普 及を行なったものの、規制以外の分野においては、ASME (米国機械学会)Boiler and Pressure Vessel Code (ASME規格)をはじめ多くの民間規格をエンドースし、 規制に活用してきている。NRCがこれらの民間規格を適 1 - 7 - 配管減肉などの劣化事象の防止に関する規定が特別に加 用する場合は規制要求となるため、NRC は原子力発電所 のシステム、構造物、機器、又は材料に関する民間規格 えられている。さらに技術基準規則には2003年に採り入 を規格策定機関と合同で策定している。 れられた健全性評価制度を踏まえた使用中の亀裂等によ これらの民間規格は特定分野において高レベルの経験 る破壊の防止に関する性能要求も規定されている。 と知識を有する個々人の集まりによって策定されている。 (1) 設計・建設時の規制体系 彼らの専門家としての経験と知識をベースに幾度となく 炉規制法体系からは設計・建設時には運転開始後も含 階層的な委員会組織での議論が重ねられ,民間規格が策 めた事業者の品質保証に関する活動に関する要求ととも 定、改訂されているのである。さらに ASME は ASME に、NRAによる設置許可、工事認可の許認可規定及び使 規格に従った機器の製作などの活動の規格適合性確認 用前検査規定があり、具体的な設備に対する要求として、 (認証)の仕組みも構築し、民間主体で運営されている。 設置・施設の工事認可及び使用前検査の合格条件の中で 米国では1995年に制定されたNTTAA 法104-113「国 構築物、システム及び機器の性能要求である技術基準が 家技術移転振興法」で民間規格の活用を求めている。 引用されて適合することが要求されている。 NRC はこれに沿って民間規格策定の初期段階からエン 製造活動に関しては技術基準に規定される性能(材料 ドースに至るまでの NRC の具体的な活動、例えば規格 及び構造)を有する機器設備を製造するための活動とし 策定機関への参加など、に関する指令・手引書を策定し、 ての溶接を技術基準の性能要求を満足するよう行い、そ タイムリーな規制活動に役立てている。巨大な原子力発 れを溶接事業者検査により事業者自ら確認することにな 電所の機器・構造物の広範囲に亘る技術分野の全てを技 っている。しかし、これら溶接部の管理に関する規定は、 術基準として定め規制要求することは合理的でない。こ 炉規制法及び実用炉規則では、工事認可、使用前検査及 のため、NRC及び産業界双方のコスト削減、効率性、透 び後述の維持段階での保安活動と並列・独立した規定体 明性及び高度技術の品質レベル確保の観点から、自主的 系であり、規制体系上での関連が分かりにくい。 な民間規格の策定活動に NRC スタッフの参加が必須条 (2) 維持段階の規制体系 件となっており、民間規格の策定活動に、2007年の例で 維持段階については炉規制法及び実用炉規則の体系か 160 人を超える NRC スタッフを 300 を超える各種民間 らは、施設の維持、施設定期検査、定期安全審査(定期 規格策定委員会に委員として積極的に参加させている。 事業者検査の規定が含まれる)、保安措置(保守管理及び 4.保全に関する民間規格活用 高経年技術評価の規定が含まれる)、保安規定(保安検査 の規定が含まれる)、安全性向上評価、運転期間(30年を 4.1 規制体系と関連規格基準 超える運転に関する規定が含まれる)等の規定が並列的 我が国では「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規 に規定されている。これらについては後述の2016年1月 制に関する法律(炉規制法)」及びその下位の「実用発電 の IAEA による総合規制評価サービス(IRRS)の評価で 用原子炉の設置、運転等に関する規則(実用炉規則)」に も、「検査について法的枠組みが不必要に複雑であり、9 より事業者の活動が規制されており、その範囲は品質保 年前から本質的に変化していないことが認識されてい 証、設計、製造、検査(非破壊試験等の狭義の試験・検 る。」との指摘を受けている。これは電気事業法の炉規制 査)、維持、保安及びこれらの活動に関する事業者が自ら 法への一本化や、福島第一発電所事故などのトラブルの 行う検査等のすべての活動に及んでいる。また炉規制 規制への反映など、その都度必要な法改正が行われたも 法・実用炉規則にはその活動を規制する観点での原子力 のの抜本的に体系も考えた改正が行われていたとは言い 規制庁(NRA)が行う検査に関する規定も含まれる。さ 難い。 らにこれらの活動及び検査に適用される技術的な性能要 (維持要求) 求基準が「実用発電炉及びその附属施設の技術基準に関 炉規制法で設備の維持要求が技術基準に適合するよう する規則(技術基準規則」)として整備されている。 に規定されているものの、維持要求の具体的な規定は実 技術基準規則には発電用原子力設備の材料、構造及び 用炉規則及びその解釈でも記載されていない。しかし、 溶接部に関する性能要求が規定されている。また、これ 炉規制法等の施設定期検査、定期安全管理審査の規定に までのトラブルを踏まえ、流力振動、高サイクル熱疲労、 はこれらの検査と技術基準との関連が規定されているこ とから、設備の維持活動を実施し、技術基準適合性はこ 2 - 8 - 求を具体化した れらの検査の中で確認されると理解できる。 JSME 維持規格の検査章が、また、技術 定期安全管理審査要求の中で、事業者は定期事業者検 基準で要求される亀裂の評価方法を具体化した JSME 維 査で非破壊検査、解放・分解検査による亀裂、変形、摩 持規格の評価章がともにエンドースされ適用されている。 耗、減肉等の有無を確認し技術基準への適合性を確認す しかし、維持規格検査章及び評価章はNRAが行う技術基 るとともに、亀裂等が認められた場合は技術基準で要求 準への適合性確認において利用されるに留まっており、 される破壊の防止要求に適合しなくなる時期について、 民間が自主的に適合性を確認する仕組みにはなっていな 亀裂の特定、進展評価及び破壊評価により評価するよう い。さらに、補修等の措置に関して維持規格補修章が整 要求されている。また、NRAによる施設定期検査よって 備されてはいるものの、前述のように規制解釈上必要と も定期事業者検査への立会い等を通じて同様の確認が行 の認識がされていないため(基本的に設計建設規格に戻 われることになっている。さらに事業者の定期事業者検 るため)、未だエンドースされず利用もされていない。 査の管理的な事項を溶接安全管理審査として規制当局が なお、NRA内規により日本電気協会の「原子力発電所 総合的に評価することになっている。 の保守管理規定(JEAC 4209)」がエンドースされ、これ 定期事業者検査では検査、評価に関する規定はあるも に基づき保守管理計画を策定することとされている。 のの、補修等の措置については、明確な規定がなく、健 JEAC4209 は保守管理活動の管理的な要求を規定したも 全性評価制度の導入前と同様に、構造及び溶接に関する のであり、具体的な設備(ハード)に対して定期事業者 技術基準の要求をそのまま適用するとの解釈がなされて 検査で実施する点検、試験の方法、頻度等については おり、ウェルドオーバーレイ(WOL)工法に関する規制 JSME維持規格の検査章を引用している。 解釈が技術基準解釈に加えられているに留まっている。 溶接管理は基本的に建設段階のものがそのまま維持段階 4.2 保全(保守管理)に適用する技術 にも適用されており、現実的に維持段階で必要となる補 維持段階の設備に対する点検(試験・検査)、評価に適 修溶接固有の技術に対応したものになっているとは言い 用する技術は、建設段階に適用される技術より使用中の 難い。 環境に伴う設備の性能の変化への対応が求められる。例 (保守管理) えば点検に関しては経年劣化事象に伴う亀裂の検出に適 維持段階では保安のために講ずべき措置の一部として した非破壊検査技術であり、評価に関しては亀裂の発生 施設の保全要求があり、保守管理方針及び保守管理目標 に伴う破壊に対する頑健性を評価するための破壊力学等 を策定するとともに、これらに基づいた保守管理の実施 の技術である。これらの技術を活用して維持活動を行う 計画を定め、これに従って保守管理を行うことが要求さ ための規定はすでに JSME 維持規格に採り入れられ、エ れている。保守管理計画には、点検、試験、検査、補修、 ンドースされ活用されている。しかし評価結果を踏まえ 取替え、改造等の方法、時期及び実施頻度が含まれ、検 た措置、例えば、補修を行う場合の溶接技術は適用する 査の結果の評価及びそれを踏まえた是正措置及び予防措 環境条件の違いにより製造時に適用する技術が必ずしも 置も含めるよう規定されている。また、運転開始後30年 適切とは限らない。対象となる設備の性能、すなわち技 までに高経年化技術評価を行い、この結果を保守管理計 術基準で要求される性能は同じであっても、性能を達成 画に反映することになっている。保守管理に関する事項 する手段は異なる場合が多い。このことを考慮して維持 は保安規定に記載され、策定時にNRAの審査を受けると 規格補修章が策定されはいるものの、未だエンドースさ ともに、その遵守状況の確認を受けることになっている。 れず十分活用されていない。また、技術基準で要求され 維持段階においては、技術基準に適合するように既に る性能も、亀裂による破壊の防止のように維持段階を考 設置された設備が対象であるため、性能そのものを改め 慮すると建設時の要求性能では現実的でないものもある。 て確認し続ける必要はなく、性能に及ぼす影響を確認し したがって技術基準も維持段階の要求性能も適用する技 ていくための維持保全という活動(ソフト)に関して重 術を考慮したものであるべきと考える。 点が置かれていると理解できる。 (3) 維持段階における関連規格基準 5.保全活動に関する民間規格活用上の課題 技術基準で規定される定期事業者検査おける亀裂、変 5.1 IRRS ミッションからの指摘事項 形、摩耗、減肉等の有無の確認のための非破壊検査の要 3 - 9 - んだ際に、電気事業法のハード主体の定期事業者検査・ NRA は、2007 年及び 2016 年に IAEA の IRRS ミッシ ョン[1]から「少なくとも現行の技術基準で要求されるもの 施設検査要求をソフト主体の保守管理要求(保安措置要 と同等の安全目標を達成するような代替の技術的な解決 求の一部)と合わせた体系化がなされていない可能性が 策を用いるよう事業者を奨励すべき」との指摘を受け、 ある。設備の維持段階では実質的に保安措置要求のもと 次の趣旨の自主的取り組みを行うとした宣言した。 に設備維持のための保守管理要求があるとの体系が明確 (1) 技術基準の性能規定化と民間規格の活用 になるように整理する必要があると考える。 NRAは、検討チームを設置して積極的に民間規格の技 NRAの審査・検査は実態に即した国の法体系の性能規 術評価を行い、適切と評価されたものを規制基準の解釈 定化を加速すべきであり、IRRS の報告でも「事業者が第 において引用することにより、事業者による民間規格の 一義的なプラントの安全確保の責任を担っている」とい 活用が可能になるようにする。 う視点に立脚し、能力ある検査官による現場での常時立 (2) 年度業務計画策定のための情報収集 入検査、プラントの自主的安全性向上施策を見極める監 組織内の資源を効率的かつ効果的に活用する観点から、 査型の検査制度への移行を求めている。 将来の業務需要を把握するための外部の利害関係者等か (技術基準の体系) らの情報収集を強化する。具体的には、年度業務計画を 元々建設段階に主体となる技術基準を、維持段階での 策定するために必要な外部の利害関係者等から得るべき 要求を法体系上、建設段階のものと明確に区別せずに規 情報(民間規格のエンド-ス希望予定等)を特定し、そ 定したため、維持段階での技術基準要求事項が不明瞭な の情報を収集し、次年度業務計画に反映する。 ままとなっている。このため、民間規格の体系も対応す (3) 規制・ガイド見直しのための体系的プロセス構築 る規制要求との関連が不明瞭な状況にあると考えられる。 基準規則、規則の解釈及びガイド(NISA及び原子力安 建設段階と維持段階を明確に区別して、技術基準として 全委員会の指針、内部規定を含む)等について、評価・ 両段階を通じた要求性能(建設段階であらかじめ確保、 見直しを行う際の基本方針、スクリーニング手法、優先 確認するもの)と維持段階での新しい要求性能(例えば 度付け及び体制を明確化した文書を作成し、順次見直し 経年劣化事象に伴う性能、つまり照射脆化、流力振動、 を実施する。これには学協会規格の活用のあり方、学協 高サイクル熱疲労及び配管減肉などの材料特性の変化並 会規格の見直し計画の策定及び見直し、IAEA等の国際的 びに亀裂、変形等の構造の変化による新たな破壊形態の 知見を反映するためのプロセスの策定を含む。 防止のための要求性能)を区別したうえで、規制体系化、 (4) 基準補完ガイドの見直し及び審査手順ガイド策定 検査制度への移行が望まれる。例えば、建設段階の要求 具体的には、平成28年9月を目途に維持規格の技術評 を現状の技術基準第 17 条、維持段階の要求を同第 18 条 価及び規則の解釈への反映及び新規制基準適合性審査の に分けて明確に規定することも必要と考える。溶接部の 進め方についての業務マニュアルの策定等を行う。 性能規定で亀裂のないことが要求されているが、第18条 これらのNRAの取り組みも踏まえて、保全関連の規格 で維持段階でも母材との区別なくカバーされるべきと考 の活用には次項以降に示す課題があると考える。 える。このように、維持段階での性能要求を技術基準に 5.2 保全関連の規格活用上の課題 規定することで、保守管理活動での目標とする技術的性 能レベルと関連づけやすくなると考えられる。 (民間規格を活かす法体系) (規制文書等の見直しのプロセス) 維持段階での事業者の活動と規制当局の活動(審査、 炉規法、実用炉規則、技術基準等の法令、規則及び規 検査等)が法体系上分かり易く、かつ適用可能な対応す 則解釈等についても、規制強化を目的に加えるだけでな る民間規格が明確になっていることが必要であるが、 く、いわゆるPDCA を回すように規制の有効性や合理性 IRRSの評価で指摘されたように、検査についての法的枠 を確認するプロセスも採用するべきと考える。その際に 組みが複雑であり、いくつかの事項が相互に関連してい は、監査機能を有する諮問機関等での公開審議を期待し る。まず維持段階で民間が行う規制対象となる活動(ソ たい。また、民間規格を活用する観点で性能規定化した フト)要求が体系的に整理され、それに対応する規制当 法令、規則(技術基準規則)等と民間規格を関連づける 局の活動(審査、検査等)が体系づけられている必要が ための解釈、審査・検査のガイド、マニュアル類を整備・ ある。電気事業法の要求を炉規制法の体系の中に組み込 充実させることは規制活動である審査、検査の透明性確 4 - 10 - 規定として具体的に展開されているかを評価するものと 保の観点からも望ましい。但し、技術基準が性能規定化 され民間規格を活用する状況下において、これらを微に の基本的な合意はとられていると理解できる。 入り細に入り詳細な規定をすることがないように留意す (検討委員会の透明性公平性) べきある。また、整備にあたっては透明性の観点でも第 民間規格を技術評価する際に、NRAは検討チームを設 三者機関による妥当性検証をしつつ実施すべきと考える。 置し、策定した技術評価書(案)をWeb上で公開、公衆 (役割分担) 意見聴取を行い、透明性の確保を図っている。しかし、 規制は一義的に国が行うものではあるが、規制の領域 検討チーム会合では、NRAが選定した少数の外部委員の は多岐にわたっており、細部まで国は直接規制すること 意見を聞くのみであり、意見公募についても、一方的に は非現実的である。従って国と民間との総体による適切 NRAの見解を述べて技術評価を完了する。この方式では な制度の下に、国及びその関連機関、民間、第三者機関 形式的であり、最も重要な第三者専門家の意見を取り入 等のステークホルダーが当事者となる規制体制が構築さ れる体制となっていない。米国 NRC と比較してみても、 れるべきと考える。即ち、安全規制の総体の姿は国が中 「規制委員による直接審査の指揮」、「規制委員会に対す 心に策定すべきであることは言うまでもないが、規制目 る監視機能の欠如」により、判断の妥当性検証、公平性 的の原子力安全に係る影響度合いにより国及びその関連 の確保が欠如しているといえるのではないか。本来、組 機関による直接的な規制活動だけでなく、民間(事業者、 織論的に、この監視機能は、諮問機関である原子炉安全 供給者、製造者)による自主保安活動を取り入れた実効 専門審議会(炉安審)に委ねるべきではないか[2]。 性の高い規制が望まれる。 技術評価は規制体系における規制項目とその規制要求 具体的な役割分担としては、国は原子力安全に直接か レベルをNRAが提示したうえで、規制として評価すべき かわる事項は要求を明確に(ある程度詳細に)して強く 民間規格の要求レベルとの関連で評価すべきであるのに 関与するのは良いが、関係の少ない事項、例えば設備保 対し、実態は出来上がった規格に対して技術基準との整 護の観点で品質確保に問題となるような事項は、事業者 合より、対象規格の不明瞭な事項の指摘など細部の指摘 の活動(ソフト)を監理していくに留めるべきと考える。 も多く、体系的な評価がされないことも多い。技術事項 事業者による自主的規制を行う場合、社会的受容性を の細部は学協会で策定時に議論すべきものも多く、この 高める観点では、産業界による第三者性の確保の手段も 点からも規制当局が米国と同様に学協会に正式に委員と 必要になると考える。具体的には、国際的にも他の産業 して参加する意義は大きい。 分野でも認められている民間による認定・認証制度の導 IRRSミッションチームの指摘の重要な点として、事実 入である。例えば、米国でのASME による機器の設計・ 上、技術基準が性能規定化された状況下でも依然として 製造(溶接・非破壊検査も含む)に関する民間(ASME) 維持規格補修章が一度も技術評価されていない点が含ま 規格適合性確認についても、同様に中立的な専門家を有 れている。維持規格検査章・評価章の個別検査・評価、 する第三者による認定・認証制度を採用し透明性、公平 補修章の個別補修・予防保全工法が法体系上のどの規制 性、説明性を確保したうえで、民間主体で活動可能では 要求に対応するものなのかが明確にされないままに技術 ないかと考える。維持段階においても保守管理に適用す 評価が行われているように思われる。前述のように法体 る非破壊検査、亀裂評価、補修や劣化緩和に適用される 系が整理され、技術基準上の要求レベルが明確になるこ 技術についても維持規格への適合性確認にも展開できる とで、技術評価での論点も明確になり、維持規格補修章 ものと考えられる。このような認定・認証制度の導入に の技術評価も可能になると思われる。 当たっては、適用分野、組織の構築・運営に関する産業 (技術評価計画) 界での議論だけでなく、その原子力全体の安全性確保と 前述のように、IRRS ミッションチームの指摘により、 して、重点的、リスク情報に基づく規制のあり方、関与 規制当局は平成 28 年度上期に年度業務計画策定のため、 形態(監理の方法)についてNRAとの議論が必要である。 外部利害関係者から民間規格のエンドース予定等を特定 5.3 技術評価に関する課題 するとしているが、これまでに民間規格エンドースに関 する学協会とNRAとの協議機会等は未だなく、維持規格 技術評価にあたっては、国は性能規定化された法令類 の技術評価を平成28年度上期に実施するとだけしている。 (技術基準等)の要求に対して、民間規格が仕様(詳細) 福島第一発電所事故前は、学協会協議会の場で、学協 5 - 11 - 成20 会側から規格策定計画を提示しそれをもとに規制当局 年6月、NISA は、JNES 内に事業者、原子炉製造 (当時は原子力事業部安全・保安院(NISA))で技術評 メーカ、NISA及びJNES 等のメンバーで構成される「新 価計画を作成していたが、NRAの発足及び新たな規制基 保全技術適合性検討作業会(以下、「RNP 」という。)」 準発令と相まって、この体制は事実上消滅した。NRAの を設置し、ここでの事前検討結果を、原子炉安全小委員 誕生以来、規制の独立という点のみが強調され、最も規 会「検査技術評価ワーキンググループ」に諮る体制を構 格策定情報を保有している学協会との意思疎通・コミュ 築した。結果的にこの検討の場の活用により、テンパー ニケーションが失われている。 ビード溶接工法、キャップ工法及びWOL工法が適用可 (補修章の技術評価に関する提案) 能となった。福島第一事故以降、NRAの発足及び新たな NRAは、NISA時代の性能規定化に伴う民間規格活用 規制基準発令と相まって、この体制は事実上解散したが、 の方針を受け継いでいるが、2004年版維持規格の技術評 このような制度は補修技術の技術基準への適合性検討の 価において、補修章は、体系化がされていないとの理由 場としては有効であった。さらに、民間規格の主体的運 により、約10年間技術評価が実施されていない。しかし、 営の観点から、このような活動は規制当局も関与する形 その技術評価でいう「体系化」について具体的に指摘を で産業界が主体となり行うことが適切と考える。 していない。JSME 毎に検査も含めた技術基準との関連性の明確化をはかっ は2010 年追補において、個別技術 6.結言 ているものの未だ技術評価は行われていない。本質的な 保全活動に適用する維持規格補修章等の民間規格の活 課題は、前述のように技術基準が維持段階の活動、特に 用上の課題を挙げた。これらの課題への対応は、規制当 補修等の措置に対して現実に即した性能要求が示されて 局及び産業界それぞれでの努力を伴うものと理解する。 いないなど、規制体系が整理されていない点が大きい。 しかし、それぞれの立場で検討するだけでなく、2007 年 まず、補修措置に対する性能要求を提示すべきと考える。 の IRRS ミッションチームの指摘にもあるとおり、規制 これまで述べたようにNRAがこれまでの経過を踏ま を行う NRA とその規制対象に関して最も技術情報を保 え、技術評価を行わなければならない状況下にあると考 有している産業界が、公平かつ透明性をもって十分に議 えているが、仮に、現状の規制体系下で補修章の技術評 論できる場での対話(意思疎通・コミュニケーション) 価を行わないとする場合には、数例の補修方法の評価を が必要である。しかし、現状は NRA の誕生以来、福島 行った上で、具体的な問題点、課題を指摘すべきである 事故を顧みて、規制の独立という点のみが強調され、NRA と考える。従前の法体系では、供用期間中検査において は独立性に過度に重きを置き、産業界との意見交換の接 欠陥が発見され、補修が必要となる場合、炉規制法に則 点を避けるようになっており、前向きで活発な議論をす ってのアクションが必要となる。例えば、事業者が先ず ることがなくなっている。 トピカルレポートを作成(必要に応じて、事業者は確性 本稿は、日本保全学会「補修技術活用推進検討会」で 試験を行う)し、NRAにその都度ノンアクションレター の議論の一部を中間報告的にまとめたものであるが、こ で申請し、NRA がその技術的内容を審査し、その妥当性 の検討会での議論をもとに、発電所の維持・保全に係る を判断の上、事業者に回答するという基準によらない透 NRAをはじめとしたステークホルダー間で共通の課題を 明性の低い対応とならざるを得ない。 認識し、よりよい保全活動が可能となることを期待した 技術評価が必要と考えられる補修章の対象案件は、先 い。 ずは、ASME Section XIでも規定されており、必要性や 規制文書である程度提示されている点で、テンパービー 参考文献 ド工法及びWOL工法がになるものと考えられる。 (補修技術の技術基準への適合性検討の場) [1]「日本への総合規制評価サービス(IRRS)ミッション 平成21年1月、法令を改正し、「保全プログラム」を基 報告書」、IAEA、2016年1月10 日~22日 礎とする検査制度に移行した。新たに導入が見込まれる [2]「日本の原子力規制は米国NRCに学べ」、伊藤 英二 補修・取替・予防保全技術に対して、より円滑な導入環 吉村 元孝 植田 修三 共著、日本の将来を考える会、 境を整備し、原子力発電所の予防保全の迅速かつ着実な http://www.gepr.org/ja/contents/20140922-03/ 実効を可能とする必要があると判断した。このため、平 6 - 12 -“ “民間規格の活用及び維持規格補修章について “ “菅野 眞紀,Masanori KANNO
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