島根原子力発電所の運転データを活用したプラント故障予兆監視システムの導入と運用 Shimane Nuclear Power Plant Implementation of the Prediction Monitoring and Diagnostic System

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
島根原子力発電所では,リアルタイムで故障の予兆を 捉え早期に対応しプラントの運転の質と安全性の向上を図る目的から故障予兆監視システム(以下,「本システム」 という)を2014年7月に2号機に,2015 年3月に3号機に導入した。本システムはこれまでで蓄積してきたあるいはリアルタイムの運転データ等を用いて原子力設備の異常を予兆の段階で検知するシステムである。当社は 2 号機の運転データ他を用い本システムの開発を2011年か ら2013年にかけて日本電気株式会社,株式会社IIUと共同で行い,2013 年末には試験導入が完了した。実施してきた試験結果から本システムが実プラントで運用可能という判断を行い2014 年7 月に2 号機,翌2015 年3 月に は建設中の 3 号機に導入した。今回は,本システムの導 入から,サーベイランス試験等における運用状況等につ いて紹介する。
2.故障予兆監視システムの構成,データ入力 および予兆監視の概要 2号機の運転監視用計算機(以下,「プロコン」という) には約 3.500 種類の主要なセンサからのデータが 250ms, 1s,3s の間隔で取り込まれており,各機器の運転状態や 系統の健全性をリアルタイムで監視している。プロコン から予兆監視システムへは瞬時値を5sごとに入力する仕 組みとなっている。 もうひとつのプラント運転データを活用する装置とし て過渡現象記録装置(以下,「ナプラス」という)がある。 ナプラスはプラントに異常(以下,「イベント」という) が発生した場合,その原因とプラント挙動の解明・解析 を目的として設置されている。イベント発生前 5 分から イベント発生後25分のプラントデータを応答の速いパラ メータは1ms,比較的遅いものは10msで取り込んでイベ ントとして記憶する。データは常に上書きされており, ナプラスにはプラント運転中の重要なデータ(350 点 (3.500に包絡):ディジタル50点,アナログ300 点)が 全て取り込まれる。 本システムは新たにセンサ追加するのではなくプロコ ンおよびナプラスに入力されている運転データをそれぞ れのシステムからサーバーを経由して入力している。そ れぞれのシステムのデータサンプリング時間の違いはサ ンプリング時間の長いパラメータの挙動補完(プロコン サンプリング1s データの詳細補完)に使用する。 図1に本システムの構成を示す。 図1 システム構成
原子力プラントは機器や系統の状態が設計値や運転実 績等により設定されたしきい値と運転データを用いて監 視している。前述のとおり本システムはこの膨大な情報 を活用し,プラントの種々のデータ間にある相関性に注 目し,その関係が崩れることにより異常を早期に検知し 的確かつ迅速に運転員に情報提供するものである。 本システムの異常検知の仕組みは,プラント起動や運 転中等のリアルタイムデータと本システムでデータベー ス化した過去の運転データの評価結果,すなわちプラン トが良いパフォーマンスで運転している時の機器や系統 のデータとの関係性を分析することである。そして,そ の分析結果に何らかの関係性の違いを検知するとクライ アント画面にその内容を表示するものである。 表1 に2・3 号機に導入された本システムの仕様,図2 に本システムの装置外観を示す。 表1 システム仕様(上表:2号機,下表:3号機) 図2 装置外観 3.システムの用途 本システムの用途はプラントの異常を予兆の段階で早 期に発見し,人間が介在できる時間を確保することによ りプラントの安全性を向上させることが設置の大きな目 的である。しかし,目的はこれだけではなくプラントの 状態を的確に捉え,客観的に評価し運転員,保修員に注 意喚起を促すことにより,運転および保守の質の向上を 図り,結果としてプラント全体の信頼性の向上を図るこ ともその目的のひとつである。これらの目的を達成する ために,具体的に下記の7つのケースで利用することを 想定している。 3.1.各種系統のリアルタイム監視 プラント全体および重要視する系統において良いパフ ォーマンスの運転を行ってきた期間のデータを用いてモ デルを作成し,そのモデルと比較して種々のデータ間に ある関係性に崩れがないかをリアルタイムで監視するこ とで,プラントの異常を予兆の状態で早期に検知する。 本システムにて機器のデータを定期的に取得し良いパ フォーマンスの運転状態のモデルを用いて運転傾向を比 較監視を行うことにより,劣化や機器故障を予想する状 態監視保全に応用する。 プラントでは起動時に1原子炉起動~圧力上昇,2真 空上昇,3タービン起動,4出力上昇等のイベントがあ り,イベントごとにパトロールやパラメータ等の確認に より機器の健全性を確認している。また,停止時におい ては定格出力~解列~原子炉停止までを 1 つのイベント として起動と同様に健全性の確認を行っている。これに 加え本システムでは,各イベント終了時点で,過去デー タを用いて作成したモデルと比較,評価を行うことで, これまでとは別の視点で健全性の確認を行う。 3.5.機器点検前後およびリプレースした機器健 全性評価 機器の分解点検またはリプレース後の試運転時のデー - 74 - 3.2.注目する機器の状態監視(状態監視保全) 3.3.定期試験における機器の状態判定 プロコンに蓄積されている過去の良いパフォーマンス で行われた定期試験時のデータによりモデルを作成する。 そのモデルと現在行われている定期試験の運転データ間 の関係性を検出し,モデルと実際の定期試験データとの 比較により,現時点における注目機器の状態を判定する。 3.4.プラント起動工程および停止工程における プラント健全性確認 タ間の関係性と,当該機器の前回点検後の試運転時また はリプレース前の運転時のデータ間の関係性を比較する ことにより,リプレース機器の健全性を評価し,いわゆ る保守時のいじり壊しを防止する。 3.6.トラブル事象後の分析機能活用 本システムは過去 3 年分のデータを保存できることか ら,トラブル事象後に対象機器および関連機器のトラブ ル事象発生時のデータ推移等を確認することで,原因究 明・対策に活用する。 3.7.シミュレータ機能 シミュレータ機能は,任意の計器・センサのパラメー タを変動させることにより,パラメータ間の相関性,プ ラントの運転状態の変化等,予兆の発生から故障までの 変動を模擬し,パラメータ間の関連性,故障のパターン とパラメータの変化,運転状態の変化等についての教育 等に活用する。 4.現在の状況 本システムの発電所への導入以降,これまでの試験運 用の中から,前項で説明したシステムの用途のうち,リ アルタイム監視および定期試験における機器の状態判定 について紹介する。 4.1.各種系統のリアルタイム監視 3.1 項で説明したリアルタイム監視画面の例を図 2 に 示す。図 3 において黒線は 2 つのセンサ間の席係性が崩 れていないことを示しており,赤線は関係性が崩れてい ることを示しており,アラームとして画面に表示される。 ただし,赤線の表示が必ずしも故障の予兆であるとい う訳ではなく,気温や海水温度等,周囲環境の影響を受 けて変動したプロセス値の変化を捉えたり,系統切替え 等によるセンサ間の関係性の変化を捉えたりするものも ある。 図3 リアルタイム監視画面 4.2.定期試験における機器の状態判定 ポンプの確認運転を対象に実施した例を説明する。分 析結果は図 3 のようにセンサ間の二次元マトリクスで表 示され,視覚的に従来との違いや,どのセンサが従来と 異なる動作をしているかを捉えることができる。二次元 マトリクス上に,自動抽出した関係性のあるデータ間は 白塗で表示され,関係性が崩れた場合に赤塗で表示され る。 図 4 に示すとおり,ポンプ関係のセンサ間(緑枠内) の関係性が過去と比較して崩れていないことからポンプ 起動時,ポンプ流量一定時,停止時のいずれにおいても 機器の性能は過去の状態と同様であり,異常がなく性能 は維持されていると判断した。 図4 機器の状態判定画面 また,運転員による通常点検(異音・振動等)および 計測値も過去と同様の値であり,異常は認められなかっ た。今回の試験ではポンプ性能は維持されており,予兆 監視システム十分に期待した性能を発揮していると考え る。なお,図より周辺機器との関係性の崩れが見られる が,これは試験時のプラント状況が,過去の試験状態と 相違していることを捉えたものであり注目している機器 の健全性には関係がない。 4.3.過去のプラント不具合事象における解析例 島根2号機において,平成18年10月13日に発生した, 主蒸気圧力検出器からの微小な蒸気漏えい事象について, プロコンのデータから,解析を行った。その結果,原子 炉圧力に低下傾向が現れた後,運転員が検出器からの蒸 気漏えい事象に気付いた時点よりも約 6 時間早く,予兆 監視システムが明確に異常の兆候を検知できたことを確 認した。予兆監視システムの有効性は解析では十分に確 認している。 - 75 - 図5 主蒸気圧力検出器からの微小漏えい解析結果 5.おわりに 本システムを有効に運用していくためには適切なモデ ルの作成が不可欠であり,適切なモデルを作成するため にはセンサの選択やモデルを作成する運転期間等のチュ ーニングが必要となる。 今後も継続してチューニング作業を実施し,実機での 運転データ蓄積・解析を行い,本システムの故障予兆検 知感度および精度の向上を図ることとしている。本シス テムを有効に活用することにより,島根原子力発電所の 設備管理,運で検知するのではなく,保全の本来の姿で ある異常を発生させない適切な保全を行い原子力設備の 最終目標である安全性の向上に努めたい。 - 76 -“ “島根原子力発電所の運転データを活用したプラント故障予兆監視システムの導入と運用 Shimane Nuclear Power Plant Implementation of the Prediction Monitoring and Diagnostic System “ “藤岡 隆,Takashi FUJIOKA,山本 敬之,Takayuki YAMAMOTO
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