予兆監視システムのプラント性能評価への応用

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カテゴリ: 第13回
1.背景
故障予兆監視システムは、原子力発電プラント内に設置された多数のセンサ情報から得られる膨大なプラントデータを分析する事で、異常兆候の早期検出を図る事を目的とし、中国電力株式会社、日本電気株式会社、株式会社IIUで開発してきたものである。 これまでに様々な過去の事例について分析した結果、 その有効性が確認され、島根発電所2号機及び3号機に導入されている。 一方、システムのさらなる高度化を目指した様々な技術開発は、現在も活発に行われている。その様な取り組みの一つとして、分析技術のプラント性能評価への適用 がある。ここではその中で得られた成果の一部を紹介す る。 2.パラメータ対の関係性に着目した性能評価
2.1 原理 本システムの特徴の一つは、与えられたパラメータ間 の関係性をモデル化し、それを様々に応用する事にある。 原子力発電所の様な複雑な対象においては、パラメー タの数は数千~数万のオーダに及び、求める関係性のモ デル式がシンプルな形のものであっても、それを非常に 多数の関係性について同時に評価する事によって、様々 な有益な情報を抽出する事が可能となる。どこに生じる のか予期することが困難な、異常兆候の早期検出技術は この考え方に基づくものである。 同時に、このモデル作成機能を応用すれば、本システ ムをプラント性能評価にも適用する事が可能なのではな いかと考えている。 復水器を例にとれば、海水温度が高くなれば真空度が 低下し、逆に海水温度が低くなれば真空度は上昇する。 この場合、過去の同程度の海水温度の時期の真空度と比 較する事が、復水器の性能評価として有効である。 従って、ある年の一年間の海水温度と復水器真空度の 関係を学習させ、モデル化しておき、それ以降の数年間 の関係性と比較する事により、復水器の性能が劣化して いないか、評価する事が可能である。 ただし、性能評価の目的の為には、異常とはいえない 通常範囲にある軽微な変化から検出出来る必要がある為、 モデル式としても相対的に精度の高いものが必要となる。 とはいえ、この場合は、評価対象パラメータの個数が非 常に限定されている事から、より複雑なモデル式を用いた十分精度の高いものとする事が出来る。 この様な検討を通じて、モデル作成手法を活用した性 能評価指標の算出手法を開発した(以下、「性能評価指標」 はこの手法によって算出されたものを指す)。 Fig.1 は評価対象とする系の性能を代表する「主パラメ ータ(Main Target Parameter)」とそのパラメータに最も強 い影響を持つ「関連パラメータ(Related Key Parameter)」 に基づく性能評価指標算出のイメージである。 Fig.1 Performance Indicator Evaluation Image from Long Term Stored Data of Selected Parameter Pair また、性能評価の結果と、過去の保全履歴との間に明 確な相関関係が認められる場合には、当該機器の今後の 保全計画の策定に際して、有用な情報として活用出来る 可能性もある(Fig.2)。 Fig. 2 Comparison Image between Calculated Performance Indicator and Maintenance Record 2.2 PLR ポンプへの適用性検討 そこで、本指標の妥当性を検証する目的で、島根発電 所2号機のPLRポンプA,B2台を対象として、性能評価 Calculated Performance Indicator Calculated Performance Indicator Main Target Parameter year Y year Y+1 year Y+2 year Y Operation Time year Y year Y+1 year Y+2 Operation Time year Y+1... maintenance type A Related Key Parameter maintenance type B 指標の算出を行った。用いたプロコンデータは、2001 年 4月~2011年12 月までの期間の内、約6年分のデータで ある。 ここで、性能評価指標算出に用いるパラメータ対とし て、主パラメータ「再循環流量」及び、それと関連する パラメータ1つを選択した。 性能評価指標は、ある期間を標準として関係性モデル を作成し、それを用いて算出するものである(具体的な 方法については本稿では述べない)。ここでは 2001 年4 月から2002年1 月までをモデル作成期間とした。 Fig.3に性能評価指標の算出結果を示す。上図はA-PLR ポンプについて、下図はB-PLRポンプについてのもので ある。また、図中の網掛け部分はプラント停止期間に相 当する。 A系 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 A-PLR Pump B系 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) B-PLR Pump Fig. 3 Comparison between Calculated Performance Indicator and Maintenance Record of PLR Pumps 尚、現時点では、性能評価指標はその絶対値自体には 意味は無く、実際の評価結果の年内のバラつきを参考に しながら、複数年の変化を観察する様な見方となってお り、本稿中のグラフは全てその期間内の性能評価指標の 最大値と最小値に基づいてプロット範囲を決めている。 - 78 - Overhaul of PLR pumps with main parts replacement Overhaul of PLR pumps with main parts replacement Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) きの緩和とした。Fig.3 PLRポンプA,B 双方とも、2003 年4月に性能評価指標 の結果は、2001 年4月~2011 年 に明確なギャップが見られたことから、2001 年4月~ 12 月までの期間を通して見た場合には、保全の履歴とは 2011年12 月に実施された保全の履歴との照合を行った。 矛盾していない様に思われたが、年間のバラつきが大き この期間内においてPLRポンプに対して実施された保 い為、例えば、4半期毎の平均値とした場合でもまだ使 全の履歴は、 いづらい。そこで、この点を改善出来ないか、検討を行 った。 ・2003 年4月からの停止期間中に、主要な部品の取換を 前掲の性能評価指標の算出に際して入力として用いた 実施。 のは「再循環流量」及び、対として選択した関連パラメ ・2010年3月からの停止期間中に、分解点検を実施。 ータ1つ、計2つのパラメータであった。そもそも、こ れらの時系列データ中に含まれていない情報が重要な役 となっていた。これらの履歴を参考にしてFig.3を見ると 割を果たしていた場合には、これ以上精度を高める事は 以下の様な傾向が読み取れる。 困難であろう。 そこで、PLR ポンプに関する他の多数のパラメータを ・2003年4月の主要部品取替の前後を比較すると、PLR 活用する事を考える。より具体的には、本手法はあるパ ポンプ A,B 双方とも、性能評価指標ははっきりと増加 ラメータ対の関係性に着目するものであるが、これを1 している。 対1の関係性では無く、1対複数パラメータ(1対 N) ・その後 2006 年位までは、年内のバラつきは大きいも の関係性に拡張する。 のの、その平均値は主要部品取替以前と比較して、一 貫して高い値を保っている。 ・その後、2009 年頃になるとA-PLR ポンプは年間の平 均値で見ると僅かに減少している様にも見えるが、こ の減少量は年間のバラつきに比べて大きくなく、また、 主要部品取替以前と比較すれば依然としてはっきりと 大きい値となっている。また、このA-PLRポンプの性 能評価指標の僅かな減少分は、2010 年3月の分解点検 で回復した様にも見える。 ・一方、B-PLRポンプについては、主要部品取替後の性 Fig.4 Relationship Modeling between Multiple Parameters 能評価指標の値は評価期間最後の 2011 年 12 月まで、 Testing Three Parameters’ Combinations 一貫して高い水準を保ち続けている。 Fig.4 にこのモデル作成機能の概要を示す。主パラメー これらの結果から、PLRポンプA,B双方とも、2003年4 月の主要部品取替の効果ははっきりと性能評価指標の増 加として表れており、その後、各年内におけるバラつき はあるものの、年毎の平均値で見た場合には、その水準 は評価期間最後の 2011 年 12 月まで維持されているもの と見ることが出来る。 タをParameter 1 として、その他のParameter 2~Nの内の 3つを組み合わせた関係性を求める。Parameter 2~Nから 選択可能な全ての組み合わせについて関係性の強さを算 出し、最適な3 つのパラメータの組を求める。 使用パラメータの候補となる N-1 個については、ユー ザが用いた方が良いと思うものを選択して与える必要が あるが、そこから先は自動選択となる事が、パラメータ 3.性能評価指標の高度化 対を与えた先の検討とは異なっている。 3.1 1対1の関係性から1対N の関係性へ Fig.3 の結果から、開発した性能評価指標についてある 程度の有用性が認められたものと判断し、我々はさらな る高度化を試みた。 高度化の目標は、性能評価指標の年内におけるバラつ 3.2 ビッグデータ処理の高度化と実装 3.1 節の様な考え方自体は極めて自然なものだと思わ れるが、実際には、本開発には分析手法そのものの開発 とは全く異なる、別の側面が存在する。それは対象とす The best combination of 3 parameters (A1, A2 and A3) are selected. - 79 - Relationship Strength == F(Parameter 1, Parameter A1, Parameter A2, Parameter A3) INPUT Parameter 2 Parameter 3 ...Parameter N Parameter 1 るデータ量(パラメータ数×分析対象期間)が非常に大 きいという事である。 Fig. 5 Development Activity of Big Data Analysis Method and More Useful System Fig.5 に我々の開発のプロセスを示す。基礎研究が目的 なのではなく、あくまで現場の役に立つシステムの開発 が目標であるという事を踏まえた場合、計算に要する時 間や必要な記憶容量といった要素は無視の出来ない制約 条件となる。 一般的に、「より高度なモデル」、「より多くのパラメー タ群」、「より長期間のデータ」といった要素は総じて計 算時間及び必要な記憶容量の増大をもたらす。 制約条件を克服する為、計算アルゴリズムの改善や、 それに基づくソフトウェアの改良を行った結果、モデル 作成機能の大幅な高度化が達成された。 3.3 PLR ポンプへの適用性再検討 このモデル作成機能を用いて再度、性能評価指標の算 出を行った。使用するパラメータとしてPLRポンプA,B それぞれに対して60 個を選択した。 主パラメータを再度「再循環流量」として、残りの 59 個から3 つを選ぶ組み合わせの総数は32,509 通り、それ ぞれについてモデルを作成した結果、関係性の強さから、 使用する 3 つのパラメータの組が選択された。その関係 性モデルを用いた性能評価指標の算出結果をFig.6に示す。 この結果とFig.3 の結果を比較すると以下の事が言える。 ・性能評価指標の年内のバラつきはかなりの程度、小さ くなっている。 ・2003 年4月の主要部品取替の効果は、PLR ポンプA,B 双方とも、より明瞭に表れている。 ・2009年頃におけるA-PLRポンプの性能評価指標は、主 要部品取替直後と比較して明らかに小さくなっている が、依然として取替前よりは大きい。その後の分解点 検による回復傾向もはっきりと確認出来る。 ・B-PLRポンプについて、Fig.3 同様、主要部品取替後の A-PLR Pump B系 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 B-PLR Pump Fig.6 Comparison between Calculated Performance Indicator and Maintenance Record of PLR Pumps Based on Multi Parameters Model 以上の事から、性能評価指標を高度化し、年内のバラつ きを低減するという目的は、概ね達成出来たといえる。 4 まとめ 故障予兆監視システムのモデル作成機能を応用し、プ ラント性能評価に適用する試みについて紹介した。性能 評価指標の算出手法を開発・高度化し、PLRポンプにつ いて適用した結果、過去の保全履歴との良好な一致が得 られた。 今後も検討を進めることで、保全計画の策定や、設備 管理に活用出来る様にして行きたい。 Overhaul of PLR pumps with main parts replacement Overhaul of PLR pumps with main parts replacement Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) Overhaul of PLR pumps (no parts replacement) ・More Speedy Computation ・More Effective Memory Usage ・More Computation Time ・More Memory Capacity A系 A系 ・Algorithm Optimization ・Improvement of Software ・More Sensors ・Longer Duration Data Access to Big Data ・Higher Level Modeling ・More Precise Analysis ・More Useful Analysis - 80 - 性能評価指標の値は評価期間最後の2011年12月まで、 一貫して高い水準を保ち続けている。 性能評価指標の値は評価期間最後の2011年12月まで、 一貫して高い水準を保ち続けている。 性能評価指標の値は評価期間最後の2011年12月まで、 一貫して高い水準を保ち続けている。 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011“ “予兆監視システムのプラント性能評価への応用 “ “高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,林 司,Tsukasa HAYASHI,藤岡 隆,Takashi FUJIOKA,山本 敬之,Takayuki YAMAMOTO
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