浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その3)
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カテゴリ: 第13回
1.緒言
浜岡原子力発電所5号機(以下、「5号機」という。)(定格電気出力138万kW)は、経済産業大臣からの運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止について」を受け、平成23 年5 月14 日10 時15 分に発電を停止し、原子炉減圧操作中のところ(平成23 年5 月14 日12 時59 分に 原子炉未臨界に到達した後)、復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。海水混入事象が与える影響を評価するため、当社では健全性評価 を実施している。 健全性評価では、機器レベルの健全性評価、プラント 起動前に実施する系統レベルの健全性評価、プラント起動後に実施するプラントレベルの健全性評価を実施する。 Fig.1 に健全性評価の考え方を示す。健全性評価の結果から、継続使用の可否を総合的に判断し、継続使用を可能と判断した設備であっても、機器レベル、系統レベルおよびプラントレベルの健全性評価の結果を踏まえて、継続的な健全性評価を計画する。 当社では海水の混入により影響を受けた機器全ての機器レベルの健全性評価を完了し、平成27年12月に原子力規制委員会に報告した。本稿では、原子炉圧力容器および炉内構造物の機器レベルの健全性評価結果の概要を 報告する。
Fig.1 Concept of Assessment
2.点検方針
原子炉圧力容器および炉内構造物の全てを対象とし、その構造、使用材料に応じ、各機器・部位の要求機能への影響や接近性等の検査性を考慮して点検実施範囲を、また、各部位に想定される腐食形態に応じて点検方法を 選定した。
2.1 原子炉圧力容器
点検実施範囲は、混入した海水が十分に循環されて水質がおよそ均一であることや構造物の対称性から、腐食等の発生ポテンシャルは任意の水平断面内で角度依存性に大きな差異がないものと推定し、Fig.2 のとおり選定した。なお、上蓋・胴板・下鏡については鉛直方向に全高、 周方向に約30°の範囲とし、同じ水平断面に設置されているノズル・ブラケット・ハウジングについては、対称性を考慮して任意の1個を基本とした。 また、点検方法は、海水混入による想定劣化事象の検 知性を考慮してTable1 のとおり選定した。なお、必要に 応じ、表面を清浄にした。
Fig.2 Inspection Scope (RPV) Table1 Inspection Method (RPV) Component Inspection Method RPV and accessories General corrosion or local corrosion such as pitting corrosion and crevice corrosion are concerned VT-1 SCC near weld are concerned MVT-1 Local galvanic corrosion near nozzles are concerned UT
2.2 炉内構造物
点検実施範囲は、混入した海水が十分に循環されて水質がおよそ均一であることや構造物の対称性から、腐食等の発生ポテンシャルは任意の水平断面内で角度依存性に大きな差異がないものと推定し、Fig.3 のとおり選定した。なお、点検実施範囲は、角度方向の多様性を損なわないよう考慮し、維持規格の標準検査に用いられている10年間で実施する炉内構造物の試験程度を参考にし、 30°以上、または複数個ある機器は対称性を考慮し任意の1個(1系統)以上とした。 また、点検方法は、海水混入による想定劣化事象の検知性を考慮して Table2 のとおり選定した。なお、必要に 応じ、表面を清浄にした。
Fig.3 Inspection Scope (Internal)
3.点検結果
3.1 原子炉圧力容器 原子炉圧力容器の点検結果をTable3 に示す。一部の機器に孔食やすきま腐食を確認した。一例として、原子炉 圧力容器(胴板および下鏡)の点検結果を示す。 原子炉圧力容器の点検の結果、内張り材(原子炉圧力 容器母材に溶着されたステンレス溶接金属)に孔食を確認した。内張り材の孔食については、喫水線(海水混入 時の原子炉水位)近傍およびアニュラス部近傍に集中して分布していた。喫水線近傍の腐食とアニュラス部近傍 の孔食は、それぞれ様相が異なり、喫水線近傍の孔食は 茶色(錆色)の輪郭を持つ様相、アニュラス部近傍の孔食は茶色(錆色)の輪郭の中心部に凸部が確認される様相であった。 原子炉圧力容器内張り材に孔食が確認されたことから、高さにより孔食の様相に違いが確認されている原子炉圧力容器フランジからポンプデッキの範囲に対して、全周目視点検を行った。全周目視点検の結果、孔食は喫水線およびアニュラス部近傍に分布しており、周方向には様 相が概ね同じであることを確認した。原子炉圧力容器内張り材の点検結果をFig.4 に示す。 また、孔食の様相や分布状況に基づき、表面研磨により孔食の深さを確認した。喫水線近傍に位置する孔食は、 約 0.32mm までの深さで孔食が除去された。アニュラス 部近傍の孔食は、いずれの箇所においても内張り材と母 材の境界部で除去された。さらに、内張り材と母材の境 界部まで孔食を確認した部位に対し、原子炉圧力容器外 表面から超音波探傷試験を実施し、母材内部まで進展した孔食がないことを確認した。
Table2 Inspection Method (Internal) Component Inspection Method Internal General corrosion or local corrosion such as pitting corrosion and crevice corrosion are concerned VT-1 SCC near weld are concerned MVT-1 Crevice corrosion Shell and Bottom head ○ - Main steam nozzle (N3) ○ - Reactor internal pump penetration (N1) - ○ Surveillance test piece support bracket ○ - Others - - ○ : Corrosion was observed - : No relevant indications were observed - 93 - Fig.4 Distribution of pitting corrosion at RPV inner surface
3.2 炉内構造物 炉内構造物の点検結果を Table4 に示す。一部の機器に 孔食やすきま腐食を確認した。また、炉心シュラウド下部リングと炉心支持板(取付け部品(ナット))のすきま入口部近傍や中性子束計測案内管スタビライザのすきま入口部近傍等で腐食生成物の湧き出しを確認した。一例として、炉心支持板の点検結果を示す。 炉心支持板では、上面に孔食が確認され、制御棒案内管とのすきま部ですきま腐食が確認されている。孔食は 目視点検で底部が確認可能な軽微なものであり、すきま 腐食の深さは約 0.40mm であることを確認した。炉心支持板の点検状況をFig.5,6,7に示す。 Table3 Inspection results (RPV) Component Pitting corrosion
4.機器レベルの健全性評価結果 Table4 Inspection results (Internal) Component Pitting corrosion 海水混入により、孔食・すきま腐食等の腐食に加え、 機器の付着物および残留塩分による影響が懸念されるため、これらに対して評価を行った。 4.1 腐食に対する評価孔食・すきま腐食等の腐食の影響については、点検において確認された局部腐食(孔食・すきま腐食)による構造・強度への影響は軽微であると考えられるが、保守的な評価とするため、確認された局部腐食の深さを有する全面腐食を仮定し、腐食の深さが製造時における板厚の余裕代の範囲内であることを確認した。また、接近が 困難な部位等については、当該機器の類似箇所(材料・ 構造)の点検結果から発生しうる腐食の深さを仮定して 機能に対する影響を評価した。その結果、腐食による機 器の機能に対する影響はないと評価した。 4.2 付着物に対する評価 付着物の影響については、シュラウドヘッドボルト以外の機器については、付着物による流路の閉塞等の異常 は確認されていないことから、付着物による機器の機能 に対する影響はないと評価した。 シュラウドヘッドボルトについては、ナット内面に付 着物が確認されており、ナットの緩め作業ができないも のが確認されたため、ナット部の分解手入れが必要と評 価した。 4.3 残留塩分に対する評価 海水混入事象発生時の塩化物イオン濃度、ナトリウム イオン濃度、温度、溶存酸素濃度をFig.8 に示す。事象発 生時、原子炉水は原子炉冷却材再循環ポンプにより十分 に撹拌されていたため、これらのパラメータは炉内でお よそ一様であり、主な海水由来成分である塩化物イオン 濃度は最大444ppmまで上昇した。事象発生後に塩化物イ オン濃度を低減させるため、サプレッションプール水を 用いた希釈および原子炉冷却材浄化系を用いた浄化運転 を行い、平成 23 年 11 月には塩化物イオン濃度は社内規 定に基づく原子炉冷温停止中の管理基準値(0.5ppm)に 達した。その後、原子炉冷却材浄化系による浄化を継続 することで、運転中の管理基準値(0.1ppm)を下回る値 となった。 今後、水質管理を継続することで腐食すきま再不動態 Crevice corrosion High-pressure core injection pipe ○ △ ICM guide tube - △ Core shroud - △ Top guide - △ Core plate ○ ○ Separator/Shroud head ○ △ Others - - ○ : Corrosion was observed △ : Elution from crevice was observed - : No relevant indications were observed Fig.5 Inspection results (Core plate) Fig.6 Detailed inspection results (Pitting corrosion) Fig.7 Detailed inspection results (Crevice corrosion) - 94 - 化電位を自然腐食電位より高く維持することができるこ と、および、応力改善施工効果監視試験片*1すきま部にお いて腐食部から塩分が除去されていたことから、腐食の 進展は停止し、残留塩分による機器の機能に対する影響 はないと評価した。 Fig.8 RPV environment when sea water intruded 4.4 健全性評価結果 以上より、腐食に対する評価、付着物に対する評価お よび残留塩分に対する評価から、原子炉圧力容器および 炉内構造物は健全であると評価した。なお、シュラウド ヘッドボルトについては、ナット内面に付着物が確認さ れており、ナットの緩め作業ができないものが確認され たため、ナット部の分解手入れが必要と評価した。 5.結言 機器レベルの健全性評価結果から、シュラウドヘッド ボルトを除くと、原子炉圧力容器および炉内構造物の機 能に対して海水混入による影響はなく、今後原子炉水の 浄化を継続することにより腐食環境を抑制していくこと で、原子炉圧力容器および炉内構造物は継続使用可能で あると評価した。 今後、系統レベルの健全性評価を計画的に進めていく とともに、腐食等を確認した機器については、プラント 運転再開以降も継続的な健全性評価が必要になることか ら、最適かつ合理的な継続点検の計画となるように、予 防保全の実施等を含む対応の検討を進める。 なお、健全性評価にあたっては、株式会社 東芝、日 *1長期的な表面残留応力の変化を確認・蓄積して炉内機器の長 期保全に資することを目的として炉内(上部格子板外周部上面) に設置している監視試験片ホルダ内に装荷されている。 立GEニュークリア・エナジー株式会社および一般財団 法人電力中央研究所の技術支援を受けている。また、社 内に設備健全性評価検討委員会を設置し、社外専門家の ご意見を踏まえながら検討を進めている。東北大学 庄 子哲雄教授をはじめ、東京大学 寺井隆幸教授、同 阿 部弘亨教授、電力中央研究所 新井拓上席研究員、静岡 大学 東郷敬一郎理事、同 藤井朋之助教、名古屋大学 山本章夫教授、日本原子力研究開発機構 山本正弘副セ ンター長および東北大学 渡辺豊教授には、多忙の中委 員を引き受けて頂き、多くの助言をいただいたことを心 よりお礼申し上げます。 参考文献 [1] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(中間 報告)”、 平成24年4月 [2] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第2 回中間報告)”、 平成25年1月 [3] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第3 回中間報告)”、 平成27年5月 [4] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第4 回中間報告)”、 平成27年12月 - 95 -“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その3) “ “綿貫 理研,Yoshiaki WATANUKI,今井 富康,Tomiyasu IMAI,塚田 匡,Tadashi TSUKADA,黒野 晃平,Kouhei KURONO,丹羽 勇太,Yuuta NIWA
浜岡原子力発電所5号機(以下、「5号機」という。)(定格電気出力138万kW)は、経済産業大臣からの運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止について」を受け、平成23 年5 月14 日10 時15 分に発電を停止し、原子炉減圧操作中のところ(平成23 年5 月14 日12 時59 分に 原子炉未臨界に到達した後)、復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。海水混入事象が与える影響を評価するため、当社では健全性評価 を実施している。 健全性評価では、機器レベルの健全性評価、プラント 起動前に実施する系統レベルの健全性評価、プラント起動後に実施するプラントレベルの健全性評価を実施する。 Fig.1 に健全性評価の考え方を示す。健全性評価の結果から、継続使用の可否を総合的に判断し、継続使用を可能と判断した設備であっても、機器レベル、系統レベルおよびプラントレベルの健全性評価の結果を踏まえて、継続的な健全性評価を計画する。 当社では海水の混入により影響を受けた機器全ての機器レベルの健全性評価を完了し、平成27年12月に原子力規制委員会に報告した。本稿では、原子炉圧力容器および炉内構造物の機器レベルの健全性評価結果の概要を 報告する。
Fig.1 Concept of Assessment
2.点検方針
原子炉圧力容器および炉内構造物の全てを対象とし、その構造、使用材料に応じ、各機器・部位の要求機能への影響や接近性等の検査性を考慮して点検実施範囲を、また、各部位に想定される腐食形態に応じて点検方法を 選定した。
2.1 原子炉圧力容器
点検実施範囲は、混入した海水が十分に循環されて水質がおよそ均一であることや構造物の対称性から、腐食等の発生ポテンシャルは任意の水平断面内で角度依存性に大きな差異がないものと推定し、Fig.2 のとおり選定した。なお、上蓋・胴板・下鏡については鉛直方向に全高、 周方向に約30°の範囲とし、同じ水平断面に設置されているノズル・ブラケット・ハウジングについては、対称性を考慮して任意の1個を基本とした。 また、点検方法は、海水混入による想定劣化事象の検 知性を考慮してTable1 のとおり選定した。なお、必要に 応じ、表面を清浄にした。
Fig.2 Inspection Scope (RPV) Table1 Inspection Method (RPV) Component Inspection Method RPV and accessories General corrosion or local corrosion such as pitting corrosion and crevice corrosion are concerned VT-1 SCC near weld are concerned MVT-1 Local galvanic corrosion near nozzles are concerned UT
2.2 炉内構造物
点検実施範囲は、混入した海水が十分に循環されて水質がおよそ均一であることや構造物の対称性から、腐食等の発生ポテンシャルは任意の水平断面内で角度依存性に大きな差異がないものと推定し、Fig.3 のとおり選定した。なお、点検実施範囲は、角度方向の多様性を損なわないよう考慮し、維持規格の標準検査に用いられている10年間で実施する炉内構造物の試験程度を参考にし、 30°以上、または複数個ある機器は対称性を考慮し任意の1個(1系統)以上とした。 また、点検方法は、海水混入による想定劣化事象の検知性を考慮して Table2 のとおり選定した。なお、必要に 応じ、表面を清浄にした。
Fig.3 Inspection Scope (Internal)
3.点検結果
3.1 原子炉圧力容器 原子炉圧力容器の点検結果をTable3 に示す。一部の機器に孔食やすきま腐食を確認した。一例として、原子炉 圧力容器(胴板および下鏡)の点検結果を示す。 原子炉圧力容器の点検の結果、内張り材(原子炉圧力 容器母材に溶着されたステンレス溶接金属)に孔食を確認した。内張り材の孔食については、喫水線(海水混入 時の原子炉水位)近傍およびアニュラス部近傍に集中して分布していた。喫水線近傍の腐食とアニュラス部近傍 の孔食は、それぞれ様相が異なり、喫水線近傍の孔食は 茶色(錆色)の輪郭を持つ様相、アニュラス部近傍の孔食は茶色(錆色)の輪郭の中心部に凸部が確認される様相であった。 原子炉圧力容器内張り材に孔食が確認されたことから、高さにより孔食の様相に違いが確認されている原子炉圧力容器フランジからポンプデッキの範囲に対して、全周目視点検を行った。全周目視点検の結果、孔食は喫水線およびアニュラス部近傍に分布しており、周方向には様 相が概ね同じであることを確認した。原子炉圧力容器内張り材の点検結果をFig.4 に示す。 また、孔食の様相や分布状況に基づき、表面研磨により孔食の深さを確認した。喫水線近傍に位置する孔食は、 約 0.32mm までの深さで孔食が除去された。アニュラス 部近傍の孔食は、いずれの箇所においても内張り材と母 材の境界部で除去された。さらに、内張り材と母材の境 界部まで孔食を確認した部位に対し、原子炉圧力容器外 表面から超音波探傷試験を実施し、母材内部まで進展した孔食がないことを確認した。
Table2 Inspection Method (Internal) Component Inspection Method Internal General corrosion or local corrosion such as pitting corrosion and crevice corrosion are concerned VT-1 SCC near weld are concerned MVT-1 Crevice corrosion Shell and Bottom head ○ - Main steam nozzle (N3) ○ - Reactor internal pump penetration (N1) - ○ Surveillance test piece support bracket ○ - Others - - ○ : Corrosion was observed - : No relevant indications were observed - 93 - Fig.4 Distribution of pitting corrosion at RPV inner surface
3.2 炉内構造物 炉内構造物の点検結果を Table4 に示す。一部の機器に 孔食やすきま腐食を確認した。また、炉心シュラウド下部リングと炉心支持板(取付け部品(ナット))のすきま入口部近傍や中性子束計測案内管スタビライザのすきま入口部近傍等で腐食生成物の湧き出しを確認した。一例として、炉心支持板の点検結果を示す。 炉心支持板では、上面に孔食が確認され、制御棒案内管とのすきま部ですきま腐食が確認されている。孔食は 目視点検で底部が確認可能な軽微なものであり、すきま 腐食の深さは約 0.40mm であることを確認した。炉心支持板の点検状況をFig.5,6,7に示す。 Table3 Inspection results (RPV) Component Pitting corrosion
4.機器レベルの健全性評価結果 Table4 Inspection results (Internal) Component Pitting corrosion 海水混入により、孔食・すきま腐食等の腐食に加え、 機器の付着物および残留塩分による影響が懸念されるため、これらに対して評価を行った。 4.1 腐食に対する評価孔食・すきま腐食等の腐食の影響については、点検において確認された局部腐食(孔食・すきま腐食)による構造・強度への影響は軽微であると考えられるが、保守的な評価とするため、確認された局部腐食の深さを有する全面腐食を仮定し、腐食の深さが製造時における板厚の余裕代の範囲内であることを確認した。また、接近が 困難な部位等については、当該機器の類似箇所(材料・ 構造)の点検結果から発生しうる腐食の深さを仮定して 機能に対する影響を評価した。その結果、腐食による機 器の機能に対する影響はないと評価した。 4.2 付着物に対する評価 付着物の影響については、シュラウドヘッドボルト以外の機器については、付着物による流路の閉塞等の異常 は確認されていないことから、付着物による機器の機能 に対する影響はないと評価した。 シュラウドヘッドボルトについては、ナット内面に付 着物が確認されており、ナットの緩め作業ができないも のが確認されたため、ナット部の分解手入れが必要と評 価した。 4.3 残留塩分に対する評価 海水混入事象発生時の塩化物イオン濃度、ナトリウム イオン濃度、温度、溶存酸素濃度をFig.8 に示す。事象発 生時、原子炉水は原子炉冷却材再循環ポンプにより十分 に撹拌されていたため、これらのパラメータは炉内でお よそ一様であり、主な海水由来成分である塩化物イオン 濃度は最大444ppmまで上昇した。事象発生後に塩化物イ オン濃度を低減させるため、サプレッションプール水を 用いた希釈および原子炉冷却材浄化系を用いた浄化運転 を行い、平成 23 年 11 月には塩化物イオン濃度は社内規 定に基づく原子炉冷温停止中の管理基準値(0.5ppm)に 達した。その後、原子炉冷却材浄化系による浄化を継続 することで、運転中の管理基準値(0.1ppm)を下回る値 となった。 今後、水質管理を継続することで腐食すきま再不動態 Crevice corrosion High-pressure core injection pipe ○ △ ICM guide tube - △ Core shroud - △ Top guide - △ Core plate ○ ○ Separator/Shroud head ○ △ Others - - ○ : Corrosion was observed △ : Elution from crevice was observed - : No relevant indications were observed Fig.5 Inspection results (Core plate) Fig.6 Detailed inspection results (Pitting corrosion) Fig.7 Detailed inspection results (Crevice corrosion) - 94 - 化電位を自然腐食電位より高く維持することができるこ と、および、応力改善施工効果監視試験片*1すきま部にお いて腐食部から塩分が除去されていたことから、腐食の 進展は停止し、残留塩分による機器の機能に対する影響 はないと評価した。 Fig.8 RPV environment when sea water intruded 4.4 健全性評価結果 以上より、腐食に対する評価、付着物に対する評価お よび残留塩分に対する評価から、原子炉圧力容器および 炉内構造物は健全であると評価した。なお、シュラウド ヘッドボルトについては、ナット内面に付着物が確認さ れており、ナットの緩め作業ができないものが確認され たため、ナット部の分解手入れが必要と評価した。 5.結言 機器レベルの健全性評価結果から、シュラウドヘッド ボルトを除くと、原子炉圧力容器および炉内構造物の機 能に対して海水混入による影響はなく、今後原子炉水の 浄化を継続することにより腐食環境を抑制していくこと で、原子炉圧力容器および炉内構造物は継続使用可能で あると評価した。 今後、系統レベルの健全性評価を計画的に進めていく とともに、腐食等を確認した機器については、プラント 運転再開以降も継続的な健全性評価が必要になることか ら、最適かつ合理的な継続点検の計画となるように、予 防保全の実施等を含む対応の検討を進める。 なお、健全性評価にあたっては、株式会社 東芝、日 *1長期的な表面残留応力の変化を確認・蓄積して炉内機器の長 期保全に資することを目的として炉内(上部格子板外周部上面) に設置している監視試験片ホルダ内に装荷されている。 立GEニュークリア・エナジー株式会社および一般財団 法人電力中央研究所の技術支援を受けている。また、社 内に設備健全性評価検討委員会を設置し、社外専門家の ご意見を踏まえながら検討を進めている。東北大学 庄 子哲雄教授をはじめ、東京大学 寺井隆幸教授、同 阿 部弘亨教授、電力中央研究所 新井拓上席研究員、静岡 大学 東郷敬一郎理事、同 藤井朋之助教、名古屋大学 山本章夫教授、日本原子力研究開発機構 山本正弘副セ ンター長および東北大学 渡辺豊教授には、多忙の中委 員を引き受けて頂き、多くの助言をいただいたことを心 よりお礼申し上げます。 参考文献 [1] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(中間 報告)”、 平成24年4月 [2] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第2 回中間報告)”、 平成25年1月 [3] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第3 回中間報告)”、 平成27年5月 [4] 中部電力株式会社、 “「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第4 回中間報告)”、 平成27年12月 - 95 -“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その3) “ “綿貫 理研,Yoshiaki WATANUKI,今井 富康,Tomiyasu IMAI,塚田 匡,Tadashi TSUKADA,黒野 晃平,Kouhei KURONO,丹羽 勇太,Yuuta NIWA