試薬系統配管保守用の簡易アイスプラグ施工技術

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カテゴリ: 第13回
1. 緒言
発電所や化学プラントのように連続運転を行う施設 においては、設備の分解点検や保修時に系統からの隔離範囲を最小限にし、かつ作業前のドレン抜き量も低減する技術として、主に常温運転の水配管を中心にアイスプラグが使用されている。 この技術は、保修対象の隔離が困難な機器や弁に対し、配管内の水を液体窒素等で外側から部分的に凍結させ、凍結した際の配管への付着力や摩擦力等を利用してアイスプラグ(氷の栓)を作り、当該部の流路を遮断することで保修等の作業を可能とするものである。 六ヶ所再処理工場(以下「当該施設」という)において は水以外にも硝酸や苛性ソーダ(液体)等試薬の配管が多数あり、水とは特性が異なるため、実規模のモックアップ装置を用いてアイスプラグ技術の適用のための技術検証を行っているので、これを紹介する。
2. アイスプラグ技術の概要 図 1 にアイスプラグ技術の概要を示す。 図 1 アイスプラグを用いた保修の概要 アイスプラグ技術を適用し保修を行う場合、対象機 器(弁等)を閉とし、配管内に液体を滞溜させ、対象上流側に仮設のアイスボックスを設置し、中に液体窒素等の冷媒を注入し、配管内部の流体を凍結させる。 凍結後は対象バルブを開とし、アイスプラグ下流の液抜きを行い隔離する。これらのことから、上流のポンプは継続運転可能である。
1899/12/313. アイスプラグ施工のモックアップ試験 3.1 試験条件の設定 硝酸配管へのアイスプラグについては、先行プラン ト等での実例があることから、苛性ソーダ配管をモッ クアップ対象試薬として以下のとおり試験を行った。 表 1 にモックアップ試験の試験条件を示す。これら の試験条件を基に試験を実施し、アイスプラグの成立 性および施工条件の検討を行った。 表 1 試験条件 1試薬 苛性ソーダ(液体) 2試薬濃度 10 M 3試験環境 施工場所気温 約 30 °C 試薬系統配管のアイスプラグ施工の成立性および実 作業における施工条件を検討するため、図 2 に示すモ ックアップ装置を作製し、試薬系統配管におけるアイ スプラグ施工のモックアップ試験を行った。 図 2 モックアップ装置概要 (1)凍結配管 試薬系統配管へのアイスプラグ施工の可否を判断す るため、当該施設の試薬系統配管で主に用いられてい る 15A~40A の SUS304L 配管の内、施工条件として最 も厳しいと考えられる 40A 配管を施工対象とする。 (2)加圧ライン 施工したアイスプラグの止水機能を確認するために、 施工対象の配管と窒素ボンベを接続し、上流側より加 圧を行う。 (3)熱電対 配管表面に熱電対を設置し、温度管理を行う。 (4)液位確認ライン 液位計を設置し、アイスプラグ施工時の体積変化を 観察する。 (5)アイスボックス 図 3 に示す発泡スチロール製のアイスボックス (W:250×D:240×H:420×t:34 mm)を用いる。 図 3 アイスボックス 3.2 モックアップ試験方法 1899/12/28(1)アイスプラグ施工 モックアップ装置内を試薬で満たし、アイスボック (4) スを設置した後、液体窒素を注ぎ、アイスプラグ施工 を行う。この時、配管表面に熱電対を設置し、施工時 1899/12/25の温度管理を行う。 (2)アイスプラグの機能確認 液体窒素の沸騰状態から凍結判断を行い、アイスプ 上流側 (1) (3) 下流側 ラグの止水機能を確認するため、表 2 に示す条件で装 置内の加圧を行い、アイスプラグ下流からの液漏れが 無いことを以て、機能担保できることを確認する。 表 2 機能担保の条件 項目 条件 判断基準 1加圧圧力 0.9 MPa アイスプラグ下流から 2保持時間 15 分 液漏れがないこと。 3.3 モックアップ試験結果 モックアップ装置における試薬系統配管に対するア イスプラグ施工試験を行った結果、機能担保の条件を 満足したため、アイスプラグによる隔離が成立するこ とが分かった。 2- 98 - 3.4 実機施工 モックアップ試験の結果を基に、実機でのアイスプ ラグ施工による系統の隔離を実施した。 3.5 施工における課題 実機施工における凍結判断は、液体窒素の沸騰状態 の目視観察および霜の発生状況等の経験則に基づき行 っているため、施工された凍結範囲や凍結状況などの 情報は得られなかった。 そのため、アイスプラグ施工時のアイスプラグの凍 結メカニズムを確認し、配管表面温度と凍結範囲の関 連性や、凍結判断時間と凍結範囲の関連性を究明する ため、以降に述べるアイスプラグ施工における配管内 の温度分布測定を行うものとした。 4. 配管内温度分布測定 アイスプラグ施工時における配管内の温度分布を測 定するため、既存のモックアップ装置の改造を行い、 配管内の温度分布測定試験を行った。図 4 に改造した モックアップ装置(以下「配管内温度分布測定装置」と いう)の全容を示す。 改造範囲 上流側 下流側 図 4 モックアップ装置の改造について 改造箇所は、アイスボックス設置箇所の上流側、下 流側共に 10mm、20mm、20mm、50mm、50mm、50mm の間隔で設置したノズル部であり、測温抵抗体を用い た配管内温度分布測定を可能とした。 4.1 凍結対象試薬 試薬系統配管アイスプラグ施工技術開発において凍 結対象とする試薬の物性値を表 3 に示す。 3- 99 - 表 3 各試薬の物性値 使用試薬 水 苛性ソーダ(液体) 濃度 - 10 M 比重 1 g/cm3 1.33 g/cm3 凝固点温度 (文献値) 0 °C 3 °C[1] 4.2 事前試験 配管内温度分布測定では測温抵抗体を用いた凍結判 断を行うため、事前試験として試薬が凍結に至るまで の温度変化を観察し、試薬が凍結した際の測温抵抗体 が示す値と文献値との比較確認を行った。また、事前 試験の結果を以降の配管内温度分布測定時における評 価の参考とした。 試験内容としては、試薬を注入した PFA 製メスシリ ンダーに測温抵抗体を挿入し、このメスシリンダーを 液体窒素が入ったデュワー瓶に入れ凍結させる際の温 度変化データの記録である。 4.3 事前試験結果 水および苛性ソーダの事前試験の結果を以下に示す。 4.3.1 水凍結 水を凍結させた結果、文献値の凝固点 0°Cに対して 測温抵抗体が 0°Cを示した時に凍結が始まり、その後 急激な温度降下が見られたため、完全な凍結に至った ことを確認した。図 5 に事前試験における水の温度測 定結果を示し、図 6 に事前試験において凍結させた水 の外観を示す。 図 5 事前試験における温度測定結果(水) 図 6 凍結した水の外観 4.3.2 苛性ソーダ凍結 苛性ソーダを凍結させた結果、-2°C程度から液体と 固体の混合状態となり、-6°C程度から急激な温度降下 が始まったため、苛性ソーダが完全に凍結したことを 確認した。図 7 に事前試験における苛性ソーダの温度 測定結果を示し、図 8 に凍結させた苛性ソーダの外観 を示す。 図 7 事前試験における温度測定結果(苛性ソーダ) 図 8 凍結した苛性ソーダの外観 4.4 上面側 底面側 試験方法 試薬系統配管アイスプラグ試験における配管内温度 測定方法を以下に示す。 (1)準備作業 配管内温度分布測定装置に試薬を注入し、装置内を 試薬で満たす。 (2)アイスボックスの設置 アイスボックスを 2 分割し、凍結対象となる配管を 挟み込むように設置する。図 9 にアイスボックスの設 置状況を示す。 上流側 下流側 - 100 - 図 9 アイスボックス設置状況 (3)液体窒素の投入 液体窒素を配管が十分浸る高さまで投入し、データ ロガーによるデータの取集を開始する。 (4)凍結判断 表 4 に示す凍結判断基準を用いて、凍結判断を行う。 表 4 凍結判断基準 項目 判断基準 液体窒素 沸騰状態が収束したこと 配管内温度 凝固点以下であること 上面側 底面側 (5)凍結確認 アイスプラグに止水上有害な貫通部等が無いことを 確認するために装置内を 0.1MPa に加圧し、液位確認ラ インにおける変化がない事を以て凍結確認を行う。 (6)機能担保確認 液体窒素が供給できなくなった場合を想定し、アイ スボックスから液体窒素の抜取りを行い、装置下流側 の試薬の液抜きを実施した後、15 分間の系統加圧を行 い、アイスプラグが崩壊しないことを確認する。 44.5 試験結果 4.5.1 水凍結試験結果 配管内流体を水としたときのアイスプラグ試験時に おける配管内の温度変化を図 10 に示す。 図 10 配管内温度変化(水) 水の凝固点である 0°Cに至った点はアイスボックス から 10mm 離れた測定点のみであったため、この 2 点 が凍結判断時のアイスプラグの凍結範囲と判断した。 図 11 に凍結判断時の配管内外温度分布を示す。 図 11 凍結判断時における温度分布(水) 凍結確認および機能担保確認において、問題がない ことから、アイスプラグの全長は約 270mm~310mm で あると考えられる。 4.5.2 苛性ソーダ凍結確認試験結果 配管内流体を苛性ソーダとしたときのアイスプラグ 試験時における配管内の温度変化を図 12 に示す。 ▼凍結判断時 凍結判断時 ▼ 図 12 配管内温度変化(苛性ソーダ) 苛性ソーダの凝固点である 3°Cに至った点はアイス ボックスから 10mm 離れた測定点のみであったため、 この 2 点が凍結判断時のアイスプラグの凍結範囲と考 えられる。図 13 に凍結判断時の配管内外温度分布を示 す。 図 13 凍結判断時における温度分布(苛性ソーダ) 凍結確認および機能担保確認において、問題がない 事から、アイスプラグの全長は約 270mm~310mm であ ると考えられる。 - 101 - 凝固点 3°C 凝固点 0°C 凝固点 0°C 凝固点 3°C 54.6 考察 苛性ソーダ凍結時の配管内温度と表面温度について、 図 14 に示す。配管表面(天側)と配管内部の温度指示値 が近い値となっていたことから、配管内流体が苛性ソ ーダの系統については、配管表面温度(天側)の温度指示 値を配管内の温度状況確認に用いることができるもの と考える。ただし、配管表面温度(天側)を用いて凍結判 断を行うためには、安全側に考えて、配管表面(天側) 温度に 10 °C足した値を配管内温度と考えた上で判断 基準の一つとして利用可能と考える。 図 14 苛性ソーダ凍結時の配管内温度と表面温度について 5. まとめ 試薬系統配管を実規模のモックアップ装置を用いて 装置内に注入した各種試薬(水、苛性ソーダ)を凍結させ る際の配管内温度分布測定を実施し、アイスプラグの 凍結完了判断をした時の凍結範囲および配管表面温度 と凍結状況の関連性を確認した。 各試薬のアイスプラグ試験時における配管内温度分 布測定を実施したところ、表 5 に示す結果が得られた。 また、苛性ソーダ凍結時の配管表面(天側)温度と配管内 部の温度との関連性を確認することができた。 今後のアイスプラグ施工技術開発の展開に向けて、 モックアップ試験において硝酸が凍結に至るまでの温 度変化を確認すると共に、実機への適用に向けて想定 される配管や装置などのレイアウトを考慮した試験を 行い、その信頼性、安全性を高めていきたい。 凝固点 3°C 6- 102 - 表5 試験結果のまとめ 試験条件 試薬 水 苛性ソーダ 濃度 - 13.6 N 配管径 40A ボックス 内寸 182 mm 施工気温 30 °C 試験結果 アイスプラグ 長さ 270~310 mm 270~310 mm 耐圧性能 0.9 MPa 0.9 MPa 参考文献 [1] 化学大辞典編集委員会、“水酸化ナトリウム”、化 学大辞典 5 、1963、pp32-33、1005“ “試薬系統配管保守用の簡易アイスプラグ施工技術 “ “尾形 曜,Hikaru OGATA,市川 友博,Tomohiro ICHIKAWA,野田 静枝,Shizue NODA,古川 敬士,Keishi FURUKAWA,加賀谷 忍,Shinobu KAGAYA,喜多 健太朗,Kentaroh KITA
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