保全工学から見た破壊力学健全性評価
公開日:
カテゴリ: 第1回
1. はじめに
昨年 10 月、原子力プラントの新たな検査制 度が国によって施行され、この一環として欠陥 評価を含む健全性評価(維持規格)が制度化さ れた。健全性評価は、破壊力学等を用いた欠陥 評価によって、機器の適切な保全策を選定する 新しい考え方を導入しており、保全工学に与え る影響は大きなものがある。ここでは、保全工 学と維持規格との関係、破壊力学による欠陥評 価との関係などを改めて見直し、その本質的な 意味合いについて検討を試みるとともに、保全 工学の将来的な展開に向け、私見を交えつつ考 察した結果を以下に示す。2. 保全工学と維持規格 * 保全には、技術的、経済的、社会的、あるい は法的な側面など極めて多様な内容が含まれ るが、狭義としての原子力発電プラントにおけ る保全は、発電機器が本来有する諸機能を十全 に発揮させ得る状態を保つための補修・取替え 等に加え、それを支援する検査等などを含めた 一連の行為として捉えることができる。これに 関連して、昨年 10 月より国の新たな検査制度 の一環として、健全性評価が電気事業者に義務
図けられるようになった。この健全性評価にお いては、日本機械学会で策定された維持規格が 引用されている[1]。同規格は、「検査」「評価」、 及び今後規格化が予定されている「補修・取替 え」の3本柱について、規格面からの体系化を 目指すものである(図 1)。これより、保全行為 の一部として、機器の維持管理に関する位置付 けが明確化されつつある。保全にかかわる行為は、検査あるいは補修・ 取替えの例でもわかるように、現場における個 別的なノウハウの経験を集積したものを基盤 としており、定量的予見性を有する理論的・体 系的な工学として構築することは、極めて困難 な場合が多い。保全には「事後保全」と「予防 保全」とがある。このうち「事後保全」は、損 傷などを検知することによって、保全を必要と する機器が特定された後に保全を行うもので あり、予見性には欠けるが効果的な保全が可能 となる。一方、「予防保全」は、これまでの経 験から、将来保全が必要となる機器、損傷形態 を予想してあらかじめ対策を行う保全である が、不確定要素が大きい場合には、必ずしも効 果的な保全とはなりえない場合がある。維持規 格によって、部分的にも保全を体系化しようと する枠組みができたことは、同規格に関わる多 くの技術的課題を「保全工学」の一部として工
学的観点から再構築しようとする機運を生じ させるまたとない契機となりつつある。維持規 格では、検出された欠陥に対して、保全(補修・ 取替え)の必要性の有無を材料レベルの問題に までさかのぼって扱うことにより、欠陥によっ て引き起こされる損傷に関わる構造機器の健 全性を定量的に予見し、これを検査や補修・取 替えと関連付けて、合理的な保全を達成するプ ロセスが導入される。言い換えれば、「事後保 全的」な情報(欠陥検出情報)をベースとして、 不確定要素を少なくした上で、「予防保全的」 措置のオプション(継続運転か、補修・取替え か)を的確に定める手法であるということがで きる。このように、維持規格における健全性評 価の枠組みが構築される中で、保全と材料問題 との関係が明確にされ、この中で保全工学とし ての位置付けが例示されることの意味合いは 大きいものと考えられる。3. 保全における破壊力学の役割維持規格では、検査によって欠陥が検出され た場合、一定の評価期間における欠陥の進展挙 動を予測し、破壊を引き起こす可能性のある進 展性の大きい欠陥については、機器の補修・取 替えが要求される一方、進展性が小さく、評価 期間内に破壊の可能性がないと判断される場 合には、継続運転が認められる。 - 従来は、欠陥が検出された時点で機器の健全 性が損なわれるといった考え方が取られたの に対し、維持規格では欠陥評価に基づいて欠陥 の進展・破壊挙動を定量的に予見し、健全性の 判定を下す点が従来とは大きく異なっている。 この欠陥挙動の定量化を可能とする手法のひ とつが破壊力学による欠陥評価手法である。図2は、欠陥の挙動を示すためによく使われる 概念図である。欠陥(割れ)の大きさ(縦軸)と 時間(横軸)との関係の中で、欠陥は発生、進展 した後、一定の限界値(限界欠陥寸法)に達した 時点で、構造機器としての破壊が生じ、すなわち 保全すべき対象となる。従って、機器は欠陥検出 の時点で寿命に達したと見なされるのでなく、限 界欠陥に達する時点までを寿命と考えることが できる。もしも、欠陥検出時点を寿命に到達したと見なすのであれば、非破壊検査精度の向上と共 に、機器の寿命が低下するといったはなはだしい 矛盾を抱えることになる。ただし、実際には、限 界欠陥に安全率を見込んで定められる限界値 (許容欠陥)に基づく寿命を考え、安全側の評 価が可能となるように定められる。こうした考 え方の背景には、(1) 原子力機器は、低温脆 性破壊のように、欠陥発生と同時に、瞬時に構 造物全体が破壊するに至るような材料や環境 の条件には置かれていないこと、さらに(2) 原子力機器で使われる材料や環境において発 生する欠陥は、これまでの経験から、疲労き裂 や応力腐食割れにように、時間的に極めて緩慢 な進展挙動(安定なき裂進展)を示すことが明 らかとなっていることがある。欠陥評価は、必 然的に「欠陥の許容性」といった概念を持ち込ん でおり、欠陥を排除するといった従来の保全の考 え方とは異なるため、インパクトのある見方もな されているが、その考え方は、構造強度としての 視点から見れば極めて普遍的な考え方に根ざし ている。 - 破壊力学は、上記に示すような欠陥の進展と 破壊の問題を、限られた範囲ではあるが、破壊 力学パラメータを介して定量的に扱うことが できる有力な手法として確立されている。この ようにして評価される欠陥の挙動は、最適な保 全を実現するための有効な知見を提供する。す なわち、欠陥評価を行うことは、単に欠陥の挙 動を予見するのみならず、機器の破壊に対する 時間的・空間的裕度を明確に示すことを可能と する。これより、検査や補修・取替えの時期と 範囲などについて、的確な保全策を定めること にもつながり、こうした点を認識することは極 めて重要な視点である。4. 保全工学の展開以上述べたことから、健全性評価、欠陥評価 の本質を考えると、欠陥検出といった一次情報 を的確に把握することによって、将来の構造健 全性の程度(進展、破壊)に関する二次情報を 予見し、これに基づいて、最適な保全を選択す ることにつながっていくことが理解される。 * 現在の欠陥評価における破壊力学の適用は、-110うな一部の欠陥で、「より高度な一次情報」を取り入れた保全 っている。欠陥, 技術として、「保全科学」の構築をも視野に入 いくためには、れた今後の技術開発に期待したい。 食・浸食などの ・ ニュー 一、 でで、「より高度な一次情報」を取り入れた保全 技術として、「保全科学」の構築をも視野に入 れた今後の技術開発に期待したい。5. まとめ (1) 保全は、従来、経験的なノウハウをベースとしており、体系的な保全工学としての取 組みが困難であった。 維持規格の導入は、検査、評価、補修・取 替えの3つの柱を中心として、保全行為の 一部を体系化し、保全工学を構築する契機のひとつとなりつつある。 (3)維持規格における欠陥評価によって、機器の破損に対する裕度を定量的に予見する ことが可能となり、これに基づいて有効な疲労き裂や応力腐食割れのような一部の欠陥 (き裂状欠陥)にのみ可能となっている。欠陥 評価の適用範囲を今後拡大していくためには、 各種の非き裂状欠陥(例えば腐食・浸食などの 欠陥)に対する手法についても上記に示した評 価の本質に基づき、新たな手法を構築すること が必要であろう。 ・ 一方で、近年の材料科学における発展は、ナ ノテクノロジーに端的に見られるように、微細 な領域における物性を解明する技術において、 目を見張るものがある。材料の損傷につながる 微細な物性の変化の兆候を確実に捉えること ができるならば、こうした情報も検査による欠 陥検出情報と同様に、一次情報として有効活用 できることとなる。検査情報は、一次情報のひ とつであるといった認識を持って、保全技術の 一層の開発が進むことが期待される。 - 材料の損傷は、究極的には、原子レベルでの ミクロな挙動がベースとなるが、これを保全行 為に結びつけるためには、当然マクロな挙動で 記述できることが不可欠となる。破壊力学は現 状におけるそうした手法の一つである。こうし た取り組みの一例として、圧力容器の中性子照 射脆化に関する研究を示す。同研究では、格子 欠陥の挙動をベースとしてまさに原子レベル での挙動を基に、マクロな脆化予測モデルを開 発する試みが世界的に進められており、靭性評 価の基盤を従来の経験的手法からメカニカル ベースの手法に移行させていこうとする動き が見られる。ここで、特徴的なのは、マルチス ケールといった概念を導入していることであ り、ナノスケールの時空間と通常の時空間とを、 段階的に複数の尺度でつなぎ合わせることに より、ナノレベルの物質挙動をマクロな材料挙 動として説明するような試みがなされている。 こうした手法が、一般的な保全の世界に供され るのであれば、ミクロな損傷挙動とマクロな補 修とをつなぐ新たな保全のアプローチが達成 されるのも夢ではない。しかしながら、原子力 機器の置かれている複雑な条件のもとでは、こ うしたアプローチが一般化されるには、まだま だ多くの時間が必要とされることは言うまで もない。 出情報と同様に、一次情報として有効活用 (3)維持規格における欠陥評価によって、機器 ることとなる。検査情報は、一次情報のひ の破損に対する裕度を定量的に予見する であるといった認識を持って、保全技術の ことが可能となり、これに基づいて有効な の開発が進むことが期待される。保全策が選定され、保全の合理化に反映さ 料の損傷は、究極的には、原子レベルでの せることができる。 ロな挙動がベースとなるが、これを保全行 (4) 健全性評価の本質は、材料の一次情報をベ 結びつけるためには、当然マクロな挙動で ースとして、保全にかかわる二次情報を的 できることが不可欠となる。破壊力学は現 確に予見することである。この考え方によ おけるそうした手法の一つである。こうし れば、欠陥検査の情報は一次情報のひとつ り組みの一例として、圧力容器の中性子照 であり、損傷につながる物性情報を広く一 化に関する研究を示す。同研究では、格子 次情報として捉えることができる。 の挙動をベースとしてまさに原子レベル (5) これを実現させるため、保全工学の将来と 挙動を基に、マクロな脆化予測モデルを開 して、保全科学の役割が今後期待される。 る試みが世界的に進められており、靭性評 -基盤を従来の経験的手法からメカニカル ースの手法に移行させていこうとする動き 参考文献 られる。ここで、特徴的なのは、マルチス -ルといった概念を導入していることであ[1] 日本機械学会 : 発電用原子力設備規格維持より10000 エコレイにTAMRONIA10000保全は、従来、経験的なノウハウをベース としており、体系的な保全工学としての取 組みが困難であった。 維持規格の導入は、検査、評価、補修・取 替えの3つの柱を中心として、保全行為の 一部を体系化し、保全工学を構築する契機 のひとつとなりつつある。 維持規格における欠陥評価によって、機器 の破損に対する裕度を定量的に予見する ことが可能となり、これに基づいて有効な 保全策が選定され、保全の合理化に反映さ せることができる。 健全性評価の本質は、材料の一次情報をベ ースとして、保全にかかわる二次情報を的 確に予見することである。この考え方によ れば、欠陥検査の情報は一次情報のひとつ であり、損傷につながる物性情報を広く一 次情報として捉えることができる。 これを実現させるため、保全工学の将来と して、保全科学の役割が今後期待される。 日本機械学会:発電用原子力設備規格維持 規格(2002 年改訂版)、JSME S-NA1-2002、 2002年,供用期間中検査 ・欠陥の検出従来I:検査VIII: 15 取替えII:評価 (欠陥評価)継続 運転・供用期間中検査 ・欠陥の検出とサ イジング・検出された欠陥の進 展予測、破壊評価 ・評価に基づく判定 (運転継続又は補修取 替)図1 維持規格の3つの柱破壊時の割れの大きさ割れの大きさ(経年劣化)限界欠陥破壊安全率許容欠割れ寸法検出限界「発生欠陥検出「進展供用開始時間寿命(維持規格非導入)寿命(維持規格導入)図2 欠陥評価と寿命-112“ “保全工学から見た破壊力学健全性評価“ “鹿島 光一,Koichi KASHIMA“ “保全工学から見た破壊力学健全性評価“ “鹿島 光一,Koichi KASHIMA
昨年 10 月、原子力プラントの新たな検査制 度が国によって施行され、この一環として欠陥 評価を含む健全性評価(維持規格)が制度化さ れた。健全性評価は、破壊力学等を用いた欠陥 評価によって、機器の適切な保全策を選定する 新しい考え方を導入しており、保全工学に与え る影響は大きなものがある。ここでは、保全工 学と維持規格との関係、破壊力学による欠陥評 価との関係などを改めて見直し、その本質的な 意味合いについて検討を試みるとともに、保全 工学の将来的な展開に向け、私見を交えつつ考 察した結果を以下に示す。2. 保全工学と維持規格 * 保全には、技術的、経済的、社会的、あるい は法的な側面など極めて多様な内容が含まれ るが、狭義としての原子力発電プラントにおけ る保全は、発電機器が本来有する諸機能を十全 に発揮させ得る状態を保つための補修・取替え 等に加え、それを支援する検査等などを含めた 一連の行為として捉えることができる。これに 関連して、昨年 10 月より国の新たな検査制度 の一環として、健全性評価が電気事業者に義務
図けられるようになった。この健全性評価にお いては、日本機械学会で策定された維持規格が 引用されている[1]。同規格は、「検査」「評価」、 及び今後規格化が予定されている「補修・取替 え」の3本柱について、規格面からの体系化を 目指すものである(図 1)。これより、保全行為 の一部として、機器の維持管理に関する位置付 けが明確化されつつある。保全にかかわる行為は、検査あるいは補修・ 取替えの例でもわかるように、現場における個 別的なノウハウの経験を集積したものを基盤 としており、定量的予見性を有する理論的・体 系的な工学として構築することは、極めて困難 な場合が多い。保全には「事後保全」と「予防 保全」とがある。このうち「事後保全」は、損 傷などを検知することによって、保全を必要と する機器が特定された後に保全を行うもので あり、予見性には欠けるが効果的な保全が可能 となる。一方、「予防保全」は、これまでの経 験から、将来保全が必要となる機器、損傷形態 を予想してあらかじめ対策を行う保全である が、不確定要素が大きい場合には、必ずしも効 果的な保全とはなりえない場合がある。維持規 格によって、部分的にも保全を体系化しようと する枠組みができたことは、同規格に関わる多 くの技術的課題を「保全工学」の一部として工
学的観点から再構築しようとする機運を生じ させるまたとない契機となりつつある。維持規 格では、検出された欠陥に対して、保全(補修・ 取替え)の必要性の有無を材料レベルの問題に までさかのぼって扱うことにより、欠陥によっ て引き起こされる損傷に関わる構造機器の健 全性を定量的に予見し、これを検査や補修・取 替えと関連付けて、合理的な保全を達成するプ ロセスが導入される。言い換えれば、「事後保 全的」な情報(欠陥検出情報)をベースとして、 不確定要素を少なくした上で、「予防保全的」 措置のオプション(継続運転か、補修・取替え か)を的確に定める手法であるということがで きる。このように、維持規格における健全性評 価の枠組みが構築される中で、保全と材料問題 との関係が明確にされ、この中で保全工学とし ての位置付けが例示されることの意味合いは 大きいものと考えられる。3. 保全における破壊力学の役割維持規格では、検査によって欠陥が検出され た場合、一定の評価期間における欠陥の進展挙 動を予測し、破壊を引き起こす可能性のある進 展性の大きい欠陥については、機器の補修・取 替えが要求される一方、進展性が小さく、評価 期間内に破壊の可能性がないと判断される場 合には、継続運転が認められる。 - 従来は、欠陥が検出された時点で機器の健全 性が損なわれるといった考え方が取られたの に対し、維持規格では欠陥評価に基づいて欠陥 の進展・破壊挙動を定量的に予見し、健全性の 判定を下す点が従来とは大きく異なっている。 この欠陥挙動の定量化を可能とする手法のひ とつが破壊力学による欠陥評価手法である。図2は、欠陥の挙動を示すためによく使われる 概念図である。欠陥(割れ)の大きさ(縦軸)と 時間(横軸)との関係の中で、欠陥は発生、進展 した後、一定の限界値(限界欠陥寸法)に達した 時点で、構造機器としての破壊が生じ、すなわち 保全すべき対象となる。従って、機器は欠陥検出 の時点で寿命に達したと見なされるのでなく、限 界欠陥に達する時点までを寿命と考えることが できる。もしも、欠陥検出時点を寿命に到達したと見なすのであれば、非破壊検査精度の向上と共 に、機器の寿命が低下するといったはなはだしい 矛盾を抱えることになる。ただし、実際には、限 界欠陥に安全率を見込んで定められる限界値 (許容欠陥)に基づく寿命を考え、安全側の評 価が可能となるように定められる。こうした考 え方の背景には、(1) 原子力機器は、低温脆 性破壊のように、欠陥発生と同時に、瞬時に構 造物全体が破壊するに至るような材料や環境 の条件には置かれていないこと、さらに(2) 原子力機器で使われる材料や環境において発 生する欠陥は、これまでの経験から、疲労き裂 や応力腐食割れにように、時間的に極めて緩慢 な進展挙動(安定なき裂進展)を示すことが明 らかとなっていることがある。欠陥評価は、必 然的に「欠陥の許容性」といった概念を持ち込ん でおり、欠陥を排除するといった従来の保全の考 え方とは異なるため、インパクトのある見方もな されているが、その考え方は、構造強度としての 視点から見れば極めて普遍的な考え方に根ざし ている。 - 破壊力学は、上記に示すような欠陥の進展と 破壊の問題を、限られた範囲ではあるが、破壊 力学パラメータを介して定量的に扱うことが できる有力な手法として確立されている。この ようにして評価される欠陥の挙動は、最適な保 全を実現するための有効な知見を提供する。す なわち、欠陥評価を行うことは、単に欠陥の挙 動を予見するのみならず、機器の破壊に対する 時間的・空間的裕度を明確に示すことを可能と する。これより、検査や補修・取替えの時期と 範囲などについて、的確な保全策を定めること にもつながり、こうした点を認識することは極 めて重要な視点である。4. 保全工学の展開以上述べたことから、健全性評価、欠陥評価 の本質を考えると、欠陥検出といった一次情報 を的確に把握することによって、将来の構造健 全性の程度(進展、破壊)に関する二次情報を 予見し、これに基づいて、最適な保全を選択す ることにつながっていくことが理解される。 * 現在の欠陥評価における破壊力学の適用は、-110うな一部の欠陥で、「より高度な一次情報」を取り入れた保全 っている。欠陥, 技術として、「保全科学」の構築をも視野に入 いくためには、れた今後の技術開発に期待したい。 食・浸食などの ・ ニュー 一、 でで、「より高度な一次情報」を取り入れた保全 技術として、「保全科学」の構築をも視野に入 れた今後の技術開発に期待したい。5. まとめ (1) 保全は、従来、経験的なノウハウをベースとしており、体系的な保全工学としての取 組みが困難であった。 維持規格の導入は、検査、評価、補修・取 替えの3つの柱を中心として、保全行為の 一部を体系化し、保全工学を構築する契機のひとつとなりつつある。 (3)維持規格における欠陥評価によって、機器の破損に対する裕度を定量的に予見する ことが可能となり、これに基づいて有効な疲労き裂や応力腐食割れのような一部の欠陥 (き裂状欠陥)にのみ可能となっている。欠陥 評価の適用範囲を今後拡大していくためには、 各種の非き裂状欠陥(例えば腐食・浸食などの 欠陥)に対する手法についても上記に示した評 価の本質に基づき、新たな手法を構築すること が必要であろう。 ・ 一方で、近年の材料科学における発展は、ナ ノテクノロジーに端的に見られるように、微細 な領域における物性を解明する技術において、 目を見張るものがある。材料の損傷につながる 微細な物性の変化の兆候を確実に捉えること ができるならば、こうした情報も検査による欠 陥検出情報と同様に、一次情報として有効活用 できることとなる。検査情報は、一次情報のひ とつであるといった認識を持って、保全技術の 一層の開発が進むことが期待される。 - 材料の損傷は、究極的には、原子レベルでの ミクロな挙動がベースとなるが、これを保全行 為に結びつけるためには、当然マクロな挙動で 記述できることが不可欠となる。破壊力学は現 状におけるそうした手法の一つである。こうし た取り組みの一例として、圧力容器の中性子照 射脆化に関する研究を示す。同研究では、格子 欠陥の挙動をベースとしてまさに原子レベル での挙動を基に、マクロな脆化予測モデルを開 発する試みが世界的に進められており、靭性評 価の基盤を従来の経験的手法からメカニカル ベースの手法に移行させていこうとする動き が見られる。ここで、特徴的なのは、マルチス ケールといった概念を導入していることであ り、ナノスケールの時空間と通常の時空間とを、 段階的に複数の尺度でつなぎ合わせることに より、ナノレベルの物質挙動をマクロな材料挙 動として説明するような試みがなされている。 こうした手法が、一般的な保全の世界に供され るのであれば、ミクロな損傷挙動とマクロな補 修とをつなぐ新たな保全のアプローチが達成 されるのも夢ではない。しかしながら、原子力 機器の置かれている複雑な条件のもとでは、こ うしたアプローチが一般化されるには、まだま だ多くの時間が必要とされることは言うまで もない。 出情報と同様に、一次情報として有効活用 (3)維持規格における欠陥評価によって、機器 ることとなる。検査情報は、一次情報のひ の破損に対する裕度を定量的に予見する であるといった認識を持って、保全技術の ことが可能となり、これに基づいて有効な の開発が進むことが期待される。保全策が選定され、保全の合理化に反映さ 料の損傷は、究極的には、原子レベルでの せることができる。 ロな挙動がベースとなるが、これを保全行 (4) 健全性評価の本質は、材料の一次情報をベ 結びつけるためには、当然マクロな挙動で ースとして、保全にかかわる二次情報を的 できることが不可欠となる。破壊力学は現 確に予見することである。この考え方によ おけるそうした手法の一つである。こうし れば、欠陥検査の情報は一次情報のひとつ り組みの一例として、圧力容器の中性子照 であり、損傷につながる物性情報を広く一 化に関する研究を示す。同研究では、格子 次情報として捉えることができる。 の挙動をベースとしてまさに原子レベル (5) これを実現させるため、保全工学の将来と 挙動を基に、マクロな脆化予測モデルを開 して、保全科学の役割が今後期待される。 る試みが世界的に進められており、靭性評 -基盤を従来の経験的手法からメカニカル ースの手法に移行させていこうとする動き 参考文献 られる。ここで、特徴的なのは、マルチス -ルといった概念を導入していることであ[1] 日本機械学会 : 発電用原子力設備規格維持より10000 エコレイにTAMRONIA10000保全は、従来、経験的なノウハウをベース としており、体系的な保全工学としての取 組みが困難であった。 維持規格の導入は、検査、評価、補修・取 替えの3つの柱を中心として、保全行為の 一部を体系化し、保全工学を構築する契機 のひとつとなりつつある。 維持規格における欠陥評価によって、機器 の破損に対する裕度を定量的に予見する ことが可能となり、これに基づいて有効な 保全策が選定され、保全の合理化に反映さ せることができる。 健全性評価の本質は、材料の一次情報をベ ースとして、保全にかかわる二次情報を的 確に予見することである。この考え方によ れば、欠陥検査の情報は一次情報のひとつ であり、損傷につながる物性情報を広く一 次情報として捉えることができる。 これを実現させるため、保全工学の将来と して、保全科学の役割が今後期待される。 日本機械学会:発電用原子力設備規格維持 規格(2002 年改訂版)、JSME S-NA1-2002、 2002年,供用期間中検査 ・欠陥の検出従来I:検査VIII: 15 取替えII:評価 (欠陥評価)継続 運転・供用期間中検査 ・欠陥の検出とサ イジング・検出された欠陥の進 展予測、破壊評価 ・評価に基づく判定 (運転継続又は補修取 替)図1 維持規格の3つの柱破壊時の割れの大きさ割れの大きさ(経年劣化)限界欠陥破壊安全率許容欠割れ寸法検出限界「発生欠陥検出「進展供用開始時間寿命(維持規格非導入)寿命(維持規格導入)図2 欠陥評価と寿命-112“ “保全工学から見た破壊力学健全性評価“ “鹿島 光一,Koichi KASHIMA“ “保全工学から見た破壊力学健全性評価“ “鹿島 光一,Koichi KASHIMA