電磁波を用いた配管内部欠陥探傷技術の開発

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カテゴリ: 第1回
1.緒言
そこで本研究では、この電磁波を用いた欠陥探傷技術によって、放電加工によって導入 原子炉の長期使用は、地球温暖化ガス放出 された欠陥の検出が可能であることを示し、 削減や電力コスト低減に非常に有効であるが、 いわゆる“クラック レーダー”の可能性を示 プラントの健全性をより経済的に保証するた すことを目的としている。 めには、より高速でかつ高精度の欠陥探傷技 術の開発が重要となってくる。現在までのと2. 実験装置 ころ典型的な欠陥サイズの同定技術として、 超音波検査法・過電流検査法などがあり、実2.1 モード変換器 績がある。しかしながら、両者ともにより広 い範囲の検査を行う場合には、精度は良いも 前述のように、数値解析結果から、円形 TM01 のの検査に要する時間が膨大になると考えら モードの電磁波によって配管内部の周方向欠 れる。そこで、配管内部に存在する欠陥を高 陥の検出が可能でありことが分かっている。 速に検出する技術の開発が重要となり、従来 このモードの電磁波が伝搬する際には、通常、 の超音波探傷法と組み合わせることにより、 導体の表面(配管の内表面)に軸方向の表面 高速に欠陥を検出した後、欠陥サイズの同定 電流が誘起される。従って、円周方向の欠陥 を行うという先進的な欠陥検出システムの構が配管内表面に存在していると、この表面電 築が可能となる。流の分布が乱れ、結果として、電磁波の散乱 すでに実施された数値解析結果[1]から、 が起き、透過波、反射波を計測することによ 円形 TM01 モードの電磁波によって配管内部の って、欠陥の検出が可能となる。 周方向欠陥の検出が可能であり、また、遮断 しかしながら、電磁波の発振器であるガン 周波数近傍の周波数の電磁波を用いることに オシレーターは、通常矩形 TE1o モードの電磁 より、欠陥位置の同定が可能であることが示 波を発振するため、TM01 モードへの変換を行 されている。また、その後実施された実験結 う必要性がある。図1にモード変換器の概略 果 [2,3,4]においても、遮断周波数近傍の TM0 図を示す。このシステムにおいては、円形 TE11 モードの電磁波が欠陥の情報を多く含んでい モードも同時に発生するが、このモードは軸 ることが示されている。しかし、これらの実方向欠陥を検出する際に有効である。そして、 験では2つ円管に、内径の大きなスペーサー これら2つのモードは、モード変換器のプラ をはさみ、比較的大きな人工欠陥を用いて欠。 ンジャー位置“”を調整することによって強度 陥を模擬していた。を調整できる。すなわち、TMon モードを共鳴さ -135
とし、TEモードの発生を抑えるためには1 2n+1TGCに、少女はエードを共闘させる。なお 実験装置では、“1”およびガンオシレーター の周波数はコンピュータを使用して、自動自 に変化させている。せるためには、ことし、TE, モードの発生を抑えるためには2n+1l=XgTE4とすればよい。ただし、m, n は任意の整数、入 は管内波長で、自由空間での波長2と、遮断波 長 1を用いて次式で与えられる波長である。 11 1 1円形モードの場合、.は円形モードの場合、2は==2macー=ー (c: 光速),で与えられ、ro = 2.405 (円形 TMon モード)、 ro=1.841 (円形 TE1 モード)となる。circular waveguideSplung |motorelectricrectangular waveguideisolatorcrystal mountgun oscillatorFig. 1 Schematic diagram of mode convertercrystal mount (transmitted wave)mode convertertapered waveguidemode convertercrystal mount (reflected wave)Fig. 2 Schematic diagram of experimental system(1)式(2)式を満足するように“1”を変 化させ、必要なモードを共鳴させる。なお本 実験装置では、“1”およびガンオシレーター の周波数はコンピュータを使用して、自動的 に変化させている。2.2 試験部図2に試験部を含めた全体の実験装置を示す。 ガンオシレーターから発振された矩形 TE1o モー ドの電磁波がモード変換器内に伝搬し、モード 変換された後に、テーパー導波管を通して試験 部へと導かれる。また、反射波、透過波の強度 は矩形導波管に取り付けられたクリスタルマウ ントによって、計測される。ここで、テーパー 導波管は、試験部の配管における遮断周波数以 下の電磁波を試験部に導入するために必要とな るものである。 1 試験に使用したのは SUS304 製の配管(内径 34mm)である。従来の実験[2,3,4]では欠陥の無 い試験管の場合に得られる反射波・透過波を、 2つの配管をフランジで繋ぎ、擬似的に欠陥を 導入した場合に得られる結果と比較し、欠陥の 存在を推定していた。しかしながら、これらの 実験では、配管自体が異なるものを使用してい るため、欠陥の有無ではなく、配管個体の影響 が結果に現れている可能性もある。そこで本論 文の実験では、まず、欠陥の無い配管について 反射波・透過波を測定し、その後に、放電加工 によって欠陥を導入し、両者の信号を比較する ことによって個体の影響を排除している。-1363.実験結果 3.1 欠陥検出最適条件の決定図3に欠陥検出にための条件を明らかにす るための実験装置を示す。この実験では、テー パー導波管の終端に円形 TM01 モードに対する反 射板を取り付けた場合と吸収板を取り付けた場 合とを比較することによって、円形 TM01 モード のみが共鳴している領域を明らかにする。まず、 すべてのモードに対して反射する反射板を用い て反射波の強度を測定する。つぎに、パラフィ ンとグラファイトから出来ている円形 TM01 モー ドのみを吸収する吸収板を装着して同様に反射 波強度を測定する。従って、円形 TM01 モードが 主に共鳴している領域では、反射板を取り付け た場合には信号強度が大きく、かつ、吸収板を 取り付けた場合には、信号強度が大きく減少し ていることになる。図4にこれらの結果を示す。 縦軸はガンオシレーターの発振周波数、横軸は モード変換器のプランジャー位置“1”を表して いる。図4(a)は、反射板を取り付けた場合の反 射波強度分布を示しており、黒い領域は反射信 号強度が大きいことを意味している。この体系 における遮断周波数は、6.755GHz (TMon モード)、 5.171GHz(TE1 モード)となっており、TMon モ ードが理論上伝搬可能な周波数領域では、TE11 モードも伝搬可能となっている。図 4 (a)中に式 (2)より計算される TE1 モードの発生が抑え られる領域を四角で示してあるが、信号強度の 弱い領域と良く一致している。図中には、この TE1 モードの強度が小さくなる領域と一致して いない領域も存在しており、これは TM01 モード の強度が小さくなっているためであると考えら れる。TM01 モードに対しては理論的に予測され る領域と比較することは、遮断周波数近傍であ るため式(3)より遮断波長が無限大となるこ とから、不可能となる。しかし、たとえば 6.95GHz における TE1 モードの発生が抑えられる領域と 一致していない部分間のプランジャーの位置の 差は、約 26mm となっている。一方、この周波 数における入TM と Ag TE の理論値の半分は、そ れぞれ 26mm と 24mm となっていることから、 上述の考察が正しいと判断できる。tapered waveguidereflection platecrystal mount(reflected wave) tapered waveguidematch loadcrystal mount (reflected wave)Fig. 3 Experimental set-up with reflection plateand matched load68190100110120130140 150 160170 180frequency [GHz]190170 180100 110 120 130 140 150 160length [mm] = (a) with reflection plate152552frequency (GHz]100110120130140 15016017018016017018090 100 110 120 130 140 150length [mm] =(b) with matched loaepi75 Fig. 4 Intensity of reflected wave539-1373.2 欠陥検出実験 図5に放電加工によって導入された貫通欠陥 の様子を示す。配管材は SUS304 であり、長さ 1200mm 内径 34mm となっている。欠陥は端か ら 400mm の位置に導入されており、半周分の大 きさとなっている。欠陥の幅は 0.5mm である。 配管の取り付け方向を逆にすることによって発Fig. 5 Test pipe with thin crack -f[GHz]166ト~100110120130140150160170i [mm] 180(a) error of signal without crackf[GHz]69100110120130140150160170I [mm] 1801002015 (b) signal difference due to crack existence Fig. 6 Reflected signals (crack location:400mm)振源側から見て欠陥の位置を 400mm と 800mm の2種類の実験を行うことが可能となる。 - 最初に欠陥位置が 400mm の場合について実験 を実施した。図6に反射波の強度を示す。図6(a) には、欠陥が存在しない場合の反射波強度を2 度測定し、その際の誤差を示している。この誤 差は、発振器の強度の誤差やプランジャー位置 のずれが原因であると考えられる。図6(b)には、 欠陥が存在する場合と存在しない場合の反射波 強度の差を示す。実験ではあらかじめ欠陥の無 い状態でデータを取得した後に、同じ配管に欠 陥を導入してデータを取得している。明らかに 欠陥の存在によって信号に大きな差が出ている ことが分かる。図7には透過波の強度を示すが、この場合も 透過波の差は大きく、欠陥検出に有効であると ことが分かる。ZF [GHz]~100110120130140 15016011 [mm] 170 1801(a) error of signal without crackzf [GHz]69)~100110120130140 1501601 [m] 170 1802020.08 (b) signal difference due to crack existence Fig. 7 Transmitted signals(crack location:400mm)138また、図 4 (b)で予想された欠陥検出可能性の 高い領域すなわち、TM01 モードが共鳴し、TE11 モードの発生が抑えられいる領域では、図6(b)、 図7(b)において、欠陥の有無による信号の差が 大きいことが分かる。TM01 モードの遮断周波数 (6.755GHz)以下の領域でも欠陥の有無による 信号の差が大きな領域が存在しており、これは、 TEモードの電磁波が欠陥の存在によって影響 を受けた可能性がある。すなわち、TE1 モード においては、周方向に表面電流が流れるが、こ の電流が欠陥(幅 0.5mm)の影響を受けたもの と考えられる。図8は、欠陥が試験配管の発振器側から 800mm の所に位置している場合の反射波の強度 の差を示している。この場合においてもまず欠 陥が存在しない場合に信号を2回測定し、その 後に、欠陥が存在するものとの比較を行ってい-f [GHz]~100110120 130L 140 150160i [mm] 170 180(a) error of signal without crackzf [GHz]~100 110 120130140 150-160[mm] 170 180°20.15 (b) signal difference due to crack existence Fig. 8 Reflected signals (crack location:800mm)る。図8(b)には、欠陥の有無による反射波の強 度の差を示す。この場合には信号の差の強度は 図6(b)に示す欠陥位置が 400mm の場合と比較 すると信号の差が大きくないことが分かる。し かしながら、この問題は電磁波の発振器の精度・ 強度、プランジャー位置制御精度を上げること によって十分克服可能であるといえる。図9には、透過波の結果を示している。この 場合にもやはり図6で予想された周波数とプラ ンジャー位置で比較的大きな信号の差が得られ ている。また、モードの遮断周波数以下の領域 においても信号の差が得られているが、これも TE1 モードが影響を受けたためであると考えら れる。また、図6(b)と図8 (b)、図 7 (b)と図9 (b)を比 較すると、欠陥の存在により現れたと考えられ る信号の差の強度分布のパターンが、 欠陥の位-f[GHz]Il [mm] 100 110 120 130 140 150 160 170 1801(a) error of signal without crackGH69」 110“100」 130120」 」 150 160Tel [mm]140」 170」 | [mm] 180(b) signal difference due to crack existence Fig. 9 Transmitted signals(crack location:800mm)-139置が異なるにもかかわらず、同じように現れて いる部分があり、これは、欠陥位置 800mm が欠 陥位置 400mm の整数倍になっているためである 可能性があり、今後、配管長さを長くし、欠陥 位置をより変化させて評価する必要性があると 考えられる。4.結論* 本研究を通して以下の結論が得られた。 1) 全反射板と TMon モード吸収板を用いた実験により、TMon モードが共鳴し、周方向 欠陥の検出可能な周波数領域とプランジャー位置について評価することができた。 2) 欠陥が発振器から離れた位置に存在する場合には、透過波を使用することによっ て欠陥検出が可能であることが分かった。 また、比較的欠陥が発振器に近い場合に は透過波だけではなく、反射波を用いても検出可能であることが示された。 3) TE, モードによる周方向欠陥検出の可能性が示された。今後、より、幅の狭い欠 陥についての実験を進めることが必要と考えられる。 4)欠陥の存在しない配管に対する計測結果から、測定時の誤差が比較的大きいとこ とが明らかとなった。今後、発振器の高精度化を進める必要性があると言える。 5)今回の研究により、電磁波を用いた欠陥検出技術の基本的原理は証明されたと言 える。4)5) 謝辞本研究は文部科学省科学研究費(萌芽研究) (No.15656236)の成果の一部である。参考文献 [1] K. Sugawara, H. Hashizume, S. Kitajima,Development of NDT method using electromagnetic waves, 2001, JSAEM Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, vol. 10, pp. 313316. [2] H. Hashizume, S. Kitajima, T. Shibata, Y. Uchigaki,Uchigaki,-140K. Ogura, 2003, Fundamental study on NDT method based on electromagnetic waves, eNDE2003, Studies in Applied Electromagneticsand Mechanics, 24,2004, pp.263-270.. [3] T. Shibata, H. Hashizume, S. Kitajima, K. Ogura,2003, Experimental study on NDT method using electromagnetic waves, Journal of Materials Processing Technology, JAPMED03, Athens“ “電磁波を用いた配管内部欠陥探傷技術の開発 “ “橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,結城 和久,Kazuhisa YUKI,柴田 拓也,Takuya SHIBATA“ “電磁波を用いた配管内部欠陥探傷技術の開発 “ “橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,結城 和久,Kazuhisa YUKI,柴田 拓也,Takuya SHIBATA
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