BWR 環境下での渦電流モニタリングによる In-situ き裂進展評価の検討
公開日:
カテゴリ: 第1回
1.緒言
評価を行うことで、保全の合理化が促進されると期待されている。 原子力プラントが日本で初めて運転を開始 ・ 一方、渦電流探傷試験法(Eddy Current して 30 年が経過した今、プラントの保全をめTesting,以下 ECT)は現在、加圧水型原子炉の ぐる動きは大きく変化しようとしている。それ 蒸気発生器伝熱管等の薄肉部材における欠陥 は原子力が発電コスト競争に打ち勝たなけれに対して、高精度なサイジング能力を有すこと ばならない状況になっており、電源確保と財産が確認されている[2-4]。そこで近年、数値解 保護の観点及び経済性の観点から設備の点検、析に基づいたプローブ設計を行うことで、その 保守、補修、改良、更新をプラントライフサイ 適用分野の拡大が技術的観点から検討されて クルを通して最適化することが求められてい いる [5-7]。 るからである。ECT プローブを用いたモニタリング試験 現在、日本機械学会の規格である発電用原子 (Eddy Current Monitoring,以下 ECM) は現在、 力設備規格維持規格 JSME S NA1-2002 において 疲労損傷の発生時期の同定を目的とした研究 は、供用期間中検査によって発見された欠陥にが幾つかなされている [8,9]。しかし、検査に 対して欠陥評価(き裂進展評価、構造強度評価 おいて検出されたき裂の進展の監視を、原子炉 等)を行うことにより、安全が確保される範囲 等の高温環境下において ECT プローブを用いて 内において欠陥の存在を許容するという考え 試みた例はない。 方が導入されている[1]。そのため、欠陥に対 - 以上を背景に、本研究では沸騰水型原子炉 して高い検出能力と高精度なサイジング能力 (Boiling Water Reactor,以下 BWR) 環境にお を有す検査手法が求められるようになったといて ECM 試験を行い、き裂進展検知能力を議論 同時に、発見されたき裂に対して定量的な進展することによって、その定量的評価手法として
の可能性を検討する。具体的には、BWR 模擬環 境において検出されたモニタリング信号と、渦 電流数値解析により求めたき裂進展による過 電流信号変移を比較することにより、ECM シス テムによるき裂進展の定量的評価を行う。2. 渦電流モニタリング試験2.1 実験概要今回、東北大学大学院工学研究科附属エネル ギー安全科学国際研究センター内のシステム 安全裕度テストベンチ装置[10]を用いて、BWR 環境下における ECM 試験を実施した。Fig.1 に ECM システムの概略図を示す。用いた試験片は SUS316L 、SUS304L、STS410 からなる管を Alloy182 を用いて溶接した構造をしている。管 の大きさは長さ 1160mm、内径 50mm、外径 58mm であり、内部を温度 288°C、圧力 9MPa の水化学 的に制御された模擬冷却水が流れている。初期 き裂として、最大深さ 2mm、幅 0.23mm の周方向 半楕円形き裂を各溶接線及び各熱影響部(Heat Affected Zone,以下 HAZ)に放電加工によって 管の内側から導入した。また、Fig.2 に今回用いたプローブの概観図 を示す。各プローブは2つのセンサを有してお り、各センサには2個の励磁コイルとその間に 1 組の差動検出コイルが配置されている。励磁 コイルには内径 2mm、外径 12mm、高さ 6mm、巻 き数 430turn のコイルを用い、また検出コイル には内径 2mm、外径 8mm、高さ 6mm、巻き数 258turn のコイルを用いた。各センサ内の2個 の励磁コイルを互いに逆回りに電流が流れる 構造をしており、この構造は厚肉部材裏面のき 裂に対して高い検出能力を持つことが確認さ れている [5]。今回は高温環境下で用いること を考慮して、コイルの治具、ボビン及び銅線の 被覆にはテフロンを使用した。各プローブは溶 接線上及び HAZ 部上に、周方向の内面き裂に対 して管の外側から測定するように 3 個設置し、 またリファレンス用として SUS304L の母材に1 個設置した。SUS304L の HAZ 部に設置されたプ ローブ内のセンサ A、B は、それぞれ Fig.1 に 示される位置に配置され、き裂の進展をモニタ リングしている。センサの励磁周波数は 5kHz,-14220kHz, 50kHz, 100kHz とした。また、各センサ のキャリブレーションは、各プローブを試験片 上に設置し、冷却水を昇温した後に行った。今回、試験片の上部と下部から引張り負荷を 加えることによりき裂の進展を促進した。 Fig.3 に負荷サイクルを示す。初期段階として、 試験片に予き裂を導入するため応力比 R = 0.2 の三角波形の負荷(864cycle) (図中1)を与 えた。その後、応力腐食割れを促進するために 台形波形の負荷(図中2)を約 85 日間与え、 最後の約 11 日間はき裂の進展を加速するため に R = 0.1 の三角波形の負荷(約 7000cycle) (図中3)を与えた。ECT instrument ECT probe(Reference sensor)Sensor AExciting coil Pick-up coilSensor B0ECT probe (Sensor A,B)/arenagoelPCFig. 1 A schematic drawing of ECM system.Fig.2 ECT probe used for ECM experiment.121osakychi 0Laxed In10yenAku bay About Scany TimeFig.3 Loading cycle applied to pipe specimen.2.2 き裂進展結果- Fig.3 に示される負荷を課した結果、試験開 始から約 97 日後に SUS316L の HAZ 部において リークが確認された。Fig.4 は試験終了後の SUS304L の HAZ部における切断面である。図よ り、き裂の進展が確認できる。破面解析の結果、 今回のき裂進展モードは腐食疲労割れである ことが判明した。 Fig.3 の負荷サイクルと合わ せて考えると、き裂は負荷を三角波形にした最 後の約 11 日間(図中3)で進展したと判断さ れる。2.3 渦電流モニタリング信号負荷を三角波形にした後から試験片にリー クが確認されるまでに、SUS304L の HAZ 部に配 置されたプローブ(センサ A、センサ B (Fig.1)) 及び SUS304L の母材に配置されたリファレンス 用センサにおいて検出された渦電流信号(絶対 値)の時間ごとの変化を Fig.5 に示す。センサ A、B は Fig. 4 に示されるき裂進展をモニタリン グしている。このときの励磁周波数は 20kHz で ある。リファレンス用センサにおける信号変移 と比較して、最後の約 40 時間においてセンサB の信号は大きく変化しているのに対し、センサ A においては信号に変化が見られなかったこと がわかる。3.渦電流信号の数値解析を用いた考察3.1 数値解析手法とモデル- 前節で得られた信号変移とき裂進展との関 係を考察するため、変形磁気ベクトルポテンシ ・ャル法による渦電流信号の数値解析を行った [11]。Fig.6 に解析に用いた試験片及びセンサ のモデルを示す。各モデルの寸法、形状、材質 は前節の試験環境に基づいている。また、Fig.7 は解析において仮定したき裂先端の進展の様 子を示す。き裂が対称的に進展したと仮定して、 Fig. 4 の初期き裂及び試験終了時の破面形状よ り、進展途中のき裂形状を設定した。つまり、 Fig.7における crack-1 及び crack-2 の先端は、 き裂進展部分を3等分するラインを描いている。-143Propagated crackInitial slitFig. 4 Cross section at the HAZ of 304L.0.0250.020.015Amplitude [11]Sensor BSensor A Reference sensor0.010.0050168210252126 Time [hour]Fig.5 Time evolution of sensor voltage.Sensor ASensor BExciting coilB.A.いPick-up coilい.....。Fig.6 Numerical model of the specimen and ECT sensors.Tip of propagated crack, Tip of crack-2Tip of crack-1weventettere!Tip of initial slitFig. 7 Model of crack propagation.-2.66-020.013Sensor ASensor BVy (V)-2.65-02-0.0E0 -1.3E-021000010.0032.66-02About 5000cycle-1.32-027・・・・・About 6000cycle0 .aleadi....... About 7000cycle-2-68-02Vx[V(a) Experimental eddy current signals.3.6E-400.00018Sensor ASensor BVy[V]> -3.63-04-0.0E+00 -1.8E-04100000.000183.62-04Crack-1-0.00018だい............... Crack-2herec... Propagated crack3.60-04vx [V](b) Numerical eddy current signals.Fig.8 Experimental and numerical eddy current signals observed by sensors A and B at the test frequency of 20kHz.VyM3.2 き裂進展の定量的評価Fig.8 に実測と数値解析によって得られた渦 電流信号の変移を示す。Fig.8(a)は Fig.5 に示 した ECM 信号を複素平面上にプロットしたもの であり、各 Vx、Vy はそれぞれセンサ電圧の X 成分、Y 成分に対応している。各センサのキャ リブレーションは冷却水を昇温した後に行わ れているため、複素平面の原点が初期き裂に対 する渦電流信号に相当する。図より、最後の約 10 時間において、センサB の渦電流信号が複素 平面の原点から大きく外れていることがわか-144る。またセンサBに関しては、渦電流信号に加 え、各時点に対応する荷重サイクル数(三角波 形、Fig.3 の図中3)を合わせて示している。 ・ 一方、Fig.8(b)は数値解析によるセンサ A、B の渦電流信号の変移である。き裂が Fig.7 に示 されるように偏りを生じずに進展したと仮定 して、初期き裂、crack-1、crack-2、試験終了 時のき裂に対する渦電流信号を計算した。図よ り、センサBにおいては大きな変移が確認でき るが、センサ A ではほとんど信号が変化してい ないことがわかる。Fig. 4 の切断面より、き裂 が中心付近で大きく進展し、端の部分ではほと んど進展しなかったためであると考えられる。 これは Fig.8(a) の実験結果と同様の傾向であ り、これよりセンサ B で検出された信号変移は き裂の進展に起因していることが確認された。 またセンサ B に関して、Fig.8(a) と比較するこ とにより crack-1 及び crack-2 の時点に対応し ている荷重サイクル数はそれぞれ約 5000cycle、 5000cycle であると推測される。4.結言本研究では、BWR 環境下における ECM システ ムのき裂進展検知能力を議論し、その定量的評 価手法としての可能性を検討した。まず、BWR 模擬環境下の溶接管に対して、ECM システムを 用いたき裂進展のモニタリング試験を行った。 試験終了後の破面解析結果より、き裂モードは 腐食疲労割れであることを確認し、センサBに よってき裂進展に対応していると推測される 渦電流信号変移を検出した。次に、試験環境を 莫擬したモデルを用いた渦電流信号の数値解 新を行い、き裂が ECM 試験と同様の進展をした 場合に検出される渦電流信号変移を計算した。 計算された信号変移と ECM 試験結果を比較する ことにより、センサ B で検出された信号変移は き裂の進展に起因していることが裏付けられ たと同時に、各進展き裂に対する荷重サイクル 数を推測することができた。以上より、BWR 環境下において ECM システム を用いたき裂進展の定量的評価が可能である ことが確認された。本研究は文部科学省科学研究費「中核的拠点 形成プログラム」(COE) (11CE2003)の成果の 一部である。東北大学流体科学研究所 佐藤武 志技官には実験装置の準備に際し度々御助 言を頂きました。ここに謝意を表します。 参考文献1] 発電用原子力設備規格維持規格 JSME S NA1 -2002,日本機械学会, 2002. 2] 高木敏行,福冨広幸, “ 電磁解析技術による渦流探傷試験”,非破壊検査, Vol.47, No.2,1998, pp.85-91. (3] T. Takagi and K. Miya, “ ECT Round-robin Testfor Steam Generator Tubes” , J. Japan Soc. Applied Electromagnetics Mech., Vol.8, No.5,2000, pp. 121-128. 4] H. Huang and T. Takagi, “ Inverse Analyses forNatural and Multi-Cracks using Signals from a Differential Transmit-Receive ECT Probe” , IEEE Trans. Magn., Vol.38, No.2, 2002,pp. 1009-1012. 5] 佐藤一彦,黄皓宇,内一哲哉,高木敏行, “ 厚肉材用渦電流探傷プローブの開発とき裂の定 量的評価”, 日本機械学会論文集 (A 編),Vol.69, 2003, pp. 455-462 6] 遠藤久,黄皓宇,内一哲哉,高木敏行,西水亮,小池正浩,松井哲也, “渦電流探傷に基づ く厚肉材における深いき裂の定量的評価““,日本非破壊検査協会秋季大会講演概要集, 2003,pp.75-77. 7] 糟谷高志,内一哲哉,高木敏行,黄皓宇,
pp. 51-56. B] V. Zilberstein, D. Schlicker, K. Walrath,V. Weiss, N. Goldfine, “ MWM Eddy Current Sensors for Monitoring of Crack Initiation and Growth during Fatigue Tests and in Service” , Int. J. Fatigue, Vol. 23,Supplement 1, 2001, pp. 477-485. 1 ] V.Zilberstein, K. Walrath, D. Grundy, D. Schlicker, N. Goldfine, E. Abramovici, T. Yentzer, “ MWM Eddy-Current Arrays for Crack Initiation and Growth Monitoring““ ,Int. J. Fatigue, Vol.25, 2003, pp. 1147-1155. 10] Y. Lu, K. Sakaguchi, Y. Tsujimoto, N. Sakurai,T. Uchimoto, M. Takahashi, T. Takagi, M. Kitamura and T. Shoji, ““ A System Safety Benchmark Facility for SCC Pipe Tests with High and Low Flow Rate Condition and Some Preliminary Test Results in BWR Environment““ , 11th Int. Conf. Environmental Degradation of Materials in Nuclear Systems-Water Reactors, ANS,Aug. 10-14, Washington, 2003, pp.805-815, 11] T. Takagi, H. Huang, H. Fukutomi and J. Tani,““ Numerical Evaluation of Correlation between Crack Size and Eddy Current TestingSignal by a Very Fast Simulator““ , IEEE Trans. - Magn., Vol.34, No.5, 1998, pp. 2581-2584.“ “BWR 環境下での渦電流モニタリングによる In-situ き裂進展評価の検討 “ “糟谷 高志,Takashi KASUYA,奥山 武志,Takeshi OKUYAMA,遠藤 久,Hisashi ENDO,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI“ “BWR 環境下での渦電流モニタリングによる In-situ き裂進展評価の検討 “ “糟谷 高志,Takashi KASUYA,奥山 武志,Takeshi OKUYAMA,遠藤 久,Hisashi ENDO,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI
評価を行うことで、保全の合理化が促進されると期待されている。 原子力プラントが日本で初めて運転を開始 ・ 一方、渦電流探傷試験法(Eddy Current して 30 年が経過した今、プラントの保全をめTesting,以下 ECT)は現在、加圧水型原子炉の ぐる動きは大きく変化しようとしている。それ 蒸気発生器伝熱管等の薄肉部材における欠陥 は原子力が発電コスト競争に打ち勝たなけれに対して、高精度なサイジング能力を有すこと ばならない状況になっており、電源確保と財産が確認されている[2-4]。そこで近年、数値解 保護の観点及び経済性の観点から設備の点検、析に基づいたプローブ設計を行うことで、その 保守、補修、改良、更新をプラントライフサイ 適用分野の拡大が技術的観点から検討されて クルを通して最適化することが求められてい いる [5-7]。 るからである。ECT プローブを用いたモニタリング試験 現在、日本機械学会の規格である発電用原子 (Eddy Current Monitoring,以下 ECM) は現在、 力設備規格維持規格 JSME S NA1-2002 において 疲労損傷の発生時期の同定を目的とした研究 は、供用期間中検査によって発見された欠陥にが幾つかなされている [8,9]。しかし、検査に 対して欠陥評価(き裂進展評価、構造強度評価 おいて検出されたき裂の進展の監視を、原子炉 等)を行うことにより、安全が確保される範囲 等の高温環境下において ECT プローブを用いて 内において欠陥の存在を許容するという考え 試みた例はない。 方が導入されている[1]。そのため、欠陥に対 - 以上を背景に、本研究では沸騰水型原子炉 して高い検出能力と高精度なサイジング能力 (Boiling Water Reactor,以下 BWR) 環境にお を有す検査手法が求められるようになったといて ECM 試験を行い、き裂進展検知能力を議論 同時に、発見されたき裂に対して定量的な進展することによって、その定量的評価手法として
の可能性を検討する。具体的には、BWR 模擬環 境において検出されたモニタリング信号と、渦 電流数値解析により求めたき裂進展による過 電流信号変移を比較することにより、ECM シス テムによるき裂進展の定量的評価を行う。2. 渦電流モニタリング試験2.1 実験概要今回、東北大学大学院工学研究科附属エネル ギー安全科学国際研究センター内のシステム 安全裕度テストベンチ装置[10]を用いて、BWR 環境下における ECM 試験を実施した。Fig.1 に ECM システムの概略図を示す。用いた試験片は SUS316L 、SUS304L、STS410 からなる管を Alloy182 を用いて溶接した構造をしている。管 の大きさは長さ 1160mm、内径 50mm、外径 58mm であり、内部を温度 288°C、圧力 9MPa の水化学 的に制御された模擬冷却水が流れている。初期 き裂として、最大深さ 2mm、幅 0.23mm の周方向 半楕円形き裂を各溶接線及び各熱影響部(Heat Affected Zone,以下 HAZ)に放電加工によって 管の内側から導入した。また、Fig.2 に今回用いたプローブの概観図 を示す。各プローブは2つのセンサを有してお り、各センサには2個の励磁コイルとその間に 1 組の差動検出コイルが配置されている。励磁 コイルには内径 2mm、外径 12mm、高さ 6mm、巻 き数 430turn のコイルを用い、また検出コイル には内径 2mm、外径 8mm、高さ 6mm、巻き数 258turn のコイルを用いた。各センサ内の2個 の励磁コイルを互いに逆回りに電流が流れる 構造をしており、この構造は厚肉部材裏面のき 裂に対して高い検出能力を持つことが確認さ れている [5]。今回は高温環境下で用いること を考慮して、コイルの治具、ボビン及び銅線の 被覆にはテフロンを使用した。各プローブは溶 接線上及び HAZ 部上に、周方向の内面き裂に対 して管の外側から測定するように 3 個設置し、 またリファレンス用として SUS304L の母材に1 個設置した。SUS304L の HAZ 部に設置されたプ ローブ内のセンサ A、B は、それぞれ Fig.1 に 示される位置に配置され、き裂の進展をモニタ リングしている。センサの励磁周波数は 5kHz,-14220kHz, 50kHz, 100kHz とした。また、各センサ のキャリブレーションは、各プローブを試験片 上に設置し、冷却水を昇温した後に行った。今回、試験片の上部と下部から引張り負荷を 加えることによりき裂の進展を促進した。 Fig.3 に負荷サイクルを示す。初期段階として、 試験片に予き裂を導入するため応力比 R = 0.2 の三角波形の負荷(864cycle) (図中1)を与 えた。その後、応力腐食割れを促進するために 台形波形の負荷(図中2)を約 85 日間与え、 最後の約 11 日間はき裂の進展を加速するため に R = 0.1 の三角波形の負荷(約 7000cycle) (図中3)を与えた。ECT instrument ECT probe(Reference sensor)Sensor AExciting coil Pick-up coilSensor B0ECT probe (Sensor A,B)/arenagoelPCFig. 1 A schematic drawing of ECM system.Fig.2 ECT probe used for ECM experiment.121osakychi 0Laxed In10yenAku bay About Scany TimeFig.3 Loading cycle applied to pipe specimen.2.2 き裂進展結果- Fig.3 に示される負荷を課した結果、試験開 始から約 97 日後に SUS316L の HAZ 部において リークが確認された。Fig.4 は試験終了後の SUS304L の HAZ部における切断面である。図よ り、き裂の進展が確認できる。破面解析の結果、 今回のき裂進展モードは腐食疲労割れである ことが判明した。 Fig.3 の負荷サイクルと合わ せて考えると、き裂は負荷を三角波形にした最 後の約 11 日間(図中3)で進展したと判断さ れる。2.3 渦電流モニタリング信号負荷を三角波形にした後から試験片にリー クが確認されるまでに、SUS304L の HAZ 部に配 置されたプローブ(センサ A、センサ B (Fig.1)) 及び SUS304L の母材に配置されたリファレンス 用センサにおいて検出された渦電流信号(絶対 値)の時間ごとの変化を Fig.5 に示す。センサ A、B は Fig. 4 に示されるき裂進展をモニタリン グしている。このときの励磁周波数は 20kHz で ある。リファレンス用センサにおける信号変移 と比較して、最後の約 40 時間においてセンサB の信号は大きく変化しているのに対し、センサ A においては信号に変化が見られなかったこと がわかる。3.渦電流信号の数値解析を用いた考察3.1 数値解析手法とモデル- 前節で得られた信号変移とき裂進展との関 係を考察するため、変形磁気ベクトルポテンシ ・ャル法による渦電流信号の数値解析を行った [11]。Fig.6 に解析に用いた試験片及びセンサ のモデルを示す。各モデルの寸法、形状、材質 は前節の試験環境に基づいている。また、Fig.7 は解析において仮定したき裂先端の進展の様 子を示す。き裂が対称的に進展したと仮定して、 Fig. 4 の初期き裂及び試験終了時の破面形状よ り、進展途中のき裂形状を設定した。つまり、 Fig.7における crack-1 及び crack-2 の先端は、 き裂進展部分を3等分するラインを描いている。-143Propagated crackInitial slitFig. 4 Cross section at the HAZ of 304L.0.0250.020.015Amplitude [11]Sensor BSensor A Reference sensor0.010.0050168210252126 Time [hour]Fig.5 Time evolution of sensor voltage.Sensor ASensor BExciting coilB.A.いPick-up coilい.....。Fig.6 Numerical model of the specimen and ECT sensors.Tip of propagated crack, Tip of crack-2Tip of crack-1weventettere!Tip of initial slitFig. 7 Model of crack propagation.-2.66-020.013Sensor ASensor BVy (V)-2.65-02-0.0E0 -1.3E-021000010.0032.66-02About 5000cycle-1.32-027・・・・・About 6000cycle0 .aleadi....... About 7000cycle-2-68-02Vx[V(a) Experimental eddy current signals.3.6E-400.00018Sensor ASensor BVy[V]> -3.63-04-0.0E+00 -1.8E-04100000.000183.62-04Crack-1-0.00018だい............... Crack-2herec... Propagated crack3.60-04vx [V](b) Numerical eddy current signals.Fig.8 Experimental and numerical eddy current signals observed by sensors A and B at the test frequency of 20kHz.VyM3.2 き裂進展の定量的評価Fig.8 に実測と数値解析によって得られた渦 電流信号の変移を示す。Fig.8(a)は Fig.5 に示 した ECM 信号を複素平面上にプロットしたもの であり、各 Vx、Vy はそれぞれセンサ電圧の X 成分、Y 成分に対応している。各センサのキャ リブレーションは冷却水を昇温した後に行わ れているため、複素平面の原点が初期き裂に対 する渦電流信号に相当する。図より、最後の約 10 時間において、センサB の渦電流信号が複素 平面の原点から大きく外れていることがわか-144る。またセンサBに関しては、渦電流信号に加 え、各時点に対応する荷重サイクル数(三角波 形、Fig.3 の図中3)を合わせて示している。 ・ 一方、Fig.8(b)は数値解析によるセンサ A、B の渦電流信号の変移である。き裂が Fig.7 に示 されるように偏りを生じずに進展したと仮定 して、初期き裂、crack-1、crack-2、試験終了 時のき裂に対する渦電流信号を計算した。図よ り、センサBにおいては大きな変移が確認でき るが、センサ A ではほとんど信号が変化してい ないことがわかる。Fig. 4 の切断面より、き裂 が中心付近で大きく進展し、端の部分ではほと んど進展しなかったためであると考えられる。 これは Fig.8(a) の実験結果と同様の傾向であ り、これよりセンサ B で検出された信号変移は き裂の進展に起因していることが確認された。 またセンサ B に関して、Fig.8(a) と比較するこ とにより crack-1 及び crack-2 の時点に対応し ている荷重サイクル数はそれぞれ約 5000cycle、 5000cycle であると推測される。4.結言本研究では、BWR 環境下における ECM システ ムのき裂進展検知能力を議論し、その定量的評 価手法としての可能性を検討した。まず、BWR 模擬環境下の溶接管に対して、ECM システムを 用いたき裂進展のモニタリング試験を行った。 試験終了後の破面解析結果より、き裂モードは 腐食疲労割れであることを確認し、センサBに よってき裂進展に対応していると推測される 渦電流信号変移を検出した。次に、試験環境を 莫擬したモデルを用いた渦電流信号の数値解 新を行い、き裂が ECM 試験と同様の進展をした 場合に検出される渦電流信号変移を計算した。 計算された信号変移と ECM 試験結果を比較する ことにより、センサ B で検出された信号変移は き裂の進展に起因していることが裏付けられ たと同時に、各進展き裂に対する荷重サイクル 数を推測することができた。以上より、BWR 環境下において ECM システム を用いたき裂進展の定量的評価が可能である ことが確認された。本研究は文部科学省科学研究費「中核的拠点 形成プログラム」(COE) (11CE2003)の成果の 一部である。東北大学流体科学研究所 佐藤武 志技官には実験装置の準備に際し度々御助 言を頂きました。ここに謝意を表します。 参考文献1] 発電用原子力設備規格維持規格 JSME S NA1 -2002,日本機械学会, 2002. 2] 高木敏行,福冨広幸, “ 電磁解析技術による渦流探傷試験”,非破壊検査, Vol.47, No.2,1998, pp.85-91. (3] T. Takagi and K. Miya, “ ECT Round-robin Testfor Steam Generator Tubes” , J. Japan Soc. Applied Electromagnetics Mech., Vol.8, No.5,2000, pp. 121-128. 4] H. Huang and T. Takagi, “ Inverse Analyses forNatural and Multi-Cracks using Signals from a Differential Transmit-Receive ECT Probe” , IEEE Trans. Magn., Vol.38, No.2, 2002,pp. 1009-1012. 5] 佐藤一彦,黄皓宇,内一哲哉,高木敏行, “ 厚肉材用渦電流探傷プローブの開発とき裂の定 量的評価”, 日本機械学会論文集 (A 編),Vol.69, 2003, pp. 455-462 6] 遠藤久,黄皓宇,内一哲哉,高木敏行,西水亮,小池正浩,松井哲也, “渦電流探傷に基づ く厚肉材における深いき裂の定量的評価““,日本非破壊検査協会秋季大会講演概要集, 2003,pp.75-77. 7] 糟谷高志,内一哲哉,高木敏行,黄皓宇,
pp. 51-56. B] V. Zilberstein, D. Schlicker, K. Walrath,V. Weiss, N. Goldfine, “ MWM Eddy Current Sensors for Monitoring of Crack Initiation and Growth during Fatigue Tests and in Service” , Int. J. Fatigue, Vol. 23,Supplement 1, 2001, pp. 477-485. 1 ] V.Zilberstein, K. Walrath, D. Grundy, D. Schlicker, N. Goldfine, E. Abramovici, T. Yentzer, “ MWM Eddy-Current Arrays for Crack Initiation and Growth Monitoring““ ,Int. J. Fatigue, Vol.25, 2003, pp. 1147-1155. 10] Y. Lu, K. Sakaguchi, Y. Tsujimoto, N. Sakurai,T. Uchimoto, M. Takahashi, T. Takagi, M. Kitamura and T. Shoji, ““ A System Safety Benchmark Facility for SCC Pipe Tests with High and Low Flow Rate Condition and Some Preliminary Test Results in BWR Environment““ , 11th Int. Conf. Environmental Degradation of Materials in Nuclear Systems-Water Reactors, ANS,Aug. 10-14, Washington, 2003, pp.805-815, 11] T. Takagi, H. Huang, H. Fukutomi and J. Tani,““ Numerical Evaluation of Correlation between Crack Size and Eddy Current TestingSignal by a Very Fast Simulator““ , IEEE Trans. - Magn., Vol.34, No.5, 1998, pp. 2581-2584.“ “BWR 環境下での渦電流モニタリングによる In-situ き裂進展評価の検討 “ “糟谷 高志,Takashi KASUYA,奥山 武志,Takeshi OKUYAMA,遠藤 久,Hisashi ENDO,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI“ “BWR 環境下での渦電流モニタリングによる In-situ き裂進展評価の検討 “ “糟谷 高志,Takashi KASUYA,奥山 武志,Takeshi OKUYAMA,遠藤 久,Hisashi ENDO,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI