大規模人工システムの保全におけるオンラインメンテナンスの有効性の定量的評価手法

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カテゴリ: 第1回
1.背景と目的
- 原子力発電所の保全は従来、安全性を重視し すぎ過度な点検・取り替えが行われてきた。し かし、現在は高い安全性だけでなく、経済性を も追求することが求められている。このため、 従来の時間基準保全だけでなく、事後保全や状 態基準保全といった様々な保全方式を取る必 要が議論されている。本研究ではその議論からさらに一歩進んで、 保全作業を運転中に行うオンラインメンテナ ンス(OLM)適用の有効性を、頂上事象発生確 率・経済性の点から検討した。OLM 適用の可否 性を判断する方法を提案し、その判断基準に従 い OLM を適用することの有効性を示した。機器3.2 2.解析の手順 . 本研究では原子力発電所のある制御系につ いて解析を行った。故障率は経年劣化を考慮し仮定 てワイブル分布に従うものと仮定した。機器数 は 52 であり、解析対象 Fault Tree(FT)のミニ マルカットセット数を評価したところ 176 であPO った。OLM は並列した複数機器を有する4箇所象発 に適用するものとし、システム運用期間を 30 す。 年として、運用期間全体の総コストを目的関数 とするシミュレーションにより、以下の解析を 行った。
(1) OLM を適用しない状態での保全政策策定 (2) OLM を適用した状態での保全政策策定 (3) 本研究で提案したOLM 適用箇所の判断基準に従った、OLM 適用の妥当性の評価 (4) 有効な箇所すべてに OLM を組み込んだ場合の、保全効果の向上性評価3.解析手法 3.1 保全政策保全政策として、事後保全(BDM)、時間基準 保全(TBM)、状態基準保全(CBM)、点検(CHECK) の4つを用いた。OLM の適用により、本来シス テム停止を伴う保全政策である TBM と CHECK で は、保全費用から停止コスト分が削減される。3.2 リスク増加価値 ・リスク増加価値(RAW)とは式(1)で表される 機器の重要度のことであり、該当危機の故障を 仮定した時の頂上事象発生確率上昇率を表す。RAW = P(topli = 1)/P(top)(1) P(topsi=1)は機器 i が故障状態の時の頂上事 象発生確率を、P(top)は頂上事象発生確率を表す。中間事象の重要度重要度はこれまで FT の基本事象である機器 に対して用いられてきた。本研究では、これを 頂上事象と基本事象の間の中間事象に用いる ことで、単一の機器ではなくまとまった機器集 団についての評価が必要であるオンラインメ ンテナンス適用の可否判断を可能とした。4.結果と考察4.1 OLM を適用しない状態の保全政策最適化 - シミュレーションの結果、様々な保全方式を 用いることで、時間基準に拠った従来の保全方 式と比べ、安全性を維持したまま大幅にコスト を削減することができた。ここで求まった結果 と、周期 1 年の TBM のみ、BDM のみの場合の P(top)、コストの比較を Fig.1 に示した。尚、 この時の P(top)は 0.089、コストは 68900 と求 められた。 1本研究ではこの結果にさらにオンラインメ ンテナンスを適用することでよりよい保全政 策を模索した。コスト比 + 頂上事象発生確率0.120.1コスト比頂上事象発生確率0.040.020,000OLMなしTBMBDMFig. 1 Without OLM, only TBM and only BDMFig. 14.2 OLM の適用とその評価次に、OLM を適用してコスト最適化シミュレ ーションを行った。OLM 適用箇所である中間事 象の名称とその中間事象の RAW、その中間事象 以下の機器数とその保全政策を Table 1に記す。 但し、保全政策は 4.1 からの変化を矢印で示し た。また、保全政策の括弧の中の数字は保全周 期を表し、単位は年である。Table 1 The middle events and changes ofmaintenance methods 中間事名RAW 機器数:保全政策の変化 10抽出オリフィス系故障 | 1001.00 6 :CHECK(5)→TBM(4)12 :CHECK(5)→CHECK(4) のほう酸ポンプ2台故障 1.232 :TBM4) →TBM4)2 :TBM(2) →TBM2) 充てんポンプ系故障 1.02 |12 :BDM→BDM2 :CBM→CBM 充てんライン最終段故障 3.584 :TBM(4) →TBM(4)(1) OLM 適用の判断基準1: OLM 中の頂上事象発生確率上昇度 OLM 実施時はシステムから機器を切り離して いるので頂上事象発生確率は上昇する。この頂 上事象発生確率の上昇度は式(2)で表される。上昇度 = P(top)×(RAW -1)-2== P(top)×(RAW-1)-2但し、ここでの P(top)は OLM 適用前の頂上事象 発生確率のことである。RAW が該当事象の故障 を仮定した場合の P(top)の変化率を表すため に上昇度は式(2)のように表される。この上昇 度が大きいと OLM 適用のリスクは大きい。 1. 本研究の解析対象では、Table 2 に示すように、RAW の大きいのは、上昇度も 0.25 と大きな 値を示し、OLM 適用は適当ではないと言える。Table 2RAW and the degree of riseRAW11.231.02183.58-200.020.0010.23simulation | 0.000 | 0.019 | 0.001 | 0.251(2) OLM 適用の判断基準2: 経済性の向上 OLM 適用によりシステムを停止することなく 保全を行うことが可能となり、システム停止に 伴う利益損失を主とした停止コストがかから なくなる。OLM 適用によるコスト削減幅は以下 の式で表される。コスト削減幅=停止コスト×減少した保全回数+保全政策の変換に伴うコスト変化 (3)-184但し、減少した保全回数とは、OLM 適用前後で 減少した、全期間を通してのシステム停止を必 要とする保全の回数のことである。減少した保 全回数は保全周期と負の相関関係があり、一般 的に該当機器の保全周期が短いとコスト削減 幅は大きくなる。また、減少した保全回数は稼 働率の向上を計るのにも有効である。式(3)の コスト削減幅が大きい程 OLM の有効性は大きい。 1. 本研究における、OLM を適用した中間事象番 号、保全政策とその周期、減少した保全回数、 コスト削減幅、OLM 適用のシミュレーションで 削減されたコストの例を Table 3に示す。他の 値に比べ3が大きな値を示した。これは3につ ながる機器の保全周期が2年と、他の中間事象 につながる機器の保全周期に比べて短いから である。Table 3 The number of decreased maintenanceand the change of cost 保全政策・保全) コスト ミシミュレー| (周期)削減幅:ション結果 121 TBM(2) 45 4500 3 4580 10 TBM(4) 28 2800 1634.4.3 OLM 適用箇所の選定とその有効性 - 以上で示した判断基準により OLM 適用箇所を 選定すると、123は適用が妥当である。しか し、4は、OLM 中の頂上事象発生確率の上昇度 が高く経済性・稼働率の向上もそれ程望めない ことから、OLM 適用は妥当でない。023の箇所に同時にOLM を適用してシミュ レーションを行った結果、全体の平均頂上事象 発生確率とコストは Fig.2 のようになった。OLM 適用前後で、頂上事象発生確率は 1%しか上昇し ていないにも関わらず、コストは 13%と大幅に 削減されている。このため、本研究で提案した OLM 適用箇所選定方法は有効であり、それに基 づいた OLM の適用は効果的であると言える。DOLM適用前 DOLM適用後11.001.01OLM適用前の値を1とした比0.90.87コスト頂上事象発生確率 The change of cost and probability by OLMFig.2Fig.25.結論1. 本研究では、安全性を維持したまま経済性の 向上を目指した保全政策の改善において、経済 性・稼働率の点で有効であるオンラインメンテ ナンス(OLM)に着目した。そして、従来は機器 にしか用いなかったリスク増加価値(RAW)を中 間事象に用い、OLM 適用の可否を頂上事象発生 確率・経済性の点で評価する判断基準を提案し た。この基準に基づいて OLM 適用箇所を決め保 全を行うことで、安全性を損なわずに大きな経 済効果・稼働率の向上を望める。 1. 本稿では既存の冗長システムに OLM を適用す ることを試みたが、今後は OLM の有効性を追求 した新規システムの構築といった設計や、付加 的冗長システムを導入しOLM を適用することで 既存システムの拡張・改善を行う投資などを見 据え、幅広い視野での応用が求められる。参考文献[1] 日本機械学会編,RC158 軽水炉型原子力発電所保全研究分科会研究報告書”, 2000. [2] 日本機械学会編, “RC177 軽水炉型原子力発電所保全研究分科会研究報告書”, 2003. [3] 三根久・河合一 著,“信頼性・保全性の基礎数理”,日科技連, 1984.-185“ “大規模人工システムの保全におけるオンラインメンテナンスの有効性の定量的評価手法“ “望月 雅文,Masafumi MOCHIDUKI,関村 直人,Naoto SEKIMURA,古田 一雄,Kazuo FURUTA“ “大規模人工システムの保全におけるオンラインメンテナンスの有効性の定量的評価手法“ “望月 雅文,Masafumi MOCHIDUKI,関村 直人,Naoto SEKIMURA,古田 一雄,Kazuo FURUTA
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