モバイルエージェント技術の原子カプラント保全支援への適用
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カテゴリ: 第1回
1. 緒言
原子力プラントにおける保全活動の効率化には、 情報化技術の広範囲な適用が不可欠である。コンピ ュータやネットワーク技術は近年急速に発達してい るが、その性能的向上に見合うように現場での適用 が進んでいるわけではない。更に、原子力における 時間計画保全から状態監視保全へという保全方策の 動向を考えた場合、処理する必要のある情報の量は ますます増大することが予想されている[1]。 保全活 動における情報処理の効率化、信頼性の向上という 観点からも、情報化技術の積極的導入を行う必要が ある。また、原子力プラントの保全活動は人間中心 の活動であるという点を見逃すことはできず、ヒュ ーマンファクターに関する視点を重視する必要があ る[2]。情報化技術の導入に当たっては、利用する側 の人間(保修員)にとってメリットがありかつ使い やすいシステムでなければならない。本稿では、携帯端末とモバイルエージェントによ る保守支援システムに関する研究結果について述べ る。この研究プロジェクトにおいては、最終的にオ フサイト運転保守センターの実現を目指した研究を 多面的に行ってきたが[2]、本研究はそのための要素 技術の開発と位置づけられ、日常点検を対象にして 現時点で利用可能な情報処理技術の適用を試み、そ の有効性について検討を行ったものである。現場作業員へのヒアリングの結果では、トラブル の発生時に現場において独自に状況把握とトラブル 対処が行えるような支援環境の重要性が示唆されて いる。ここでのポイントは、通常は事務・管理棟ま で戻らないと確認できないような詳細な保守関係の 情報(過去のパラメータの履歴、過去のトラブル事2.1. モバイルエージェント技術モバイルエージェントは、自身のコード・内部変数 等を保持したまま、ネットワークを介して接続された 各種のマシン上へと転送・移動し、移動先の計算機資 源を利用して実行可能なアプリケーションであり、そ れぞれが相互に協調し、目的とするタスクを実行する。モバイルエージェントは従来の RPC(Remote Procedure Calling)に比較して、ネットワーク負荷低 減が可能である点、複数エージェントおよび複数 PC を用いた負荷分散による処理の高速化が可能である点 また、必要な機能をエージェントとしてあとから送り 込むことができるのでシステム更新が容易である点と いったメリットがある。Fig.1 にモバイルエージェン トと従来のRPCによる処理プロセスの比較図を示す。
1. Remote Procedure Calling Based ApproachApplicationServiceに、エージェン いて述べる。ApplicationServiceHost BHost A 2.Mobile Agent Based Approach通常の点検・ 回して行い、そ ング時間等に応 とする。定常状 に応じてその監 度異常)をエー 収集頻度を変更異常の認識 トより人間の方ApplicationAgentServiceFig. 1 Comparison of RPC and Mobile Agent 2. Mobile Agent Based ApproachApplication 4AgentService本研究ではモバイルエージェントの特性を積極的 に利用したシステム構築を行った。エージェントのミ ドルウェアとしては、JAVA[4]をベースとしたモバイ ルエージェント環境のフレームワークである Aglets Framework SDK Version2.0.2[5]を用いた。 2.2. システム概要Fig.2 に本研究で提唱する次世代型大規模プラント 保守・診断支援システム(MASSIA, MAintenance Support System using Intelligent Agents) の概要を 示す。本システムは複数のプラントがネットワークを 介して互いに接続され、分散データベースによって情 報が分散して蓄積されている状況を想定し、それらの 情報をモバイルエージェントによって伝達、処理する」 ことによって日常点検および保守作業時における保守 作業員の情報獲得活動および情報認識を支援するシス テムである。Plant BPlant AIn-company NetworkMoin 03 ServerMain Control RoomIn-house Networkmi84は、2015-11:1は64だんらはいはいはいはいはいはいはいはいBURTLEComponent to be MonitoredLocal DBMaintenance PersonelUCD Mobile AgentWIDYWearable Information Device)Fig. 2 Overview of MASSIA 2.3. 支援の枠組み * 本システムでは、保守作業員による日常監視と、モ バイルエージェントが行う日常監視とのシームレスな 統合を目指している。通常時には主要機器に接続され たUCD を用いてモバイルエージェントが自律的にデ ータの取得を行い、収集されたデータはネットワーク ットワークS-188を介して現場単位のLDB(Local DB)に保存する。以下 に、エージェントの動作、および作業員との連携につ いて述べる。通常の点検・監視業務はエージェントが定期的に巡 回して行い、その巡回周期は機器の重要性、サンプリ ング時間等に応じて柔軟に変更することができるもの とする。定常状態からの逸脱が発生した場合は、状況 に応じてその監視体制のレベル(正常・軽微異常・重 度異常)をエージェントが自律的に変更し、データの 収集頻度を変更する動作を行う。異常の認識能力や判断能力においてはエージェン トより人間の方が優れている。従ってエージェントが あるレベル以上の異常を認識した場合には、人間の作 業員が現場に赴き、判断することを要請する。その際 作業員に対し、エージェントが異常と判断した信号の 発生源および根拠となる情報を提示する。その情報を もとに作業員は現場において判断に必要となる追加情 報を、WID 上のインタフェースから解析・検索を通じ て獲得する。 3. プロトタイプシステムと模擬プラントにおける 3. プロトタイプシステムと模擬プラントにおける評価 3.1. プロトタイプシステムプロトタイプシステムは大きく二つのブロックか ら成る。一つは作業現場となる監視対象機器を含む監 視区画、そしてもう一つはその区画から隔離された管 理区画である。実際とのプラントとの対応としては、 監視区画は実際の監視対象機器が存在する現場、管理 区画は事務・管理棟などに対応する。 * 監視対象機器としては、材料試験用の安全裕度テス トベンチ(以後 SSBF; System Safety Benchmark Facility と呼ぶ)を用いた。SSBFは高負荷環境下にお けるプラント構造材の劣化および破壊挙動について評 価を行うための大型の実験施設である[6]。 このSSBF においては、計測パラメータは 29ch に及ぶ。プラン トにおける一つのサブコンポーネントとして捉えた場 合、本対象システムはパラメータ数、計測対象の複雑 さ、パラメータの多様性等の面で、十分な現実性を有 していると考える。このSSBF を対象として、パラメータの確認、解析 や検索といった機能の実証を行うため、実験施設(監 視区画)に隣接して LDB、UCD、および CEX (Computation Executer)といったデバイスを設置し、 距離的に離れた別研究棟内(管理区画) に MDB、 MASSIA Server、および Office PC を設置し、ネット ワークにより接続した。現状では、WID 上で Mobile Agent を動作させることが困難であるために、Fig.3 に示すように WID から直接接続により MASSIA Server に対してエージェントの構成を要求する。CommunicationGenerate, Transfer, CommunicationMobile agentWIDMASSIA ServerFig.3 Role of MASSIA Server3.2. シナリオベース評価2.3 節に述べた支援の枠組みに基づき、その一連の シナリオを達成できることを確認した結果を以下に示す。1) 監視・計測エージェント計測エージェントは、内部変数として一定個数のデ ータを保持し、監視エージェントにデータを提供する と共にデータを LDB 上に記録する役割を担う。監視 エージェントが用いる診断手法は、現状のシステムで は単純に閾値との比較を行うのみで行った。各チャネ ルの平均的な値を元に二段階の上限閾値および下限閾 値を設定し、その値との比較によりシステムの異常の 判定を行った。チャネルによってはノイズを異常と判 断したケースや、正常な変動であるにも関わらず異常と判定されるケースが生じるものの、結果として定義 一通りの閾値を超えた際には確実に異常レベルが判定され通知が行われることを確認した。2) 通知エージェント通知エージェントは、何らかの定常状態からの逸脱 が発生した場合、Office・PC 上に、ポップアップウイ ンドウを表示する。このウィンドウ上では異常発生箇 所のP&ID図上への表示、異常のレベルと発生時間、 そして異常発生時の時系列波形表示を行う。3) パラメータ確認通知エージェントから異常の報告を受けた作業員 は現場での情報収集を行うが、同時に WID を用いて プラントパラメータ履歴を参照する。MASSIA Tool (WID 用端末アプリケーション)が、エージェントと連 携しパラメータのグラフ表示が可能なことを確認した。4) 解析作業現段階では基本的な解析方法の一つである FFT に よる周波数解析を実装している。WID を通じた簡単な 操作で周波数解析が可能であることを確認した。5) 類似波形検索本システムでは、何らかの異常が発生した場合、過 去の履歴の中から類似した事例を検索する機能を実装 している。時系列波形類似度の計算を行い、高類似度-189の点を抽出する PC ベースのテストアプリケーション を用いた評価を行った。本評価では試験体の変位デー タ(400,000点、約1ヶ月に相当)を検索対象として、 1000点(約1時間半に相当)のテンプレートに対する類 似度を計算し、類似度の高い点を抽出している。この ような過去の事例と類似した事例を探すというタスク は、保全業務においては重要な位置づけにある。本シ ステムはこの解析過程を現場で現実的な時間範囲内で 行うことが出来ることを確認した。以上、シナリオベース評価を行い、想定する枠組み に対する機能がシステムとして実装され機能すること を確認した。 3.3. パフォーマンスベース評価 - システムに実装した各機能のパフォーマンスの定 量的評価を行った。評価にあたっては、以下の3台の デバイスを用いて行った。代表的なスペックは下記の 通りである。Device A: CPU : Pentium 4 2.26GHz/RAM:512MB/OS: Redhat Linux 7.3 (MDB) Device B: CPU:Pentium4 2.0 GHz/RAM:512MB/OS: Windows2000 (OfficePC) Device C: CPU : Celeron 700MHz / RAM:384MB /OS: Redhat Linux 7.3 (LDB)なお、以下のアクセス手法による実行時間の比較に は、それぞれのデバイスにおける実行速度の差によっ て生ずる影響を考慮し、Device A 及び B を用いて比 較を行っている。1) データ取得機能評価(RPC と Mobile Agent の比較) エージェントベースのデータ取得は、エージェント がデータベース上でローカルにアクセスすることに加 え、必要なデータのみ集約して戻るため、理論的には RPC ベースのアクセスより高速であることが期待さ れる。ここでは、このことを検証するため、実証実験 を行った結果を示す。この実験におけるテストプログラムの処理内容は 以下の通りである。 (1) Device BからAに対するRPC によりデータを指定個数取得し、配列に格納した後、所要実行時間を計測 (2) Device B 上にエージェントを生成し、Device A上に転送する。Device A 上で指定個数のデータを取 得し、データを WID 上のグラフ表示に必要な量に圧縮した後、データを保持したまま戻る エージェントを用いた場合は、WID の解像度が固定 であることを利用して、転送されるデータを 1.6MBから 3.84kB へとデータ量を最大でおよそ 1/416にま で削減している。RPC の場合はこのようなデータの集 約を行っていないために、ネットワーク上を流れるデ ータに関しては、厳密な比較とはなっていないが、結 果として、RPC を用いた場合と比べ140%の速度向上 が観測され、処理全体としての高速化が図られている ことが示された。この実験により速度の向上効果に加えて、更にネッ トワークに対する負荷の軽減効果が大きいことが確認 された。RPC によるアプローチでは、データの取得開 始から終了までの時間は全て接続を確立した状態であ り、17 秒にわたってネットワークに負荷を掛けること になるが、エージェントを用いた場合では、転送には 1秒足らずしか必要としないことが示された。2) 分散実行機能評価 * 本研究では、負荷の大きな計算を細分化して複数エ ージェントに計算させることにより、通常の手法と比 べて処理の高速化、即ち計算時間の短縮が出来ると考 え、その検証を行った。以下にテストプログラムの概要を述べる。 (処理内容) ・引張試験機変位データの指定個数のデータに対し、 データを1~3分割する ・それぞれのデータを Device B 上から各デバイス上 に転送した子エージェント(類似度計算エージェント) により取得し、データ点数 1000点(約1時間半のデー タ)のテンプレートに対して類似度を計算する ・結果を Device B上の親エージェントに返す ・以上の処理に要した実行時間を計測する (類似度計算には本研究グループが開発した EDS[7] を用いている.) -- 結果より、単一のエージェントを用いた場合と比べ、 3 台のデバイスを用いて並列計算した場合では、実行 速度がほぼ倍になっている。 以上の結果は全て WID にとってのリモートマシン上での処理に相当する。エ ージェントによりデータベース上の情報、計算結果は 表示に必要なデータに最適化し、転送するため、WID が行うデータ転送のコストは十分に低いレベルである ことが実証された。WID との接続は無線等の比較的帯 域の狭い接続形態である可能性が高いのでこの結果は 処理の効率化のためには重要な意味を持つ。4. 結言 1. 本研究では、時間計画保全に向けての保全作業にお ける情報処理の効率化を図るために、モバイルエージ ェントと携帯情報端末を用いた支援システムを提案し、 その有効性の検証を行った。携帯情報端末を用いて、 保全作業の現場でどれだけ効率的に情報へのアクセス が行えるかという点に重点を置きプロトタイプシステムを作成し、実験用の設備を用いてその有効性を検証 した。結果として、開発したシステムは想定されるシ ナリオに対して十分な機能を提供出来ること、エージ ェントによるデータ処理が効率の点で有効であること を確認した。現時点ではエージェントの自律性、処理のスケーラ ビリティの点で更に検討すべき課題は残っているが、 本研究において提唱した保全作業に対する情報化の方 向性は、今後のオフサイト運転保守センターの実現へ 向けて基盤となる要素技術を提供するものであると考 える。今後は、現場における付加的なセンシングによる状 況の絞り込みや[8]、運転との関連を視野に入れた診断 [9]の実現に向けて研究を続けていく予定である。辭 本研究は、(財) エネルギー総合工学研究所の革新 的実用原子力技術開発提案公募事業[3]により支援を 受け実施しました。深く感謝いたします。本システムの実験評価において利用した材料試験 テストベンチの運用に関して協力頂いた東北大学破 制御研究施設庄子研究室の皆様に感謝致します。「 HM火参考文献 [1] 北村(編), 日本原子力学会 ヒューマン・マシン・システム部会 原子力施設保守保全高度化研究調査委員会報告書, (2000). [2] 吉川榮和,大井 忠オフサイト運転保守支援センター,保全学,3(1),(2004) [3] 尾崎禎彦他: 原子力発電所運用高度化のための次世代HMS に関する技術開発,日本原子力学会2002 年春の年会要旨集, H31, p.407, (2002) [4] SunMicrosystems, Inc., “JavaTM ReferenceDocumentation““,http://java.sun.com/reference/docs/ [5] IBM 東京基礎研究所, Java(TM)による移動エージェント:Aglets, http://www.trl.ibm.com/aglets/index.htm [6] Y. Lu et. al., ““A System Safety Benchmark Facilityfor SCC Pipe Tests with High and Low Flow Rate Condition and Some Preliminary Test Results in BWR Environment““, Proc. of 11th Int Symp on environmental degradation of materials in nuclearpower system-water reactors, (2003),805-815. [7] Catur DIANTONO, 高橋信, 北村正晴:原子力プラントにおける知的情報統合のための情報検索手法”, 日本原子力学会誌 Vol.42, No.11,pp.1215~1225(2000) [8] M.Takahashi, T.Miyazaki, A. Miyamoto andM.Kitamura, Goal-Oriented Flexible Sensing for Higher Diagnostic Performance of Nuclear Power Plant Instrumentation, Progress in NuclearEnergy, Vol. 43, No.1-4,(2003),105-111. [9] 進化する診断技術 人間・機械協調型の新しいパラダイムを目指して日本原子力学会 誌,40(9)(1998),652-683.190“ “モバイルエージェント技術の原子カプラント保全支援への適用 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,佐藤 寿,Hisashi SATO,伊藤 洋,Yo ITO,北村 正晴,Masaharu KITAMURA“ “モバイルエージェント技術の原子カプラント保全支援への適用 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,佐藤 寿,Hisashi SATO,伊藤 洋,Yo ITO,北村 正晴,Masaharu KITAMURA
原子力プラントにおける保全活動の効率化には、 情報化技術の広範囲な適用が不可欠である。コンピ ュータやネットワーク技術は近年急速に発達してい るが、その性能的向上に見合うように現場での適用 が進んでいるわけではない。更に、原子力における 時間計画保全から状態監視保全へという保全方策の 動向を考えた場合、処理する必要のある情報の量は ますます増大することが予想されている[1]。 保全活 動における情報処理の効率化、信頼性の向上という 観点からも、情報化技術の積極的導入を行う必要が ある。また、原子力プラントの保全活動は人間中心 の活動であるという点を見逃すことはできず、ヒュ ーマンファクターに関する視点を重視する必要があ る[2]。情報化技術の導入に当たっては、利用する側 の人間(保修員)にとってメリットがありかつ使い やすいシステムでなければならない。本稿では、携帯端末とモバイルエージェントによ る保守支援システムに関する研究結果について述べ る。この研究プロジェクトにおいては、最終的にオ フサイト運転保守センターの実現を目指した研究を 多面的に行ってきたが[2]、本研究はそのための要素 技術の開発と位置づけられ、日常点検を対象にして 現時点で利用可能な情報処理技術の適用を試み、そ の有効性について検討を行ったものである。現場作業員へのヒアリングの結果では、トラブル の発生時に現場において独自に状況把握とトラブル 対処が行えるような支援環境の重要性が示唆されて いる。ここでのポイントは、通常は事務・管理棟ま で戻らないと確認できないような詳細な保守関係の 情報(過去のパラメータの履歴、過去のトラブル事2.1. モバイルエージェント技術モバイルエージェントは、自身のコード・内部変数 等を保持したまま、ネットワークを介して接続された 各種のマシン上へと転送・移動し、移動先の計算機資 源を利用して実行可能なアプリケーションであり、そ れぞれが相互に協調し、目的とするタスクを実行する。モバイルエージェントは従来の RPC(Remote Procedure Calling)に比較して、ネットワーク負荷低 減が可能である点、複数エージェントおよび複数 PC を用いた負荷分散による処理の高速化が可能である点 また、必要な機能をエージェントとしてあとから送り 込むことができるのでシステム更新が容易である点と いったメリットがある。Fig.1 にモバイルエージェン トと従来のRPCによる処理プロセスの比較図を示す。
1. Remote Procedure Calling Based ApproachApplicationServiceに、エージェン いて述べる。ApplicationServiceHost BHost A 2.Mobile Agent Based Approach通常の点検・ 回して行い、そ ング時間等に応 とする。定常状 に応じてその監 度異常)をエー 収集頻度を変更異常の認識 トより人間の方ApplicationAgentServiceFig. 1 Comparison of RPC and Mobile Agent 2. Mobile Agent Based ApproachApplication 4AgentService本研究ではモバイルエージェントの特性を積極的 に利用したシステム構築を行った。エージェントのミ ドルウェアとしては、JAVA[4]をベースとしたモバイ ルエージェント環境のフレームワークである Aglets Framework SDK Version2.0.2[5]を用いた。 2.2. システム概要Fig.2 に本研究で提唱する次世代型大規模プラント 保守・診断支援システム(MASSIA, MAintenance Support System using Intelligent Agents) の概要を 示す。本システムは複数のプラントがネットワークを 介して互いに接続され、分散データベースによって情 報が分散して蓄積されている状況を想定し、それらの 情報をモバイルエージェントによって伝達、処理する」 ことによって日常点検および保守作業時における保守 作業員の情報獲得活動および情報認識を支援するシス テムである。Plant BPlant AIn-company NetworkMoin 03 ServerMain Control RoomIn-house Networkmi84は、2015-11:1は64だんらはいはいはいはいはいはいはいはいBURTLEComponent to be MonitoredLocal DBMaintenance PersonelUCD Mobile AgentWIDYWearable Information Device)Fig. 2 Overview of MASSIA 2.3. 支援の枠組み * 本システムでは、保守作業員による日常監視と、モ バイルエージェントが行う日常監視とのシームレスな 統合を目指している。通常時には主要機器に接続され たUCD を用いてモバイルエージェントが自律的にデ ータの取得を行い、収集されたデータはネットワーク ットワークS-188を介して現場単位のLDB(Local DB)に保存する。以下 に、エージェントの動作、および作業員との連携につ いて述べる。通常の点検・監視業務はエージェントが定期的に巡 回して行い、その巡回周期は機器の重要性、サンプリ ング時間等に応じて柔軟に変更することができるもの とする。定常状態からの逸脱が発生した場合は、状況 に応じてその監視体制のレベル(正常・軽微異常・重 度異常)をエージェントが自律的に変更し、データの 収集頻度を変更する動作を行う。異常の認識能力や判断能力においてはエージェン トより人間の方が優れている。従ってエージェントが あるレベル以上の異常を認識した場合には、人間の作 業員が現場に赴き、判断することを要請する。その際 作業員に対し、エージェントが異常と判断した信号の 発生源および根拠となる情報を提示する。その情報を もとに作業員は現場において判断に必要となる追加情 報を、WID 上のインタフェースから解析・検索を通じ て獲得する。 3. プロトタイプシステムと模擬プラントにおける 3. プロトタイプシステムと模擬プラントにおける評価 3.1. プロトタイプシステムプロトタイプシステムは大きく二つのブロックか ら成る。一つは作業現場となる監視対象機器を含む監 視区画、そしてもう一つはその区画から隔離された管 理区画である。実際とのプラントとの対応としては、 監視区画は実際の監視対象機器が存在する現場、管理 区画は事務・管理棟などに対応する。 * 監視対象機器としては、材料試験用の安全裕度テス トベンチ(以後 SSBF; System Safety Benchmark Facility と呼ぶ)を用いた。SSBFは高負荷環境下にお けるプラント構造材の劣化および破壊挙動について評 価を行うための大型の実験施設である[6]。 このSSBF においては、計測パラメータは 29ch に及ぶ。プラン トにおける一つのサブコンポーネントとして捉えた場 合、本対象システムはパラメータ数、計測対象の複雑 さ、パラメータの多様性等の面で、十分な現実性を有 していると考える。このSSBF を対象として、パラメータの確認、解析 や検索といった機能の実証を行うため、実験施設(監 視区画)に隣接して LDB、UCD、および CEX (Computation Executer)といったデバイスを設置し、 距離的に離れた別研究棟内(管理区画) に MDB、 MASSIA Server、および Office PC を設置し、ネット ワークにより接続した。現状では、WID 上で Mobile Agent を動作させることが困難であるために、Fig.3 に示すように WID から直接接続により MASSIA Server に対してエージェントの構成を要求する。CommunicationGenerate, Transfer, CommunicationMobile agentWIDMASSIA ServerFig.3 Role of MASSIA Server3.2. シナリオベース評価2.3 節に述べた支援の枠組みに基づき、その一連の シナリオを達成できることを確認した結果を以下に示す。1) 監視・計測エージェント計測エージェントは、内部変数として一定個数のデ ータを保持し、監視エージェントにデータを提供する と共にデータを LDB 上に記録する役割を担う。監視 エージェントが用いる診断手法は、現状のシステムで は単純に閾値との比較を行うのみで行った。各チャネ ルの平均的な値を元に二段階の上限閾値および下限閾 値を設定し、その値との比較によりシステムの異常の 判定を行った。チャネルによってはノイズを異常と判 断したケースや、正常な変動であるにも関わらず異常と判定されるケースが生じるものの、結果として定義 一通りの閾値を超えた際には確実に異常レベルが判定され通知が行われることを確認した。2) 通知エージェント通知エージェントは、何らかの定常状態からの逸脱 が発生した場合、Office・PC 上に、ポップアップウイ ンドウを表示する。このウィンドウ上では異常発生箇 所のP&ID図上への表示、異常のレベルと発生時間、 そして異常発生時の時系列波形表示を行う。3) パラメータ確認通知エージェントから異常の報告を受けた作業員 は現場での情報収集を行うが、同時に WID を用いて プラントパラメータ履歴を参照する。MASSIA Tool (WID 用端末アプリケーション)が、エージェントと連 携しパラメータのグラフ表示が可能なことを確認した。4) 解析作業現段階では基本的な解析方法の一つである FFT に よる周波数解析を実装している。WID を通じた簡単な 操作で周波数解析が可能であることを確認した。5) 類似波形検索本システムでは、何らかの異常が発生した場合、過 去の履歴の中から類似した事例を検索する機能を実装 している。時系列波形類似度の計算を行い、高類似度-189の点を抽出する PC ベースのテストアプリケーション を用いた評価を行った。本評価では試験体の変位デー タ(400,000点、約1ヶ月に相当)を検索対象として、 1000点(約1時間半に相当)のテンプレートに対する類 似度を計算し、類似度の高い点を抽出している。この ような過去の事例と類似した事例を探すというタスク は、保全業務においては重要な位置づけにある。本シ ステムはこの解析過程を現場で現実的な時間範囲内で 行うことが出来ることを確認した。以上、シナリオベース評価を行い、想定する枠組み に対する機能がシステムとして実装され機能すること を確認した。 3.3. パフォーマンスベース評価 - システムに実装した各機能のパフォーマンスの定 量的評価を行った。評価にあたっては、以下の3台の デバイスを用いて行った。代表的なスペックは下記の 通りである。Device A: CPU : Pentium 4 2.26GHz/RAM:512MB/OS: Redhat Linux 7.3 (MDB) Device B: CPU:Pentium4 2.0 GHz/RAM:512MB/OS: Windows2000 (OfficePC) Device C: CPU : Celeron 700MHz / RAM:384MB /OS: Redhat Linux 7.3 (LDB)なお、以下のアクセス手法による実行時間の比較に は、それぞれのデバイスにおける実行速度の差によっ て生ずる影響を考慮し、Device A 及び B を用いて比 較を行っている。1) データ取得機能評価(RPC と Mobile Agent の比較) エージェントベースのデータ取得は、エージェント がデータベース上でローカルにアクセスすることに加 え、必要なデータのみ集約して戻るため、理論的には RPC ベースのアクセスより高速であることが期待さ れる。ここでは、このことを検証するため、実証実験 を行った結果を示す。この実験におけるテストプログラムの処理内容は 以下の通りである。 (1) Device BからAに対するRPC によりデータを指定個数取得し、配列に格納した後、所要実行時間を計測 (2) Device B 上にエージェントを生成し、Device A上に転送する。Device A 上で指定個数のデータを取 得し、データを WID 上のグラフ表示に必要な量に圧縮した後、データを保持したまま戻る エージェントを用いた場合は、WID の解像度が固定 であることを利用して、転送されるデータを 1.6MBから 3.84kB へとデータ量を最大でおよそ 1/416にま で削減している。RPC の場合はこのようなデータの集 約を行っていないために、ネットワーク上を流れるデ ータに関しては、厳密な比較とはなっていないが、結 果として、RPC を用いた場合と比べ140%の速度向上 が観測され、処理全体としての高速化が図られている ことが示された。この実験により速度の向上効果に加えて、更にネッ トワークに対する負荷の軽減効果が大きいことが確認 された。RPC によるアプローチでは、データの取得開 始から終了までの時間は全て接続を確立した状態であ り、17 秒にわたってネットワークに負荷を掛けること になるが、エージェントを用いた場合では、転送には 1秒足らずしか必要としないことが示された。2) 分散実行機能評価 * 本研究では、負荷の大きな計算を細分化して複数エ ージェントに計算させることにより、通常の手法と比 べて処理の高速化、即ち計算時間の短縮が出来ると考 え、その検証を行った。以下にテストプログラムの概要を述べる。 (処理内容) ・引張試験機変位データの指定個数のデータに対し、 データを1~3分割する ・それぞれのデータを Device B 上から各デバイス上 に転送した子エージェント(類似度計算エージェント) により取得し、データ点数 1000点(約1時間半のデー タ)のテンプレートに対して類似度を計算する ・結果を Device B上の親エージェントに返す ・以上の処理に要した実行時間を計測する (類似度計算には本研究グループが開発した EDS[7] を用いている.) -- 結果より、単一のエージェントを用いた場合と比べ、 3 台のデバイスを用いて並列計算した場合では、実行 速度がほぼ倍になっている。 以上の結果は全て WID にとってのリモートマシン上での処理に相当する。エ ージェントによりデータベース上の情報、計算結果は 表示に必要なデータに最適化し、転送するため、WID が行うデータ転送のコストは十分に低いレベルである ことが実証された。WID との接続は無線等の比較的帯 域の狭い接続形態である可能性が高いのでこの結果は 処理の効率化のためには重要な意味を持つ。4. 結言 1. 本研究では、時間計画保全に向けての保全作業にお ける情報処理の効率化を図るために、モバイルエージ ェントと携帯情報端末を用いた支援システムを提案し、 その有効性の検証を行った。携帯情報端末を用いて、 保全作業の現場でどれだけ効率的に情報へのアクセス が行えるかという点に重点を置きプロトタイプシステムを作成し、実験用の設備を用いてその有効性を検証 した。結果として、開発したシステムは想定されるシ ナリオに対して十分な機能を提供出来ること、エージ ェントによるデータ処理が効率の点で有効であること を確認した。現時点ではエージェントの自律性、処理のスケーラ ビリティの点で更に検討すべき課題は残っているが、 本研究において提唱した保全作業に対する情報化の方 向性は、今後のオフサイト運転保守センターの実現へ 向けて基盤となる要素技術を提供するものであると考 える。今後は、現場における付加的なセンシングによる状 況の絞り込みや[8]、運転との関連を視野に入れた診断 [9]の実現に向けて研究を続けていく予定である。辭 本研究は、(財) エネルギー総合工学研究所の革新 的実用原子力技術開発提案公募事業[3]により支援を 受け実施しました。深く感謝いたします。本システムの実験評価において利用した材料試験 テストベンチの運用に関して協力頂いた東北大学破 制御研究施設庄子研究室の皆様に感謝致します。「 HM火参考文献 [1] 北村(編), 日本原子力学会 ヒューマン・マシン・システム部会 原子力施設保守保全高度化研究調査委員会報告書, (2000). [2] 吉川榮和,大井 忠オフサイト運転保守支援センター,保全学,3(1),(2004) [3] 尾崎禎彦他: 原子力発電所運用高度化のための次世代HMS に関する技術開発,日本原子力学会2002 年春の年会要旨集, H31, p.407, (2002) [4] SunMicrosystems, Inc., “JavaTM ReferenceDocumentation““,http://java.sun.com/reference/docs/ [5] IBM 東京基礎研究所, Java(TM)による移動エージェント:Aglets, http://www.trl.ibm.com/aglets/index.htm [6] Y. Lu et. al., ““A System Safety Benchmark Facilityfor SCC Pipe Tests with High and Low Flow Rate Condition and Some Preliminary Test Results in BWR Environment““, Proc. of 11th Int Symp on environmental degradation of materials in nuclearpower system-water reactors, (2003),805-815. [7] Catur DIANTONO, 高橋信, 北村正晴:原子力プラントにおける知的情報統合のための情報検索手法”, 日本原子力学会誌 Vol.42, No.11,pp.1215~1225(2000) [8] M.Takahashi, T.Miyazaki, A. Miyamoto andM.Kitamura, Goal-Oriented Flexible Sensing for Higher Diagnostic Performance of Nuclear Power Plant Instrumentation, Progress in NuclearEnergy, Vol. 43, No.1-4,(2003),105-111. [9] 進化する診断技術 人間・機械協調型の新しいパラダイムを目指して日本原子力学会 誌,40(9)(1998),652-683.190“ “モバイルエージェント技術の原子カプラント保全支援への適用 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,佐藤 寿,Hisashi SATO,伊藤 洋,Yo ITO,北村 正晴,Masaharu KITAMURA“ “モバイルエージェント技術の原子カプラント保全支援への適用 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,佐藤 寿,Hisashi SATO,伊藤 洋,Yo ITO,北村 正晴,Masaharu KITAMURA