拡張現実感と RFID を用いた原子力プラントの系統隔離作業支援システム」
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カテゴリ: 第1回
1.はじめに
低減を図ろうとするものである。本論文では、 原子力発電所の定期点検はプラントの安全 このプロジェクトの一環として進めてきた、拡 性・信頼性確保のために必要不可欠であるが、 張現実感(Augmented Reality; 以下 AR)技術と それは数千人規模の作業員が必要とされる大 RFID 技術による保守作業支援のためのシステ 規模な作業であり、膨大な費用を必要とする。 ム開発に関する研究結果について述べる。 また近年の電力自由化から、作業の信頼性を確 保しつつもその経済性を向上させることが望 2.AR 技術と RFID 技術とを用いた配管系 まれている。統隔離作業支援システム これに対し、(財)エネルギー総合技術研究所近年の情報技術の発展はめざましく、その中 革新的実用原子力技術開発提案公募事業「原子でも単にコンピュータ内で情報を処理するだ 力発電所運用高度化のための次世代ヒューマけではなく、現実世界を対象とする情報技術と ンマシンシステムに関する技術開発」プロジェして AR 技術と RFID 技術が注目されている。AR クトでは、原子力立地地域で設置されているオ技術はヘッドマウントディスプレイ等を装着 フサイトセンタと関連づけた「オフサイト運転したユーザの視点位置や視線方向をトラッキ 保守支援センタ」を構想している[1]。この構ングし、使用者の視野にコンピュータで生成し 想は、原子力プラントに関連する災害の防災対た文字や映像を現実世界に合わせて重畳表示 応のために設置されたオフサイトセンタを拡することで、情報的に現実世界を拡張する技術 張してオフサイト運転保守支援センタを設置 である[2]。 RFID 技術は、物体に貼り付けた小 し、このオフサイト運転保守支援センタで複数さな RFID タグを非接触に RFID スキャナでス ユニットの運転保守機能を共有化することにキャンすることにより、RFID タグ内に記録され よりプラント運転と保守の両面で効率的に人た情報を読み書きすることができる技術であ
PS2-2 |り[3]、近年、商品管理や製造プロセス管理に 用いられ始めている[4]。 1. 本研究では、この AR 技術と RFID 技術をプラ ントの保守作業に適用し、その作業効率と信頼 性の向上を目指している。保守作業において膨 大な数の機器の中から作業対象物を特定する 際には、その位置、形状、銘板に記載された情 報などに基づいているが、RFID 技術を作業対象 物の特定に適用すると、作業対象物に貼付され た RFID タグを RFID スキャナでスキャンするこ とにより確実に効率よく作業対象物を特定す ることができる。これらの利点として、「作業 対象物を特定する際の間違いが減少すること」、 「作業効率が向上すること」等が挙げられる。 すなわち、AR 技術と RFID 技術を保守作業に適 用することにより、保守作業の信頼性向上と効 率向上に寄与できると考えている。 1. 本研究では、保守作業への AR 技術と RFID 技 術の適用例として、構成機器の保守作業の前後 に行われる配管系統隔離作業を取り上げる。配 管系統隔離作業では、保守作業センタの系統隔 離作業支援ワークステーションから出力され る作業指示書に従って、作業者がバルブの識別 ID をもとに操作対象のバルブを順に見つけ出 し操作する。しかし、原子力プラントの定期点 検時には多くの機器の点検が必要であり[5]、 それに伴って膨大な数のバルブ操作を実施す る必要がある。AR 技術と RFID 技術によりこの 作業の信頼性と効率が向上できれば、保守作業 全体の信頼性と効率向上に寄与できる。2.1 配管系統隔離作業支援の構想 - オフサイト運転保守支援センタを活用した 配管系統隔離作業支援の構想を以下に述べる。 (1) オフサイト運転保守支援センタ内の保守作業センタより、作業計画に従い情報ネット ワークを用いて現場作業者が携行する支援ンステムに配管系統隔離作業指示を出す。 (2) 現場作業者が支援システムを用いて作業対象バルブを探し出す。 (3)探し出した作業対象バルブを確認する。 (4)支援システムの作業指示に従って作業対象バルブを操作する。 (5)操作実績を支援システムに入力する。作業実績は即座に情報ネットワークを通じて保守作業センタに送られる。 (6) 一連の作業指示が終わるまで(2)~(5)を繰り返す。 上記のうち特に (2)の作業対象バルブを探し 出す作業では、現在、現場作業者が経験と勘を 頼りにバルブを探しており、非常に時間のかか る作業である。また、(3)ではバルブに付与さ れている英数字で記載された銘板だけを頼り に探し出したバルブを確認しているため、銘板 の読み間違いにより間違ったバルブを操作す る可能性もあり、慎重に確認しなければならな い。そこで、本研究では、配管系統隔離作業の うち、作業対象バルブを探し出す作業とバルブ を確認する作業に着目し、AR 技術を用いて(2) のバルブを探し出す工程を、RFID 技術を用いて (3)の探し出したバルブを確認する工程を支援 する方法を提案する。2.2 AR 技術と RFID 技術を用いた配管系統隔離 作業支援 * 上記の(2),(3)の作業を支援するためには、 (a)どのバルブが作業対象のバルブかを作業者 に直観的にわかりやすく提示する機能、および (b)探し出したバルブを確実に効率よく確認す る機能、が必要である。本研究では、上記(a) の機能を AR 技術で、(b)の機能を RFID 技術で 実現する方法を提案する。 指示情報CCDカメラHMD~バルブ銘板Fig.1 Indication of target valve by AR.具体的には Fig.1 に示すように、HMD を装着 した作業員に対して、AR 技術により作業対象バ ルブに指示情報を提示することで、直観的にバ ルブの探索を支援する。また、作業対象バルブ にそのバルブの識別 ID を記録した RFID タグを 貼付しておき、作業員が探し出したバルブに貼192付された RFID タグの識別 ID を RFID スキャナ で読みとることにより、探し出したバルブが正 しいかどうかを確認する。2.3 配管系統隔離作業支援システムの設計 ・- 支援システムを具体的に設計するため、上記 のような作業支援を行うシステムの機能を整 理すると以下のようになる (A)バルブ指示機能 - 作業対象バルブが作業者の視界中にある場 合、AR 技術を用いて指示情報を作業者の視界に 重畳表示することにより、作業対象バルブを指 示する。 (B)ナビゲーション機能 - 作業対象バルブが作業者の視界中にない場 合、AR 技術を用いて作業対象バルブのある方向 を指し示す情報を作業者の視界に表示する。 (C)バルブ確認機能 - 作業対象バルブにあらかじめ貼付した RFID タグの情報を読みとることにより、探し出した バルブが作業対象バルブであるかどうかを確 認する。 (D)作業進捗管理機能 * 一連のバルブ操作の順序を管理する。次に、上記の機能構成を具体的なハードウェ アとして実現するためのシステム構成を考え る。支援システムは作業員が携行して使用する ため、システムが作業の妨げにならないように 配慮する必要がある。AR 技術による情報提示と 上記の制約条件を考えた場合、システムのハー ドウェア構成としては Fig.2 に示すようなウェ アラブルな構成が適当である。バックパックビデオカメラ (ノートPC)HMD| REIDスキャナFig. 2 System structure of support system.Fig.2 System structure of support system2.4 配管系統隔離作業支援システムの試作- 前述の設計に基づき支援システムを試作し た。ここでは、その具体的なハードウェア構成 とソフトウェア構成について述べる。 * 支援システムのハードウェア構成は、Fig.3 のような構成とした。また、支援システムの情 報提示デバイスとしては三菱電機製の SCOPO を 用いた。Table 1 に SCOPO の詳細を示す。[ビデオキャプチャ] NTSC 「ビデオカメラ |ビデオケーブルNTS ET| USBケーブル_USB 」 ノートPCマウスRFIDHMDコンバータAS232C RFIDZE++*- (55) Hardware structure of support system.Fig.3Table 1 HMD used for support system 型式(メーカ)」 SCOPO(三菱電機)外觀種類解像度片目参照型23万画素 (800×238dot デルタ配列)NTSC ビデオ信号 ビデオシースルー は、実視界入力信号AR の方式 外界映像HMD には様々な種類があるが、支援システム の情報提示デバイスとして用いる場合には、 (i)作業者の移動を妨げないように外界視野が 十分確保できること、(ii)作業中に HMD がずれ た場合でも正確に指示情報を重畳表示できる こと、(iii)作業の負荷にならないように小型 軽量であること、の点を考慮して、SCOPO を採 用した。SCOPO は、片目の下隅に映像を提示す るものであり、ユーザは外界環境を直接見るこ とができるとともに、ビデオカメラで撮影した 外界映像に仮想情報を電子的に重畳させた映 像を見ることができる。一方、ソフトウェアは Microsoft Windows 2000 をオペレーティングシステムとし、 Microsoft Visual C++ 6.0 で作成した。また、 本システムでは、AR 効果を実現するためのソフ-193トウェアライブラリである ARToolKit[6]を用 いた。ARToolKit では、複数の8cm 四方の AR マー ・カを周囲の環境に貼付しておき、ユーザの頭部 に取り付けた小型ビデオカメラで AR マーカを 撮影して画像処理することにより、周囲の環境 に対するユーザの頭部の位置と方向を認識す る。そして、その位置情報をもとに、HMD を用 いて表示すべき仮想情報をユーザの視野中の 適切な位置に重畳表示する。なお、この ARToolKit では、AR マーカのおおよそ 2m 以内 でかつ AR マーカの法線方向からの角度が 70 度 以内からビデオカメラで撮影した場合、AR マー カを認識することができる。2.5 配管系統隔離作業支援システムの動作 - 2.4 で述べた試作システムの動作について説 明する。赤い円錐による 方向指示作業対象バルブの方向指示黄色の円による バルブ指示作業対象バルブの指示 Fig.4 Examples of instruction presentation.支援システムを装着した作業者の視界に作 業対象バルブがある場合には、Fig.4 下のよう に、作業対象バルブに黄色い円形の指示情報が 重畳された映像が HMD に表示される。一方、作 業対象バルブが作業者の視界中にない場合に は、Fig.4 上のように AR マーカ上に作業対象バ ルブの方向を示す赤い円錐が重畳表示された 映像が HMD に表示される。すなわち、作業者は 作業対象バルブを探す際に、近くの AR マーカ を参照して作業対象バルブの方向を調べ、その方向に移動しながら順に AR マーカを参照して いくことで作業対象バルブへと誘導される。 作業対象バルブが見つかれば、次に RFID スキャ ナで作業対象バルブに貼付されている RFID タ グを読みとり、探し出したバルブが作業対象バ ルブであることを確認する。バルブ操作後には、 一連のバルブ操作が終わるまで操作インタ フェースであるマウスのボタンを押して次の 作業対象バルブを探す。3.試作システムの評価実験ここでは、上記で試作した支援システムを用 いた評価実験について述べる。3.1 実験の目的実験の目的は、試作した支援システムが系統 隔離作業の信頼性と効率の向上に有効である ことを確認すること、および支援システムの改 良点を洗い出すことである。ステムを用3.2 実験方法実験環境は、神戸大学商船学部に設置された マイクロガスタービン(タクマ汎用機械株式会 社製 TCP-30;以下 MGT)プラントである。これ が 7.8m×9.0m の領域に密集していることから 原子力プラントの一部を模擬する施設として 適当であると考えた。実験環境には、50 個のバ ルブがあり、これらにそれぞれバルブ識別 ID を記録した RFID タグを貼り付けた。また、AR 効果を実現するため、環境に中心の絵柄が異な る 62 個の AR マーカを貼付した。これらのバル ブと AR マーカの位置は事前にシステムに登録 しておいた。 - 本支援システムは特に経験の浅い作業員に 対して有効であると期待できるため、実験の被 験者として、配管系統隔離作業の経験がない大 学生または大学院生 12 名(被験者 A~L、平均年 齢 22.0 歳、男性 11 名女性1名)に参加しても らった。そのうち4名はコンタクトレンズを使 用し、残りの8名は裸眼である。実験では、支 援システムを使用して環境中の 50 個のバルブ から指定された 10 個を探し出して確認するタ スクを、指定するバルブを変えて2回ずつ行っ てもらった。各タスクとも指定されたバルブを194順に辿る行程は、理想的な最短経路の場合に約 63m になるようにしている。また、これらのタ スクを行う前には、支援システムに慣れてもら うため、事前に支援システムを十分に使用して もらった。 - 実験では、評価指標として、支援システムに よる効率向上とエラー削減の効果を調べるた めに、タスク遂行時間とエラー数を計測し、さ らに、支援システムの改良点を探るためタスク 実施後にユーザビリティアンケートを実施し た。 ユーザビリティアンケートは Table 2 に示 す7項目を 5 段階の評価点(1:そう思わない、 2:あまりそう思わない、3:どちらとも言えない、 4:少しそう思う、5:そう思う)で回答してもら い、さらに支援システムの長所と改良点を自由 記述により回答してもらった。Table 2 Usability questionnaires | 番号 | |質問内容 このシステムを動かすために、事前にた Q1(認知性)くさんの事を学ぶ必要がありましたかこのシステムが持つ色々な機能はよくま Q2(操作性)とまっていると思いますかこのシステムはむだに複雑になっている Q3(操作性)と思いますか Q4(認知性)このシステムの使い方は分かりやすかったですか Q5このシステムはバルブを探して操作する (総合評価) |作業に役に立つと思いますか | Q6(快適性)」このシステムの操作は快適でしたか Q7(快適性)|このシステムの装着は快適でしたかこのシステムの良いところを挙げてくだ Q8(長所)さいこのシステムが改良すべき点を挙げてく Q9(改良点)ださい3.3 実験の結果全被験者についてのタスク遂行時間を Fig.5 に示す。Fig.5 の縦軸は各被験者の2回のタス ク遂行時間の平均を表しており、右端は全被験 者の2回のタスク遂行時間の平均を表す。全被 験者の1回目のタスクの遂行時間と2回目の タスクの遂行時間には差がなかった(t検定、 p<0.05)。エラー数については、全被験者のす べてのタスクについてバルブ間違いはなかっ た。 また、ユーザビリティアンケートの Q1~7 の 結果を Fig.6 に示す。 Q1 と Q3 は評価が高いほ-195ど評価点が低くなる逆質問であるため、Fig.6 では6から引いた値を示している。250タスク遂行時間(秒)ABCDEF G H 被験者IJKL#1Fig.5 Result of task completion time.平均値(エラーバーは標準偏差)Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q6 Q7質問項目 Fig.6 Result of usability questionnaire.3.4 考察 - Fig.5 から、被験者によってばらつきはある ものの、10 個のバルブを順に探し出して確認す るのに要した時間は平均 181.7 秒であり、バル ブ1つあたりにすると、約 18.2 秒となる。タ スク遂行時間には、バルブを探し出す時間の他 に、最短経路でも約 63m を歩く時間と RFID ス キャナを使ったバルブ確認作業が含まれてお り、それを考慮すると支援システムを用いるこ とで、バルブを探し出して確認する作業が短時 間で行われていることがわかる。また、全被験者のすべてのタスクにおいて (延べ 240 バルブ)エラーがなかったことから、 RFID での確認作業が効率よく行われ、バルブ間 違いの防止に有効であることが示唆される。また、ユーザビリティアンケートの結果から、 認知性(Q1,Q4)、操作性(Q2,Q3)において、平均 3.8~4.0 の高い評価点が得られており、支援システムのユーザインタフェースは認知性と操 作性の面で有効であることがわかる。また、快 適性(Q6,07)の評価点は、それぞれ平均 3.6、3.4 であり、認知性と操作性に比べて若干低いもの の、3点(どちらとも言えない)以上の評価点で ある。総合評価(Q5)の評価点は平均 4.0 であり 高い評価が得られていることがわかる。システ ムの長所を自由記述でたずねた質問 Q8 の回答 では、「両手が空くので作業しやすい(9 名)」、 「画面とは別に外の状況も把握できるので移 動しやすい(3 名)」があり、移動しやすく作業 の妨げにならないという設計時の制約条件は 満たされている。一方、システムの改良点をた ずねた質問 Q9 の回答では、「片目で集中してみ るので目が疲れる(5 名)」、「画面が小さくて見 にくい(3名)」、「フィット感を向上してほしい (2 名)」があり、視野の右下隅に表示される映 像が小さくて見にくいこと、および、HMD の装 着感に問題があることが指摘された。以上の実験結果から、試作した支援システム は特に経験の浅い作業員に対して配管系統隔 離作業の際のバルブ探索、および確認作業の効 率と信頼性向上に有効であることがわかった。 しかし、ユーザビリティアンケートの結果から、 HMD の視認性と装着感に問題があることがわか り、実用的な支援システムとするためには、こ の問題を解決するとともに、システムのさらな る小型軽量化が必要である。試作した支援システムは AR 効果を実現する ために ARToolKit を用いており、実験環境中に 62 枚もの AR マーカを貼付し、それらの位置を システムに登録する必要がある。実用的な支援 システムとするためには、事前準備が煩雑でな いトラッキング手法の開発が必要である。4.結論 1. 本研究では、原子力プラントの定期点検時に 行われる配管系統隔離における作業対象バル ブの探索と確認作業を対象に、AR 技術と RFID 技術を用いた支援方法を提案し、その設計・試 作を行い、評価実験からその有効性を確認する とともに、実用的なシステムとするための改良 点を調べた。 1 まず、AR 技術と RFID 技術を配管系統隔離作業支援に適用する方法について検討し、AR 技術 により (a)作業対象バルブを作業者に直観的に わかりやすく提示する機能、および RFID 技術 により (b)探し出したバルブを確実に効率よく 確認する機能を実現することを述べた。次に、 この支援方法を実現するための機能設計を行 い、それに従って支援システムを試作した。試 作した支援システムは片目参照型の HMD を用い たウェアラブル構成とし、AR 効果を実現するた めに ARToolKit を用いた。さらに、試作した支 援システムを用いて、MGT プラントを模擬施設 として評価実験を行った。実験では、実験環境 中の 50 個のバルブから順に 10 個のバルブを探 し出して確認するタスクを 12 名の被験者に与 え、そのタスク遂行時間、エラー数を計測する とともに、タスク後にユーザビリティアンケー トを実施した。実験の結果、試作した支援シス テムは特に経験の浅い作業員に対して配管系 統隔離作業の信頼性と効率の向上に有効であ ることがわかった。ただし、試作した支援システムで使用した HMD の視認性と装着感に問題があり、また、AR 効果を実現するための事前準備が煩雑である という問題がある。これらの問題を解決すると ともに、本研究では取り上げていなかった保守 作業センタと現場作業の連携を実現する機能 を追加し、実用的な支援システムを構築するこ とが今後の課題である。参考文献 [1]吉川榮和,大井忠,オフサイト運転保守支援セ
Presence: Teleoperators and VirtualEnvironments, Vol.6, No.4,pp.355-385, 1999. [3]Finkenzeller, K.著、ソフトウェア工学研究所訳, - RFID ハンドブック,日刊工業新聞社, 2001. [ 4 ] Langnau, L., Applications in RFID, MaterialHandling Management, Vol.55, No.9, pp.43-45,2000. [5]横尾智之,藤森昭彦,特集:I.原子力発電所の保守点検の現状,日本原子力学会誌, Vol.44, No.4,pp.318-320, 2002. [6]Kato,H., Billinghurst, M., Marker Trackingand HMD Calibration for a Video-based Augmented Reality Conferencing System, Proc. of 2nd Int. Workshop on Augmented Reality, pp.85-94, 1999.196“ “拡張現実感と RFID を用いた原子力プラントの系統隔離作業支援システム」“ “下田 宏,Hiroshi SHIMODA,石井 裕剛,Hirotake ISHII,山崎 雄一郎,Yuichiro YAMAZAKI,吉川 榮和,Hidekazu YOSHIKAWA“ “拡張現実感と RFID を用いた原子力プラントの系統隔離作業支援システム」“ “下田 宏,Hiroshi SHIMODA,石井 裕剛,Hirotake ISHII,山崎 雄一郎,Yuichiro YAMAZAKI,吉川 榮和,Hidekazu YOSHIKAWA
低減を図ろうとするものである。本論文では、 原子力発電所の定期点検はプラントの安全 このプロジェクトの一環として進めてきた、拡 性・信頼性確保のために必要不可欠であるが、 張現実感(Augmented Reality; 以下 AR)技術と それは数千人規模の作業員が必要とされる大 RFID 技術による保守作業支援のためのシステ 規模な作業であり、膨大な費用を必要とする。 ム開発に関する研究結果について述べる。 また近年の電力自由化から、作業の信頼性を確 保しつつもその経済性を向上させることが望 2.AR 技術と RFID 技術とを用いた配管系 まれている。統隔離作業支援システム これに対し、(財)エネルギー総合技術研究所近年の情報技術の発展はめざましく、その中 革新的実用原子力技術開発提案公募事業「原子でも単にコンピュータ内で情報を処理するだ 力発電所運用高度化のための次世代ヒューマけではなく、現実世界を対象とする情報技術と ンマシンシステムに関する技術開発」プロジェして AR 技術と RFID 技術が注目されている。AR クトでは、原子力立地地域で設置されているオ技術はヘッドマウントディスプレイ等を装着 フサイトセンタと関連づけた「オフサイト運転したユーザの視点位置や視線方向をトラッキ 保守支援センタ」を構想している[1]。この構ングし、使用者の視野にコンピュータで生成し 想は、原子力プラントに関連する災害の防災対た文字や映像を現実世界に合わせて重畳表示 応のために設置されたオフサイトセンタを拡することで、情報的に現実世界を拡張する技術 張してオフサイト運転保守支援センタを設置 である[2]。 RFID 技術は、物体に貼り付けた小 し、このオフサイト運転保守支援センタで複数さな RFID タグを非接触に RFID スキャナでス ユニットの運転保守機能を共有化することにキャンすることにより、RFID タグ内に記録され よりプラント運転と保守の両面で効率的に人た情報を読み書きすることができる技術であ
PS2-2 |り[3]、近年、商品管理や製造プロセス管理に 用いられ始めている[4]。 1. 本研究では、この AR 技術と RFID 技術をプラ ントの保守作業に適用し、その作業効率と信頼 性の向上を目指している。保守作業において膨 大な数の機器の中から作業対象物を特定する 際には、その位置、形状、銘板に記載された情 報などに基づいているが、RFID 技術を作業対象 物の特定に適用すると、作業対象物に貼付され た RFID タグを RFID スキャナでスキャンするこ とにより確実に効率よく作業対象物を特定す ることができる。これらの利点として、「作業 対象物を特定する際の間違いが減少すること」、 「作業効率が向上すること」等が挙げられる。 すなわち、AR 技術と RFID 技術を保守作業に適 用することにより、保守作業の信頼性向上と効 率向上に寄与できると考えている。 1. 本研究では、保守作業への AR 技術と RFID 技 術の適用例として、構成機器の保守作業の前後 に行われる配管系統隔離作業を取り上げる。配 管系統隔離作業では、保守作業センタの系統隔 離作業支援ワークステーションから出力され る作業指示書に従って、作業者がバルブの識別 ID をもとに操作対象のバルブを順に見つけ出 し操作する。しかし、原子力プラントの定期点 検時には多くの機器の点検が必要であり[5]、 それに伴って膨大な数のバルブ操作を実施す る必要がある。AR 技術と RFID 技術によりこの 作業の信頼性と効率が向上できれば、保守作業 全体の信頼性と効率向上に寄与できる。2.1 配管系統隔離作業支援の構想 - オフサイト運転保守支援センタを活用した 配管系統隔離作業支援の構想を以下に述べる。 (1) オフサイト運転保守支援センタ内の保守作業センタより、作業計画に従い情報ネット ワークを用いて現場作業者が携行する支援ンステムに配管系統隔離作業指示を出す。 (2) 現場作業者が支援システムを用いて作業対象バルブを探し出す。 (3)探し出した作業対象バルブを確認する。 (4)支援システムの作業指示に従って作業対象バルブを操作する。 (5)操作実績を支援システムに入力する。作業実績は即座に情報ネットワークを通じて保守作業センタに送られる。 (6) 一連の作業指示が終わるまで(2)~(5)を繰り返す。 上記のうち特に (2)の作業対象バルブを探し 出す作業では、現在、現場作業者が経験と勘を 頼りにバルブを探しており、非常に時間のかか る作業である。また、(3)ではバルブに付与さ れている英数字で記載された銘板だけを頼り に探し出したバルブを確認しているため、銘板 の読み間違いにより間違ったバルブを操作す る可能性もあり、慎重に確認しなければならな い。そこで、本研究では、配管系統隔離作業の うち、作業対象バルブを探し出す作業とバルブ を確認する作業に着目し、AR 技術を用いて(2) のバルブを探し出す工程を、RFID 技術を用いて (3)の探し出したバルブを確認する工程を支援 する方法を提案する。2.2 AR 技術と RFID 技術を用いた配管系統隔離 作業支援 * 上記の(2),(3)の作業を支援するためには、 (a)どのバルブが作業対象のバルブかを作業者 に直観的にわかりやすく提示する機能、および (b)探し出したバルブを確実に効率よく確認す る機能、が必要である。本研究では、上記(a) の機能を AR 技術で、(b)の機能を RFID 技術で 実現する方法を提案する。 指示情報CCDカメラHMD~バルブ銘板Fig.1 Indication of target valve by AR.具体的には Fig.1 に示すように、HMD を装着 した作業員に対して、AR 技術により作業対象バ ルブに指示情報を提示することで、直観的にバ ルブの探索を支援する。また、作業対象バルブ にそのバルブの識別 ID を記録した RFID タグを 貼付しておき、作業員が探し出したバルブに貼192付された RFID タグの識別 ID を RFID スキャナ で読みとることにより、探し出したバルブが正 しいかどうかを確認する。2.3 配管系統隔離作業支援システムの設計 ・- 支援システムを具体的に設計するため、上記 のような作業支援を行うシステムの機能を整 理すると以下のようになる (A)バルブ指示機能 - 作業対象バルブが作業者の視界中にある場 合、AR 技術を用いて指示情報を作業者の視界に 重畳表示することにより、作業対象バルブを指 示する。 (B)ナビゲーション機能 - 作業対象バルブが作業者の視界中にない場 合、AR 技術を用いて作業対象バルブのある方向 を指し示す情報を作業者の視界に表示する。 (C)バルブ確認機能 - 作業対象バルブにあらかじめ貼付した RFID タグの情報を読みとることにより、探し出した バルブが作業対象バルブであるかどうかを確 認する。 (D)作業進捗管理機能 * 一連のバルブ操作の順序を管理する。次に、上記の機能構成を具体的なハードウェ アとして実現するためのシステム構成を考え る。支援システムは作業員が携行して使用する ため、システムが作業の妨げにならないように 配慮する必要がある。AR 技術による情報提示と 上記の制約条件を考えた場合、システムのハー ドウェア構成としては Fig.2 に示すようなウェ アラブルな構成が適当である。バックパックビデオカメラ (ノートPC)HMD| REIDスキャナFig. 2 System structure of support system.Fig.2 System structure of support system2.4 配管系統隔離作業支援システムの試作- 前述の設計に基づき支援システムを試作し た。ここでは、その具体的なハードウェア構成 とソフトウェア構成について述べる。 * 支援システムのハードウェア構成は、Fig.3 のような構成とした。また、支援システムの情 報提示デバイスとしては三菱電機製の SCOPO を 用いた。Table 1 に SCOPO の詳細を示す。[ビデオキャプチャ] NTSC 「ビデオカメラ |ビデオケーブルNTS ET| USBケーブル_USB 」 ノートPCマウスRFIDHMDコンバータAS232C RFIDZE++*- (55) Hardware structure of support system.Fig.3Table 1 HMD used for support system 型式(メーカ)」 SCOPO(三菱電機)外觀種類解像度片目参照型23万画素 (800×238dot デルタ配列)NTSC ビデオ信号 ビデオシースルー は、実視界入力信号AR の方式 外界映像HMD には様々な種類があるが、支援システム の情報提示デバイスとして用いる場合には、 (i)作業者の移動を妨げないように外界視野が 十分確保できること、(ii)作業中に HMD がずれ た場合でも正確に指示情報を重畳表示できる こと、(iii)作業の負荷にならないように小型 軽量であること、の点を考慮して、SCOPO を採 用した。SCOPO は、片目の下隅に映像を提示す るものであり、ユーザは外界環境を直接見るこ とができるとともに、ビデオカメラで撮影した 外界映像に仮想情報を電子的に重畳させた映 像を見ることができる。一方、ソフトウェアは Microsoft Windows 2000 をオペレーティングシステムとし、 Microsoft Visual C++ 6.0 で作成した。また、 本システムでは、AR 効果を実現するためのソフ-193トウェアライブラリである ARToolKit[6]を用 いた。ARToolKit では、複数の8cm 四方の AR マー ・カを周囲の環境に貼付しておき、ユーザの頭部 に取り付けた小型ビデオカメラで AR マーカを 撮影して画像処理することにより、周囲の環境 に対するユーザの頭部の位置と方向を認識す る。そして、その位置情報をもとに、HMD を用 いて表示すべき仮想情報をユーザの視野中の 適切な位置に重畳表示する。なお、この ARToolKit では、AR マーカのおおよそ 2m 以内 でかつ AR マーカの法線方向からの角度が 70 度 以内からビデオカメラで撮影した場合、AR マー カを認識することができる。2.5 配管系統隔離作業支援システムの動作 - 2.4 で述べた試作システムの動作について説 明する。赤い円錐による 方向指示作業対象バルブの方向指示黄色の円による バルブ指示作業対象バルブの指示 Fig.4 Examples of instruction presentation.支援システムを装着した作業者の視界に作 業対象バルブがある場合には、Fig.4 下のよう に、作業対象バルブに黄色い円形の指示情報が 重畳された映像が HMD に表示される。一方、作 業対象バルブが作業者の視界中にない場合に は、Fig.4 上のように AR マーカ上に作業対象バ ルブの方向を示す赤い円錐が重畳表示された 映像が HMD に表示される。すなわち、作業者は 作業対象バルブを探す際に、近くの AR マーカ を参照して作業対象バルブの方向を調べ、その方向に移動しながら順に AR マーカを参照して いくことで作業対象バルブへと誘導される。 作業対象バルブが見つかれば、次に RFID スキャ ナで作業対象バルブに貼付されている RFID タ グを読みとり、探し出したバルブが作業対象バ ルブであることを確認する。バルブ操作後には、 一連のバルブ操作が終わるまで操作インタ フェースであるマウスのボタンを押して次の 作業対象バルブを探す。3.試作システムの評価実験ここでは、上記で試作した支援システムを用 いた評価実験について述べる。3.1 実験の目的実験の目的は、試作した支援システムが系統 隔離作業の信頼性と効率の向上に有効である ことを確認すること、および支援システムの改 良点を洗い出すことである。ステムを用3.2 実験方法実験環境は、神戸大学商船学部に設置された マイクロガスタービン(タクマ汎用機械株式会 社製 TCP-30;以下 MGT)プラントである。これ が 7.8m×9.0m の領域に密集していることから 原子力プラントの一部を模擬する施設として 適当であると考えた。実験環境には、50 個のバ ルブがあり、これらにそれぞれバルブ識別 ID を記録した RFID タグを貼り付けた。また、AR 効果を実現するため、環境に中心の絵柄が異な る 62 個の AR マーカを貼付した。これらのバル ブと AR マーカの位置は事前にシステムに登録 しておいた。 - 本支援システムは特に経験の浅い作業員に 対して有効であると期待できるため、実験の被 験者として、配管系統隔離作業の経験がない大 学生または大学院生 12 名(被験者 A~L、平均年 齢 22.0 歳、男性 11 名女性1名)に参加しても らった。そのうち4名はコンタクトレンズを使 用し、残りの8名は裸眼である。実験では、支 援システムを使用して環境中の 50 個のバルブ から指定された 10 個を探し出して確認するタ スクを、指定するバルブを変えて2回ずつ行っ てもらった。各タスクとも指定されたバルブを194順に辿る行程は、理想的な最短経路の場合に約 63m になるようにしている。また、これらのタ スクを行う前には、支援システムに慣れてもら うため、事前に支援システムを十分に使用して もらった。 - 実験では、評価指標として、支援システムに よる効率向上とエラー削減の効果を調べるた めに、タスク遂行時間とエラー数を計測し、さ らに、支援システムの改良点を探るためタスク 実施後にユーザビリティアンケートを実施し た。 ユーザビリティアンケートは Table 2 に示 す7項目を 5 段階の評価点(1:そう思わない、 2:あまりそう思わない、3:どちらとも言えない、 4:少しそう思う、5:そう思う)で回答してもら い、さらに支援システムの長所と改良点を自由 記述により回答してもらった。Table 2 Usability questionnaires | 番号 | |質問内容 このシステムを動かすために、事前にた Q1(認知性)くさんの事を学ぶ必要がありましたかこのシステムが持つ色々な機能はよくま Q2(操作性)とまっていると思いますかこのシステムはむだに複雑になっている Q3(操作性)と思いますか Q4(認知性)このシステムの使い方は分かりやすかったですか Q5このシステムはバルブを探して操作する (総合評価) |作業に役に立つと思いますか | Q6(快適性)」このシステムの操作は快適でしたか Q7(快適性)|このシステムの装着は快適でしたかこのシステムの良いところを挙げてくだ Q8(長所)さいこのシステムが改良すべき点を挙げてく Q9(改良点)ださい3.3 実験の結果全被験者についてのタスク遂行時間を Fig.5 に示す。Fig.5 の縦軸は各被験者の2回のタス ク遂行時間の平均を表しており、右端は全被験 者の2回のタスク遂行時間の平均を表す。全被 験者の1回目のタスクの遂行時間と2回目の タスクの遂行時間には差がなかった(t検定、 p<0.05)。エラー数については、全被験者のす べてのタスクについてバルブ間違いはなかっ た。 また、ユーザビリティアンケートの Q1~7 の 結果を Fig.6 に示す。 Q1 と Q3 は評価が高いほ-195ど評価点が低くなる逆質問であるため、Fig.6 では6から引いた値を示している。250タスク遂行時間(秒)ABCDEF G H 被験者IJKL#1Fig.5 Result of task completion time.平均値(エラーバーは標準偏差)Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q6 Q7質問項目 Fig.6 Result of usability questionnaire.3.4 考察 - Fig.5 から、被験者によってばらつきはある ものの、10 個のバルブを順に探し出して確認す るのに要した時間は平均 181.7 秒であり、バル ブ1つあたりにすると、約 18.2 秒となる。タ スク遂行時間には、バルブを探し出す時間の他 に、最短経路でも約 63m を歩く時間と RFID ス キャナを使ったバルブ確認作業が含まれてお り、それを考慮すると支援システムを用いるこ とで、バルブを探し出して確認する作業が短時 間で行われていることがわかる。また、全被験者のすべてのタスクにおいて (延べ 240 バルブ)エラーがなかったことから、 RFID での確認作業が効率よく行われ、バルブ間 違いの防止に有効であることが示唆される。また、ユーザビリティアンケートの結果から、 認知性(Q1,Q4)、操作性(Q2,Q3)において、平均 3.8~4.0 の高い評価点が得られており、支援システムのユーザインタフェースは認知性と操 作性の面で有効であることがわかる。また、快 適性(Q6,07)の評価点は、それぞれ平均 3.6、3.4 であり、認知性と操作性に比べて若干低いもの の、3点(どちらとも言えない)以上の評価点で ある。総合評価(Q5)の評価点は平均 4.0 であり 高い評価が得られていることがわかる。システ ムの長所を自由記述でたずねた質問 Q8 の回答 では、「両手が空くので作業しやすい(9 名)」、 「画面とは別に外の状況も把握できるので移 動しやすい(3 名)」があり、移動しやすく作業 の妨げにならないという設計時の制約条件は 満たされている。一方、システムの改良点をた ずねた質問 Q9 の回答では、「片目で集中してみ るので目が疲れる(5 名)」、「画面が小さくて見 にくい(3名)」、「フィット感を向上してほしい (2 名)」があり、視野の右下隅に表示される映 像が小さくて見にくいこと、および、HMD の装 着感に問題があることが指摘された。以上の実験結果から、試作した支援システム は特に経験の浅い作業員に対して配管系統隔 離作業の際のバルブ探索、および確認作業の効 率と信頼性向上に有効であることがわかった。 しかし、ユーザビリティアンケートの結果から、 HMD の視認性と装着感に問題があることがわか り、実用的な支援システムとするためには、こ の問題を解決するとともに、システムのさらな る小型軽量化が必要である。試作した支援システムは AR 効果を実現する ために ARToolKit を用いており、実験環境中に 62 枚もの AR マーカを貼付し、それらの位置を システムに登録する必要がある。実用的な支援 システムとするためには、事前準備が煩雑でな いトラッキング手法の開発が必要である。4.結論 1. 本研究では、原子力プラントの定期点検時に 行われる配管系統隔離における作業対象バル ブの探索と確認作業を対象に、AR 技術と RFID 技術を用いた支援方法を提案し、その設計・試 作を行い、評価実験からその有効性を確認する とともに、実用的なシステムとするための改良 点を調べた。 1 まず、AR 技術と RFID 技術を配管系統隔離作業支援に適用する方法について検討し、AR 技術 により (a)作業対象バルブを作業者に直観的に わかりやすく提示する機能、および RFID 技術 により (b)探し出したバルブを確実に効率よく 確認する機能を実現することを述べた。次に、 この支援方法を実現するための機能設計を行 い、それに従って支援システムを試作した。試 作した支援システムは片目参照型の HMD を用い たウェアラブル構成とし、AR 効果を実現するた めに ARToolKit を用いた。さらに、試作した支 援システムを用いて、MGT プラントを模擬施設 として評価実験を行った。実験では、実験環境 中の 50 個のバルブから順に 10 個のバルブを探 し出して確認するタスクを 12 名の被験者に与 え、そのタスク遂行時間、エラー数を計測する とともに、タスク後にユーザビリティアンケー トを実施した。実験の結果、試作した支援シス テムは特に経験の浅い作業員に対して配管系 統隔離作業の信頼性と効率の向上に有効であ ることがわかった。ただし、試作した支援システムで使用した HMD の視認性と装着感に問題があり、また、AR 効果を実現するための事前準備が煩雑である という問題がある。これらの問題を解決すると ともに、本研究では取り上げていなかった保守 作業センタと現場作業の連携を実現する機能 を追加し、実用的な支援システムを構築するこ とが今後の課題である。参考文献 [1]吉川榮和,大井忠,オフサイト運転保守支援セ
Presence: Teleoperators and VirtualEnvironments, Vol.6, No.4,pp.355-385, 1999. [3]Finkenzeller, K.著、ソフトウェア工学研究所訳, - RFID ハンドブック,日刊工業新聞社, 2001. [ 4 ] Langnau, L., Applications in RFID, MaterialHandling Management, Vol.55, No.9, pp.43-45,2000. [5]横尾智之,藤森昭彦,特集:I.原子力発電所の保守点検の現状,日本原子力学会誌, Vol.44, No.4,pp.318-320, 2002. [6]Kato,H., Billinghurst, M., Marker Trackingand HMD Calibration for a Video-based Augmented Reality Conferencing System, Proc. of 2nd Int. Workshop on Augmented Reality, pp.85-94, 1999.196“ “拡張現実感と RFID を用いた原子力プラントの系統隔離作業支援システム」“ “下田 宏,Hiroshi SHIMODA,石井 裕剛,Hirotake ISHII,山崎 雄一郎,Yuichiro YAMAZAKI,吉川 榮和,Hidekazu YOSHIKAWA“ “拡張現実感と RFID を用いた原子力プラントの系統隔離作業支援システム」“ “下田 宏,Hiroshi SHIMODA,石井 裕剛,Hirotake ISHII,山崎 雄一郎,Yuichiro YAMAZAKI,吉川 榮和,Hidekazu YOSHIKAWA