東京電力原子力のRCMへの取り組み
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カテゴリ: 第1回
1.はじめに
** 東京電力の原子力は、福島第一原子力発電所 1号機が 1971 年に営業運転を開始して以来 33 年が経過し、現在 17 基、総出力 1730.8 万kW という規模を保有している。この間、原子力発 電所の保守点検としては、法に基づく定期検査 とともに、事業者独自の定期点検等を自主的に 実施し、設備の保全につとめてきた。 - これらの原子力発電設備の保全管理は、安全 性や信頼性に係わる重要な設備に対する異常 の発生と事故の拡大防止を目的とした予防保 全を基本としている。この予防保全は、「原子 力発電所の保守管理規程(JEAC 4209-2003)」に も示されているように、時間計画保全、状態監 視保全の大きく2つに区分されるが、従来の保 全では主に時間計画保全、それも定期的に発電 所を停止しての保全作業が中心に行われ、30 年間継続されてきた。一方、海外の原子力発電所や国内でも石油化 学産業などでは状態監視保全の積極利用とと もに、RCMの考え方による保全の対象と適用 技術の組織的整理が進んでおり、その結果とし て設備信頼性の向上と合理化が同時に図られ ている。このような状況認識から、東京電力で は平成13年度よりRCM導入の検討を進め、 その導入を開始した。2. RCM導入の基本的考え方と狙い当社原子力では、単純にRCMを保全内容・ 周期を決める手法としてでなく、原子力設備の 信頼性を保全面から支えるプロセスの一部と
PS3-1捉え、そのプロセス全体の構築を目標としてい る。その概念を図-1に示す。ここで示される 主要要素とその狙いは以下の通りであり、設備 信頼性の維持向上を担保しつつ、保全業務の全 体最適化を目指すものである。 (1) RCM プラント内各系統設備の果たすべき機能、想 定すべき故障モードとその影響を分析し、重要 度等の評価を行った上で、対応すべき保全技術 の内容と頻度等を決定し、保全計画を策定する。 従来、個別機器単位になりがちだった一連の評 価を見直し、プラント要求機能の維持を基本目 標に組織的に分析を行うことにより、プラント としての信頼性の維持向上に確実に寄与する とともに、適用保全各オプションの果たす役割、 目的を明確化する。また従来、定期検査停止時の分解等に偏って いた点検から、回転機器の振動監視に代表され る状態監視技術の利用、運転員による監視など を積極的に保全計画の中に位置付け、総合的に 保全信頼性の向上を目指す。これは、ヒューマ ンエラー、いじりこわしなど、過剰保全による 問題にも寄与しうるものとして効果を期待し ている。(2)保全運用、記録 ““RCMの結果である保全/監視計画を実務 に適用し、その結果を記録する。従来、点検記 録の重点であった保全後の状態(定期検査後の 起動への準備に力点)に加え、手入れ実施前の 状態(As-found Condition)を把握することによ り、それまでの保全/監視計画の妥当性評価に フィードバックできるプロセスを構築する。図-1. 保全運営プロセスの概念説明性の確保檢?周期等制約事項 重要度評価の整合性 技術根拠の整備等評価基準、判断根拠の整備 内部PI等、測定指標の整備 評価業務ルーチンの確立等フィードバックシステム/機器 健全性評価RCM プラントシステム機能の維持を担保する保全計画保全/監視技術導入検討関連技術開発保全対応技術評価保全の記録 As-found Conditionに力点保全運用保全方法の最適化 ・状態監視 ・オンラインメンテナンス ・運転員による巡視 定検時の時間計画保全保全/不具合履歴 監視データ標取 各種運用実績設備能等分析評価etc運用上の制約評価発電所保全プロセス運転中保全/監視の可能性保全業務プロセス検討業務プロセス 弟所組織 データベース IT利用等(3) システム/機器健全性評価 - 保全/監視の記録、履歴をもとにプラントシ3.これまでの経緯と計画 ステムの健全性評価を継続的に行う。保全運用 これまでの経緯と当面の計画を図-2に示 面、システム・機器の機能・性能について評価 す。平成13年度に検討開始後、14年度に試 指標を設定し、客観的基準にもとづいたプラン 行評価を行ってその有効性が確認された。それ ト信頼性監視プロセスを目指す。を受け、平成15年度から福島第一原子力発電 (4)フィードバック所6号機をパイロットプラントと位置付けて 保全の記録、健全性評価のデータを保全計画 同発電所に専任体制を整備し、本格規模でのR 検討(RCM)にフィードバックするルーチン CM評価に先行着手した。続いて、今年度は福 を確立し、定期的および必要な都度、保全計画 島第二、柏崎刈羽両原子力発電所にも体制を整 に反映させていく。従来確実性に欠けていたこ備して検討に着手する予定である。 のフィードバックプロセスのためのマネージ ここまではRCMによる保全計画の立案ま メント手法を確立し、確実な継続改善プロセス でであり、前項で述べたように実機に適用し、 の確立を目指す。継続するルーチンを確立して初めて意味があ (5)計算機システムる。現在、そのための業務プロセス設計を平行 - 以上、一連のプロセスを計算機システムで管 して行うとともに、先行評価している福島第一 理し、フィードバックを確実なものとすると同 原子力発電所6号機の成果の試験適用を通じ 時に、3発電所17ユニットに一貫した保全の てプロセスの評価を行いたいと考えている。 データベースを構築し、情報の共有、標準化に また、これらとほぼ平行して計算機システム よる保全品質の向上を目指す。の開発が進められており、順次適用の見通しで ある。-206図-2. RCM関連スケジュールH15 |H16 )H17_ H13 | H14 | 調査・計画RCM試行1F6先行評価定期検査 1日6先行適用準備? 保全プロセス検討社内体制整備V3発電所で検討へ」4.今後の見通し ・ 全体業務プロセスの構築には、初期RCM検 討の物量だけでなく、全面的な環境の再整備が 必要であり、現在、関連ルール整備、状態監視 技術等の技術導入整備、データベース、エンジ ニアリングツール等の計算機システム整備等、 従来のものの再整備を含め平行してプロジェ クトとして検討を進めているところである。また、これは保全業務全体の抜本的な改革と いうべきもので、従来型の保全手法の視点から は大きな発想の転換を迫るものであり、社内の 意識改革のための施策が必要である。また、組 織整備、社内技術の整備のあり方、保全の請負 体制等にも再検討の必要が出てくるものと考 えられる。 - こうした課題については、中長期での取り組 みが要求されると同時に、その所在を初期の段 階で明確に把握し難い部分も多い。今後、適用 範囲を徐々に拡大しつつ、フィードバックを行 いながら課題解決を図っていく予定である。参考文献[1] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理規程」(JEAC 4209-2003)-207“ “東京電力原子力のRCMへの取り組み “ “橋本 哲,Satoshi HASHIMOTO“ “東京電力原子力のRCMへの取り組み “ “橋本 哲,Satoshi HASHIMOTO
** 東京電力の原子力は、福島第一原子力発電所 1号機が 1971 年に営業運転を開始して以来 33 年が経過し、現在 17 基、総出力 1730.8 万kW という規模を保有している。この間、原子力発 電所の保守点検としては、法に基づく定期検査 とともに、事業者独自の定期点検等を自主的に 実施し、設備の保全につとめてきた。 - これらの原子力発電設備の保全管理は、安全 性や信頼性に係わる重要な設備に対する異常 の発生と事故の拡大防止を目的とした予防保 全を基本としている。この予防保全は、「原子 力発電所の保守管理規程(JEAC 4209-2003)」に も示されているように、時間計画保全、状態監 視保全の大きく2つに区分されるが、従来の保 全では主に時間計画保全、それも定期的に発電 所を停止しての保全作業が中心に行われ、30 年間継続されてきた。一方、海外の原子力発電所や国内でも石油化 学産業などでは状態監視保全の積極利用とと もに、RCMの考え方による保全の対象と適用 技術の組織的整理が進んでおり、その結果とし て設備信頼性の向上と合理化が同時に図られ ている。このような状況認識から、東京電力で は平成13年度よりRCM導入の検討を進め、 その導入を開始した。2. RCM導入の基本的考え方と狙い当社原子力では、単純にRCMを保全内容・ 周期を決める手法としてでなく、原子力設備の 信頼性を保全面から支えるプロセスの一部と
PS3-1捉え、そのプロセス全体の構築を目標としてい る。その概念を図-1に示す。ここで示される 主要要素とその狙いは以下の通りであり、設備 信頼性の維持向上を担保しつつ、保全業務の全 体最適化を目指すものである。 (1) RCM プラント内各系統設備の果たすべき機能、想 定すべき故障モードとその影響を分析し、重要 度等の評価を行った上で、対応すべき保全技術 の内容と頻度等を決定し、保全計画を策定する。 従来、個別機器単位になりがちだった一連の評 価を見直し、プラント要求機能の維持を基本目 標に組織的に分析を行うことにより、プラント としての信頼性の維持向上に確実に寄与する とともに、適用保全各オプションの果たす役割、 目的を明確化する。また従来、定期検査停止時の分解等に偏って いた点検から、回転機器の振動監視に代表され る状態監視技術の利用、運転員による監視など を積極的に保全計画の中に位置付け、総合的に 保全信頼性の向上を目指す。これは、ヒューマ ンエラー、いじりこわしなど、過剰保全による 問題にも寄与しうるものとして効果を期待し ている。(2)保全運用、記録 ““RCMの結果である保全/監視計画を実務 に適用し、その結果を記録する。従来、点検記 録の重点であった保全後の状態(定期検査後の 起動への準備に力点)に加え、手入れ実施前の 状態(As-found Condition)を把握することによ り、それまでの保全/監視計画の妥当性評価に フィードバックできるプロセスを構築する。図-1. 保全運営プロセスの概念説明性の確保檢?周期等制約事項 重要度評価の整合性 技術根拠の整備等評価基準、判断根拠の整備 内部PI等、測定指標の整備 評価業務ルーチンの確立等フィードバックシステム/機器 健全性評価RCM プラントシステム機能の維持を担保する保全計画保全/監視技術導入検討関連技術開発保全対応技術評価保全の記録 As-found Conditionに力点保全運用保全方法の最適化 ・状態監視 ・オンラインメンテナンス ・運転員による巡視 定検時の時間計画保全保全/不具合履歴 監視データ標取 各種運用実績設備能等分析評価etc運用上の制約評価発電所保全プロセス運転中保全/監視の可能性保全業務プロセス検討業務プロセス 弟所組織 データベース IT利用等(3) システム/機器健全性評価 - 保全/監視の記録、履歴をもとにプラントシ3.これまでの経緯と計画 ステムの健全性評価を継続的に行う。保全運用 これまでの経緯と当面の計画を図-2に示 面、システム・機器の機能・性能について評価 す。平成13年度に検討開始後、14年度に試 指標を設定し、客観的基準にもとづいたプラン 行評価を行ってその有効性が確認された。それ ト信頼性監視プロセスを目指す。を受け、平成15年度から福島第一原子力発電 (4)フィードバック所6号機をパイロットプラントと位置付けて 保全の記録、健全性評価のデータを保全計画 同発電所に専任体制を整備し、本格規模でのR 検討(RCM)にフィードバックするルーチン CM評価に先行着手した。続いて、今年度は福 を確立し、定期的および必要な都度、保全計画 島第二、柏崎刈羽両原子力発電所にも体制を整 に反映させていく。従来確実性に欠けていたこ備して検討に着手する予定である。 のフィードバックプロセスのためのマネージ ここまではRCMによる保全計画の立案ま メント手法を確立し、確実な継続改善プロセス でであり、前項で述べたように実機に適用し、 の確立を目指す。継続するルーチンを確立して初めて意味があ (5)計算機システムる。現在、そのための業務プロセス設計を平行 - 以上、一連のプロセスを計算機システムで管 して行うとともに、先行評価している福島第一 理し、フィードバックを確実なものとすると同 原子力発電所6号機の成果の試験適用を通じ 時に、3発電所17ユニットに一貫した保全の てプロセスの評価を行いたいと考えている。 データベースを構築し、情報の共有、標準化に また、これらとほぼ平行して計算機システム よる保全品質の向上を目指す。の開発が進められており、順次適用の見通しで ある。-206図-2. RCM関連スケジュールH15 |H16 )H17_ H13 | H14 | 調査・計画RCM試行1F6先行評価定期検査 1日6先行適用準備? 保全プロセス検討社内体制整備V3発電所で検討へ」4.今後の見通し ・ 全体業務プロセスの構築には、初期RCM検 討の物量だけでなく、全面的な環境の再整備が 必要であり、現在、関連ルール整備、状態監視 技術等の技術導入整備、データベース、エンジ ニアリングツール等の計算機システム整備等、 従来のものの再整備を含め平行してプロジェ クトとして検討を進めているところである。また、これは保全業務全体の抜本的な改革と いうべきもので、従来型の保全手法の視点から は大きな発想の転換を迫るものであり、社内の 意識改革のための施策が必要である。また、組 織整備、社内技術の整備のあり方、保全の請負 体制等にも再検討の必要が出てくるものと考 えられる。 - こうした課題については、中長期での取り組 みが要求されると同時に、その所在を初期の段 階で明確に把握し難い部分も多い。今後、適用 範囲を徐々に拡大しつつ、フィードバックを行 いながら課題解決を図っていく予定である。参考文献[1] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理規程」(JEAC 4209-2003)-207“ “東京電力原子力のRCMへの取り組み “ “橋本 哲,Satoshi HASHIMOTO“ “東京電力原子力のRCMへの取り組み “ “橋本 哲,Satoshi HASHIMOTO