保全社会学の枠組みとアプローチ

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カテゴリ: 第1回
.緒言
近年「保全」を体系的に論じること、すなわち 保全学」の構築の議論が深まってきている。 「保全」は単に技術的な(ハード)のみでなく、 人間系(ソフト)の側面を有するものであり、従 冬の工学に比しても後者のかかわりが大きい。保 全体を包括して学問的に構築しようとする「保 三学」のうちで基礎としての「保全科学」は上記両側面を持つ基本法則であり、そのうえに「保 全工学」「保全社会学」さらには両者の成果をベ ースにした「保全規格、基準」が設定される。こ てらの「選択」「投影」、「結合」のもとに実際の 保全活動が位置付けられるというのが「保全学」 つ全体的なスコープである。一般論として保全に限らず原子力分野は何につ け社会的かかわりが非常に強い。「保全社会学」 は保全に係る人間系を扱うのであるが、今のとこ う定義は共通認識とはなっていない。つまりもう ひとつの柱の「保全工学」に対して、それ以外の間系の諸々を「保全社会学」として今後議論を 深めていこうという段階である。従って従来のヒ ューマンファクターエンジニアリングや、産業社
会学、あるいは産業心理学と接点を有することは うおいに考えられる。 「保全社会学」は一般的な社会学のなかで、特に 保全に関係した部分を論じようとするものであ る。従って、「保全」がそもそも「人工構造物の 劣化事象に伴う管理、実践活動」との原点に沿っ て、「保全社会学」もこの範囲に絞り込んだ議論 ということで以下の2つの大きな区分を認識して 及うことが適切である。2.保全社会学の大区分保全に係る人間系を扱う保全社会学の場合、以 下の2つを区分してを論じることが現実的であ る。 ・ 保全活動に直接的に関与する人間系 ・ 保全活動に直接的に関与しないが(間接関与)影響を授受する人間系 また取り扱う人間系としては、「個人としての人 間系」と「集団としての人間系」があることも念 頭に置く必要がある。 保全にかかわる事業者とそれを巡る外界という 関係は原子力全体の重要な社会学的課題であり、 保全分野においても例外ではない。この点では前 55者の直接的関与の人間系は事業者側の内部問題 であるとも言え、従来からも産業構造作業者の技 赤技量問題、さらにヒューマンファクター、安全 管理、品質管理などとして検討・研究されている。 これに比してとくに保全分野に関しての後者は 大きな影響をおよぼす課題であるにもかかわら ず社会学的な取り組みは十分に進んでいるとは 言い難い。後者には保全をとり巻く職業集団のほか周辺 主民、一般国民、行政・規制当局、自治体、各種 団体、学協会、メディアなどを含む。 それぞれが責任や立場など異なった立場と思惑 で複雑に絡み合うというのが実態である。Table 1 Directly-involved Personnel for Maintenance Activities 人間本来の特性構成する要素、ツール | 直接従事者、専門家 | 実務者として期待される能力 | 技能/技量、工程、装備、道工具、手順、 (計画案、実施、評価、 | (知識、経験、誠実さ/丁寧さ、まじめさ、 記録、 対策等に携わる個人) | サボり、注意力、過信、思い込み、うっかり、 ぼんやり、...)収入、勤務時間、待遇、労務条件 | 管理者管理者として具備すべき能力 保全方針、作, 体制、作業環境、作業体 (管理的立場の職業人) (企画/計画力、指導カ/統率力、 制、分析評価、法令遵守 評価/判断力、責任感、対応力/折衝力・・)安全管理、品質管理、工程管理 「経営者経営者として具備すべき能力 | 資金、組織、人材の投入/配分/育成、 (先見/先進性、大局判断力、包容力、 バランス感覚、冷静さ、統括責任感、 収益性、企業ステータス、 | 経済感覚、交渉力・・)社会貢献/利益還元12) 産業構造 一顧客、発注者、受注者(元請、下請)、直接 利害の影響を受ける地元産業 受電者、プラント所有者、メーカー、工事 会社、検査会社、専門技術企業、商社など顧客、発注者、受注者(元請、下請)、直接 利害の影響を受ける地元産業 受電者、プラント所有者、メーカー、工事 会社、検査会社、専門技術企業、商社など(1) 期間、費用面で大規模な保全活動(プラン ト停止定検など)」に関するもの 従事者の雇用関係 年間消費の山谷 短期定検に対する不安感(3) 規制・監督行政当局 一国の行政、検査部門および代行機関、自治体(2)「事故トラブル発生時の対応、措置」に関するもの2.2 保全活動に直接的に関与しないが影響を授受する人間系(間接関与)・原子力を取り巻く人間系は非常に広く深い。こ住民 不安感、恐怖感、正確な情報、早い情報1-562.2 保全活動に直接的に関与しないが影響を授受する人間系(間接関与)2.1 保全活動に直接関与する人間系 保全活動の計画、管理、実行、評価などの行為に 直接関わる以下に示す人間系である。-11)直接保全活動に従事する作業員、検査員、専門技術・技能者、監督者、管理者、経営それらをサポートする契約、教育、広報などの担当 これらにも人間本来の特性に関するものと、 それ以外のものに分けられ、さらに職務上の 位置付けにより論じる対象や内容が異なる。こでの保全に関する間接関与の人間系として扱 う範囲は当面次のように考えておく。期間、費用面で大規模な保全活動(プラン ト停止定検など)」に関するもの 従事者の雇用関係 年間消費の山谷 短期定検に対する不安感行政、 -監督責任?? (国と地方の役割分担)・ メディア 「 知る権利、報道姿勢、営業的視点(3)「保全活動に関する一般情報」に関するも広報、報道、住民対話活動、反対派対応*「間接関与の人間系における立場と思惑の例]「間接関与の人間系における立場と思惑の例政治(政党)・行政 一国家戦略(国策)一安定供給、稼働率、経済性確保 国民合意――― 安全安心、合理的規制 地方自治体 住民保護-安全安心 -地域利益。 -見返り要求、地域産業育成・活用要求 学協会、学識経験者第3者的(客観的)立場行政支援、産学協調、住民指導 各種団体、NPO ?利害無関係??容認・推進派、反対派、中間派 地元住民 一直接利害不安感/危険意識、迷惑施設、直接利益 (雇用、消費・購買、寄付補償金) 一般国民(公衆)直接利害関係無し 理解派、無理解派、無関心層(教条的) 反対論者、環境論者メディア、「新聞 TV 雑誌 (全国版、地方版)]中立公平を標榜 ??理解派的論調、反対派的論調企業側一企業姿勢、社会的貢献 ーマスメディア、公衆対応 ( 広報部門) -政治家、利害関係者対応(総務部門)それぞれの立場や思惑があって往々にして対 立構造になりがちである。しかし相互の関係は単 に賛成反対の対極だけに立脚するものではなく、 大局的には相互に利害を共有する関係でもある。 これを社会学の視点で取り上げることで、構造的 に究明し、何が問題の重要点かを明らかにできる ならばその効果は国民全体の大いなる利益につ ながる。調整、緩和により対立から対話へ、さら には納得へという体制を構築するには対立構造 に学協会、NPO などの中立的な機関を含めた議 論の場や環境作りが課題である。これは「安全」 から「安心」の議論にも有益である。3.人間行動の本能的側面(1). 「情緒」的側面 * 自分自身の利害に無関係、または関係が薄いと 考えるときは、比較的「情緒的」に捉えがち。と りあえず危険なものを避ける、近寄りたくないと の本能が働く。「安全」よりも「安心」に関心。マス コミや人の噂を信じる傾向がある。(2). 「理性」的側面 自分の利害に関係することは比較的「理性的」 捉える。信念や公益の観点から理解する場合は容 認する。但し NIMBY である。 「安心」は「安全かどうか」にかかると理解。* 原子力のケースは、電力という間接的な商品 を介しているので“自分の利害と関係が薄い” と感じ、往々にして前者の「情緒的」に捉えられる傾向がある。 * * マスコミは前者の「情緒面」を前面に扱う傾向がある。*【安全(ハード)と安心(ソフト)の問題] 基本的には「安全」と「安心」はそもそも同根で あって別のものではない。「安全といわれても安-57心できない」は理性と情緒のとらえ方の違いであ る。「安全」は「安心」の必要条件ではあるが、十分 条件ではない。「安全」は「保全工学」が取り扱う問題―「安心」は「保全社会学」が取扱う問題 「安全」問題は「実像」(理性的対応)―「安心」問題は「虚像」(情緒的対応) 「安全」問題は「定量的思考」-「安心」問題は「定性的思考」 「安全目標」は妥協点が見出せる ――「安心」はひとそれぞれに納得度が異なる 「安全」は確率論(Risk Base) の問題 ―「安心」は説得性、説明性、納得性(Risk Communication) の問題4.人間行動の基本パターン人間が行動を起こすことを分析すると、個人にし ろ集団にしろ以下のような基本パターンがある と考えられる。認知判断 (理解)時間遅れ)行動 (反応)(刺激)個人にし ンがある判断 (理解)時間遅れ)行動 (反応)4.1 個人としての行動の要素 「認知」に対する 外的要素――報道内容、伝聞、実検分 内的要素――知識、経験、理解力、感受性(好奇心)、知識欲 「判断」に対する 外的要素??解説、助言、意見 内的要素??知識・経験・理解力に加えて思想、信条、感性 「行動」に関する 外的要素――各種の制約条件(時間、金銭、諸般の事情)、行動を促す仕掛や仕組み 内的要素――義務感、正義感4.2 集団/団体としての行動の要素 「認知」に対する 外的要素――報道内容、実検分 内的要素――集団の知識/経験、公益性「判断」に対する 外的要素――助言、意見、法的制約、民意 内的要素――思想信条、義務感、経済性、法解釈「行動」に関する 外的要素――各種の制約条件(時間、諸般の事情)、利害関係、行動要請 内的要素、 一使命感、義務感、公益性これらの諸要素を社会学的な手法により追究、 解明していくことがこれからの保全社会学に求 められている。5.事故トラブル時の反応と思惑それぞれの立場によって異なる思惑が錯綜す る。 事業者 原因究明、対策検討実施、再発防止、水平展開、 発電損失、対応措置費用、停止期間、早期復旧、 法令基準準拠性、通報連絡、報道対応、規制対 応、許認可対応、内部責任追及、保全活動見直 し、他プラントへの情報提供、データベース化、 工事監理、品質管理、工程管理、安全管理、放射線管理、 規制当局 上記の事業者活動に対する監督、指導、確認(法 令準拠性、行政責任) 自らの報道対応、国会対応、安全委員会対応、 地方自治体対応、現場確認立ち入り確認、 立会検査、再起動承認 地方自治体、 住民の安全安心確保の視点から上記の事業者 活動に対する監督、指導、確認、再起動同意 現場確認立ち入り確認、規制強化要請、補償、 地元優先-58報道 国民の知る権利、事業者行政等に対して厳しい記事/報道、販売促進 住民、国民 不安感、信頼感に影響、真相を知りたい欲求、 報道に影響される者と報道内容を覚めた目で 見る者、無関心の混合系 電力料金、電力不足、個人補償、雇用ここまでは「保全社会学」で対象になると考えら れるキーワードを中心に紹介した。このような保 全社会学の要素とも言うべきものについて今後 はこれらを普遍的な常項と変項に整理しそれら の相互関係を明らかにすることにより保全活動 をめぐる人間系の構造を追究して、望むらくは保 全の適正化に貢献することを期待するものであ る。6.結言保全は直接、間接の人間系と複雑に関係してい て合理的な保全活動に大きな影響を与えている。技術的な観点からの「保全工学」と並行して「保 全社会学」を論じることなしには、実活動として の最適な保全にはつながらない。先の見えない対 立構造の解決のためにも中立的機関の参画が必 須であると考えられる。今後の学問的追究のためには「保全社会学」分 野への社会学系専門家の参加が望まれる。-59“ “?保全社会学の枠組みとアプローチ “ “織田 滿之,Mitsuyuki ODA“ “?保全社会学の枠組みとアプローチ “ “織田 滿之,Mitsuyuki ODA
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