原子力発電所の保修教育訓練内容への体系的な分析手法の活用

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カテゴリ: 第1回
1.緒言
員の教育訓練のために体系的な分析を行い、よ 電力保修員に必要な能力は、非常に多岐にわ り効果的、効率的な教育訓練内容となるよう現 たるため、教育訓練は、OJT(On the Job 状の研修内容の見直しを行っている。 Training)が主体で、机上研修は、それを補完ここでは、保修員の教育訓練のために検討し する位置付けで行われている。適用した体系的な分析手法について紹介する。 しかしながら、原子力発電所の安全運転を前2.SAT手法の適用事例 提に、電力自由化を踏まえた発電費用削減を行 うためには、今まで以上に高い能力を持つ保修 2.1 SAT手法 員を育成しプラントの信頼性を向上しつつコ SAT (Systematic Approach to Training) ストダウンを行っていかなければならない。 手法は、業務に必要な能力を分析し、それらの一方、建設経験や過去のトラブルなどを経験能力を習得させる教育訓練プログラムの設計、 した優秀な人材が退職しつつあることから、技 開発、実行、評価に至る論理的なプロセス手法 術力低下が懸念されるとともに、技術伝承の必 である。この手法は、既に原子力発電所の運転 要性が叫ばれており、これまで以上に効果的で 員養成のために活用されている。 効率的な教育訓練を行うことができるように、 教育訓練内容を最適にしていくことが求めら 2.2 原子力発電所運転員の教育訓練 れてきた。平成 11 年 9月に発生したJCOウラン加工 そこで、主に原子力発電所の運転員のために、 工場臨界事故以降、原子力発電所所員のより一 用いられてきたIAEAのSAT(Systematic_層の能力向上に努めている。その一環として、
OS2-4平成 14 年3月、JEAG4802「原子力発電所 運転員の教育・訓練指針」の改定において、こ のSAT手法を取り入れた体系的で合理的な 教育訓練プログラムの策定が規定された。 ・ これを受けて、浜岡原子力発電所では、平成 15 年度に、SAT手法を取り入れて原子力発電 所運転員に必要とされる知識・技能項目の明確 化等を図り、教育訓練プログラムを見直した。このSAT手法は、原子力安全に直接関わる 運転員に必要な知識、技能を洩れなく抽出し、 適切な教育訓練を施すことに貢献している。3.保修員の教育訓練への適用3.1 適用における難しさ * 保修員の教育訓練にSAT手法を適用した 事例は、あまり報告されていない。これは、保 修員のための体系的で合理的な教育訓練プロ グラムの開発には、次の難しさが存在すること 等のためと考えられる。 ○業務要素の特定 保修業務は、保全活動の計画、工事の設計、発 注、作業工程の管理、安全管理、点検、官庁検」 査の対応、故障やトラブルの処理等で非常に幅 広く多岐にわたること、あらかじめ決められた マニュアルに基づいて行う運転業務と比べ ると、業務処理の自由度が大きいため、知識・ 技能に直結する業務要素を明確にすることが 難しい。 2業務要素に連なる知識や技能の抽出 運転員と比較して、必要な知識や技能の内容 の変化が早く、要求されるレベルも変化する ため、業務要素が特定されても、それに連な る知識、技能を抽出することが難しい。 3技術の進歩や業務の変化に迅速に対応でき る柔軟な教育訓練システムにする必要がある。3.2 適用するための方法保修員の教育訓練にSAT手法を適用す るための難しさを解決するために、以下の分 析処理を実施した。能力(K、S、A)-> {Ka, Sa, Aa ⇒ {KI, St, As業務要素に細分化- 能力(K、S、A) → {ka, Sm, An } ⇒ {, S, An }業務K: Knowledge S : SkillA : Attitude Fig.1 A general idea of job competencyanalysis 3.2.1 コア業務の特定保修業務は、広範囲で多岐にわたっている ため、まずコアとなる業務を特定し、そこか ら業務分析を行い、業務を細分化して整理す ることで必要な知識や技能を分析するため の業務要素に分解することにした。保修業務は、設備の保守に関する業務が中 核であることから、「定期点検」「改良・修理 工事」、「トラブル対応」をコア業務として選 定した。3.2.2 代表的な機器・工事の設定3.2.1 で選定した「定期点検」「改良・修理工 事」「トラブル対応」に関する業務の全てにつ いて分析するのは、業務量が膨大となり、現実 的ではない。このため、保修組織の系列の「機 械」「電気」「計測」の区分毎に分割して、その 各々において、その大部分の業務範囲が網羅で きると考えられる代表的なものを設定した。即 ち「代表的な機器」や「代表的な工事」を設定 して業務を細分化して整理した。Table 1 The example of job analysis 系列分類機器名工事件名or故障状況電気定期点検い発電機 2電動機 3変圧器 4 電動弁/電磁弁 5 IM/C、P/CC/ 16 屋内開閉所設備工 1電器 18 デジタル制御装置10 CVCF.VVVF11 ケーブル 改良・修理工事 1 ■発電機2電動機 3変圧器 4■設備を設置する場合の電気工事「ブッシング修理 電動提取替 ラジエター修理 [新佐倉3L増設機器】 新佐倉3L増設【制印盤】 |新佐倉3L増設【原盤】 | 新佐倉 3L増設【ケーブル】 C/CLAN7トラブル対応8 M/C、 P/c c /c 9 屋外電気設備 10 制御盤 11 直流電源設備 12 自動火災報知設 13 構内配電線]発電機 2電動機、 3 変圧器 4M/C、P/CC/C 5制御 6デジタル制御装置制御盤改造(制御用電気品整理含む) 蓄電池取替 感知器增設 柱上変圧器増設 水素漏えい [地 絶縁油中のガス量増加 バスダクト焼損 原子炉自動停止(電磁接触器故障) 「片系統異常(CPU基板故障)-703.2.3 業務要素に連なる知識や技能の抽出・作業安全:作業安全(災害を起こさないた 3.2.3.1 能力の抽出めに実施すること)に関するも 13.2.2で細分化した最小単位の業務要素毎に、の 機械、電気、計測のベテラン保修員と共に必要 ・法規:法律に関するもの、公的な規格・基 な能力を抽出する作業を行った。抽出作業にお準および会社規程(保安規程・保安 いては、個人差による影響をできるだけ排除す規定)に関するもの るために抽出のための切り口を、プラントの安 細分化した業務要素毎に、これらの4つのフ 全安定運転にとって重要なファクターである ィルターをかけて整理した上で、それぞれのフ 以下の4つの観点とすることにした。ィルターからのアウトプットを「知識(K: ・健全性:設備の健全性維持(機能維持、性 Knowledge)」、「技能(S: Skill)」、「原子力技* 能維持、品質確保)に関するもの 術者としての心構え(A:Attitude)」で分析し ・コスト:費用(算出根拠、積算方法)に関 - 必要な能力として抽出した。 するもの Table 2 The example of job element list- 業務要素 業務分類 第1分類第2分類 点検対象機器選定定期点検基準による点検対象機器の確認「計画立案取替基準による取替対象機器の確認 その他の情報による点検・取替対象機器の確認予算編成長期保全計画策定長期保全計画策定工事予算書(K40類)作成、工事予算書(K40類)作成確認、被討事項 定期点検基準(内容・周期)根拠の理解 現場点検内容の把握 取替為準根理解 工事報告書の反映事項の把握 発電課要望事項の反映内容検討 点検速報の水平展開の把握(方法・範囲の理解) メーカ提案情報の評価(特別点検必要性の評価) 他社の動向把握(他プラント不適合の水平展開の把握 短縮定検対応検討(点検の前倒し、先送り等) 工事時期の調整(工事実施適正時期の評価) 短縮定検対応検討(予備品の必要性検討) 「工事費用の集計(効果的な支出時期評価) 請負工事費(01)の積算 各機器の点検人工数の理解... 資材代(02)の積算 諸係費(03)の積算 審議区分の判定 入力内容の確認 入力内容の確認 入力内容の確認 コストダウン内容の検討 決裁区分の判定 工事決裁書台帳の確認 コストダウンの再評価 回覧先の確認 フォーマットの確認 関係箇所の確認 工資経システム確認その他予算関係帳票作成決裁および発注|工事実施決裁工事予算件名登録表作成 工事予算補足データ作成 審議データ作成 コストダウン説明表(予算)作成 工事実施決裁書作成 ・起案番号登録、 ・コストダウン説明表(決裁)作成 ・決裁書回付票の作成 ・決裁書作成時確認リストの作成 ・関係箇所との調整 ・期中予算管理データ入力Table 3The example of job competences list分析の観点_業務分類業務要 第2分類機器名(それを行うために必要な、知識、理解、スキル) KSA分析電動機第1分類確認、??事項工事工事施工管理「アイソレ・キャンセル アイソレの範囲・時期検| 「連絡票作成、健全性「アイソレ範囲・時期の理解 ・点検機器の復旧状態の把握 ・点検結果の評価 ・丁寧に説明する。コスト 作業安全k{ssa_k_sssAK法規」現場管理工程管理 作業安全管理 放射線管理 現場立会検査(点検結果 の評価) 品質記録の確認(点検結 果の評価) 武理云平アイソレ範囲・時期の理解 アイル状態・範囲・時期の把握 干渉作業との調整 ・関係箇所との調整丁寧に説明する ・社内手引の理解 ・点検結果と品質記録の評価 の絶縁抵抗値 c電流? 「空振動値 ○温度上昇 19センターリング値 のベアリング外径とブラケット内径の隙間 のカップリング内径とシャフト外径の隙間 「砂鉄心の挨の緩み、 の軸受メタルのPT 今日ベアリングの異常確認 の冷却器の耐圧(水圧)確認 10シャフト軸振れ確認 の外観の異常確認 ●付属品(CT等)の異常確認健全性-713.2.3.2 情報の整理上記 3.2.3.1 で洗い出した項目は、情報量が 膨大であるため、以下のKEY ワードを設定し、 類似内容をグループ化して必要な能力の整理 を行った。KEYワード大項目技術小項目 (健全性)評価、(工事)検討、設計、(工事)調整、 機器、管理、点検、情報、経済性、検査 経理、作業手続安全安全心的態度心的態度法令規格基準法令規格基準その他その他3.3 現状の教育訓練内容との比較評価 13.2.3.2 で整理した能力の内容1つ1つにつ いて、現状の教育訓練内容で習得できるか評価 した。この評価により習得できない場合は、追 加すべき内容や項目(不足している習得内容) を検討した。この評価結果の例を下記に示す。 1設計的妥当性の検証能力の向上 ・設備改造や取替工事を計画するにあたり、 設計データの検証だけでなく、設計思想ま で踏み込んだ深い検証能力を持つ必要がある。 2設備の検査、健全性評価に関わる能力の向上 ・運転中の機器に何らかの変化が認められた 場合の評価能力や現場対応能力の向上、 ・点検結果に基づく修理時期の計画およびその妥当性評価能力の向上 3作業安全に関する能力の向上 ・机上での知識だけでなく、実作業等の経験 により知識を体得することが必要である。 この評価結果により研修を見直した事例 としては例えば3に関して、体感研修を設定 し教育訓練内容に反映した。これは、「重心 がずれた状態で荷を吊ると荷が思わぬ方向 に動くことで危険性の体感させる研修」や、 「実際に100V電気回路を短絡させ電気 の危険性を体感させる研修」、「回転部巻き 込まれの危険性を体感させる研修」等の危険性を安全に体感させて作業安全の重要性を 理解させるものである。Pic. 12.1practical training for feeling the reality of dangerousness as to handling the heavy equipmentPic.2 practical training for feeling the realityof dangerousness as to short circuitTable 4 The example of the work table to find insufficient trainings O電動機の定期点検時に必要な知識現状の研修の代価:現状の研修内容で十分である。13:現状の研修内容では不足している☆:研修項目に追加が必男である。現状の研修分類(習得項目) KSA分析世界知・技能項目習得項目追加研修科目 あるいは内容研修名評価■不具合のメカニズムにMする知 評価劣化管理 事「事故事例(電気) 吃事故故事倒??会「A代表的な劣化についてのみの説明であるため、具体的な事例 ムで説明する必要がある。技術技術化の種類と観展メカニズムの知機劣化管理A 現状の研修は絶物の劣化にのみ着目しているため、その他 ムの事象の説明が不足している専振動解析 再劣化管理低圧電動機 高圧電動機|o [AAAA|・以下の不適合事象の理解 の動大の絶縁劣化 評価 の追電流 10日度高技術・経年劣化状況の理解劣化状況の説明をもう少し詳しく行う必要がある。再再再劣化管理 低圧電動機 高圧電動機AAA技術評価1・容量別点検人工取替対象品の説明が必要。事化管理 基品質管理「事故事例 再低?電動? 「高圧電動機|AMAAAK|3| 技術・取替対象品の考え方の理解 (劣化部品、劣化にMする知) のベアリング の潤滑油(グリスを含む) ●パッキン @Oリング の菊座金|1967取替周期の考え方の根拠の説明が必要.K|3|・取替周期の考え方の根拠の理解 設計環境に関する知時)技術重要度分専劣化管理」 専低圧電動機 尊高?電動機 基品質管理 応品質管理 基作業管理者教育 専低圧電動機 「高圧電動機概要の説明であるため、内容が薄い。K31 技術設計4.教育訓練システムの構築 保修員に必要な能力を明確化できたことか ら、これを効果的に習得させるために、現在、 での検討を行っている。.1 研修の方法、内容について検討教育訓練の方法としては、机上研修、OJT、 土外研修等があり、それぞれの方法にはメリッ ト、デメリットがある。このため、効果的に習 得させることを考慮して、各研修のつながりや その方法を検討している。また、一度だけの段的な教育だけでなく、繰り返し教育、選択教 育等を適切に組み込むことによって、必要な知 我、技能を確実に習得し維持させることを検討 している。 更に、研修内容の見直しを行うと共に、研修 内容を常に最適化するしくみを検討してい-2 認定制度の導入 保修員の重要な能力については確実に能力 三習得したことを試験などで確認して個人の 支術力を認定すると共に、その技術力が維持で きていることを定期的に確認する制度(技術認 三制度)を導入した。-735.結言従来、主に経験をベースに試行錯誤しながら 築されてきた保修員の教育訓練プログラム 、SAT手法を活用して体系的な分析を行う ことで保修員に必要な能力を明確化できた。今後は、発電所の技術系全職員を対象として、 支術認定制度の導入及び教育訓練内容の見直 しを行う予定である。参考文献 -) IAEA-TECDOC-1170, “Analysis phase ofsystematic approach to training (SAT) fornuclear plant personnel”, 2000. 2] JEAG4802-2002,“原子力発電所運転員の教育・訓練指針”、 2002. B] IAEA-TECHNICAL REPORTS SERIES No.380,“NUCLEAR POWER PLANT PERSONNEL TRAINING AND ITS EVALUATION A Guidebook” 、VIENNA 、 1996.“ “原子力発電所の保修教育訓練内容への体系的な分析手法の活用 “ “石田 卓久,Takahisa ISHIDA,丸尾 忠,Tadashi MARUO“ “原子力発電所の保修教育訓練内容への体系的な分析手法の活用 “ “石田 卓久,Takahisa ISHIDA,丸尾 忠,Tadashi MARUO
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