保全活動の最適化と保全工学
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カテゴリ: 第1回
1 1.緒言
これまで保全に対する体系的取り組みの必 要性、保全の課題や論点などについて、また保 全学や保全科学、そして保全工学などがどのよ うな形式、体系および構造を有するものである か、既存学術との類似性などに着目して論じて きた。ここではこれまでの検討を踏まえ、保全 活動の最適化とそれを可能にする保全工学が 具備すべき内容について論じる。
2.保全工学が具備すべき内容ここでは、保全工学がどのような内容をもつ ものであるかを探るべく、時空間分析ツール (3×3マトリクス)を用いた。このマトリク スは物事の完結性の分析を容易にしてくれる、 有用なツールである。 図-1に3×3マトリクスの例を示す。図中 ( )内には言語学における具体的な例を示し た。図-1 時空間分析ツール (3×3マトリクス)時間軸→ステップ1|ステップ2|ステップ3要素(単語)空間軸→関係(品詞の関係%3D文法)抽象意味 (基準)(文全体の意味)ここで、マトリクス内の空間軸における「関 係」の欄は、保全最適化に関与する各「要素」 間の関係を示している箇所である。つまり、こTOS4-1の欄は、各要素間の関係を明確にし、保全の最 適解を導出する理論、すなわち保全工学や保全 社会学等の学術を内包していると考えられる。 したがって、この欄の内容を分析評価すれば、 保全工学や保全社会学が具備すべき内容が明 確になると考えられる。このマトリクス中の時間軸を保全活動につ いて考えた場合、『現在・過去・未来』では分 類できないので、仮に保全サイクルのステップ を考える。ここで重要なのは、最適化されるべ き要素は、PDCA 全てのステップの中に含まれて いることである。一般的な PDCA で示される保全サイクルを3 ×3マトリクスに適用した場合、図-3のよう になり、実施(D)や対応措置 (A) の中にもま た PDCA サイクルが存在することがわかる。この時間軸方向への分析を、さらに空間軸方 向へ展開し、要素・関係・意味のうち学問体系 を表す“関係”について詳細に検討を行った。図-2 保全サイクルの分析時間軸 →【実施の評価(C)対応措置計画評価計画の実施、評価措置 (p) (d)(a)計画対応措置 実施、評価 (d)10) 対応措置の実施検査等の保全の実施空間船1予防保全や象の遭定保全プログラムの策定 ||現場作業の計開現場作業の実施現場作業の現場作業の指検査結果等の価対応措置の要否判断対応担置の検討現場作業の計画現場作楽の実施現場作果の評価現場作衆の指保全管理の定劇的見直しここで、保全サイクルにおける空間軸とは、 例えば要素を「保全項目(保全メニュー)」と すれば、それは「保全対象の構造:材料・使用・97条件」と「経年劣化の進行」の関係により選択 されることを示している。すなわち、ここに存 在すると考えられる学術的な関係性は「保全対 象の構造・材料・使用条件と経年劣化の進行の 関係から保全項目を設定する」にあると考えら れ、これこそが保全工学が具備すべき内容の一 っと言えよう。このように、3×3マトリクスを用いて PDCA サイクル全てに対して“関係”を明確にしてい き、それぞれのステップにおいて保全工学が具 備すべき内容をイメージしてみた。この結果、 類似の学術分野が複数ステップにまたがって いることが明らかとなったため、さらに、個々 の内容を整理し、類似性のあるものを図-3の ようにして統合してまとめた。図-3 保全工学の具備すべき内容の整理例保全 サイクル具すべき内容予防工学他検査システムエ学規格工学他異国工学|00対応措置工学保全品質工学劣化分析工学全社会学111叶O(P)保全対象とブラントの安全性との関係対象とプラントの生産活動性との 「保全対象の構造・村料・使用条件と経年劣化の進行の関係 1一保全項目(経年劣化と部位の組合せ) 経年劣化の顕在化の状と保全方法の有効性の一 全方法 保全対象の経年劣化進行と機能低下の関係許容限界に 至るまでの使用年数 経年劣化進行と機能低下、保全方法、時期(使用年数)の三者 の当係一保全時期(使用年数)・保全 保全方法の条件と保全対象の状の関係一保全時期 【保全対象の状態) 保全方法とプラントの安全性との関係、保全方法とプラントの 「生産性との関係一保全時期(ブラントの状態】_o_o_oこの結果、凡そ以下のような学術分野が保全工 学として具備されるべきと考えることが出来た。(1) 重要度評価工学 (保全対象の重要度評価に係わる下記を提供する学術) (2) 予防工学、劣化メカニズム分析工学、劣化進展予測工学(保全対象の経年劣化予測に係わる下記を提供する学術) (3) 検査システム工学 (劣化の進展に対応するための検査の最適化に係わる下記を提供する学術) (4) 対応措置工学 (劣化の進展に対しての対応措置の最適化に係わる下記を提供する学術) (5) 規格工学、欠陥評価工学 (供用可能範囲を決定するための安全裕度の最適配分に係わる下記を提供する学術) (6) 保全品質工学 (保全活動の品質に係わる下記を提供する学術)14)7)劣化事象分析工学 (事故・故障または 劣化発見時の劣化事象の分析に係わる 下記を提供する学術)3.まとめ今回は、保全サイクルに沿ってステップ毎に 保全最適化とは如何なるものか、また保全最適 化を達成するにはどのようにしたら良いか、な どについて検討し、その上で保全最適化を実現 するための理論あるいは手法を提供する「保全 工学」の具備すべき内容について検討した。今 後は、「保全工学」を構成する各種の実用工学に 対する研究がさらに具体的に展開され、その構 造、体系、そして基盤となる考え方、理論など が構築されることが期待される。また、保全工 学の研究と並行して保全社会学に関する研究 も極めて重要であり、今後、精力的な研究が期 寺される。参考文献
全工学」構築のアプローチー」
類に関する審査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定) 5] 資源エネルギー庁:「高経年化に関する基本的考え方」(平成8年4月) URL : http://www.plec.jp/lineup/metijyouhou/line_up_meth08.php?npt=7000649 5 ] EPRI Report;Guidelines for Application of the EPRI Preventive Maintenance Basis(TR-112500,Feb 2000) - ] ASME O&M Code ; OM-2001 Code for the Operationand Maintenance of Nuclear Power Plants 日本原子力学会 標準委員会 発電炉専門部会 確率論的安全評価(レベル 1 及びレベル 2)分科(http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/sc/index/in dex.html) ] 織田、青木、三牧;「保全活動の最適化と保全工学」“ “保全活動の最適化と保全工学 “ “三牧 英仁,Hidehito MIKAMI“ “保全活動の最適化と保全工学 “ “三牧 英仁,Hidehito MIKAMI
これまで保全に対する体系的取り組みの必 要性、保全の課題や論点などについて、また保 全学や保全科学、そして保全工学などがどのよ うな形式、体系および構造を有するものである か、既存学術との類似性などに着目して論じて きた。ここではこれまでの検討を踏まえ、保全 活動の最適化とそれを可能にする保全工学が 具備すべき内容について論じる。
2.保全工学が具備すべき内容ここでは、保全工学がどのような内容をもつ ものであるかを探るべく、時空間分析ツール (3×3マトリクス)を用いた。このマトリク スは物事の完結性の分析を容易にしてくれる、 有用なツールである。 図-1に3×3マトリクスの例を示す。図中 ( )内には言語学における具体的な例を示し た。図-1 時空間分析ツール (3×3マトリクス)時間軸→ステップ1|ステップ2|ステップ3要素(単語)空間軸→関係(品詞の関係%3D文法)抽象意味 (基準)(文全体の意味)ここで、マトリクス内の空間軸における「関 係」の欄は、保全最適化に関与する各「要素」 間の関係を示している箇所である。つまり、こTOS4-1の欄は、各要素間の関係を明確にし、保全の最 適解を導出する理論、すなわち保全工学や保全 社会学等の学術を内包していると考えられる。 したがって、この欄の内容を分析評価すれば、 保全工学や保全社会学が具備すべき内容が明 確になると考えられる。このマトリクス中の時間軸を保全活動につ いて考えた場合、『現在・過去・未来』では分 類できないので、仮に保全サイクルのステップ を考える。ここで重要なのは、最適化されるべ き要素は、PDCA 全てのステップの中に含まれて いることである。一般的な PDCA で示される保全サイクルを3 ×3マトリクスに適用した場合、図-3のよう になり、実施(D)や対応措置 (A) の中にもま た PDCA サイクルが存在することがわかる。この時間軸方向への分析を、さらに空間軸方 向へ展開し、要素・関係・意味のうち学問体系 を表す“関係”について詳細に検討を行った。図-2 保全サイクルの分析時間軸 →【実施の評価(C)対応措置計画評価計画の実施、評価措置 (p) (d)(a)計画対応措置 実施、評価 (d)10) 対応措置の実施検査等の保全の実施空間船1予防保全や象の遭定保全プログラムの策定 ||現場作業の計開現場作業の実施現場作業の現場作業の指検査結果等の価対応措置の要否判断対応担置の検討現場作業の計画現場作楽の実施現場作果の評価現場作衆の指保全管理の定劇的見直しここで、保全サイクルにおける空間軸とは、 例えば要素を「保全項目(保全メニュー)」と すれば、それは「保全対象の構造:材料・使用・97条件」と「経年劣化の進行」の関係により選択 されることを示している。すなわち、ここに存 在すると考えられる学術的な関係性は「保全対 象の構造・材料・使用条件と経年劣化の進行の 関係から保全項目を設定する」にあると考えら れ、これこそが保全工学が具備すべき内容の一 っと言えよう。このように、3×3マトリクスを用いて PDCA サイクル全てに対して“関係”を明確にしてい き、それぞれのステップにおいて保全工学が具 備すべき内容をイメージしてみた。この結果、 類似の学術分野が複数ステップにまたがって いることが明らかとなったため、さらに、個々 の内容を整理し、類似性のあるものを図-3の ようにして統合してまとめた。図-3 保全工学の具備すべき内容の整理例保全 サイクル具すべき内容予防工学他検査システムエ学規格工学他異国工学|00対応措置工学保全品質工学劣化分析工学全社会学111叶O(P)保全対象とブラントの安全性との関係対象とプラントの生産活動性との 「保全対象の構造・村料・使用条件と経年劣化の進行の関係 1一保全項目(経年劣化と部位の組合せ) 経年劣化の顕在化の状と保全方法の有効性の一 全方法 保全対象の経年劣化進行と機能低下の関係許容限界に 至るまでの使用年数 経年劣化進行と機能低下、保全方法、時期(使用年数)の三者 の当係一保全時期(使用年数)・保全 保全方法の条件と保全対象の状の関係一保全時期 【保全対象の状態) 保全方法とプラントの安全性との関係、保全方法とプラントの 「生産性との関係一保全時期(ブラントの状態】_o_o_oこの結果、凡そ以下のような学術分野が保全工 学として具備されるべきと考えることが出来た。(1) 重要度評価工学 (保全対象の重要度評価に係わる下記を提供する学術) (2) 予防工学、劣化メカニズム分析工学、劣化進展予測工学(保全対象の経年劣化予測に係わる下記を提供する学術) (3) 検査システム工学 (劣化の進展に対応するための検査の最適化に係わる下記を提供する学術) (4) 対応措置工学 (劣化の進展に対しての対応措置の最適化に係わる下記を提供する学術) (5) 規格工学、欠陥評価工学 (供用可能範囲を決定するための安全裕度の最適配分に係わる下記を提供する学術) (6) 保全品質工学 (保全活動の品質に係わる下記を提供する学術)14)7)劣化事象分析工学 (事故・故障または 劣化発見時の劣化事象の分析に係わる 下記を提供する学術)3.まとめ今回は、保全サイクルに沿ってステップ毎に 保全最適化とは如何なるものか、また保全最適 化を達成するにはどのようにしたら良いか、な どについて検討し、その上で保全最適化を実現 するための理論あるいは手法を提供する「保全 工学」の具備すべき内容について検討した。今 後は、「保全工学」を構成する各種の実用工学に 対する研究がさらに具体的に展開され、その構 造、体系、そして基盤となる考え方、理論など が構築されることが期待される。また、保全工 学の研究と並行して保全社会学に関する研究 も極めて重要であり、今後、精力的な研究が期 寺される。参考文献
全工学」構築のアプローチー」
類に関する審査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定) 5] 資源エネルギー庁:「高経年化に関する基本的考え方」(平成8年4月) URL : http://www.plec.jp/lineup/metijyouhou/line_up_meth08.php?npt=7000649 5 ] EPRI Report;Guidelines for Application of the EPRI Preventive Maintenance Basis(TR-112500,Feb 2000) - ] ASME O&M Code ; OM-2001 Code for the Operationand Maintenance of Nuclear Power Plants 日本原子力学会 標準委員会 発電炉専門部会 確率論的安全評価(レベル 1 及びレベル 2)分科(http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/sc/index/in dex.html) ] 織田、青木、三牧;「保全活動の最適化と保全工学」“ “保全活動の最適化と保全工学 “ “三牧 英仁,Hidehito MIKAMI“ “保全活動の最適化と保全工学 “ “三牧 英仁,Hidehito MIKAMI