保全頻度の数理的取扱いについて

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カテゴリ: 第1回
1.緒 言
設備/機器の寿命及び点検周期の根拠は、一般 産業界や原子力産業界においても明確になって いないのが実情であろう。特に、原子力産業界に おける点検周期は、法規制(電気事業法あるいは、 そこから導入されている JEAC/JEAG 等の規定)、 BWR/PWR の当初の設計メーカである GE/WH に おける過去の提案やこれまでの運転経験から設 定されていることが多い状況にある[1]。このため、 機器の交換/点検周期の最適化あるいは合理化 について、これまで、数多くの検討会あるいは委 員会で議論されてきたが、なかなか明確な結論が 得られていない。ここでは、保全方式決定手法を 数理的に分析し、取替周期および点検周期の最適 化を行う数理的評価手法について提言するもの である[2][3]。機器が故障した場合に、直ちにその故障が検知 できるか、あるいは点検により確認しないと機器 の故障が発見できないかにより、機器の取替周期 の最適化手法は異なる。従って、以下、機器の取 替周期の最適化と点検周期の最適化を分けて議 論することとする。
2.プラント機器の取替政策
* 機器や機器の部品(以後機器等)を故障する前に 予防的に交換することを予防取替(PR:PreventiveOS4-2Replacement)、機器が故障したときに行う交換を 事後取替(CR:Corrective Replacement)と呼ぶこと とする。一般に、事後取替の費用は、システム停 止と絡み勝ちなため、予防取替の費用に比べて高 くなると考えられる。このために予防保全のメリ ットが出てくるが、予防取替の間隔を短くすると、 長期的な総取替費用は増大する。これに対し、予 防取替の間隔を長くすると、故障の発生頻度が増 加して事後取替の費用が増えることになる。従っ て、何処かに最適な予防取替の周期が存在する筈 である(Fig.1 参照)。MAMMAMMAmados・保全費用 ... リスク -総費用総費用 (a.u.)0_2468_10取替周期 (au)Fig.1 保全頻度最適化の概念2.1 取替政策と取替周期最適化予防取替をどのようなタイミングで行うか、ま た機器等が故障したときの処理をどうするかを-99保全政策と呼ぶこととする。基本的な政策には、 機器等の作動期間が所定の年齢に達したら取換 える年齢取替政策、所定の時期が来たら取換える 定期取替政策が考えられる。しかし、実際のプラ ントにおける保全では、定期取替政策のバリエー ションとでも言える取替政策も見られる。このよ うなバリエーションには、機器等の故障時に行わ れる事後取替の替わりに、機器等の応急処理でし のぐ政策(以後応急処理政策)や取替時期前の所定 の期間内(以後省略期間)に事後取替がを行なわれ た場合には直後定期取替を省く政策(以後修正定 期取替)等の取替政策が考えられる。Fig.2 にこれ らの取替政策の概念を示す。・ 予防取替 × 事後取替TL 予防取替周期 Fig.1(a) 年齢取替政策の概念● 予防取替 x 事後取替T. 予防取替周期 Fig.2(b) 定期取替政策の概念-T→GTGT→○ 予防取替 X 応急処理TL 予防取替周期 Fig.2(C) 応急処理政策の概念TLGT→1.・ 予防取替 × 事後取替 TL 予防取替周期TA 省略期間 Fig、2(d) 改良定期取替政策の概念2.2 機器レベルでの取替周期最適化中(T) = T2(T) - N(T-100-1取替周期が T の場合、年齢取替政策において単 位時間当たりに要する期待費用 C(TTは次式で与 えられる[2][3][4]。C(T) = {c,R(T)+ ここで、R(T)は信頼度関数、F(T)は不信頼度関 数で1-R(T)と表される。また、cpは予防保全費 用、c.は事後保全費用である。 ・- 期待費用 C(T)の最小値は、(1)式をTで微分し て0とおくことにより、下式から求まる。、 (1)SSR)dt=F(T) ,““ Dr.R() - F(T) +1 Sea ここで、(t)は機器等の故障率であり、下式で 与えられる。ただし、f()は F(TTの導関数で、故 障密度関数である。-27R)これに対し、定期取替政策における単位時間当 たりの期待費用 C(T)は次式で与えられる[2][3][4]。_C(T) - CM (T)+ c,Tここで、M(TDは再生関数であり、期間 T にお ける期待故障回数である。これを前と同様、Tで微分して0とおくことに より次式を得、本式より、最適な取替周期が求め られる。Q(T) - T.m(T)- M(T) - SLS-5中(T) = T.m(T) - M (T-5但し、m(t)は再生密度関数で、再生関数 M(1) の導関数である。また、応急処理政策における単位時間当たりの 期待費用 C(T)は次式となる[2][3][4]。_C(T) - SEN(T) + c,-6前と同様にして、(6)式より最適な取替周期を決 める(7)式を得る-6ここで、N(T)は累積ハザード関数で、期間T内 に行われる応急修理の期待回数で、次式で与えら れる。 __N(T) - Sat)dt |(8) 以上の最適化モデルでは、機器等を取換えた場 合には機器等は新品になるが、応急修理ではその 劣化特性は変化しないと仮定している。これら3種類の取替政策に対する取替周期の 最適化サンプル計算の結果を Fig.3 に示す。年齡取替政策 定時取替政策(T)wesomemonixstoron561 2 3 4取替周期(年) Fig.3 P(T) vs. 取替周期本図の縦軸は(2)、(5)、 (7)式の左辺であり、こ の値が予防保全と事後保全の費用の比 cp/ccに等 しくなる取替周期が最適な取替周期となる。本サンプル計算結果は、故障特性が(9)式で表さ れるワイブル分布に従う仮想的な機器について 行ったものである。F() =1-exp{-(t/te)““} f(t) = (m/to)(t/to)““-' exp{-(t/to)““} 本計算に用いたワイブルパラメータは m = 2.5 to = 75,000 時間である。 1 取替周期の短い領域では取替政策による差は 小さく、また、応急処理政策に対する最適取替周 期が最も短く算出され、安全側になることが確認 される[1][2]。Fig.3 では、定期取替政策の場合、取替周期の長 い領域で飽和する傾向が見られる。これは、本取 替政策の場合、取替費用の比によっては、最適解 が無限大になる場合(実質的事後保全)があり得る ことを示している。 時間 t が十分大きい領域での再生関数 M(1)に-10関し、次式で表されるブラックウェルの定理[5] がある。 lim{M(t + h) - M()} = h入(9) ここで、入は平均故障時間の逆数で下式で示さ れる。100ES *F(t)dt-10(9)式より、t が十分大きな領域では、故障密度 関数 m(t)は一定値(平均故障時間の逆数)に収束す ることが分かる。従って、再生関数は、t が十分 大きな領域で(10)式のように表現されることと なる。 M() = X(t-to)(11) ここでは。は近似式((11)式)における時間の起 点である。これを考慮すると、(5)式より、最適 取替周期が無限となる場合の取替費用比は下記 のように求まる。22 入て。-12今回の試計算について 入およびせ。を求め、最適 取替周期が無限となる条件を求めると、予防保全 と事後保全の費用の比co/ceがおよそ 0.5 を越える 場合、この機器の最適取替周期は無限大、即ち事 後保全の対象機器となる。 次に、改良定期取替の試計算について述べる。 まず、コスト算出の定式化について、その基本 概念を述べる[1][3]。 本政策では、次の定期取替の 時期までの Ta以内の期間における機器の故障に ついては、その機器の次期定期取替はキャンセル されるが、これが連続して起こることによって定 期取替のキャンセルが数回続けて起こる場合が 考えられる。そこでまず連続してキャンセルされ る定期取替の回数の期待値を算出する。キャンセ ルされずに定期取替が実施された場合にはその 機器は取替られ新品となることから、実施された 定期取替と次に実施される定期取替(その間には 複数回の定期取替のキャンセルが存在し得る)を 一つの区間とみて、その区間におけるコストの期 待値を評価し、それに基づいて単位時間当たりの 期待値を算出する。-101例題としてコストに関するパラメータを次の ように設定した。 予防取替費用Cp:10万円 事後取替費用cc:50 万円 ここでも機器の劣化はワイブル分布に従うと する。上のコストパラメータを用いて定期取替周 期TM、省略期間T を変化させ、コストの時間平 均の期待値を算出した。Fig.4 はT, - 10年とした 場合のコストの TA依存性であり、Ta~2年のと きにコストが最小になるのが分かる。Cost(10*yen/year)0 0.7 1.4 2.1 2.8 3.5 4.2 4.9 5.6 6.3 7 7.7TA (year) Fig. 4 省略期間に対する保全コストの期待値1 (定期取替周期を 10年と仮定)Fig.5 は TM毎に TAについて最小化されたコス トを示している。これらの結果からコストの時間 平均の期待値は、T, ~5年、T~25年(即ち5年 毎に定期取替を実施、ただしその半分の期間以降 に機器が故障して、事後取替を行った場合には、 次の定期取替はキャンセルする)ときに年間で平 均約 38 万円に最小化されることが分かる。Cost(10*yen/year)12 3 4 5 6 7 8 9 10IM (year) Fig.5 定期取替周期に対する保全コストの期待値(省略期間 TAについては最適化されている)D 2.3 部品レベルでの取替周期最適化ここでは、複数の部品を持つ機器の取替周期最 適化モデルについて検討する。ただし年齢取替に ついては考えず、機器の部品の取替は、定期取替、 小修理取替の組み合わせで行われるものとし、部 品が故障した場合には、当該部品のみを取替える か応急修理を行い、予め定められた取替時期が来 た場合には、機器全体を取替える事とする。ある部品が故障した時に、新品と交換するのが 得策か応急修理で対応するのが得策かを含めて、 取替周期を最適化したいという要望も考えられ る。ここでは、取替周期の最適化と取替政策の最 適化を同時に行うモデル化を検討する。この場合、期待費用 C(T)として下式を考える事 とする。 EcarmM,(T) + EconsN.(T) + c ,-(13)C(T) - 台ただし、Ximは部品i が故障した場合に新品と交 換するか否かを示す変数で、新品と交換する場合 を1、しない場合を0とする。また、Xinは部品i が故障した場合に応急処置をするか否かを示す 変数で、応急処置をする場合を1、しない場合を 0とする。また、Cecti は事後保全で部品iを新品に 交換する場合の費用で、Costは事後保全時に部品i を応急処理する場合の費用である。変数 ximと変数 xin の間には、変数 ximが1なら ば変数 xin は 0、変数 xim が0ならば、変数 xim は 1となる関係がなければならないため、変数 xim および Xin には、下記の制約条件が付加される。 Xin + Xin = 1_i = 1,2,..., n(部品数) (14) 即ち、変数 xim と xin のどちらかが1、どちらか が0とならねばならない。新たに定義された期待費用 C(T)((13)式)を評価 関数、 (14)式を制約条件と考えると、この問題は 整数計画法の問題となる。以下、部品 A と部品 Bとからなる仮想的な機器 について試計算を行う。両部品とも劣化特性はワ イブル分布に従うとし、下記のようなワイブルパ ラメータを仮定した。部品 A: to = 40,000 時間、m = 1.3 部品 B: to = 75,000 時間、m = 2.5 Table 1に計算結果の1例を示す。本計算では、102両部品の事後取替費用を共に予防取替費用の 10 倍と仮定した。Table 1 部品取替周期最適化の例 取替周期部品1 | 部品2「平均費用 years |x1m X 1n x 2m Xan lcs/ct = 0.81 |0|1|0| 1| 2.148 | 2 |0|1|0|1| 1.973 | | 3 |0|1|0|1| 2.0722.232 | 5 |0|1|0|1| 2.417. | 6 10|1|0|1| 2.616. | 7 |0|1|1|0| 2.823 8 |0|1|1|0| 2.976 ||1|0|1|0| 2.999 ||1|0111|2|3|4|5|6|7|8|ここで、パラメータ c/c, は、定期取替政策によ る事後取替費用に対する応急修理政策による事 後処理費用の比である。故障時の取替費用に対し て応急修理の費用 c/crをパラメータ(Table 1 は cs/cy=0.8 の場合の結果)にして同様の計算を行う と、これが低くなるにつれ、応急修理の方が最適 な政策になる傾向が増加する事が確認できる[1]。3.プラント機器の点検政策取替問題では、機器の故障はいつ発生しても常 時発見可能である事が前提であった。機器の監視 に要する費用が高く常時監視することが経済的 でない場合や、待機系の機器等、点検により初め て故障が発見されるケースは少なくない。ここで は、このような場合の最適な点検間隔を決める問 題を考える。 - プラント機器の場合、往々にして点検時にプラ ントの運転を停止する必要がある。このような場 合、機器の点検時に同時に機器を取替てしまう政 策がとられることが多い。こうした状況を踏まえ、 まず、機器の故障は点検されるまで発見できず、 「機器は一定周期 T で点検され、その時に同時に取 替えられるものとする。頂上事象が発生した場合の諸処の費用を Cr、 点検費用をC、点検により発見された機器の故障 を修復する費用をC、IBC)は機器 i の Birnbaum の重要度、g(0,,q)を機器 I が正常な場合に頂上 事象が発生する確率とすると、単位時間当たりの101T期待費用 C(T)は下式で表される[1]。CGI (iOS F(t)dt + C + C, C(T) =(15) + Cre(0,,q) 最適な点検周期は上式が最小となるTであるか ら、上式を Tで微分して0と置くと下式を得る。 CIRCDF(T)T + C, TS (T)-C,In(iOS F(1) dtCo-CF(T) - 019) 機器の不信頼度関数 F(T)にワイブル分布を適 用した場合のサンプル計算結果を Fig.6に示す。Cost Ci(T) (15yen/year)2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Inspection Period T(year) Fig.6 C(T) vs. 点検・取替周期T各グラフの曲線は、下から順に In(i)が2×10~ 3×10~、4×10~、5×10~と仮定したケースの ものである。例えば 1R()=5x10~の場合、最適 な点検・取替周期は 7.2 年と算出される。また、 IB(i)が小さくなると、T の最適値が大きくなると 共に、T がある程度大い領域では、期待費用 C(T) の変化が小さくなる傾向が見られる。機器の劣化が小さいと考えられる待機系等の 場合、故障率は一定と考えられる。このような場 合、機器を定期的に取替える意味はなく、点検に より故障が発見された場合にのみ機器取替を行うこととなる。このことを踏まえ、次に故障率一 一定の場合の点検周期の最適化を考える。 * 故障率が一定の場合、機器を取替えても取替え なくても、その後の故障特性に違いはない。すな わち、点検周期毎に機器を取替える上のモデルで 求めた機器故障に伴うリスクが、この場合にも用 いることができる。ただし、機器の故障時間分布 FCT)を指数分布1-exp(-AT)とする必要がある。103また、機器の取替は機器が故障している場合の みであるから、この場合、(15)式は(17)式のように 若干修正されなければならない。t + Ce+C,F(T) C(T) =ー(17) 故障時間分布に指数分布を用いると、(17)式は 次のようになる。 (C,In(i) - AC,)(1 + AT)exp(-AT)12 =C(i) - AC, - ACE 上式を変形すると次式を得る[4]。-18MAC,(1 + AT)exp(-AT) = 1--CIR(i- AC-19左辺は、AT > 0の領域では、AT の増加ととも に単調に減少する関数で、正の値を取り、その最 大値は AT - 0のときで1である。従って、機器 の故障に伴うリスク CIR(i) が無限の極限では、 点検周期Tは0に近づくことが理解される。リス クC,Ini) が小さくなるに連れ、右辺の第2項が 大きくなって点検周期が長くなり、右辺の第2項 が1に近づくにつれ、点検周期は無限大に近づく。 右辺の第2項が1を越えると右辺は負となり、点 検周期は無限大となる。この条件は(20)式で表さ れ、この場合、機器は点検されない方が得策とな る。言い換えると、機器の平均故障間隔期間にお けるリスクが点検/取替の費用より小さければ、 機器が壊れても修理せず放っておく方が良い、す なわち、無い方が良いということになろう。CIBC) & (C, + C.)-20仮に、機器の故障率等のパラメータが、ワイブ ル分布でのサンプル計算時のパラメータと同じ とすると、Birnbaum Ip(i)が1.2 x107を下回る場 合には、壊れても放置しておく方が良いという結 論になる。勿論、この議論は、経済性の観点から のみの議論である。+C)-204.結言本研究では、機器レベル、部品レベルでの取替 周期および点検周期の最適化に関する定式化と-104その試計算を行った。 - 取替周期が短いと予想される重要な機器や部 品については,取替政策による最適解の違いは大 きなものではない為,当面は,安全側に計算され る小修理取替政策を用いることが望ましいであ ろう。これに対し,重要度が低く,取替周期が長 くなると予想される機器や部品については,定期 取替政策では事後保全が最適となる条件が存在 する。また,事後取替費用が安価だからといって 小修理取替政策を採用することが必ずしも得策 となるとは限らず,経済性の観点から,どちらの 政策を取るかを詳細に検討することが必要とな ろう。ただ,こうした定量的な検討には,劣化特 性も含めてデータベースが整備されている必要 があり,この分野での今後の進展が望まれる。-18謝辞1. 本研究を進めるに当たり,有益なディスカッシ ョンとコメントを頂いた日本機械学会「軽水型原 子力発電所保全研究分科会」のメンバーに深く感 謝致します。参考文献[1] (社)日本機械学会 , RC198 軽水型原子力発電
No.1(2002), pp29-36 [3] 高瀬健太郎、笠井雅夫、”プラント機器の取替・点検周期の最適化”、保全学誌、Vol.2, No.2(2003),pp33-39 [4] 三根 久, 河合 一著,信頼性・保全性の基 - 礎数理,日科技連, (1984) pp.151-159. [S] D. Blackwell、Discrete dynamic programming、Ann. Math. Statist.、Vol.4 (1962)、pp.719-726.“ “保全頻度の数理的取扱いについて “ “笠井 雅夫,Masao KASAI,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE
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