リスクコミュニケーションの思想と技術

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カテゴリ: 第2回
I.リスクコミュニケーションとはなにか
(1)リスクとはなにか リスクコミュニケーションの話をするには、その前提となるリスクについて、まず共通 の認識を持つ必要がある。ところが残念なことに、リスクには学問分野によってさまざま な定義の違い、つまり学問的「方言」がある。そのことを知っておかないと、同じリスク ということばを使いながら、実際は同床異夢であることが多い。このことは、特に一般住 民やマスコミに対してリスクを述べるときに留意しておく必要がある。 (1) リスクの常識概念一般の住民がイメージするリスクは、少なくとも日本においては、「危険なもの、恐ろ しいもの、こちらはまっとうな生活をしているのに先方から降りかかってくる迷惑なもの」、 といった受動的なものである。事実、日本語の辞典を引けば、リスクを危険と誤訳してあ るものが多い。しかしながら語源的に言えば、英語のriskのもとになる俗ラテン語risicare (動詞形)が示 すように、「絶壁の間を縫って航海する」がもともとの意味である。その語感の中には、 危険だけではなく危険をあえて冒す、つまり冒険とかチャレンジングという、能動的なニ ュアンスが強いことを知っておく必要があろう。リスクの本質は、バーンスタインの言う ように、「運命」ではなく、「選択」なのである。 2) 一番伝統的な学問的定義 - 学問の世界における一番伝統的な定義は、「生命の安全や健康、資産や環境に、危険や 傷害など望ましくない事象を発生させる確率、ないしは期待損失」である。ただしこの定 義は、個別科学、それも一つのリスクを単独に扱うことのできる、自然科学の領域におい て使われることが多い。 3) 一番よく使われる定義それに対して、災害の発生確率だけではなく、災害が発生した場合の障害の大きさとの 積でリスクを定義することもある。これはリスクが、時間的・空間的に広がる複合的な分 野において使われることが多い。原子力発電所の事故や環境汚染など、大きなシステムの リスクはその典型である。国際学会である「Society for Risk Analysis」 の定義もこれに近 い。 4) 価値観抜きの定義学問分野によっては、「望ましくない」という上述の価値的表現を避けて、「対象とす る事態の生起確率や結果」「未来における不確実な事象の発生可能性」というように、現 象の変化としてリスクを定義す場合もある。経済学でいう「為替リスク」などは、その典 型であろう。リスクという概念を最初に採用した学問分野は経済学であるから、その定義 の中には、1)で述べた伝統的な常識概念が底流としてあるのかもしれない。 5) 定義の共通部分学問分野によってリスクの定義は少しずつ異なるが、共通部分が無いわけではない。そ れは、リスクが危険や災害(ハザードとかクライシス)それ自体ではなく、その可能性の こと、つまり不確定な出来事に対する質的・量的な変化の予測と、その選択ということで あろう。 6) 客観 リスクと主観リスクこれまで述べた「客観リスク」とは別に、「主観リスク」ないし「リスク認知」を区別 することがある。最近はやりのように使われる「安全と安心」という言葉があるが、安全 は客観リスクに、安心は主観リスクにほぼ対応していると考えて良い。ただこの点に関して、客観的リスクなるものは本来存在しないという議論がある。なぜ なら、リスクには「望ましくない事象」というように、その定義の中に必ず相対的な価値 観が入るという意味で、主観性から逃れられないからである。たとえば、望ましくない事象として生命の損失を上げることが多いが、アラブの自爆テ ロリストや日本の特攻隊の場合、生命の損失はリスクでなく、テロや自爆に失敗して命を 長らえる方がリスクなのである。同様のことは、喫煙者にもいえるわけで、かれらは生命 の損失という「生物的なリスク」よりも、QOLの損失という「心理的なリスク」を重視し ているわけである。なお当然のことながら、主観リスクは心理学的なものだけに、さまざまな要因によって 攪乱されることが知られている。結果として、客観リスクと主観リスクの間には、時にし て大きなズレが発生する。このことが、リスクコミュニケーションに際して大きな障害と なることが多い。
(2) リスクコミュニケーションとはなにか 1) 一般的定義
対象の持つリスクに関する情報を、リスクに関係する人々(これをステークホルダーと いう:例えば行政、企業、生産者、消費者、流通業者、地域住民、研究者など)に対して 開示することをリスクコミュニケーションという。 2) 定義の中に含まれる本質的要素上述の定義に含まれる本質的な要素として、まず第一に挙げなければならないのは、リ スクコミュニケーションは、対象の持つポジティブな側面 (便益)だけではなく、ネガテ ィブな側面 (リスク)についての情報、それもリスクはリスクとして公正に伝える必要が あることである。第二に、リスクコミュニケーションは、一方向的なプロパガンダではなく、ステークホ ルダーの間で双方向的なコミュニケーションが行われること、それを通じて関係者が情報 を共有する必要があることである。第三に、リスクコミュニケーションの目的は、これまでの広報のように「説得」ではな く、関係者が問題を「共考」しうる土台作りを目的としていることである。 3) リスクコミュニケーションに含まれるべき内容リスクコミュニケーションには、最低限、次のような内容が含まれる必要がある。すな わち、災害がどのような性質のものか、それがどのような方法で測られ、どのような単位 で表現されるのか、いかなる方法でリスクを低減ないし回避できるのか、などである。
2 -4) 技術としてのリスクコミュニケーション自然科学に技術があるように、人文・社会科学にも技術がある。そしてリスクコミュニ ケーションは、関係者がリスク問題について共考するために開発された、人文・社会科学的 技術の一つである。ただ自然科学の技術と違って、その背後に「価値観」「思想」の裏付 けがあるだけである。 - いずれにしても技術であるわけだから、リスクの種類、伝えるべき相手などによって、 設計の仕方が違ってくるのは当然である。それはまた、コンテンツに関してだけではなく、 ノンバーバルな要因、場のセッテイングなどに関しても考慮されることになる。 5) クライシスコミュニケーションとの違い ・リスクコミュニケーションは、災害が発生した後に行われるクライシスコミュニケーシ ョン(災害の説明や謝罪など)と区別される。リスクコミュニケーションは、災害が発生 する以前に行われる、未来の被害を見据えたコミュニケーションなのである。ただ研究者 によっては、クライシスコミュニケーションを、リスクコミュニケーションの部分集合と して位置づけることもある。(3) リスク分析の中でのリスクコミュニケーションの位置づけ 1) リスク分析の中での位置づけ - 総合的なリスク研究の中には、「リスク測定」、「リスク評価」、「リスクマネジメン ト」などさまざまな過程が含まれる。これらを総称して「リスク分析」という。そしてリ スクコミュニケーションは、このリスク分析の、それぞれの過程における情報開示として 位置づけられる。つまりリスクコミュニケーションは、単なるおしゃべりの技術ではなく、科学的なリス ク分析の成果を踏まえた手法なのである。したがって公正なリスクコミュニケーションを 行うためには、それに先行して、リスクの測定や評価など、リスクに関する正確な科学的 事実が必ず明確にされねばならない。 2) 送り手と受け手の過程 ・- リスクコミュニケーションの過程は、送り手からすれば、リスク測定とリスク評価で明 らかにされた、リスクの性質、程度、許容水準などの情報を開示する過程、またその知識 をもとに、リスクを避けたり低減するための方策、つまりリスクマネジメントの内容など を説明する過程である。同時にこの過程は、受け手からすれば、送り手が示すリスクの内容を認知したり受容す る過程、また送り手に対して疑問を述べたり、対抗案の提示などを行う場でもある。この ような情報交換過程を通じて両者は情報を共有し、誤解を解き、相互の信頼感をもとに問 題を共考することになる。(4) リスクコミュニケーションを支える思想 先に述べたごとく、リスクコミュニケーションは人文・社会科学の技術であるから、そ の背後には思想や価値観の裏付けがある。 1) 民主主義の思想としてのリスクコミュニケーション リスクコミュニケーションの思想を一言でいえば、それは民主主義の思想であり、法律用語でいえば「公民権」「自己決定権」「知る権利」などである。これらに共通なのは、 「神の前に人間は平等」とか、「弱者の権利保護」という思想である。 2) 鍵概念は公民権思想 ・リスクコミュニケーションを支えるのは、具体的には男女平等法、人種平等法、製造物 責任(PL法)、情報公開法、インフォームドコンセントなどに通じる概念である。すなわ ち、男性に比して弱者である女性、白人に比して弱者である黒人、企業に対して弱者であ る消費者、医師に対して弱者である患者の権利などを守るために、これらの法律は制定さ れている。これらに共通なのが公民権思想である。 3) ケネディが述べた消費者の権利 ・- リスクコミュニケーションも、公民権思想と共通の基盤を持つ。というのは、リスク コ ミュニケーションは、当該リスクの関係者のうち、知識や情報を持たない国民や消費者な どの弱者に対して、強者である行政や企業がフェアな情報を提供し、問題を共有すること を目的とするからである。そしてこのような消費者の権利を述べたのが、ケネディ大統領 だと言われている。(5) 上手でなかったこれまでの広報 リスクを含む問題に対するこれまでの広報は、推進派も反対派も上手でなかった。推進 派はリスクを隠してよい話しかしないし(無事故神話、無謬主義)、反対派はベネフィッ トを無視して悪い話(ゼロリスクの主張、恐怖アッピール)しかしなかった。その悪例は 政府公報、企業の広告、反対派のプロパガンダなど、あまりにも多い。結果として関係者の対話は成立せず、不毛な議論が消費されることが多かった。これで は関係者間の信頼など生まれようがない。リスクコミュニケーションは、その反省から考 えられた手法である。II. リスクコミュニケーションの技法とその効果(1) リスクコミュニケーションの効果を左右 (1) リスクコミュニケーションの効果を左右する要因 リスクコミュニケーションも数あるコミュニケーションの一つだから、これまで社会心 理学の分野で指摘されてきたコミュニケーション効果に関わる要因が、同じように当ては まる。 1) 送り手側にある要因 - 第一は送り手側の要因であり、その中でも送り手の信頼性が決め手である。しかしこれ までの調査によると、送り手になることが多い行政、政治家、企業、マスコミなどに対す る国民の信頼性は残念ながら高くない。だとすれば、これらの組織が行うコミュニケーシ ョンは、はじめから効果がないことになってしまう。ではどうすればよいか。実はリスクコミュニケーション自体が、信頼性獲得の手段なのであるから、最初は効果 が無くても、それが継続されている間に、信頼性は次第に高まってくるのである。つまり 信頼性の獲得は積立貯金のようなもので、その獲得には時間がかかるが、その地道な努力 でかならず効果は現れると思えばよい。 社会心理学の分野におけるこれまでの研究によれば、信頼は、相手の能力への評価と、信頼は、相手の能力への評価と公正さによって決まることが判明している。このうち前者については、行政も企業もそこ そこの評価を得ているわけだから、後者、つまりフェアな情報を提示することにより、信 頼は次第に獲得されると考えてよいだろう。 2) 受け手側の要因 - 第一の要因は受け手側の要因であり、具体的には受け手の知識量、価値観、性格、認知 バイアス、感情バイアス、それに性別、年齢、職業、文化差などが関係する。しかもこれ らの要因は単独に作用するだけではなく、交互作用を持っている。またここで重要なのは、 コミュニケーションの効果は送り手よりも受け手のレベルで決まりがちなこと、その意味 でリスクを正しく伝えることは、専門家が正確で科学的表現をすることと決して同義では ないことである。「人を見て法を説け」という昔からの表現は正しい。 3) メッセージ側の要因第三の要因はメッセージ側の要因であり、メッセージ内容の論理性、公平さ、表現法、 平易さなどが関係する。したがって、一般人に理解され難い専門用語や外来語、確率的表 現などは安易に使うべきではない。またまたそれとともに、話し手の声、表情、身振り、 服装といった非言語的な側面も、効果を大きく左右する。社会心理学におけるこれまでの 研究に依れば、感情の伝達における効果の93%は、非言語的な側面に依存するという。行政 や企業の担当者が、俯きながらこわばった表情でメッセージの棒読みをしている姿を想像 すれば、非言語的な側面が、コミュニケーションの効果にいかに重要であるかが理解され よう。 4) 媒体側の要因第四の要因は媒体側の要因であり、使われるメディアがマスメディアかパーソナルメデ ィアか、またインターネットかなどによって、コミュニケーションの効果は異なる。伝え るリスクの内容や受け手の特性によって、メディアを使い分ける必要がある。また当然な がら、メディアの相乗効果を高めるために、複数のメディアをミックスアップすることも ある。 5) リスク対象側の要因第五の要因はリスク対象側にある要因であり、リスク対象それ自身のもたらすイメージ や、災害の性質によって効果は異なる。したがって、対象とするリスクの性質に応じて、 リスクコミュニケーションの手法は考慮されねばならない。また災害が反復されると信頼 感が低下し、リスクコミュニケーションそのものが困難となることも知られている。のポイント1 (2)リスクコミュニケーションのポイント 1) 設計に際しての基本的な留意点リスクコミュニケーションのポイントは幾つかあるが、重要なものを挙げると、市民を 敵視せず仲間として受容すること、市民の考えや関心がどこにあるかを注意深く見守るこ と、質問をはぐらかしたりしないで必ず答えること、回答が分からないときや不確かなと きはそれを正直に述べること、確かになった段階で改めて説明すること、持っている情報 はできるだけ多く、かつ早めに提供して情報を共有すること、データの不確かさや弱点に ついても率直に議論すること、最悪事態の推定とともに危険性の幅を示すこと、ウソは絶 対に言わないこと、できないことはできないとその理由を含めて明確に述べること、苦し紛れに気を持たせるあいまいな回答は避けること、できることしか約束しない、しかし約 束したことは必ず実行すること、などである。一言でいえば、イエス・ノーを明確にいう ことと、ウソは絶対に言わないことであろうか。 2) EPAの基本原則 - 以上のことを纏めた形でアメリカの環境保護局(EPA)は、行政や企業のために、リスクコ ミュニケーションとして次の七つの基本原則を述べている。すなわち、1地域住民・市民 団体を正当なパートナーとして受け入れ連帯せよ、2コミュニケーションの方法を注意深 く立案し、そのプロセスについて評価せよ、5人々の声に耳を傾けよ、O正直、率直、オ ープンであれ、5他の信頼できる人々や機関と協調、協同せよ、6マスメディアの要望を 理解して応えよ、◯いたわりの気持ちを持ちつつ明瞭に話せ。(3) リスクコミュニケーションのパラダイムとその実証データ (1) 力を失った説得的コミュニケーションこれまでの広報のパラダイムは、受け手に対して、対象のプラス情報を豊富に与えて態 度を変えさせる、つまり「説得」というパラダイムであった。社会心理学でいう説得的コ ミュニケーションである。従来の政府公報、民間企業のCMや広告は、すべてこのパラダイ ムに乗っかったものであるが、その効果が失われてきたことに政府も企業も、そして国民 も気がつき始めた。 2) リスクコミュニケーションのパラダイム - 説得的コミュニケーションに代わる新しいリスクコミュニケーションのパラダイムを、 木下が示している。それは「共考」のパラダイムとでもいうべきもので、送り手が対象に ついてフェアな情報、つまりプラス情報とネガティブ情報を共に与えることにより、相互 の立場の理解や信頼感の醸成をもたらす、それによって合意形成の道筋を探るというもの である。このモデルに基づいて実験を行った結果、受け手側だけでなく送り手側にも、仮 設通りのプラスの効果が現れた。受け手だけではなく、送り手にも効果が現れるところが このパラダイムのユニークな点であろう。このようにリスクコミュニケーションのパラダイムでは、相手の説得を必ずしも直接の 目的としていない。それよりもステークホルダーが相互に信頼し合い、共通の土俵に登っ て共考することがより重要なのであって、合意形成はあくまで結果なのである。 * 対象に対する便益とリスクの双方を述べるという点からだけ見ると、リスクコミュニケ ーションは、従来の説得的コミュニケーションにおける「両面的コミュニケーション」の 理論と類似している。しかし上に述べたように、その目的変数が、必ずしも説得を目的と するものでないという意味で両者は区別される。 - 実験データだけではなく、現実の社会的葛藤場面でも、このようなリスクコミュニケー ションの効果が数多く報告されている。(4) リスクの許容度とその個人差、文化差 あらゆる科学技術や製品にリスクが付き物である以上、リスクのマネジメントは、人々 がどれほどまでのリスクなら辛抱できるのか、つまり「許容リスク」を抜きにしては論じ られない。ムとその実証データ1) ゼロリスクはあり得ない - ところが、これらのリスクについてその許容度を市民に対して正面から聞くと、ゼロリ スクを求める声が強い。いわゆるゼロリスク神話である。 _ しかしこれは多分にタテマエないし願望であって、市民はゼロリスクを本当に信じてい るわけではない。このことは、年間に1万人の人が交通事故で死ぬ自動車を、人々が許容し ていることからも分かる。リスクは便益とトレードオフされるのである。その上、リスクを低下させる対価としてどれほどまでのコストを覚悟するかを聞けば、 国民はせいぜい30%程度のアップしか認めたがらない。これではリスク低下はおぼつかない わけで、人々は、安全にはコストがかかることをつい忘れがちなのである。「水と安全は ただ」というわけである。 2) 許容リスクの水準 1経験法則によると、市民の許容リスクは10のマイナス5乗が境目であることが知られてい る。この値は、火災死や溺死のリスクである。10のマイナス4乗以上のリスクは人々は受け 入れないことが多いが、マイナス6乗以下になると無関心になる。ただこの値には、かなりの個人差や文化差がある。またリスク対象の特性によっても変 化する。なおこの許容リスクについて、イギリスの原子力公社が採用している興味深いモ デルがある。(5) 最近の広報や組織に見られる変化 昔は下手であった政府や企業の広報も、最近になって大きく改善された。すなわちこれ までの無謬神話を捨て、リスクはリスクとして正直に語るようになった。そのような広報 が世間に話題を呼び、広告賞を受賞するリスクコミュニケーションまで出てきた。その実例は企業の広告だけではなく、政府の広報の中にも見られる。これは望ましい変 化である。また政府の組織の中に、リスクマネジメントやリスクコミュニケーションを実 施する部局が設置され始めた。私たちは政府に依頼されて、数年前から、リスクコミュニ ケーターの人材養成を行っている。M. トータルなリスクマネジメントの中でのリスクコミュニケーショ(1)製品や技術の安全と無事故実績 ・- リスクコミュニケーションは、リスクを公正に述べて関係者間の信頼性を高め、問題解 決への道筋を探る技術であるが、あまりに現実の災害や事故が多い技術や製品については、 リスクコミュニケーションそのものが意味を持たない。 _ したがってリスクコミュニケーションを行う前に、製品や技術のリスクを下げる努力、 それに基づく無事故実績を重ねることが先決である。前に述べたように、反復事故は絶対 に防がねばならない。(2)社会の価値観の変動による影響 - リスクコミュニケーションは、「もの」よりも「こころ」の価値を優先させる現代の風 潮に支えられている。この価値観の変動は、昭和50年代の前半から始まった。それと関係して、「安全」や「安心」、「健康」などの対する最近の強い関心が、リスク コミュニケーションを求める市民の声となっている。過度の安全や安心への志向は、精神的に、また社会的にかえって不健康であるという指 摘もあるが、このような安全と安心に対する国民のニーズが強いことは、頭に入れておく 必要があろう。ことに日本でその傾向は強い。(3) リスクコミュニケーションを支える組織風土 効果的なリスクコミュニケーションを行うためには、フェアーな情報開示を善とする組 織風土がなければならない。そのような風土がない中でリスクコミュニケーターだけが張り切ると、組織から浮き上 がってしまい、結果として機能しなくなることが多い。時にはリスクコミュニケーターが 役割葛藤に悩んで、神経症に罹ることさえある。そしてこの組織の安全規範や風土は、組織のトップマネジメントによって左右されるこ とが多い。トップマネジメントは規範の形成者だからである。その意味で効果的なリスク コミュニケーションを実施するためには、まず何よりも、トップマネジメントが作り出す、 安全を優先する組織規範の存在が前提となる。いわゆる「内部告発」が出てくるのは、公正さとは反対に、自由にものが言えない強い タテ社会型の規範のある組織に多い。重要なのは個人の道徳や倫理よりも、組織の倫理な のである。(4) リスクコミュニケーションのチーム ・リスクコミュニケーターは、何もかも一人でやるわけではない。その背後には、リスク を測定したり評価する技術者や、リスクのマネジメントを行う専門家集団が必要である。 いわゆる広報担当者が、片手間に行う仕事ではない。その意味でリスクコミュニケーショ ンは、すぐれてチーム作業、それもプロ集団の仕事なのである。 * 行政や企業は、リスクマネジメントを行う専門家集団を、組織の中に常時抱えておくこ とが望ましい。独立の組織として恒常的に設置しておくのが難しいときは、いざというと きに集まれる、アドホックなスタッフとして用意しておけばよい。企業の総務課などが行 ってきた昔ながらのトラブル解決は、もはや時代遅れなのである。とき1 (5)共考と合意形成の手法の一つとしてのリスクコミュニケーションリスクコミュニケーションは、何度もいう通り、フェアな情報開示を通じて、ステー ホルダー間に共考に向けての道筋をつける技術の一つである。 __ しかし関係者の共考や合意形成の技術は、リスクコミュニケーションだけではなく、 ンセンサス会議、Stakeholder Dialogue、Public Participation、Citizen Juryなど、ほかにもい いろある。 ー どの手法を用いるかは時と場合によるが、全てを通じて共通であるのは、ステークカ ダー間の信頼性をいかにして高めるかにつきる。リスクコミュニケーションのキーワー は信頼性なのである。、組織から浮き上 ミュニケーターが-て、ステークではなく、コ ほかにもいろステークホル のキーワード“ “リスクコミュニケーションの思想と技術“ “木下 富雄
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