高分子圧電フィルムを用いた探傷のモニタリング

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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
圧電材料には主に圧電セラミックス,高分子圧電材 料があり,圧電セラミックスは電界印加により生じる 応力が大きいため,主にアクチュエータ材料として用 いられることが多い.一方高分子圧電材料は,軽量で ある,剛性が低く柔軟性に富む,加工性がよく任意の 形状のものを作成できる, 化学的安定性に優れている, 力学的な入力に対する感度がよいといった特徴を持ち, センサとして期待されている.本研究では代表的な高分子圧電材料である PVDF フ ィルムをセンサとして用い欠陥を検出する場合につい て実験を行い調べた.
2. PVDF フィルムの表面電位一ひずみ関係
2.1 PVDF フィルムの基礎的性質下面に接地したアルミ電極を有する十分薄い PVDF フィルムが面内で変形する場合を考えると,平面応力 状態とみなすことができる.以下では PVDF 内に真電 荷pが存在しないと仮定し,あらかじめ存在する焦電 性による電位は変形によって生ずる電位変化だけに注連絡先:松本英治,〒606-8501, 京都市左京区吉田本町,京都大学大学院エネルギー科学研究科, e-mail: matumoto@energy.kyoto-u.ac.jp目するので無視することにする.文献[4]によれば、フィルムの上面の電位 V は次のよ うにフィルム内のひずみ成分で表すことができる.す なわち, Fig.1 のように延伸方向に第1軸, 分極方向(厚 さ方向)に第3軸,これらと垂直な方向に第2軸をと るとV = pIS+ P2S2 ここで,k=1,2 に対してv = PAS + P252 ここで, k=1,2 に対して-1p. _ d( c3363k - C3ke33 )(c33ey + e53)d( c33e3k - C3k833 ) pk =(c3363 + e33)上式では,応力テンソルとひずみテンソルの添え字を 11→1, 22 → 2, 33 → 3, 23 → 4, 31 → 5, 12 → 6 と変換して,6次元空間のベクトルとして表してある. Sはひずみ,cはひずみ一定での誘電率, cは電場一定 での弾性定数,eは3階のテンソルで圧電 e定数と呼 ばれる定数である. dはフィルムの厚さである. 式 (1) の係数はあらかじめ単軸引っ張り試験を行って求めら れており,その結果は次の通りである[6].p1 = 1.91×10^, p2 = 9.81×10[V] (3)1273-axis2-axisT:polarization| 1-axisFig. 1 Coordinate system in PVDF film.構造物表面に電極面が接するように PVDF フィルム を貼り付けて平面上のひずみを測定することを想定す る. PVDF フィルムは十分に薄く、剛性が低いことか ら, PVDF フィルムの平面内のひずみ S, S2は構造物 表面の平面内のひずみによって拘束される.構造物表 面に x-y 座標を設け,x軸方向の垂直ひずみを S, y軸 方向の垂直ひずみを S, せん断ひずみを Say と表すと する.このとき, 構造物表面の x-y 座標のr軸と PVDF フィルムの第 1 軸(延伸方向)とが角度0をなす場合に PVDF フィルムの上下面に現れる電位差 V()は,座標 変換によるひずみ成分の変換公式を用いて次式で表さ れる.V(0) = (Pcos2 B + pz sin' ons,+ (Pi sin+ p2 cos2 ons, + (pi - Pa)sin 2015-4とくにA=0°のときには、電位差はせん断ひずみ S の寄与が消えて次式のように垂直ひずみで表すことが できる。V(0°) = piSx +V(0) = PiSx + P2S,-5構造物表面にひずみ分布がある場合には式(4),(5)は, 構造物の各点における電位を表している.すなわち, 構造物表面のひずみ分布により PVDF フィルム上に電 位の分布が生じ,それを測定することでひずみ分布に 関する情報を得ることができる. 2.2 欠陥の影響による表面電位分布の測定 本実験では,応力下の欠陥の影響によって生じる試Table 3.1 Material constants oElastic modulus E[MPa]|-Poisson's ratio v34000.39験片表面のひずみ分布が試験片表面に貼付した PVDF フィルム上の電位分布に与える影響を調べる.試験片 の応力-ひずみ関係や PVDF フィルムの構成式は線形 関係が成り立つような変形の範囲を仮定しているので, できるだけ大きなひずみが得られる高分子材料(アク リル)を試験片に選んだ、アクリルの主な材料定数の 値を Table 1 に示す.試験片として使用したアクリル 板は長さ 75mm×幅 30mm×厚さ10mm のものである. 欠陥として試験片の中央には幅方向に長さ 12mm×幅 3mm×深さ 7mm のスリットを入れた. フィルムを 30mm×30mm の大きさに切り,電極面がアクリル板と 接するように,エポキシ系接着剤を用いて貼付した.2019/01/25[uu]01 0 5202510 15 x[mm][V][uu]01 0 5 10 15 20 25x[mm] Fig.3 Distribution of electric potential for anelongation direction parallel to y-axis.[V]128- 荷重方法は万力を用いて長さ方向(x 軸方向)の平 均的な圧縮ひずみが 0.2%となるような状態で固定し た.なお圧縮に際してはアクリル板の粘弾性的性質を 考慮し圧縮後数分間おいてから測定を行った.なお, フィルム上の電位測定には表面電位計(TREK ジャパ ン, ESVM-model-344)を用いた, 圧縮荷重を与える前 後での表面電位の変化量を求めて焦電性の影響を除い た変形により生じた電位とした. 2.3 実験結果及び考察フィルムの延伸方向と圧縮方向を一致させた場合の 表面電位分布を Fig.2 ,延伸方向と圧縮方向のなす角 が 90°をなす場合の表面電位分布を Fig.3 に示す.な お表面電位の値は正値ならば引っ張りひずみ,負値な らば圧縮ひずみを表している.電位分布の特徴として は欠陥部と非欠陥部の境目で大きく電位が変化してお り,電位分布と欠陥の形状が対応していることが分か る.しかし,貼付する方向により表面電位分布が異な っており欠陥を検出できない場合があると考えられる.3. 積層した PVDF フィルムの性質3.1 積層した PVDF フィルムの電位一ひずみ関係 * 前章では単層の PVDF フィルムの表面電位一ひずみ 関係について述べた. PVDF フィルムを2枚重ねて積 層した場合,フィルムの最上面に表れる表面電位分布 は2枚のフィルムそれぞれに表れる表面電位分布を足 し合わせたものと等しい.上に積層するフィルムの分 極方向を下のフィルムの分極方向と一致させて延伸方 向を下のフィルムの延伸方向から 90°回転させて積 層したとき、この積層したフィルムは垂直ひずみに対して等方的な感度を持ち,積層したフィルムの表面電 三位一ひずみ関係は次式で表される[4]. V'(0) = V(0)+V(+ 90°)(5) =(Pi + p2)(S+ + Sy) このフィルム上の電位を測定すれば,構造物の垂直ひ ずみの和,あるいは主ひずみの和が測定できる.PVDF フィルムの分極方向を逆にしたとき,表面に 現れる電位分布は式(4)の逆符号になっている.そこで 分極方向を逆にして延伸方向を 90°回転させて上と 同様に2枚のフィルムを積層したとき,積層したフィ ルムの上下面の電位差を V''(0)とするとV''(0)=V(0)-V(+90°) =(P- Pa){(Su -S,)cos 20 + 25 y sin 203 (9)となり,0に依存する関数となる.ここでO=45°とす ると式(6)はY'''(45°) = 2(P」 - P2)Sty-7と表される. このとき x, y方向の垂直ひずみS, S, の寄与はなくなり,せん断ひずみ SMのみで表される. したがって,上のように積層したフィルムの電位差を 測定すれば、下のフィルムの延伸方向から-45°回転 した座標におけるせん断ひずみ分布を得ることができ, さらに測定した領域におけるせん断応力の様子が分か る. このように積層したフィルムがせん断ひずみを測 定できる方向をせん断ひずみの感度方向と呼ぶ. 3.2 積層した PVDF フィルムによる主ひずみの和及びせん断ひずみの測定 * 本実験では,積層して主ひずみの和を測定できると表される. このとき x, y方向の垂直ひずみ S, S, の寄与はなくなり,せん断ひずみ Syのみで表される. したがって、上のように積層したフィルムの電位差を 測定すれば、下のフィルムの延伸方向から-45°回転 した座標におけるせん断ひずみ分布を得ることができ, さらに測定した領域におけるせん断応力の様子が分か る.このように積層したフィルムがせん断ひずみを測 定できる方向をせん断ひずみの感度方向と呼ぶ. 3.2 積層した PVDF フィルムによる主ひずみの和及びせん断ひずみの測定 本実験では,積層して主ひずみの和を測定できる PVDF フィルムとせん断ひずみを測定できる PVDF フ ィルムを用いて 2.2 節で用いたアクリル試験片と同様 の試験片表面の主ひずみの和及びせん断ひずみ分布を 測定する.なお荷重方法は 2.2 節と同様にした. 3.3 実験結果及び考察 - 主ひずみの和を測定できる PVDF フィルムを用いた 場合の表面電位分布を Fig.4 に示す.貼付する方向を 変えて貼付してもほぼ同様の表面電位分布のパターン が現れており,この積層させた PVDF フィルムの感度 に等方性があることが確認された.単層のフィルムで は貼付する方向により欠陥を検出できない場合があっ たがこの積層したフィルムは任意の方向に貼付しても 一定の効果があることが示された.せん断ひずみの感度方向を圧縮方向と一致させた場 合,せん断ひずみにより生ずる表面電位分布の実験結 果をFig.5 に示す.表面電位分布の等電位線のパター ンは対称性をもっており試験片の中心から斜めの位置 で大きなせん断応力が生じており, x軸, y軸それぞれ についてせん断ひずみの値の符号が逆転している.ま たせん断ひずみの感度方向と圧縮方向が 45°の角度 をなす場合,せん断ひずみにより生じる表面電位分布 を Fig.6 に示す.Fig.6 を見るとスリットの直上ではな く,その横側においてせん断ひずみが大きくなってい る. スリット周辺においてせん断ひずみ分布は大きく-51900/05/08[uu]k |1 6 11 16 21 x[mm][V] Fig.4 Distribution of electric potential for sum ofprincipal strain.[uru]|? ou ? ? o0 5 10 15 20 -10|x[mm] Fig.5 Distribution of electric potential for shear strain.[V][uu]20[V]0 5 10 1520[mm] Fig.6 Distribution of electric potential for a shear strain. 変化しているが欠陥の形状を推定することは難しい. しかしながら圧縮方向と 45°の角をなす方向のせん 断ひずみが特に大きくなっていることが分かる.試験片背面のスリットは試験片表面のせん断ひずみ分布に 影響を与え,欠陥の存在を示唆している.したがって 構造物表面のせん断ひずみを測定することでは,背面 のき裂などの微小な欠陥を検出することはできないが, 比較的大きな背面の欠陥においてはその存在を示す手 がかりとなり得る.しかしながら形状を同定すること は困難であることが分かった.4.結言本研究では代表的な高分子圧電材料であるPVDF フ ィルムを用いて欠陥の検出について調べた.得られた 結論は以下のとおりである. 1) 背面に欠陥を持つ板材の表面に PVDF フィルムを貼付して圧縮下のもとフィルム上の電位分布を測 定することにより背面の欠陥を検出できることが示された. 2) PVDF フィルムの延伸方向を 90°回転させて積層したフィルムは貼付する方向に依存しない感度を 持つことが示された感度の等方性という長所があり欠陥の検出に非常に有効である. 3) PVDF フィルムの分極方向を逆にして,延伸方向を90°回転させて積層したフィルムはせん断ひず みを求めることかできるのが分かった.従来,構 造物表面のせん断ひずみを求める場合,ひずみゲ ージを用いて,広い範囲の平均した値を求めるこ としかできなかった.しかし,この積層した PVDF フィルムを用いることで,構造物表面の一点一点 におけるせん断ひずみを求めることができる. 今後の課題としてPVDF フィルムを用いた欠陥の検 出方法の有効性について,様々な場合についてシミュ レーション,及び実験を行う必要がある.参考文献 [1] E. Matsumoto, Y. Omoto, K. Iguchi and T. Shibata,Visualization of strain distribution by piezoelectric thin film, Studies in Applied Electromagnetics andMechanics 18, 2000, pp.305-308. [2] 大本,琵琶,松本,柴田,高分子圧電フィルムを用いた静的ひずみ分布測定に基づく板材背面の欠陥の検出及 び欠陥形状の同定の試み,日本機械学会関西支部 第 72 回定時総会講演会講演論文集, NO.974-1,1997,pp.1103.130“ “高分子圧電フィルムを用いた探傷のモニタリング“ “橋村 知,Tomo HASHIMURA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO,琵琶 志朗,Shiro BIWA
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