パルス磁場 EMAT の開発と構造材料を対象とした状態監視への適用
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
2. パルス磁場 EMAT の超音波出力特性非破壊検査技術のひとつである超音波探傷において、 2.1 パルス磁場 EMAT の構成 ピエゾ素子を用いた探触子が通常よく利用されている パルス磁場 EMAT は、磁石を電磁石に置き換えた構成で が、探触子と測定対象物との間には、音波の伝播が良あり、磁石型 EMATに比べて薄く軽量化できる特徴があ くなるように接触媒体を必要とする。その一方、電磁る。 Fig.1 にパルス磁場 EMAT の断面を示す。パルス磁 超音波探触子 EMAT は、導電性の試験体に直接超音波を場EMAT は、2つのコイルから成り立っており、磁石の 発生させる方法であるため、接触媒体が必要なく、原代わりに励磁を行うための励磁コイルと試験片に渦電 理的には非接触で使用できる特徴を有している[1]。そ 流を発生させるための送信コイルを重ねている。送信 れゆえ、接触媒体の状態によって超音波の伝播状況が コイルに対して x 方向に高周波電流を流す場合、励磁 左右されるということがなく、長時間の使用によってコイルには y 方向に電流を流す必要がある。励磁コイ も再現性の高い超音波送受信の結果を得ることができ、 ルでは、電流の流れる向きが入れ替わる位置で材料表 高温環境下においても使用できる。しかしながら、EMAT面を垂直に横切る磁場 B, の大きさは最大となる。した がこれまで幅広く利用されてこなかったのは、送信感がって、パルス磁場 EMAT では、コイル幅dを、磁石に 度および受信感度が圧電素子と比べて非常に小さかっよって周期的な磁場構造を持つ PPM構造 EMAT の磁石幅 たためである。と同じにすることで、PPM 構造 EMAT と同様の超音波指 今回、我々は、出力を向上させるために全く新しい 向性を持たせることが可能であると考えられる。 タイプのパルス磁場 EMAT を提案する。パルス磁場 EMAT では磁石の代わりに電磁石を用いており、超音波を発 生するコイルと組み合わせても非常に薄く軽量化でき Exciter Coil (d_ * * * *, TOTOTOTOTOTO] る。そして、この試作したパルス磁場 EMAT で超音波送Test Piece 信の実証を行い、その超音波出力特性について調べた。
Conceptual diagram of ultrasonic wave transmission by a pulse EMATFig. 1. 131 2.22.2 超音波出力特性定常磁場を生じさせるために、磁石の代わりに電磁 石とした励磁コイルに電流を流し続けると、励磁コイ ルが発熱してしまう。その一方、超音波は間欠的に発 生させ送信しているので、コイルの発熱を避けるため には、超音波を送信している間だけ定常磁場を得るよ うに電流を流せばよい。そこで、パルス的に電流を流 す電源回路を組立て、励磁コイルに接続してその特性 を調べた。励磁コイル両端電圧の立ち上り時間は、2us であった。その後約 25us の時間電圧を一定に維持して いた。本研究では、超音波を発生させる時間は 15us 以下であるので、電流が一定となり定常磁場を生じさ せる時間が 254us であれば十分である。それゆえ、定常 磁場が生じているタイミングで送信コイルに高周波電 流を流せば、PPM 構造 EMAT と同様に超音波が発生させ ることができると考えられる。 * パルス磁場 EMAT を送信器として超音波の受信強度 を調べた。 受信器には PPM 構造 EMAT を使用した。また 比較として、PPM 構造 EMAT でも超音波の送信を行った。 送信器と受信器は同一平面状に配置し、送受信間距離 を200mm とした。送信周波数は 510KHz とし表面 SH 波 を発生させた。受信波形を Fig.2 に示す。パルス磁場 EMATで送信した受信波形の peak-to-peak は0.27V、PPM 型 EMAT は 1.39V であったので、パルス磁場 EMAT と PPM 型 EMAT の受信強度比は約 0.2倍となった。また、第一 到達波は同じタイミングで受信されていた。Fig.3は、 パルス磁場 EMAT と PPM 構造 EMAT に対する第一到達波 の受信波形をその波形の最大値で規格化した結果であ る。パルス磁場 EMAT で送信した超音波の受信波形は、 PPM 構造 EMAT で送信した受信波形と非常によく一致し ている。これらの結果から、パルス磁場 EMAT は、励PPM-EMATAmplitude [V]Pulse-EMAT0_20406080 100 120Time [us] Fig.2. Detection wave profile.Normalized amplitude (a.u.)-1.01160708090100Time [us] Fig.3. Normalized detection wave profile.磁コイルにパルス的に電流を流して励磁を行い、 波を送信できることがわかった。超音3.結言永久磁石を励磁コイルに大電流を流す方式に置き換 えた新しい EMAT を提案した。定常的に電流を励磁コイ ルに流すと発熱してしまうため、超音波を送信する時 間だけ励磁を行える電源回路と組合せ、励磁コイルを 接続し電流を流したところ、25us の時間約 100A の電 流が一定に流れておりパルス的に磁場を発生させるこ とができた。この励磁コイルと送信コイルを組み合わ せて EMAT を製作し表面 SH 波を発生させた。パルス磁 場 EMAT と PPM 構造 EMAT で送信した超音波の受信波形 を比較したところ、パルス磁場 EMAT の送信強度は PPM 構造 EMAT の 20%であり、受信波形の形状は非常によ く一致していた。このことから、励磁コイルと送信コ イルとの相互誘導や、パルス磁場による超音波発生へ の影響はなく、励磁コイルにパルス的に電流を流し超 音波を発生させるパルス磁場 EMAT は、PPM 構造 EMAT と同じように超音波を発生できることを明らかにした。 今後、さらに励磁電流を流すことでパルス磁場 EMAT の 出力を向上できることが期待できる。参考文献1]Y. Kurozumi et. al, “Performance characteristics of electromagnetic generation and detection of shear horizontal waves by electromagnetic acoustic transducers““, Material Evaluations, Vol.59, No.5 (2001) pp.638-644“ “パルス磁場 EMAT の開発と構造材料を対象とした状態監視への適用“ “大塚 裕介,Yusuke OHTSUKA,西川 雅弘,Masahiro NISHIKAWA
2. パルス磁場 EMAT の超音波出力特性非破壊検査技術のひとつである超音波探傷において、 2.1 パルス磁場 EMAT の構成 ピエゾ素子を用いた探触子が通常よく利用されている パルス磁場 EMAT は、磁石を電磁石に置き換えた構成で が、探触子と測定対象物との間には、音波の伝播が良あり、磁石型 EMATに比べて薄く軽量化できる特徴があ くなるように接触媒体を必要とする。その一方、電磁る。 Fig.1 にパルス磁場 EMAT の断面を示す。パルス磁 超音波探触子 EMAT は、導電性の試験体に直接超音波を場EMAT は、2つのコイルから成り立っており、磁石の 発生させる方法であるため、接触媒体が必要なく、原代わりに励磁を行うための励磁コイルと試験片に渦電 理的には非接触で使用できる特徴を有している[1]。そ 流を発生させるための送信コイルを重ねている。送信 れゆえ、接触媒体の状態によって超音波の伝播状況が コイルに対して x 方向に高周波電流を流す場合、励磁 左右されるということがなく、長時間の使用によってコイルには y 方向に電流を流す必要がある。励磁コイ も再現性の高い超音波送受信の結果を得ることができ、 ルでは、電流の流れる向きが入れ替わる位置で材料表 高温環境下においても使用できる。しかしながら、EMAT面を垂直に横切る磁場 B, の大きさは最大となる。した がこれまで幅広く利用されてこなかったのは、送信感がって、パルス磁場 EMAT では、コイル幅dを、磁石に 度および受信感度が圧電素子と比べて非常に小さかっよって周期的な磁場構造を持つ PPM構造 EMAT の磁石幅 たためである。と同じにすることで、PPM 構造 EMAT と同様の超音波指 今回、我々は、出力を向上させるために全く新しい 向性を持たせることが可能であると考えられる。 タイプのパルス磁場 EMAT を提案する。パルス磁場 EMAT では磁石の代わりに電磁石を用いており、超音波を発 生するコイルと組み合わせても非常に薄く軽量化でき Exciter Coil (d_ * * * *, TOTOTOTOTOTO] る。そして、この試作したパルス磁場 EMAT で超音波送Test Piece 信の実証を行い、その超音波出力特性について調べた。
Conceptual diagram of ultrasonic wave transmission by a pulse EMATFig. 1. 131 2.22.2 超音波出力特性定常磁場を生じさせるために、磁石の代わりに電磁 石とした励磁コイルに電流を流し続けると、励磁コイ ルが発熱してしまう。その一方、超音波は間欠的に発 生させ送信しているので、コイルの発熱を避けるため には、超音波を送信している間だけ定常磁場を得るよ うに電流を流せばよい。そこで、パルス的に電流を流 す電源回路を組立て、励磁コイルに接続してその特性 を調べた。励磁コイル両端電圧の立ち上り時間は、2us であった。その後約 25us の時間電圧を一定に維持して いた。本研究では、超音波を発生させる時間は 15us 以下であるので、電流が一定となり定常磁場を生じさ せる時間が 254us であれば十分である。それゆえ、定常 磁場が生じているタイミングで送信コイルに高周波電 流を流せば、PPM 構造 EMAT と同様に超音波が発生させ ることができると考えられる。 * パルス磁場 EMAT を送信器として超音波の受信強度 を調べた。 受信器には PPM 構造 EMAT を使用した。また 比較として、PPM 構造 EMAT でも超音波の送信を行った。 送信器と受信器は同一平面状に配置し、送受信間距離 を200mm とした。送信周波数は 510KHz とし表面 SH 波 を発生させた。受信波形を Fig.2 に示す。パルス磁場 EMATで送信した受信波形の peak-to-peak は0.27V、PPM 型 EMAT は 1.39V であったので、パルス磁場 EMAT と PPM 型 EMAT の受信強度比は約 0.2倍となった。また、第一 到達波は同じタイミングで受信されていた。Fig.3は、 パルス磁場 EMAT と PPM 構造 EMAT に対する第一到達波 の受信波形をその波形の最大値で規格化した結果であ る。パルス磁場 EMAT で送信した超音波の受信波形は、 PPM 構造 EMAT で送信した受信波形と非常によく一致し ている。これらの結果から、パルス磁場 EMAT は、励PPM-EMATAmplitude [V]Pulse-EMAT0_20406080 100 120Time [us] Fig.2. Detection wave profile.Normalized amplitude (a.u.)-1.01160708090100Time [us] Fig.3. Normalized detection wave profile.磁コイルにパルス的に電流を流して励磁を行い、 波を送信できることがわかった。超音3.結言永久磁石を励磁コイルに大電流を流す方式に置き換 えた新しい EMAT を提案した。定常的に電流を励磁コイ ルに流すと発熱してしまうため、超音波を送信する時 間だけ励磁を行える電源回路と組合せ、励磁コイルを 接続し電流を流したところ、25us の時間約 100A の電 流が一定に流れておりパルス的に磁場を発生させるこ とができた。この励磁コイルと送信コイルを組み合わ せて EMAT を製作し表面 SH 波を発生させた。パルス磁 場 EMAT と PPM 構造 EMAT で送信した超音波の受信波形 を比較したところ、パルス磁場 EMAT の送信強度は PPM 構造 EMAT の 20%であり、受信波形の形状は非常によ く一致していた。このことから、励磁コイルと送信コ イルとの相互誘導や、パルス磁場による超音波発生へ の影響はなく、励磁コイルにパルス的に電流を流し超 音波を発生させるパルス磁場 EMAT は、PPM 構造 EMAT と同じように超音波を発生できることを明らかにした。 今後、さらに励磁電流を流すことでパルス磁場 EMAT の 出力を向上できることが期待できる。参考文献1]Y. Kurozumi et. al, “Performance characteristics of electromagnetic generation and detection of shear horizontal waves by electromagnetic acoustic transducers““, Material Evaluations, Vol.59, No.5 (2001) pp.638-644“ “パルス磁場 EMAT の開発と構造材料を対象とした状態監視への適用“ “大塚 裕介,Yusuke OHTSUKA,西川 雅弘,Masahiro NISHIKAWA