溶接時の変形・残留応力に拘束条件が及ぼす影響
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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
一般に溶接施工過程を経ることで溶接変形や残留応 力が発生する。溶接変形は、製品の寸法精度[1]を低下 させることで製品の組立精度や外観を損ねたり、また、 残留応力は疲労やSCCに大きな影響を及ぼすことが知 られている。 具体的に、重ね合せ継手の溶接施工について考える と、溶接変形としては縦収縮、横収縮、角変形、縦曲 り変形などが考えられる。この中でも縦曲り変形は溶 接後の寸法精度を悪化させるだけでなく、溶接過渡変 形において上板と下板の間を広げ溶接を継続できなく させたりすることもある。ここで溶接中の過渡変形に 対しては、溶接前に仮付け溶接を行ったり、拘束治具 によって変形を抑制することで対策している。しかし、 過渡変形の拘束が十分でなく溶接後に残ってしまった 変形については、矯正には多大な費用が必要であり、 さらに拘束の程度によって残留応力が異なってくるな ど問題が多い。したがって、溶接過渡変形に対する拘 束を効果的に利用することが、溶接変形および残留応 力の制御に対して有効であると考えられる。本研究では、溶接継手の拘束状態が溶接後の変形お よび残留応力に及ぼす影響を、拘束の有無、拘束の強 さ、拘束の範囲について検討した。
2. 様々な拘束条件における検討 2.1 解析条件本研究では Fig.1 に示される薄板の平板を重ね合せ て溶接を行う場合についての熱弾塑性解析を行った。 ここで、溶接速度は 10 mm/s である。また、図中の斜 線の範囲を各方向に拘束する/しない、そして、拘束力 を変化させた検討を行った。
Fig.1 Configuration of analytical model. 2.2 溶接変形について - 拘束条件が変形に及ぼす影響を検討するために、 様々な拘束条件の元での溶接を解析によって再現した。 - 拘束の有無が変形に及ぼす影響についての検討では、 Fig.2 に示すように、拘束が全く無い場合に比べ、何ら かの拘束がある場合には変形量がかなり抑えられるこ とと、面内方向の拘束は面外方向の拘束に比べ全ての 変形の抑制効果が大きいことが明らかになった。面外方向における拘束の強さを変化させた場合の検 討では、Fig.3 に示すように、拘束の強さが強いほど変 形を抑制できたが、角変形はどのような負荷でも低減 効果が大きかったのに対して、縦曲り変形は効果のあ る負荷と無い負荷の差が大きかったため負荷の大きさ には十分注意する必要があると言える。133- All free -- Directions X,Y; free - - Direction Z; free -----Clamp complete3.5Uz(mm)* 0 100 200 300 400 500 Distance from starting point in welding direction(mm) | Fig.2 Comparison of longitudinal bending distortionwhen clamping direction is changed.Uz(mm)-Z free -- K=100(N/mm) ・-K=1000(N/mm)---Clamp complete 10_ 100 200300 400 500 Distance from starting point in welding direction(mm) Fig.3 Comparison of longitudinal bending distortionwhen clamping force is changed.2.3 残留応力について ・ 溶接後のビード部近辺の溶接線方向の残留応力分布 を Fig.4 に示す。変形が抑えられるほど残留応力が小さ くなることが分かる。この結果から、拘束によって変 形を抑えることは残留応力を低減することにも有効で ある場合があると考えられる。3.結言 * 重ね合せ継手の溶接時の残留応力・変形に拘束条件 の及ぼす影響について検討した結果。 (1)拘束の有無が及ぼす影響の検討の結果、面内方向の」拘束の方が面外方向の拘束よりも変形が抑えられるこ とがわかった。 (2)拘束の強さが及ぼす影響の検討の結果、負荷が強け| れば強いほど変形が抑えられたが、扱う変形によって は負荷による効果の違いが大きいことがわかった。 (3)拘束によって変形を抑えることは残留応力を低減す ることにも有効である場合があることがわかった。 (4)残留応力と変形を制御するためには適切な拘束条件450Stress(MPa)- All free -- Direction X,Y; free -- Direction Z; free -----Clamp complete0 100 200300400500 Distance from starting point in welding direction(mm)Fig.4 Comparison of residual stress when clampingdirection is changed.を検討することが重要であることがわかった。謝辞本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム 「構造・材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表 者:馬越佑吉大阪大学教授)」事業推進費補助金,なら びに科学研究費補助金・基盤研究 (B): 課題番号 17360418 の補助を受けて実施したものである。参考文献[1] 阪口章、田中孝宏、“溶接変形の予測と対策(1)薄板構造物”、溶接学会誌、60 巻、1991、pp.466-471“ “溶接時の変形・残留応力に拘束条件が及ぼす影響“ “多田羅 晃弘,Akihiro TATARA,岡野 成威,Shigetaka OKANO,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI,豊田 政男,Masao TOYODA
一般に溶接施工過程を経ることで溶接変形や残留応 力が発生する。溶接変形は、製品の寸法精度[1]を低下 させることで製品の組立精度や外観を損ねたり、また、 残留応力は疲労やSCCに大きな影響を及ぼすことが知 られている。 具体的に、重ね合せ継手の溶接施工について考える と、溶接変形としては縦収縮、横収縮、角変形、縦曲 り変形などが考えられる。この中でも縦曲り変形は溶 接後の寸法精度を悪化させるだけでなく、溶接過渡変 形において上板と下板の間を広げ溶接を継続できなく させたりすることもある。ここで溶接中の過渡変形に 対しては、溶接前に仮付け溶接を行ったり、拘束治具 によって変形を抑制することで対策している。しかし、 過渡変形の拘束が十分でなく溶接後に残ってしまった 変形については、矯正には多大な費用が必要であり、 さらに拘束の程度によって残留応力が異なってくるな ど問題が多い。したがって、溶接過渡変形に対する拘 束を効果的に利用することが、溶接変形および残留応 力の制御に対して有効であると考えられる。本研究では、溶接継手の拘束状態が溶接後の変形お よび残留応力に及ぼす影響を、拘束の有無、拘束の強 さ、拘束の範囲について検討した。
2. 様々な拘束条件における検討 2.1 解析条件本研究では Fig.1 に示される薄板の平板を重ね合せ て溶接を行う場合についての熱弾塑性解析を行った。 ここで、溶接速度は 10 mm/s である。また、図中の斜 線の範囲を各方向に拘束する/しない、そして、拘束力 を変化させた検討を行った。
Fig.1 Configuration of analytical model. 2.2 溶接変形について - 拘束条件が変形に及ぼす影響を検討するために、 様々な拘束条件の元での溶接を解析によって再現した。 - 拘束の有無が変形に及ぼす影響についての検討では、 Fig.2 に示すように、拘束が全く無い場合に比べ、何ら かの拘束がある場合には変形量がかなり抑えられるこ とと、面内方向の拘束は面外方向の拘束に比べ全ての 変形の抑制効果が大きいことが明らかになった。面外方向における拘束の強さを変化させた場合の検 討では、Fig.3 に示すように、拘束の強さが強いほど変 形を抑制できたが、角変形はどのような負荷でも低減 効果が大きかったのに対して、縦曲り変形は効果のあ る負荷と無い負荷の差が大きかったため負荷の大きさ には十分注意する必要があると言える。133- All free -- Directions X,Y; free - - Direction Z; free -----Clamp complete3.5Uz(mm)* 0 100 200 300 400 500 Distance from starting point in welding direction(mm) | Fig.2 Comparison of longitudinal bending distortionwhen clamping direction is changed.Uz(mm)-Z free -- K=100(N/mm) ・-K=1000(N/mm)---Clamp complete 10_ 100 200300 400 500 Distance from starting point in welding direction(mm) Fig.3 Comparison of longitudinal bending distortionwhen clamping force is changed.2.3 残留応力について ・ 溶接後のビード部近辺の溶接線方向の残留応力分布 を Fig.4 に示す。変形が抑えられるほど残留応力が小さ くなることが分かる。この結果から、拘束によって変 形を抑えることは残留応力を低減することにも有効で ある場合があると考えられる。3.結言 * 重ね合せ継手の溶接時の残留応力・変形に拘束条件 の及ぼす影響について検討した結果。 (1)拘束の有無が及ぼす影響の検討の結果、面内方向の」拘束の方が面外方向の拘束よりも変形が抑えられるこ とがわかった。 (2)拘束の強さが及ぼす影響の検討の結果、負荷が強け| れば強いほど変形が抑えられたが、扱う変形によって は負荷による効果の違いが大きいことがわかった。 (3)拘束によって変形を抑えることは残留応力を低減す ることにも有効である場合があることがわかった。 (4)残留応力と変形を制御するためには適切な拘束条件450Stress(MPa)- All free -- Direction X,Y; free -- Direction Z; free -----Clamp complete0 100 200300400500 Distance from starting point in welding direction(mm)Fig.4 Comparison of residual stress when clampingdirection is changed.を検討することが重要であることがわかった。謝辞本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム 「構造・材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表 者:馬越佑吉大阪大学教授)」事業推進費補助金,なら びに科学研究費補助金・基盤研究 (B): 課題番号 17360418 の補助を受けて実施したものである。参考文献[1] 阪口章、田中孝宏、“溶接変形の予測と対策(1)薄板構造物”、溶接学会誌、60 巻、1991、pp.466-471“ “溶接時の変形・残留応力に拘束条件が及ぼす影響“ “多田羅 晃弘,Akihiro TATARA,岡野 成威,Shigetaka OKANO,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI,豊田 政男,Masao TOYODA