き裂発生・進展特性評価のための 粒界すべりおよび微視的不均質性を考慮した数値解析モデルの開発
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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
き裂の発生や進展は材料内で発生する応力状態に影響 されるが、この応力状態を決定する因子として微視的組 「織形態がある。微視的組織形態は、硬質相と軟質相の体 積分率や変形強度比、結晶粒の大きさや形状などで特徴 づけられるが[1][2]、これらの不均質性により応力集中が 起こり、き裂の発生・進展の原因となる。また結晶粒界 ではそのすべり挙動により応力の集中が起こりやすく、 き裂の発生・進展を考える上で重要であるが、これまで 十分な検討はなされていない。そこで、結晶粒界や組織の微視的不均質性に着目し、 これらが材料内の応力状態とどのように関係するかを把 握することはき裂発生・進展特性を評価するために必要 であり、さらにき裂発生・進展を低減するような材料の 開発に繋げることも可能となる。結晶粒界や組織の微視 的不均質性の影響を考慮して応力状態を推定するための 手段として数値シミュレーションは有効な手段のひとつ であり、本研究ではそのための解析モデルの開発を行う。 まず、粒界すべりを考慮した解析手法として、FEM(Finite Element Method)と MD (Molecular Dynamics)を結合する方法について検討した。また、微視的組織の不均質性を考 慮した解析を行うためには各組織の機械的特性が必要で あり、その推定方法に関して検討した。
2. 粒界すべりと微視的不均質性を考慮した数
値解析モデル2.1 結晶粒界のモデル化FEM はマクロな応力分布・歪分布などを推定するのに 有効な手法であるが、結晶粒界を考慮した解析を行う場 合では、結晶粒と結晶粒界のスケールの違いのため要素 分割が困難であり、また連続体力学を用いて粒界構造を 考慮したすべり挙動をモデル化することは適切ではない。 一方、MD は粒界構造を考慮したすべり挙動を解析する ことが可能であるが、現在の計算機能力では解析できる 領域が微小領域に制限される。そこで、比較的広い領域 での解析が可能で、且つ粒界構造を考慮したすべり挙動 を解析可能な手法として、FEM と MD を結合させる手法 を開発した。Fig.1 に示すように結晶粒内を FEM で、結 晶粒界を MD で解析し、両者を応力やすべり抵抗などの 物理量を介して結合させた。Fig.2 は、3 つの結晶粒の集合を模擬した領域に引張荷 重を負荷した場合の解析結果として、Mises の相当応力の 分布を示したものである。本解析では単相鋼を想定し、3 つの結晶粒に同じ機械物性値を与えた。また結晶粒界は135すべりが生じるが剥離はしないと仮定した。解析結果か ら、応力が結晶粒界で不連続になっていることがわかる。 3 つの結晶粒が同じ機械物性値であるとすると粒界すべ りを考慮しない場合では結晶粒界での応力は連続的にな るので、この結果は粒界すべりを考慮した影響が現れた ものと考えられる。また、3 つの結晶粒が会合する3重点 で応力が集中する傾向が現れていることも見受けられる。 すべりが生じるが剥離はしないと仮定した。解析結果か ら、応力が結晶粒界で不連続になっていることがわかる。 3 つの結晶粒が同じ機械物性値であるとすると粒界すべ りを考慮しない場合では結晶粒界での応力は連続的にな るので、この結果は粒界すべりを考慮した影響が現れた ものと考えられる。また、3 つの結晶粒が会合する3重点 で応力が集中する傾向が現れていることも見受けられる。 Fig.1Load200Load[MPa]Grainhiphihmax depthFEMGrain boundaryあい0.009ののFig.1( MD ) Schematic illustration of the FEM-MD combinedmethod.Fig.3 Load-Depth curve. その方法の1つに球圧子による押込み試験から真応力 - 真ひずみ曲線を推定した例がある[3]。この方法では、 材料が降伏した後の塑性領域における真応力- 真ひずみ 関係の推定値を得ることができ、実験値ともよく一致し ている。しかし、圧子と材料の接触範囲がミリオーダー であるため、そのまま結晶粒オーダーに適用することは できない。そこで材料との接触範囲をより微小な領域と することができる三角錐圧子を使用した押込み試験を利 用して真応力- 真ひずみ曲線を推定する方法が有効であ ると考えられ、今後推定方法について検討していく予定0.1 mmLoadである。謝辞I [MPa]307 Contour plot of Mises's equivalent stress.17.4本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム 「構造・材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表者: 馬越佑吉大阪大学教授)」事業推進費補助金、ならびに科 学研究費補助金基盤研究 (B): 課題番号 17360418 の補助 を受けて実施したものである。Fig.2参考文献2.2 各結晶粒の機械的性質の推定組織の微視的不均質を考慮して材料の応力分布を推定 するためには,各組織での機械的性質が必要となる。し かし、微小領域における機械的性質を評価する方法とし て引張試験等を用いることは測定精度の面から困難であ り、そこで新たな評価方法が必要である。よって、微小 領域での材料硬度を得るために利用される押込み試験法 から Fig.3 のような荷重- 侵入量曲線を測定して各組織 での機械的性質(真応力真ひずみ曲線)を推定するこ とを考える。 2.2 各結晶粒の機械的性質の推定組織の微視的不均質を考慮して材料の応力分布を推定 するためには,各組織での機械的性質が必要となる。し かし、微小領域における機械的性質を評価する方法とし て引張試験等を用いることは測定精度の面から困難であ り、そこで新たな評価方法が必要である。よって、微小 領域での材料硬度を得るために利用される押込み試験法 から Fig.3 のような荷重- 侵入量曲線を測定して各組織 での機械的性質(真応力真ひずみ曲線)を推定するこ[1] 友田陽、田村今男、“延性2相鋼の力学的性質”、鉄と鋼、Vol.67、1981、pp.439-455. [2] 冨田恵之、“二相混合組織をもつ高強度鋼の機械的性質と第二相の存在形態”、材料、 Vol.39、1990、pp.648-654. [3] Jeong-Hoon 、 “Derivation of plastic stress-strainrelationship from ball indentations”. J.Mater. Res, vol.16, No.11、Nov 2001、pp.3170-3178.Elastic/PlasticLoadingElastic Unloadinghi hi himax depthFig.3 Load-Depth curve. その方法の1つに球三子による押込み試験から真応力 - 真ひずみ曲線を推定した例がある[3]。この方法では、 材料が降伏した後の塑性領域における真応力- 真ひずみ 関係の推定値を得ることができ、実験値ともよく一致し ている。しかし、圧子と材料の接触範囲がミリオーダー であるため、そのまま結晶粒オーダーに適用することは、 できない。そこで材料との接触範囲をより微小な領域と することができる三角錐丘子を使用した押込み試験を利 用して真応力- 真ひずみ曲線を推定する方法が有効であ ると考えられ、今後推定方法について検討していく予定 * 本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム「構造材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表者: 馬越祐吉大阪大学教授)」事業推進費補助金、ならびに科 学研究費補助金・基盤研究 (B):課題番号 17360418 の補助 を受けて実施したものである。 友田陽、田村今男、“延性2相鋼の力学的性質”、鉄と 鋼、Vol.67、1981、pp.439455. 冨田恵之、“二相混合組織をもつ高強度鋼の機械的性 質と第二相の存在形態”、材料、 Vol.39、1990、 pp.648-654. Jeong-Hoon “Derivation of plastic stress-strain relationship from ball indentations““、J.Mater.Res、vol.16、 No.11、Nov 2001、pp.3170-3178. - 136 -“ “き裂発生・進展特性評価のための 粒界すべりおよび微視的不均質性を考慮した数値解析モデルの開発“ “新池 修平,Shuhei SHINIKE,樋口 良太,Ryota HIGUCHI,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI,豊田 政男,Masao TOYODA
き裂の発生や進展は材料内で発生する応力状態に影響 されるが、この応力状態を決定する因子として微視的組 「織形態がある。微視的組織形態は、硬質相と軟質相の体 積分率や変形強度比、結晶粒の大きさや形状などで特徴 づけられるが[1][2]、これらの不均質性により応力集中が 起こり、き裂の発生・進展の原因となる。また結晶粒界 ではそのすべり挙動により応力の集中が起こりやすく、 き裂の発生・進展を考える上で重要であるが、これまで 十分な検討はなされていない。そこで、結晶粒界や組織の微視的不均質性に着目し、 これらが材料内の応力状態とどのように関係するかを把 握することはき裂発生・進展特性を評価するために必要 であり、さらにき裂発生・進展を低減するような材料の 開発に繋げることも可能となる。結晶粒界や組織の微視 的不均質性の影響を考慮して応力状態を推定するための 手段として数値シミュレーションは有効な手段のひとつ であり、本研究ではそのための解析モデルの開発を行う。 まず、粒界すべりを考慮した解析手法として、FEM(Finite Element Method)と MD (Molecular Dynamics)を結合する方法について検討した。また、微視的組織の不均質性を考 慮した解析を行うためには各組織の機械的特性が必要で あり、その推定方法に関して検討した。
2. 粒界すべりと微視的不均質性を考慮した数
値解析モデル2.1 結晶粒界のモデル化FEM はマクロな応力分布・歪分布などを推定するのに 有効な手法であるが、結晶粒界を考慮した解析を行う場 合では、結晶粒と結晶粒界のスケールの違いのため要素 分割が困難であり、また連続体力学を用いて粒界構造を 考慮したすべり挙動をモデル化することは適切ではない。 一方、MD は粒界構造を考慮したすべり挙動を解析する ことが可能であるが、現在の計算機能力では解析できる 領域が微小領域に制限される。そこで、比較的広い領域 での解析が可能で、且つ粒界構造を考慮したすべり挙動 を解析可能な手法として、FEM と MD を結合させる手法 を開発した。Fig.1 に示すように結晶粒内を FEM で、結 晶粒界を MD で解析し、両者を応力やすべり抵抗などの 物理量を介して結合させた。Fig.2 は、3 つの結晶粒の集合を模擬した領域に引張荷 重を負荷した場合の解析結果として、Mises の相当応力の 分布を示したものである。本解析では単相鋼を想定し、3 つの結晶粒に同じ機械物性値を与えた。また結晶粒界は135すべりが生じるが剥離はしないと仮定した。解析結果か ら、応力が結晶粒界で不連続になっていることがわかる。 3 つの結晶粒が同じ機械物性値であるとすると粒界すべ りを考慮しない場合では結晶粒界での応力は連続的にな るので、この結果は粒界すべりを考慮した影響が現れた ものと考えられる。また、3 つの結晶粒が会合する3重点 で応力が集中する傾向が現れていることも見受けられる。 すべりが生じるが剥離はしないと仮定した。解析結果か ら、応力が結晶粒界で不連続になっていることがわかる。 3 つの結晶粒が同じ機械物性値であるとすると粒界すべ りを考慮しない場合では結晶粒界での応力は連続的にな るので、この結果は粒界すべりを考慮した影響が現れた ものと考えられる。また、3 つの結晶粒が会合する3重点 で応力が集中する傾向が現れていることも見受けられる。 Fig.1Load200Load[MPa]Grainhiphihmax depthFEMGrain boundaryあい0.009ののFig.1( MD ) Schematic illustration of the FEM-MD combinedmethod.Fig.3 Load-Depth curve. その方法の1つに球圧子による押込み試験から真応力 - 真ひずみ曲線を推定した例がある[3]。この方法では、 材料が降伏した後の塑性領域における真応力- 真ひずみ 関係の推定値を得ることができ、実験値ともよく一致し ている。しかし、圧子と材料の接触範囲がミリオーダー であるため、そのまま結晶粒オーダーに適用することは できない。そこで材料との接触範囲をより微小な領域と することができる三角錐圧子を使用した押込み試験を利 用して真応力- 真ひずみ曲線を推定する方法が有効であ ると考えられ、今後推定方法について検討していく予定0.1 mmLoadである。謝辞I [MPa]307 Contour plot of Mises's equivalent stress.17.4本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム 「構造・材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表者: 馬越佑吉大阪大学教授)」事業推進費補助金、ならびに科 学研究費補助金基盤研究 (B): 課題番号 17360418 の補助 を受けて実施したものである。Fig.2参考文献2.2 各結晶粒の機械的性質の推定組織の微視的不均質を考慮して材料の応力分布を推定 するためには,各組織での機械的性質が必要となる。し かし、微小領域における機械的性質を評価する方法とし て引張試験等を用いることは測定精度の面から困難であ り、そこで新たな評価方法が必要である。よって、微小 領域での材料硬度を得るために利用される押込み試験法 から Fig.3 のような荷重- 侵入量曲線を測定して各組織 での機械的性質(真応力真ひずみ曲線)を推定するこ とを考える。 2.2 各結晶粒の機械的性質の推定組織の微視的不均質を考慮して材料の応力分布を推定 するためには,各組織での機械的性質が必要となる。し かし、微小領域における機械的性質を評価する方法とし て引張試験等を用いることは測定精度の面から困難であ り、そこで新たな評価方法が必要である。よって、微小 領域での材料硬度を得るために利用される押込み試験法 から Fig.3 のような荷重- 侵入量曲線を測定して各組織 での機械的性質(真応力真ひずみ曲線)を推定するこ[1] 友田陽、田村今男、“延性2相鋼の力学的性質”、鉄と鋼、Vol.67、1981、pp.439-455. [2] 冨田恵之、“二相混合組織をもつ高強度鋼の機械的性質と第二相の存在形態”、材料、 Vol.39、1990、pp.648-654. [3] Jeong-Hoon 、 “Derivation of plastic stress-strainrelationship from ball indentations”. J.Mater. Res, vol.16, No.11、Nov 2001、pp.3170-3178.Elastic/PlasticLoadingElastic Unloadinghi hi himax depthFig.3 Load-Depth curve. その方法の1つに球三子による押込み試験から真応力 - 真ひずみ曲線を推定した例がある[3]。この方法では、 材料が降伏した後の塑性領域における真応力- 真ひずみ 関係の推定値を得ることができ、実験値ともよく一致し ている。しかし、圧子と材料の接触範囲がミリオーダー であるため、そのまま結晶粒オーダーに適用することは、 できない。そこで材料との接触範囲をより微小な領域と することができる三角錐丘子を使用した押込み試験を利 用して真応力- 真ひずみ曲線を推定する方法が有効であ ると考えられ、今後推定方法について検討していく予定 * 本研究の一部は、文部科学省 21 世紀 COE プログラム「構造材料先進材料デザイン拠点の形成(研究代表者: 馬越祐吉大阪大学教授)」事業推進費補助金、ならびに科 学研究費補助金・基盤研究 (B):課題番号 17360418 の補助 を受けて実施したものである。 友田陽、田村今男、“延性2相鋼の力学的性質”、鉄と 鋼、Vol.67、1981、pp.439455. 冨田恵之、“二相混合組織をもつ高強度鋼の機械的性 質と第二相の存在形態”、材料、 Vol.39、1990、 pp.648-654. Jeong-Hoon “Derivation of plastic stress-strain relationship from ball indentations““、J.Mater.Res、vol.16、 No.11、Nov 2001、pp.3170-3178. - 136 -“ “き裂発生・進展特性評価のための 粒界すべりおよび微視的不均質性を考慮した数値解析モデルの開発“ “新池 修平,Shuhei SHINIKE,樋口 良太,Ryota HIGUCHI,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI,豊田 政男,Masao TOYODA