スパッタ法によるセラミックス二層被覆ガラスの機械的特性

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カテゴリ: 第2回
1.緒言
セラミックスコーティング材料は、セラミックスを 金属あるいは非金属材料の表面にコーティングするこ とによって基材の機械的および化学的性質の改善、な らびに耐久性の向上を指向、あるいは新たな機能性材 料の創出を目的として、その工業的応用が検討されて いる。 1. 本研究では、アルミナ(Al2O)および炭化ケイ素(SiC) のセラミック材料をスパッタ法によりホウケイ酸ガラ ス基板に二層被覆し、SiC 被膜の即時的あるいは経時 的な剥離現象の改善を試みるとともに、その被覆材料 の機械的特性を明らかにした。この結果に基づいて、 ガラス基板材料単体の機械的特性と比較することによ り、二層被覆の機械的特性に及ぼす効果について考察 した。
2. 実験方法
2.1 スパッタリング被覆の作成 * 本実験では、高周波マグネトロン3層スパッタリン グ装置(島津製作所製、HSR-521A 型)を用いて、Al2O3 と SiC のスパッタリング二層薄膜をガラス基板上に形
二層被覆ガラスの成した。成膜順序は、A1,O,を先に成膜し、その上に SiC を成膜した。 - 高周波マグネトロンスパッタリング法により薄膜の 創成を行う際、高周波電源の出力、チャンバ内圧力、 などの諸条件から成膜の制御はある可能であることが 実験的にわかっている。そこで、本研究では成膜条件 としてチャンバ内初期圧力(真空度)、スパッタリング 時間、高周波電源の出力、チャンバ内ガス圧力(スパッ タリング圧力)、スパッタ開始時の基板温度、および雰 囲気ガス流量を組み合わせることによって成膜した。 雰囲気ガスにはアルゴン(Ar)ガスを用いた。また初期 真空度を 1.0×10““ Torr (1.33×10' Pa) とし、初期基板温 度は室温とした。高周波電源の出力は600 W とし、Ar ガス圧(スパッタリング圧力)は 1.0×10Torr (1.33 Pa) とし、Ar ガス流量を 1.67×107m2/s (10 cc/min)とした。 なお、予備実験を行うことによって高周波電源出力 600 W での成膜速度を求め、Al2O, と SiC の膜厚が1μm ま たは5um になるように、スパッタリング時間をそれぞ れ設定した。2.2 被膜性状の観察 2.2. 1 被膜表面画像の取込み * 本実験では、走査型レーザー顕微鏡(レーザーテック 社製、1L M21)を用いて被膜表面を画像として画像処141理ソフトに取り込み、スパッタリングによって作製さ れた被膜の気孔率と表面粗さを測定した。画像処理ソフトには、MacAspect LT を用いた。この ソフトは、画像計測から粒子計測のみならず統計処理 までサポートした画像処理インテグレーションソフト ウェアである。 *画像の取込みには、薄膜をスパッタした被覆基板の 中心部、および中心から5mm、15 mm、25 mm の同心 円上の点においてそれぞれ4点ずつ行った。した被覆基板の 25 mm の同心った。2.2.2 表面粗さと気孔率の測定 ・スパッタリング法によって作製された薄膜の表面性 状の成膜条件に対する依存性を調べるため、表面粗さ および気孔率の測定を行った。 1. 表面粗さには算術平均粗さ、最大高さ、十点平均粗 さなどがあるが、本実験では最も広く用いられている 算術平均粗さ Ra によって表面粗さの評価を行った。 算術平均粗さとは、粗さ曲線からその中心線方向に測 定長さを抜き取り、その部分の中心線と粗さ曲線との 偏差の絶対値を平均した値である。 - また、気孔率は以下のようにして測定を行った。ま ず、取り込んだ画像に対してしきい値を設定すること により、2値化を行う。しきい値による2値化とは、 濃淡画像に対して一つのしきい値を設定し、画像各点 の濃度からしきい値以上の点を抽出し、しきい値以下 の点を 0 レベルにすることである。本実験では気孔の 部分が抽出されるようしきい値を設定し、2値化を行 った。以上のようにして抽出した気孔の面積率を測定 し、それを気孔率とした。2.3 表面抵抗率の測定 1本実験では表面抵抗率の測定に高抵抗率計(ダイア インスツルメンツ製、MCP-HT450)を使用した。この 抵抗率計は、印可電圧を直流で 10 V~1000 Vまで設定 することにより、8.00×10° 2~9.99×102 の抵抗を測 定することができる。また試料の表面に電極(プロー ブ)を押し当て、表面を流れてくる電流を検出し、次式 によって表面抵抗率 Pam を算出することができる。Psm = Rx RCF(S)-1ここで、R は測定された抵抗値、RCF(S)は補正係数 と呼ばれるもので、試料の形状や寸法および測定する 位置により変化する。本実験で使用した抵抗率計ではro2m RCF (S)=(2) ln(d, Id) RCF (S) - ... -* In(dz ld,)2元-2-2となる。上式において、プローブの外側の電極の直径 d, は 3.0cm であり、内側の電極の内径 d は 1.6cm であ る。これにより RCF(S)の値は 10.0 となる。またこの計 測器具、および計測法は JIS K-6911 に準拠している [1][2]。 * 測定は、それぞれの被覆材において、中心付近、お よび中心から半径 5mm、10 mm、15 mm の個所におい てそれぞれ4回行った。2.4 試験片の作成 * 上述の測定では円板状の被覆材そのものについて行 うが、硬さ試験および曲げ試験に供するにあたっては この円板状の被覆材から切り出した試験片を用いて行 った。このときの具体的な試験片の作成方法は、まず ガラス切りで直径 100 mm の被覆材をマイクロカッタ ーに装着できるような大きさに割断し、その後マイク ロカッターを用いて長さ 50 mm、幅 10 mm になるよう に切断加工した。試験片はそれぞれの被覆材について 5本ずつ作成し、各成膜条件についてそれぞれ 15 本ず つ準備した。2.5 硬さ測定 - 本実験では超微小硬さの測定にあたって、ダイナミ ック超微小硬さ試験機(島津製作所製、DUH-200 型)を 用いた。その測定原理は、まず三角錘圧子(夜間角 115)を電 磁力によって設定試験力まで一定速度で押し付け、圧 子が試料に侵入して行く過程で、圧子の試料への侵入 深さを自動的に計測する。これによって、圧子の侵入 過程での試料の変形抵抗およびその変化を動的に測定 することができ、それらに関連した種々の情報を得る ことが可能になる[3]。 * 本装置では圧子の侵入深さを用いて評価する方式を 採用している。すなわち、押込み力をP(N)、圧子の試 料への侵入量(押込み深さ)を D(um)としたとき、ダイ ナミック硬さ Houは次式で定義される。PHow = aGPa) (3) ここで、a は圧子の形状によって決定される定数であHow = a Gra) (3)で、a は圧子の形状によって決定される定数であ142り、本実験において用いた三角錘圧子(夜間角 1159)で はa=37.833 である[3]。 - このダイナミック硬さは圧子を押し込んでいく過程 の試験力と押込み深さによって得られる硬さであり、 試料の塑性変形だけでなく、弾性変形(つまり、除荷後 の弾性回復分)も含んだ状態での材料変形特性という ことになる[3]。2.6 曲げ強度の測定 - 曲げ試験は、プログラムファンクションジェネレー タ(島津制作所製、4080A)により負荷力を制御した電気 油圧サーボ式引張圧縮試験機(島津製作所製、サーボペ ット Lab-5)を用いて実施した。 - 本実験では、支点間距離 20mm の3点曲げ試験によ り曲げ強度を求めた。負荷は一定速度で増加させ、破 断時の負荷力の大きさから、曲げ強度を求めた。3.実験結果3.1 表面粗さと気孔率 - 各成膜条条件に対応する表面性状の指標として、本 実験では表面粗さと気孔率を計測した。まず、ガラス 基板そのものの表面粗さと、各成膜条件における SiC-Al2O3 二層被膜の表面粗さの分布特性を比較する ために、表面粗さ Raの分布をワイブル確率紙上に表し たものを Fig.1 に示す。図からわかるように、表面粗さ については 2 母数ワイブル分布により、その分布特性 を表示しうることがわかる。0.995 0.950 0.900Glass0.50- A1,0,1gun,SiC:1yum |--O-A1,09:1um, SiC:Sum ・・・AI,O,:Sum,SiC:lum | ... ““Al,O,Sun,SiC:SumCumulative probability FCATSUTAKE Trootsp it0.100 0.0500.010 0.00540.020.050.030.04 Surface roughness Ra, x 10-?umFig.1. Distribution of surface roughness.次に、SiC-A1,二層被膜の気孔率pの分布特性を比 較するために、その分布をワイブル確率紙上に表したものを Fig.2 に示す。この場合は、2母数ワイブル分布 に対する適合性がなく、むしろ3 母数ワイブル分布に 適合していることが推察される。なお、Fig.1 からは表面粗さと膜厚にはわずかな相関 性が確認できるが、Fig.2 においては気孔率の膜厚依存 性はほとんど認められない。0.995 0.950 0.900| 0- A1,0;lum, SiC;lum |---- A1,0 ;lum, SiC; Sum | 09 A1,0;sum, SiC;lum --- A1, 0,;5 um, SiC;5um09CY0Cumulative probability Fスタ:0.100 0.050Pill:::0.010 0.005Lulu0.0001 10.0010.010Porosity p Fig.2. Distribution of porosity.C0.995 0.950 0.900-O- A1, 0, :lum,SiC:lum-A10:1um, Sic:Sum E|--6.A10:5um,SiC:lum.... AI 0:5um,Sic:5umCumulative probability F992.......d...11100 0.050Sorab116 11-10.010 0.0050.1111060Surfase resistivity × 102/ Fig.3. Distribution of surface resistivity.3.2 スパッタリング被膜の表面抵抗率各成膜条件における SiC-A1,O, 二層被膜の表面抵抗 率の分布特性を比較するために、表面抵抗率の分布 をワイブル確率紙上に表したものを Fig.3 に示す。表 面の材料は SiC なので基本的に影響を受けるのは SiC の膜厚である。Fig.3 からわかるように、表面材料であ る SiC の膜厚が大きくなれば表面抵抗率は小さくなる。 また、わずかではあるが、AL,O,の膜厚に対しても SiC の場合と同様に、膜厚が大きくなると表面抵抗率が小 さくなるという依存性が確認できた。ただし、個々の 被覆材においてはほぼ同じ値が得られたことから、被143膜は個々の被覆材においてはほぼ均一に成膜されてい ると考えられる。3.3 硬さ特性 ・ ガラス基板そのものの硬さと、各成膜条件における SiC-A120, 二層被膜の硬さの分布特性を比較するため に、その分布をワイブル確率紙上に表したものを Fig.4 に示す。 Fig.4 からわかるように、いずれの成膜条件に おいても、バルク材としてはガラス基板よりも硬い。 SiC-AI,O, 二層被膜はガラス基板単独での測定に比べ て硬さ特性が向上している。また、分布特性について みると、膜厚が厚いほど硬さ分布は高硬度側に遷移す ることがわかる。0.995 0.950F 0.900Glass 0- A1,05:1um,SiC:lum ・・・A1,0,:lum,SiC:Sum O ALLO,:5um,SiC:lum ? A1,0,:5um,Sic:5umCumulative probability F81200.100 0.050reathemeBb - ---0.010 0.005Dynamic hardness Hoy, GPaFig.4. Distribution of dynamic hardness.3.4 曲げ強度 - 表面粗さ、気孔率、表面抵抗率の測定を終えた SiC-A1,O二層被覆材を 2.4節で述べたように 50mm×10 mm の試験片に切り出し、曲げ試験に供した。ガラス 基板単体での曲げ強度と、各成膜条件における SiC-A1,O, 二層被覆材の曲げ強度の分布特性を比較す るために、その分布をワイブル確率紙上に表したもの をFig.5 に示す。いずれの被覆材においてもガラス基板 単体に比べて高強度側に曲げ強度が分布していること がわかる。特に、ガラス基板単体に比べて低強度側に おける強度の改善が顕著になっている。以前の西村ら が行った実験結果[4]では、SiC 被覆材の方が AILO, 被 覆材よりも高強度で、また、AI,O,の膜厚に対する依存 性よりも SiC の膜厚に対する依存性の方が強いことが 判明している。したがって、Al2O3 1 um、SiC 1 um の 二層被覆材より Al2O3 1 um、SiC 5 um の二層被覆材の方が、また Al2O3 5 um、SiC 1 yum の二層被覆材より Al0, 5 um、SiC 5 um の二層被覆材の方が高強度を示 すことが予想される。しかし、測定結果では、ガラス 基板単体のものと比較して低強度側の強度特性は薄膜 を被覆することにより大幅に改善されたが、高強度側 の強度特性はすべてがほぼ同一の値となった。これは、 薄膜被覆により強度が改善される一方で、スパッタリ ング中にチャンバ内の温度が上昇することにより、ガ ラス基板自体の強度が低下したためであると考えられる。0.995 0.950900Glass F1 7-11,0:1 um,SiC:1 um---- A1,0lum,SiC:Sum 10.A10:5um, SIC:lum *-**** A1, 0,:5um,Sic:5um0.5Cumulative probability0.100 0.0500.010 0.0052020050100 Bending strength or, MPaFig.5. Distribution of bending strength.なお、試験片によっては二分する形態で破壊したが、 このような破壊形態を示した試験片に対応するデータ 点は低強度側に偏って存在することが判明した。巨視 的に3つ以上に分断した試験片では、二分した試験片 に比べて破断面の面積が大きくなり、その破面形成に よって新たに生じる表面エネルギーに相当する外部エ ネルギーがより多く必要となると考えられ、その結果 として高強度になったものと考えられる。3.5 曲げ強度と硬さの関係 - 金属材料およびセラミック材料のいずれにおいても、 通常バルク材では強度と硬さの間によい相関が観察さ れる。本研究における硬さは被膜に直接対応するもの であるのに対して、曲げ強度はバルクとしての被覆材 に対するものであり、それぞれ測定対象が異なるが、 ここでは両者の相関性について検討を行う。ガラス基板単体、および各成膜条件における SiC-AI,O, 二層被覆材における曲げ強度と硬さの関係 を Fig.6 に示す。図には、各成膜条件下で準備した 15144本の各々の試験片において測定した硬さの平均値とそ の試験片の曲げ強度の関係、すなわち各条件について 合計 15 点のデータがプロットされている。さて、Fig.6 からわかるように、膜厚が厚い被覆材に 関してはその硬さと曲げ強度に相関が確認できる。し かし、膜厚が薄い被覆材については明瞭な相関が認め られない。これは、膜厚の薄い被覆材の被膜の表面が 粗く硬さ試験にある程度の影響を与えたものと考えら れる。Bending strength op, MPaGlass o A1,0,:lum, SiC:1um ? AIO :1 um, Sic:5umAIO :5um, Sic:lum ? A10:5um, Sic:5umDynamic hardness Hou, GPaFig.6. Bending strength correlated with hardness.100M ATTONIT-800Bending strength Of, MPaGlass O ANO,: Tum, Sic: lum ? A1,97 : lum, SiC : Sum O A1,0; : Sum, SiC : lum? A1,9, : Sum, SiC : Sum 2 3 4 5. 6 7 Dynamic hardness Hous GPa018Fig. 7. Bending strength correlated with hardness withoutspecimens broken into two parts.前述のように、いずれの被覆材についても、曲げ強 度試験において二分する形態で破断した試験片と3つ 以上に分断した試験片があった。既に述べたように、 二分する形態で破断した試験片はそれ以外の試験片と対比して低強度になったが、Fig.7 では Fig.6 のプロッ ト点のうち二分する形で破断した試験片のデータを削 除したデータのみをプロットした結果を示す。図から もわかるように、二分した形態で破断したデータ点を 除くと、総じて硬さが増大すると曲げ強度も上昇する 傾向が見られる。 以上より、基本的にはセラミックス被覆材における曲 げ強度と硬さの間には相関があると考えられる。4.結言高周波マグネトロンスパッタリング法を用いて、ま ずA120, を、さらに SiC をガラス基板上に二層被覆す ることにより、ガラス基板の硬度特性を向上させるこ とができた。強度特性については、低強度側の強度特 性は改善されたが、高強度側の強度特性はあまり改善 されなかった。スパッタ時間が長くなるほど、被膜の 均一性などその機械的信頼性は低下することというこ とが考えられる。ただし、SiC 単層被覆における剥離 現象については、A1,O,をガラス基板と SiC の間に被覆 することで飛躍的に改善され、時間が経過しても剥離 することはなかった。さらに、被覆材料の健全性の指 標となる強度特性については超微小硬度の計測により、 その基板材料も含めた形で評価できることを明らかに した。参考文献 [1] ダイアインスツルメンツ,抵抗率計シリーズラインアップカタログ. [2] ダイアインスツルメンツ,高抵抗率計MCP-HT450 取扱説明書. [3] 島津製作所,ダイナミック超微小硬度計DUH-200 取扱説明書. [4] 西村慎一, スパッタ法によるセラミックス被覆 のガラス強度に及ぼす影響,京都大学学士学位論 文(2002) .145“ “スパッタ法によるセラミックス二層被覆ガラスの機械的特性“ “大友 隆史,Takafumi OTOMO,星出 敏彦,Toshihiko HOSHIDE
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