イオン照射によるセラミックス強度の耐照射特性評価
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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
SiC/SiC 複合材料は高温環境において優れた物理・化 学・機械特性を持ち、かつ優れた低放射化特性を持っ ていることから、高効率の核融合炉、先進核分裂炉用 構造材料として期待されている。その実現にあたり、 主要な構成要素である SiC の照射後の強度特性変化を 把握することは重要であり、現在も研究が進められて いる。しかし従来の研究で用いられてきた中性子照射 には莫大な時間とコストがかかる上、試料自体が放射 化するなどの問題点があり、温度などの精密な制御も 困難である。また SiC/SiC 複合材料は、1000°Cを超え る高温域での使用が期待されているが、そのような条 件を満たす照射場は非常に限られている。一方でイオ ン照射は比較的簡便に行え、ターゲット材料が放射化 しない、照射条件を精密に制御することができるなど の利点がある。なかでも本研究で利用した京都大学 DuET 施設においては、1500°Cを超える超高温での精 密な照射が可能である。このような背景から中性子照 封材の代用としてイオン照射材を用いて照射後の強度特性を評価する方法が必要とされているが、イオン照 射では損傷領域が数mm程度の深さしかなく、マクロな 強度評価を行うのは困難であるため、これまで押し込 み試験などの限られた方法しか用いられていなかった。 そこで高密度のセラミックスの強度が表面の損傷に依 存することに着目し、イオン照射した SiC に対して照 射面を引張側にして 3 点曲げ試験を行うことにより評 価することを試みた。本研究ではこの手法を新たなマ クロ強度評価法として確立し、SiC の強度特性に及ぼ す照射効果の系統的かつ信頼性のあるデータを得るこ とを目的とする。
2. 実験方法
* 供試材は ROHM AND HASS 社製の超高純度 CVD-SiC で 1mmm×1mm×24mmの試験片に加工し、 京都大学 DuET 施設において、イオン種は 5.1MeV si**、 温度は 600°C、800°C、1600°C、損傷量は試料表面で 2.1dpa (2.1×10- n/m2, E>0.1MeV)の条件でシングルイ オン照射を行った。照射前後の試料に対し、デジタル 万能材料試験機(インストロン製、Model 5581)を用いた 3点曲げ試験を室温、大気中でスパン長さ 18mm、クロ スヘッドスピード 0.5mm/min の条件で上述のように照 射面が引張面になるように行った。試験本数は各条件 とも20本以上でワイブル解析を用いて評価を行った。168initial cracks propergation regiondamage areaUnirradiated11m2.1dpa,600°C1mmdamage areadamage area2.1dpa,800°C1μm 2.1 dpa、1600°ClumFig. 1 SEM observation of fracture surface様に超微小押し込み試験機(エリオニクス製、域内に収まる表面近傍で決定されることが示唆された。・mmmm・1m・12世nロ仕土日同様に超微小押し込み試験機(エリオニクス製、 ENT-1100a)を用いて押し込み荷重 5gf、加重保持時間 10s の条件で押し込み試験を行った。強度試験後は電界 放射型走査電子顕微鏡(JSM-6700F、日本電子)により破 面観察を実施した。3. 実験結果Table 1 Result of flexural test and nano-indentation test flexural strength hardness elastic modulus(GPa)(GPa)(MPa)Unirradiated78935.94102.1dpa、600°C125140.8381.32.1dpa800°C109241.4395.32.1dpa、1600°C142137407.2Fig.1 は曲げ試験後の非照射材および各照射条件で の試験片の破面である。非照射材で見られる初期亀裂 の伝播領域は試料表面から 2.5um程度であった。これ は照射材でも同様で、イオン照射による損傷領域内に 収まる程度のものであることが観察された。このこと からイオン照射を行った SiC のマクロな強度が損傷領 内に収まる表面近傍で決定されることが示唆され1LN(oi)6.587.517wUnirradiatedM-10.82.1dpa、1600°CM=17.1LN(LN(1/(1-Fi))) b u ? ton2.1dpa、6000M%3D7.02.1dpa,800°CM-4.6 ““Fig.2 Weibull plot of flexural stress after ion-irradiationTable 1 に非照射材、照射温度 600°C、800°C、1600°C 各条件でのイオン照射材の曲げ試験および超微小押し 込み試験の結果を示す。また Fig. 2 は曲げ強度をワイ169ブルプロットしたものである。曲げ強度に関してはす べての照射温度で非照射材に比べ大きく上昇し、600°C と 800°Cを比較すると照射温度が高いほど強度、ワイ ブル係数ともに低くなった。ion-irradiation 0.8dparelative fracture toughnessも温っは L度だ起」での 率と200400600 800 1000 1200 irradiation temperature (°C)14001600Fig.3 Fracture toughness after ion-irradiationら、セラミックスの強度は基本的には表面の破壊靭性値 に依存することからイオン照射後の押し込み試験によ る破壊靭性値の温度依存性を Fig. 3 に示す。破壊靭性 値はイオン照射により大きく上昇し、照射温度が高く なるほど低下しており、これは 600°Cと 800°Cの曲げ試 験の結果と比較して妥当なものであるといえる。また 破面において照射材の初期亀裂が非照射材に比べて明 らかに少なくこれが強度の上昇に寄与したと考えられる。1600°Cという高温照射での大きな強度、ワイブル 係数の上昇については破壊靭性値のデータがないこと もあり明らかにはなっていないが、破面観察ではその 初期亀裂が 600°Cと 800°Cと比べても少なく、これが最 も高い強度を示した原因と考えられ、少なくともこの 温度まで照射による劣化を示さないことが明らかにな った。超微小押し込み試験の結果、イオン照射により硬度 は上昇し、弾性率は低下することがわかった。1600°C での照射では 600°C と 800°Cでの照射に比べ硬度、弾性 率ともに非照射材の値に近づいた4.結論破面観察や押し込み試験の温度依存性との類似性か ら、イオン照射材に対する曲げ試験を用いた照射後の 強度特性評価法の有効性が示唆された。この方法を用 いて 1600°Cという中性子照射では不可能な領域で SiC のマクロ強度に及ぼす照射効果を評価することができ た。SiC はイオン照射後の強度が 1600°Cという高温で の照射でも低下することなく非常に高い値を示し、核 融合炉、先進核分裂炉材料として有望であるといえる。170“ “イオン照射によるセラミックス強度の耐照射特性評価“ “池田 進一郎,Shinichiro IKEDA,檜木 達也,Tatsuya HINOKI,朴 環喚,KyeongHwan PARK,香山 晃,Akira KOHYAMA
SiC/SiC 複合材料は高温環境において優れた物理・化 学・機械特性を持ち、かつ優れた低放射化特性を持っ ていることから、高効率の核融合炉、先進核分裂炉用 構造材料として期待されている。その実現にあたり、 主要な構成要素である SiC の照射後の強度特性変化を 把握することは重要であり、現在も研究が進められて いる。しかし従来の研究で用いられてきた中性子照射 には莫大な時間とコストがかかる上、試料自体が放射 化するなどの問題点があり、温度などの精密な制御も 困難である。また SiC/SiC 複合材料は、1000°Cを超え る高温域での使用が期待されているが、そのような条 件を満たす照射場は非常に限られている。一方でイオ ン照射は比較的簡便に行え、ターゲット材料が放射化 しない、照射条件を精密に制御することができるなど の利点がある。なかでも本研究で利用した京都大学 DuET 施設においては、1500°Cを超える超高温での精 密な照射が可能である。このような背景から中性子照 封材の代用としてイオン照射材を用いて照射後の強度特性を評価する方法が必要とされているが、イオン照 射では損傷領域が数mm程度の深さしかなく、マクロな 強度評価を行うのは困難であるため、これまで押し込 み試験などの限られた方法しか用いられていなかった。 そこで高密度のセラミックスの強度が表面の損傷に依 存することに着目し、イオン照射した SiC に対して照 射面を引張側にして 3 点曲げ試験を行うことにより評 価することを試みた。本研究ではこの手法を新たなマ クロ強度評価法として確立し、SiC の強度特性に及ぼ す照射効果の系統的かつ信頼性のあるデータを得るこ とを目的とする。
2. 実験方法
* 供試材は ROHM AND HASS 社製の超高純度 CVD-SiC で 1mmm×1mm×24mmの試験片に加工し、 京都大学 DuET 施設において、イオン種は 5.1MeV si**、 温度は 600°C、800°C、1600°C、損傷量は試料表面で 2.1dpa (2.1×10- n/m2, E>0.1MeV)の条件でシングルイ オン照射を行った。照射前後の試料に対し、デジタル 万能材料試験機(インストロン製、Model 5581)を用いた 3点曲げ試験を室温、大気中でスパン長さ 18mm、クロ スヘッドスピード 0.5mm/min の条件で上述のように照 射面が引張面になるように行った。試験本数は各条件 とも20本以上でワイブル解析を用いて評価を行った。168initial cracks propergation regiondamage areaUnirradiated11m2.1dpa,600°C1mmdamage areadamage area2.1dpa,800°C1μm 2.1 dpa、1600°ClumFig. 1 SEM observation of fracture surface様に超微小押し込み試験機(エリオニクス製、域内に収まる表面近傍で決定されることが示唆された。・mmmm・1m・12世nロ仕土日同様に超微小押し込み試験機(エリオニクス製、 ENT-1100a)を用いて押し込み荷重 5gf、加重保持時間 10s の条件で押し込み試験を行った。強度試験後は電界 放射型走査電子顕微鏡(JSM-6700F、日本電子)により破 面観察を実施した。3. 実験結果Table 1 Result of flexural test and nano-indentation test flexural strength hardness elastic modulus(GPa)(GPa)(MPa)Unirradiated78935.94102.1dpa、600°C125140.8381.32.1dpa800°C109241.4395.32.1dpa、1600°C142137407.2Fig.1 は曲げ試験後の非照射材および各照射条件で の試験片の破面である。非照射材で見られる初期亀裂 の伝播領域は試料表面から 2.5um程度であった。これ は照射材でも同様で、イオン照射による損傷領域内に 収まる程度のものであることが観察された。このこと からイオン照射を行った SiC のマクロな強度が損傷領 内に収まる表面近傍で決定されることが示唆され1LN(oi)6.587.517wUnirradiatedM-10.82.1dpa、1600°CM=17.1LN(LN(1/(1-Fi))) b u ? ton2.1dpa、6000M%3D7.02.1dpa,800°CM-4.6 ““Fig.2 Weibull plot of flexural stress after ion-irradiationTable 1 に非照射材、照射温度 600°C、800°C、1600°C 各条件でのイオン照射材の曲げ試験および超微小押し 込み試験の結果を示す。また Fig. 2 は曲げ強度をワイ169ブルプロットしたものである。曲げ強度に関してはす べての照射温度で非照射材に比べ大きく上昇し、600°C と 800°Cを比較すると照射温度が高いほど強度、ワイ ブル係数ともに低くなった。ion-irradiation 0.8dparelative fracture toughnessも温っは L度だ起」での 率と200400600 800 1000 1200 irradiation temperature (°C)14001600Fig.3 Fracture toughness after ion-irradiationら、セラミックスの強度は基本的には表面の破壊靭性値 に依存することからイオン照射後の押し込み試験によ る破壊靭性値の温度依存性を Fig. 3 に示す。破壊靭性 値はイオン照射により大きく上昇し、照射温度が高く なるほど低下しており、これは 600°Cと 800°Cの曲げ試 験の結果と比較して妥当なものであるといえる。また 破面において照射材の初期亀裂が非照射材に比べて明 らかに少なくこれが強度の上昇に寄与したと考えられる。1600°Cという高温照射での大きな強度、ワイブル 係数の上昇については破壊靭性値のデータがないこと もあり明らかにはなっていないが、破面観察ではその 初期亀裂が 600°Cと 800°Cと比べても少なく、これが最 も高い強度を示した原因と考えられ、少なくともこの 温度まで照射による劣化を示さないことが明らかにな った。超微小押し込み試験の結果、イオン照射により硬度 は上昇し、弾性率は低下することがわかった。1600°C での照射では 600°C と 800°Cでの照射に比べ硬度、弾性 率ともに非照射材の値に近づいた4.結論破面観察や押し込み試験の温度依存性との類似性か ら、イオン照射材に対する曲げ試験を用いた照射後の 強度特性評価法の有効性が示唆された。この方法を用 いて 1600°Cという中性子照射では不可能な領域で SiC のマクロ強度に及ぼす照射効果を評価することができ た。SiC はイオン照射後の強度が 1600°Cという高温で の照射でも低下することなく非常に高い値を示し、核 融合炉、先進核分裂炉材料として有望であるといえる。170“ “イオン照射によるセラミックス強度の耐照射特性評価“ “池田 進一郎,Shinichiro IKEDA,檜木 達也,Tatsuya HINOKI,朴 環喚,KyeongHwan PARK,香山 晃,Akira KOHYAMA