非線形電磁場解析とその鉄鋼材料の劣化評価への応用
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
近年,高経年構造物の健全性評価が強く求められてお り,構造物に用いられている鉄鋼材料の経年劣化とそ の評価に関する調査研究が行われ,今まで多くの知見 が得られている[1][2]。原子炉壁に用いられる炭素鋼等 の強磁性材料は,き裂発生へとつながる転位密度と磁 気的性質には強い相関関係があることが確かめられて いる。そのため,磁気的性質を用いて材料の転位密度 を検知することで,き裂発生の前段階となる劣化状態 を知ることが期待できる。本報告では,強磁性材料 SM490A 鋼を試験材料とし, B-H 曲線の実測データを 基に,空間2次元の非線形オイラー方程式を用いて
Fig. 1 Hysteresis loop of A533B[3]
シミュレーション環境を構築する。材料劣化指標パラ ・メータを推定する計算アルゴリズムを提案し,数値計 算実験を通してその有効性を検討する。2.Cパラメータと B-H 曲線* 磁性と転位の相関関係は, Fig.1 に示すとおり,転位 密度の増加に従い,保持力の増加や残留磁束密度の減 少といった点が確かめられている。しかし,保磁力は 転位密度の大きい領域で飽和すること,残留磁束密度 は材料を飽和磁化させなくてはならないといったこと から,劣化指標パラメータとして用いるには不適当で ある。そこで,新たにパラメータcを定義することに よりこの問題を解決する。cは転位密度に比例したパ ラメータであり,材料劣化に対して高感度であること が確かめられている[4]。強磁性体の磁束密度 B と磁場 Hに生じる非線形関係は,c を用いるとB(c,H) = 4 H + M(c, H)-2M = M, (1-S)M = M1-S)2日と記述できる。 46 , M, M, はそれぞれ真空透磁率, 磁気モーメント,自発磁化である。Fig.2 は SM490A 鋼 のリング試験片に引張り試験を施すことにより計測さ れた、試験前後の B-H 曲線の実測データである。劣化 進行に従って,cパラメータが増加していることが確 認できる。171e%3D3.83×10 (0MPa) x =8.80 × 10 (518MPa) a1オオオオオオオオオオオン]200oooooot大きいMagnetic flux density (T)。。。。。。。。。2.000300040005E+15Magnetic field H (A/m]60007000Fig2. B-H curve and c parameterまた B-H 曲線の湾曲部分においてcパラメータが劣化 進行を高感度にとらえていることがわかる。3. 検査モデル- シミュレーション環境を仮想的な2次元平面に限定 すると,位置 x における磁気ベクトルポテンシャル _A = A(x)は非線形オイラー方程式に従う。したがって 観測モデルY(C) は以下のように記述する。Y(c)=CA , -v.v(c,/7 x Af DA = /5 (3) ここで、2は励磁コイルの巻き線部を1とする特性関 数,Jは励磁コイルに流す強制電流密度,Cはピック アップコイル領域での補間を意味する。vは磁気抵抗 率であり, c と B =V×A)の関数である。磁気抵抗率 は材料状態に依存する非線形問題となることから,各 有限要素領域での磁束密度の値によって磁束密度を更 新しながら計算する必要がある。ここでは有限要素法 (分割数 N)を用いて,ニュートン・ラプソンの反復法 によりシステムの状態を求める。材料の磁化過程にお ける電流密度(JIS を与えたときに得られる観測磁場デ ータ(I): とのCパラメータベクトルの有限要素モデル 出力YW(J.,c(x)) との出力誤差関数11E(c) = |Y(Jc(x)) - Y-4を最小にする劣化評価パラメータ c(x*) を求めること が逆問題解析となる。パラメータベクトル c(x) の更新 こは多次元関数の最適解を求めるパウエル法を用いる。4. 計算実験提案した手法の有効性を検証するため,数値計算シ ミュレーションを行った。観測データは,数値実験に よって推定すべきcパラメータに対応したモデル出力 として取得する。実験環境として試験材料 SM490A の 薄板を想定し,劣化箇所に適当なcパラメータ分布を 与える。材料表面をスキャンし, パラメータベクトル c(x) , (x = 1,2,..., 6)の値を求める。観測磁場データには 1%ノイズを付加し,その推定結果を Table.1 に示す。 也の劣化箇所におけるパラメータ推定に関しては当日 報告する。Table 1 Estimated value of c parameter True Value Estimated Value | Estimated Value(Noise free) (1% Noise) | c(1) | 3.83x105 | 3.22x105 | 3.67×105 | | c(2) | 6,00x106 | 6.52×106 | 5.64x106 |c(3) | 4.00x106 | 3.54×106 | 3.63×106 c(4) | 8.83x105 | 8.86×105 | 1.18×106 c(5) | 6.00x105 | 17.31×105 | 7.94×105 _c(6) | 3.83x105 | 3.23x105 | 2.95×105 |参考文献1] F. Kojima. Inverse Problems related to ElectromagneticNondestructive Evaluation. In:R.C.Smith and M. Demetriou (eds.) Research Directions in Distributed Parameter Systems, SIAM, Philaderphia, 2003, pp.225-241.. 2] H. Kikuchi, K. Ara, N.Ebine, and Y. Sakai. A probeusing a Magnetic Yoke for NDE of Ferromagnetic Steels. In: T. Sollier, D. Premel, and D. Lesselier (eds.), Electromagnetic Nondestructive Evaluation (VIII), IOSPress, Amsterdam, 2004, pp. 146-152. 3] M.Uesaka, T.Sukegawa, K.Miya, K. Yamada, S.Toyooka,N.kasai, S. Takahashi, J.Echigoya, K.Morishita, K.Ara, N.Ebine, Y.Isobe, NDE-Based Life Science of Japanese Nuclear Reactors, The fifth International Workshop on Electromagnetic Nondestructive Evaluation 1999ENDE Short Papers, pp.57-58, 1999. -] S. Takahashi, J. Echigoya, and Z. Motoki. MagnetizationCurves of Plastically Deformed Fe Metals and Alloys, Journal of Applied Physics 87(2000) 805-813.“ “非線形電磁場解析とその鉄鋼材料の劣化評価への応用“ “小島 史男,Fumio KOJIMA,西山 亮,Ryo NISHIYAMA
近年,高経年構造物の健全性評価が強く求められてお り,構造物に用いられている鉄鋼材料の経年劣化とそ の評価に関する調査研究が行われ,今まで多くの知見 が得られている[1][2]。原子炉壁に用いられる炭素鋼等 の強磁性材料は,き裂発生へとつながる転位密度と磁 気的性質には強い相関関係があることが確かめられて いる。そのため,磁気的性質を用いて材料の転位密度 を検知することで,き裂発生の前段階となる劣化状態 を知ることが期待できる。本報告では,強磁性材料 SM490A 鋼を試験材料とし, B-H 曲線の実測データを 基に,空間2次元の非線形オイラー方程式を用いて
Fig. 1 Hysteresis loop of A533B[3]
シミュレーション環境を構築する。材料劣化指標パラ ・メータを推定する計算アルゴリズムを提案し,数値計 算実験を通してその有効性を検討する。2.Cパラメータと B-H 曲線* 磁性と転位の相関関係は, Fig.1 に示すとおり,転位 密度の増加に従い,保持力の増加や残留磁束密度の減 少といった点が確かめられている。しかし,保磁力は 転位密度の大きい領域で飽和すること,残留磁束密度 は材料を飽和磁化させなくてはならないといったこと から,劣化指標パラメータとして用いるには不適当で ある。そこで,新たにパラメータcを定義することに よりこの問題を解決する。cは転位密度に比例したパ ラメータであり,材料劣化に対して高感度であること が確かめられている[4]。強磁性体の磁束密度 B と磁場 Hに生じる非線形関係は,c を用いるとB(c,H) = 4 H + M(c, H)-2M = M, (1-S)M = M1-S)2日と記述できる。 46 , M, M, はそれぞれ真空透磁率, 磁気モーメント,自発磁化である。Fig.2 は SM490A 鋼 のリング試験片に引張り試験を施すことにより計測さ れた、試験前後の B-H 曲線の実測データである。劣化 進行に従って,cパラメータが増加していることが確 認できる。171e%3D3.83×10 (0MPa) x =8.80 × 10 (518MPa) a1オオオオオオオオオオオン]200oooooot大きいMagnetic flux density (T)。。。。。。。。。2.000300040005E+15Magnetic field H (A/m]60007000Fig2. B-H curve and c parameterまた B-H 曲線の湾曲部分においてcパラメータが劣化 進行を高感度にとらえていることがわかる。3. 検査モデル- シミュレーション環境を仮想的な2次元平面に限定 すると,位置 x における磁気ベクトルポテンシャル _A = A(x)は非線形オイラー方程式に従う。したがって 観測モデルY(C) は以下のように記述する。Y(c)=CA , -v.v(c,/7 x Af DA = /5 (3) ここで、2は励磁コイルの巻き線部を1とする特性関 数,Jは励磁コイルに流す強制電流密度,Cはピック アップコイル領域での補間を意味する。vは磁気抵抗 率であり, c と B =V×A)の関数である。磁気抵抗率 は材料状態に依存する非線形問題となることから,各 有限要素領域での磁束密度の値によって磁束密度を更 新しながら計算する必要がある。ここでは有限要素法 (分割数 N)を用いて,ニュートン・ラプソンの反復法 によりシステムの状態を求める。材料の磁化過程にお ける電流密度(JIS を与えたときに得られる観測磁場デ ータ(I): とのCパラメータベクトルの有限要素モデル 出力YW(J.,c(x)) との出力誤差関数11E(c) = |Y(Jc(x)) - Y-4を最小にする劣化評価パラメータ c(x*) を求めること が逆問題解析となる。パラメータベクトル c(x) の更新 こは多次元関数の最適解を求めるパウエル法を用いる。4. 計算実験提案した手法の有効性を検証するため,数値計算シ ミュレーションを行った。観測データは,数値実験に よって推定すべきcパラメータに対応したモデル出力 として取得する。実験環境として試験材料 SM490A の 薄板を想定し,劣化箇所に適当なcパラメータ分布を 与える。材料表面をスキャンし, パラメータベクトル c(x) , (x = 1,2,..., 6)の値を求める。観測磁場データには 1%ノイズを付加し,その推定結果を Table.1 に示す。 也の劣化箇所におけるパラメータ推定に関しては当日 報告する。Table 1 Estimated value of c parameter True Value Estimated Value | Estimated Value(Noise free) (1% Noise) | c(1) | 3.83x105 | 3.22x105 | 3.67×105 | | c(2) | 6,00x106 | 6.52×106 | 5.64x106 |c(3) | 4.00x106 | 3.54×106 | 3.63×106 c(4) | 8.83x105 | 8.86×105 | 1.18×106 c(5) | 6.00x105 | 17.31×105 | 7.94×105 _c(6) | 3.83x105 | 3.23x105 | 2.95×105 |参考文献1] F. Kojima. Inverse Problems related to ElectromagneticNondestructive Evaluation. In:R.C.Smith and M. Demetriou (eds.) Research Directions in Distributed Parameter Systems, SIAM, Philaderphia, 2003, pp.225-241.. 2] H. Kikuchi, K. Ara, N.Ebine, and Y. Sakai. A probeusing a Magnetic Yoke for NDE of Ferromagnetic Steels. In: T. Sollier, D. Premel, and D. Lesselier (eds.), Electromagnetic Nondestructive Evaluation (VIII), IOSPress, Amsterdam, 2004, pp. 146-152. 3] M.Uesaka, T.Sukegawa, K.Miya, K. Yamada, S.Toyooka,N.kasai, S. Takahashi, J.Echigoya, K.Morishita, K.Ara, N.Ebine, Y.Isobe, NDE-Based Life Science of Japanese Nuclear Reactors, The fifth International Workshop on Electromagnetic Nondestructive Evaluation 1999ENDE Short Papers, pp.57-58, 1999. -] S. Takahashi, J. Echigoya, and Z. Motoki. MagnetizationCurves of Plastically Deformed Fe Metals and Alloys, Journal of Applied Physics 87(2000) 805-813.“ “非線形電磁場解析とその鉄鋼材料の劣化評価への応用“ “小島 史男,Fumio KOJIMA,西山 亮,Ryo NISHIYAMA