保全方式決定のための数量化手法ークリー法について一
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
「保全方式決定のための数量化手法の適用検討保全上の重要度の定量的検討(その1, 2) -」で は、従来からある様々な重要度分類やクラス区分に 加え、新たに“保全上の重要度”を考え、保全を実 施する場合の最小単位となる「部品」を対象にして、 保全上の重要度を『クリー法』というシステム評価 手法を用いて評価した。ここでは、そのクリー法に ついて紹介する。
2.クリー法等の数理化手法プラントを構成する機器(部品)の重要度を評価 する場合、当該機器が属する系統の非信頼度によっ て機器の重要度は異なる。だが、一般的に各系統の 信頼性(非信頼度)を同じ重みで比較することは困 難である。各系統の頂上事象の重要度を w とすると、 各機器の総合的な重要度は、系統の頂上事象の重要 度と機器の重要度との積和として評価することができる。 すなわち、以下の式により評価される。STI = 21w連絡先:熊野哲嗣、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎町 1-1-1、三菱重工業株式会社、電話: 070-6508-9382、 e-mail: tetsuji_kumano@mhi.co.jpここで、TI は機器 k の総合的重要度であり、 は系統の非信頼度 i に対する機器 k の重要度である。 各系統の頂上事象の重要度は、事象発生のリスク (非信頼度と発生した時の影響度との積)より評価 することは可能であるが、一般的には容易でない。より簡便な方法として専門家による判断で決める ことができる。この場合、より客観的かつ体系的に 重要度を評価する方法として、一対比較法、クリー 法等のシステム評価手法が参考になる[1], [2]。一対比較法は、多元的な評価が必要な場合に、総 合的な評価を、一対比較を基に行う方法である。各 評価項目間の重み付けは、次の手順で行われる。 1評価項目の中から2つの対を選び(組合せの数」は,C,個)、より重要と判断する方に1を、そう でない方に0を与える。 2各評価項目に与えられた得点を合計し、それを 組合せの数 PC で割った値を当該評価項目のウ ェイトとする。 重みを上に述べた手順で決める例を表-1 に示す。重みW;表-1 一対比較法による重みの設定組合せと一対比較 頂上事象[組A組B組C組D組E組F] 事象1 事象2 事象3」 事象4合 計 (MC2)0.50.33 0.00 0.17 1.00181*表-1 の例では、組Aの事象1と事象2との比較に おいて、事象1が事象2に比べてより重要と判断し たことを示している。一対比較法は、各評価項目間 の比較を定量的に行うことが難しい場合に適した方 法である。これに対し、評価項目間の重要度の定量的な判断 が可能な場合には、クリー法が利用できる。表-2 に 例を示す。表-2 クリー法による重みの設定 「頂上事象、比 較「再評価「重みWi 事象17.5 0.71 事象2 30 11.5人 0.14 事象30.5 0.05 事象41.0 0.10 合計10.5| 1.00本法による重み付けの手順は以下の通り。 1評価項目を任意の順に並べる。 2評価項目毎に次の項目と比較し、次の項目に比 べて何倍重要かを決める。この作業を最後から 2番目の項目まで行う。 3最後の項目の重要度を1として、順次前の項目の点数を計算し直す。 43で求めた点数の合計を求め、これで各評価項 目の点数を規格化しウェイトとする。一対比較法もクリー法も一対の項目同士の比較を 進める事で自動的に重み付けが可能なため、比較的 整合性も取りやすいと考えられる。 - こうして求められた機器の総合的重要度評価は第 1次のフィルターの役割を果たし、重要度の低い機 器について、他の条件を考えながら状態監視保全、 事後保全等の保全方式の適用について検討すること により、保全費用の低減を図ることができる。重要度以外の条件としては、法令の有無、状態監 視手法の有無、機器の故障検知の可否、機器の使用 環境、機器の保全環境、修理時のプラント停止の必 要性等の条件が考えられ、どの様なロジックで保全 方式を決めるかは、保全の専門家の知識を要する。- 機器の重要度以外にも、使用環境条件等には、考 慮しなければならない項目が複数存在する可能性が ある。この場合にも、一般には各項目の重みは異な り、一対比較法やクリー法が利用できる。以上、機器の総合評価に関し、システム工学におけ るシステム評価の手法を紹介したが、使用条件の離散 化も含め、専門家による多数決による方法等も考え られよう。 - こうして、各機器について、種々の総合評価値が 求められると、法令の有無、状態監視手法の有無、 機器の故障検知の可否、修理時のプラント停止の必 要性等を考慮して、機器の保全方式を決める事が出 来よう。そのロジックは、保全専門家、各機器メー カーの専門家等により決めることが可能となる。3.結言クリー法は、評価項目間の重要度を定量的に把握 する必要がある場合に有効な手法の一つであり、具 体的にはプラント構成機器の重要度を定量的に評価 することができる。「謝辞本検討は、「保全方式決定のための数量化手法の適 用検討-保全上の重要度の定量的検討(その1,2) ー」で用いたクリー法について説明したものであり、 御指導いただいた関係者の方々に感謝する。参考文献[1] 中村嘉平、浜岡尊、山田新一著、新版システム工学通論、朝倉書店、pp.24 -.25. [2] 笠井雅夫、特集「巨大構造物の事故防止と保全」“保全定量化の試み”、日本AEM学会誌、 Vol.8, No.2, 2000, pp181-188182“ “保全方式決定のための数量化手法ークリー法について一“ “熊野 哲嗣,Tetsuji KUMANO,笠井 雅夫,Masao KASAI,岩見 裕,Hiroshi IWAMI,設楽 親,Chikashi SHITARA
「保全方式決定のための数量化手法の適用検討保全上の重要度の定量的検討(その1, 2) -」で は、従来からある様々な重要度分類やクラス区分に 加え、新たに“保全上の重要度”を考え、保全を実 施する場合の最小単位となる「部品」を対象にして、 保全上の重要度を『クリー法』というシステム評価 手法を用いて評価した。ここでは、そのクリー法に ついて紹介する。
2.クリー法等の数理化手法プラントを構成する機器(部品)の重要度を評価 する場合、当該機器が属する系統の非信頼度によっ て機器の重要度は異なる。だが、一般的に各系統の 信頼性(非信頼度)を同じ重みで比較することは困 難である。各系統の頂上事象の重要度を w とすると、 各機器の総合的な重要度は、系統の頂上事象の重要 度と機器の重要度との積和として評価することができる。 すなわち、以下の式により評価される。STI = 21w連絡先:熊野哲嗣、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎町 1-1-1、三菱重工業株式会社、電話: 070-6508-9382、 e-mail: tetsuji_kumano@mhi.co.jpここで、TI は機器 k の総合的重要度であり、 は系統の非信頼度 i に対する機器 k の重要度である。 各系統の頂上事象の重要度は、事象発生のリスク (非信頼度と発生した時の影響度との積)より評価 することは可能であるが、一般的には容易でない。より簡便な方法として専門家による判断で決める ことができる。この場合、より客観的かつ体系的に 重要度を評価する方法として、一対比較法、クリー 法等のシステム評価手法が参考になる[1], [2]。一対比較法は、多元的な評価が必要な場合に、総 合的な評価を、一対比較を基に行う方法である。各 評価項目間の重み付けは、次の手順で行われる。 1評価項目の中から2つの対を選び(組合せの数」は,C,個)、より重要と判断する方に1を、そう でない方に0を与える。 2各評価項目に与えられた得点を合計し、それを 組合せの数 PC で割った値を当該評価項目のウ ェイトとする。 重みを上に述べた手順で決める例を表-1 に示す。重みW;表-1 一対比較法による重みの設定組合せと一対比較 頂上事象[組A組B組C組D組E組F] 事象1 事象2 事象3」 事象4合 計 (MC2)0.50.33 0.00 0.17 1.00181*表-1 の例では、組Aの事象1と事象2との比較に おいて、事象1が事象2に比べてより重要と判断し たことを示している。一対比較法は、各評価項目間 の比較を定量的に行うことが難しい場合に適した方 法である。これに対し、評価項目間の重要度の定量的な判断 が可能な場合には、クリー法が利用できる。表-2 に 例を示す。表-2 クリー法による重みの設定 「頂上事象、比 較「再評価「重みWi 事象17.5 0.71 事象2 30 11.5人 0.14 事象30.5 0.05 事象41.0 0.10 合計10.5| 1.00本法による重み付けの手順は以下の通り。 1評価項目を任意の順に並べる。 2評価項目毎に次の項目と比較し、次の項目に比 べて何倍重要かを決める。この作業を最後から 2番目の項目まで行う。 3最後の項目の重要度を1として、順次前の項目の点数を計算し直す。 43で求めた点数の合計を求め、これで各評価項 目の点数を規格化しウェイトとする。一対比較法もクリー法も一対の項目同士の比較を 進める事で自動的に重み付けが可能なため、比較的 整合性も取りやすいと考えられる。 - こうして求められた機器の総合的重要度評価は第 1次のフィルターの役割を果たし、重要度の低い機 器について、他の条件を考えながら状態監視保全、 事後保全等の保全方式の適用について検討すること により、保全費用の低減を図ることができる。重要度以外の条件としては、法令の有無、状態監 視手法の有無、機器の故障検知の可否、機器の使用 環境、機器の保全環境、修理時のプラント停止の必 要性等の条件が考えられ、どの様なロジックで保全 方式を決めるかは、保全の専門家の知識を要する。- 機器の重要度以外にも、使用環境条件等には、考 慮しなければならない項目が複数存在する可能性が ある。この場合にも、一般には各項目の重みは異な り、一対比較法やクリー法が利用できる。以上、機器の総合評価に関し、システム工学におけ るシステム評価の手法を紹介したが、使用条件の離散 化も含め、専門家による多数決による方法等も考え られよう。 - こうして、各機器について、種々の総合評価値が 求められると、法令の有無、状態監視手法の有無、 機器の故障検知の可否、修理時のプラント停止の必 要性等を考慮して、機器の保全方式を決める事が出 来よう。そのロジックは、保全専門家、各機器メー カーの専門家等により決めることが可能となる。3.結言クリー法は、評価項目間の重要度を定量的に把握 する必要がある場合に有効な手法の一つであり、具 体的にはプラント構成機器の重要度を定量的に評価 することができる。「謝辞本検討は、「保全方式決定のための数量化手法の適 用検討-保全上の重要度の定量的検討(その1,2) ー」で用いたクリー法について説明したものであり、 御指導いただいた関係者の方々に感謝する。参考文献[1] 中村嘉平、浜岡尊、山田新一著、新版システム工学通論、朝倉書店、pp.24 -.25. [2] 笠井雅夫、特集「巨大構造物の事故防止と保全」“保全定量化の試み”、日本AEM学会誌、 Vol.8, No.2, 2000, pp181-188182“ “保全方式決定のための数量化手法ークリー法について一“ “熊野 哲嗣,Tetsuji KUMANO,笠井 雅夫,Masao KASAI,岩見 裕,Hiroshi IWAMI,設楽 親,Chikashi SHITARA