クラッディング下部の欠陥検出 ECT プローブの開発
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カテゴリ: 第2回
1.はじめに
原子炉圧力容器のクラディング下部に生じるき裂の 検出法を検討した。圧力容器の表面にはクラディング 溶接が施されているため、金属組織の不均一があり超 音波探傷の適用が難しいとされている。そこで渦電流 探傷の適用を試みた。しかしクラディング処理による マルテンサイト変態による透磁率のむら及び導電率の むらが生じこのノイズの除去が必要になる。そこで本 研究では、圧力容器のクラッディング下の割れを検出 することを目的とした一様渦電流探傷プローブの開発 を行ったので報告する。
2.プローブの開発- 一様渦電流励磁を用いた厚肉対応センサは、一様な 渦電流をより深くまで浸透させるように工夫したセン サである。 一様渦電流励磁を用いた厚肉対応センサの応用として クラッディング下の欠陥検出を目標とした、磁化一様 渦電流センサを開発した。クラッディングは溶接層に より作られているため、その磁性ノイズが大きい。そ こで、磁気ノイズを軽減することを検討した。ノイズ はステンレス材の溶接によるマルテンサイト化による連絡先:橋本光男 〒229-1196 神奈川県相模原市橋本台 4-1-1 職業能力開発総合大学校、電話:042-763-9133 E-mail: hasimoto@uitec.ac.jp磁性ノイズが考えられる。そこでノイズ低減を目的と してセンサに磁石を挿入し、磁化することによりノイ ズを低減させる永久磁石をコアとした一様渦電流セン サを開発した。励磁コイルは縦 45mm、横 25mm、厚さ 12.5mm で約 7000 ガウスのネオジウム磁石をコアにし、 巻き数 400turn、検出コイルは半径 1.1mm のパンケーキ 型、巻き数 140turn を五つ直列接続した。3.実験方法図-1に本試験に用いたクラッディング部模擬試験体 の寸法を示す。この試験体は炉内圧力容器内側のクラ ッディング溶接部を模擬したものである。試験体は、 厚み 70mm の炭素鋼に、長さ、深さが異なる EDM ス リットを設け、この面全体に溶接層を設けてある。プ ローブを XY テーブルにより移動し2次元計測を行っ た。溶接(wel308L) EDMI EDME EDM/15mmEDM4 EDMS EDM670mm炭素鋼図-1 クラッティング部模擬試験体1894. 実験結果従来のプローブを用いて、クラッディング試験体の 検査を行ったがノイズが大きく全く傷は計測されなか った。そこでノイズ分布を測定した。表面の磁気ノイ ズ、溶接方向を計測するために図-2 にパンケーキコイ ルを用いた絶対値プローブでノイズを計測した結果を 示す。この図からわかるように溶接部に沿ってノイズ が存在していることがわかる。これはクラッディング 溶接によりマルテンサイト化された組織が溶接線方向 に存在するためで、このノイズが大きいことがわかる。 次に図-3 に永久磁石入り絶対値プローブの計測結果を 示す。図-2 と比べて、永久磁石により磁気ノイズが低 減されることを確認した。これは、磁石によりマルテ ンサイト組織が磁化され、磁性ノイズが低減されたこ とによる。図-2 と図-3 のノイズのレベルをみると、1 桁以上ノイズが低減していることがわかる。図-4 に永 久磁石コア一様渦電流プローブの計測結果を示す。試 験周波数は 2kHz を用いた。図中にきずの位置を黒線で 示しているが、すべてのきずが明瞭に検出できた。ま た、位相を補正することにより、ノイズと信号を分離 することができた。渦電流は、溶接線に対して垂直方 向に流すと溶接部の磁性を受けにくい特性も利用して いる。S/N 比は一番大きいきずである EDM6(きず深 さ15mm、長さ 20mm)では 12.6、一番小さいきずであ る EDM1(きず深さ 5mm、長さ 10mm) では 8.6 であ った。5.結言クラッディングの下の圧力容器の割れを検出する ECT プローブを開発した。クラッディングのため 傷の検出が困難とされてきたがプローブの工夫で傷の 検出を可能にした。50mmxmm絶対値プローブによるノイズ計測(100kHz) 図-2-1.916図-3 永久磁石絶対値プローブによるノイズ計測(100kHz)EDMG.EDM5.. EDM4EDMEDM3EDMI~1,075:図4 クラッディング部模擬試験体測定結果(2kHz)「謝辞本研究は「平成 16年度 革新的実用原子力技術開発 提案公募事業」で実施した一部である。試験片の作製 においては日立製作所の松井哲也氏、西水亮氏に大変 お世話になりました。お礼申し上げます。 参考文献 [1] 橋本光男,福岡克弘,山田陽介,浅井晃一,西水 亮,小池正浩,松井哲也,「厚肉材用一様渦電流プロ ーブの開発と評価」,日本原子力学会「2004年春の年 会」(岡山),pp423, 2004, 3 月 [2] 永田泰崇,山田陽介, 橋本光男,福岡克弘「溶接 部検査用の ECT マルチプローブの開発」,第14回電磁 力関連のダイナミックスシンポジウム, pp603-606, 2002,5月 [3] 石岡賢二,水上直樹, 重岡和隆,浅井晃一,山 田陽介,橋本光男,「SCC の数値解析モデル化の検討」 表面探傷技術による健全性診断に関するシンポジウム, pp13-16, 2004, 1月 - 190 --“ “クラッディング下部の欠陥検出 ECT プローブの開発“ “板羽 正浩,Masahiro ITABA,泉 康博,Yasuhiro IZUMI,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO
原子炉圧力容器のクラディング下部に生じるき裂の 検出法を検討した。圧力容器の表面にはクラディング 溶接が施されているため、金属組織の不均一があり超 音波探傷の適用が難しいとされている。そこで渦電流 探傷の適用を試みた。しかしクラディング処理による マルテンサイト変態による透磁率のむら及び導電率の むらが生じこのノイズの除去が必要になる。そこで本 研究では、圧力容器のクラッディング下の割れを検出 することを目的とした一様渦電流探傷プローブの開発 を行ったので報告する。
2.プローブの開発- 一様渦電流励磁を用いた厚肉対応センサは、一様な 渦電流をより深くまで浸透させるように工夫したセン サである。 一様渦電流励磁を用いた厚肉対応センサの応用として クラッディング下の欠陥検出を目標とした、磁化一様 渦電流センサを開発した。クラッディングは溶接層に より作られているため、その磁性ノイズが大きい。そ こで、磁気ノイズを軽減することを検討した。ノイズ はステンレス材の溶接によるマルテンサイト化による連絡先:橋本光男 〒229-1196 神奈川県相模原市橋本台 4-1-1 職業能力開発総合大学校、電話:042-763-9133 E-mail: hasimoto@uitec.ac.jp磁性ノイズが考えられる。そこでノイズ低減を目的と してセンサに磁石を挿入し、磁化することによりノイ ズを低減させる永久磁石をコアとした一様渦電流セン サを開発した。励磁コイルは縦 45mm、横 25mm、厚さ 12.5mm で約 7000 ガウスのネオジウム磁石をコアにし、 巻き数 400turn、検出コイルは半径 1.1mm のパンケーキ 型、巻き数 140turn を五つ直列接続した。3.実験方法図-1に本試験に用いたクラッディング部模擬試験体 の寸法を示す。この試験体は炉内圧力容器内側のクラ ッディング溶接部を模擬したものである。試験体は、 厚み 70mm の炭素鋼に、長さ、深さが異なる EDM ス リットを設け、この面全体に溶接層を設けてある。プ ローブを XY テーブルにより移動し2次元計測を行っ た。溶接(wel308L) EDMI EDME EDM/15mmEDM4 EDMS EDM670mm炭素鋼図-1 クラッティング部模擬試験体1894. 実験結果従来のプローブを用いて、クラッディング試験体の 検査を行ったがノイズが大きく全く傷は計測されなか った。そこでノイズ分布を測定した。表面の磁気ノイ ズ、溶接方向を計測するために図-2 にパンケーキコイ ルを用いた絶対値プローブでノイズを計測した結果を 示す。この図からわかるように溶接部に沿ってノイズ が存在していることがわかる。これはクラッディング 溶接によりマルテンサイト化された組織が溶接線方向 に存在するためで、このノイズが大きいことがわかる。 次に図-3 に永久磁石入り絶対値プローブの計測結果を 示す。図-2 と比べて、永久磁石により磁気ノイズが低 減されることを確認した。これは、磁石によりマルテ ンサイト組織が磁化され、磁性ノイズが低減されたこ とによる。図-2 と図-3 のノイズのレベルをみると、1 桁以上ノイズが低減していることがわかる。図-4 に永 久磁石コア一様渦電流プローブの計測結果を示す。試 験周波数は 2kHz を用いた。図中にきずの位置を黒線で 示しているが、すべてのきずが明瞭に検出できた。ま た、位相を補正することにより、ノイズと信号を分離 することができた。渦電流は、溶接線に対して垂直方 向に流すと溶接部の磁性を受けにくい特性も利用して いる。S/N 比は一番大きいきずである EDM6(きず深 さ15mm、長さ 20mm)では 12.6、一番小さいきずであ る EDM1(きず深さ 5mm、長さ 10mm) では 8.6 であ った。5.結言クラッディングの下の圧力容器の割れを検出する ECT プローブを開発した。クラッディングのため 傷の検出が困難とされてきたがプローブの工夫で傷の 検出を可能にした。50mmxmm絶対値プローブによるノイズ計測(100kHz) 図-2-1.916図-3 永久磁石絶対値プローブによるノイズ計測(100kHz)EDMG.EDM5.. EDM4EDMEDM3EDMI~1,075:図4 クラッディング部模擬試験体測定結果(2kHz)「謝辞本研究は「平成 16年度 革新的実用原子力技術開発 提案公募事業」で実施した一部である。試験片の作製 においては日立製作所の松井哲也氏、西水亮氏に大変 お世話になりました。お礼申し上げます。 参考文献 [1] 橋本光男,福岡克弘,山田陽介,浅井晃一,西水 亮,小池正浩,松井哲也,「厚肉材用一様渦電流プロ ーブの開発と評価」,日本原子力学会「2004年春の年 会」(岡山),pp423, 2004, 3 月 [2] 永田泰崇,山田陽介, 橋本光男,福岡克弘「溶接 部検査用の ECT マルチプローブの開発」,第14回電磁 力関連のダイナミックスシンポジウム, pp603-606, 2002,5月 [3] 石岡賢二,水上直樹, 重岡和隆,浅井晃一,山 田陽介,橋本光男,「SCC の数値解析モデル化の検討」 表面探傷技術による健全性診断に関するシンポジウム, pp13-16, 2004, 1月 - 190 --“ “クラッディング下部の欠陥検出 ECT プローブの開発“ “板羽 正浩,Masahiro ITABA,泉 康博,Yasuhiro IZUMI,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO