レーザを応用した炉内保全技術とそのPWRへの適用

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カテゴリ: 第2回
1.緒言
レーザはエネルギー密度が高く、時間的及び空間的な 制御性に優れ、施工反力がないことから、施工システム の小型化が可能であり遠隔自動機を使用した施工、狭隘 部への施工に適している)。また、レーザは低入熱で変形 が少なく、熱処理や仕上加工などが省略できる。そのた め、被ばくの観点から作業員が容易にアクセスできない 原子炉(圧力)容器内機器(炉内機器)の保全技術とし て最適な手法のひとつと考えている。本稿では東芝の炉 内保全技術のうち、水中環境下におけるレーザ応用技術 として、予防保全、検査及び補修技術を開発したので紹 介する。また、これらの技術の一部は、沸騰水型原子炉 (BWR)だけではなく、加圧水型原子炉(PWR)の保全 として実機に適用しており、その適用例を紹介する。
2. レーザ応用技術」 2.1 レーザピーニングレーザのパルス時間幅を数 ns まで短パルス化し, ピー ク出力密度を数 GW/cm まで高めて照射すると、材料の 表面に高圧のプラズマが発生する(Fig. 1)。水中では水連絡先:佐伯綾一, 〒235-8523 神奈川県横浜市磯子区 新杉田町 8, 株式会社 東芝 磯子エンジニアリン グセンター 原子力機器設計部 電話: 045-770-2152 e-mail: ryoichi.saeki @toshiba.co.jp-191の慣性でプラズマの膨張が妨げられて狭い領域にレーザ のエネルギーが集中するため、プラズマの圧力は瞬間的 に数GPaに達する。この圧力により材料のごく表面がわ ずかに塑性変形して周囲に伸展しようとするが、材料内 部の未変形部分の拘束により実際には変形できないため、 材料表面に高い圧縮残留応力が形成される1112|3。Pulse laser->LensWater- PlasmaMaterialCompressionFig.1 Basic process of laser peening.レーザピーニングの光源には、Qスイッチ Nd:YAG レ ーザの第2高調波(波長 532nm、パルスエネルギー約 100mJ、パルス幅6~10ns)のパルスレーザを用いる。このパルスレーザをステンレス鋼,ニッケル基合金な どの構造材料に照射した場合,材料によらず表面から約2001mmの深さまで圧縮残留応力が形成されることを確認し た。Fig. 2 に 600 系ニッケル基合金の残留応力の測定結果 を示す。00x一番y-200-400Residual stress (MPa)-600-800Proossing conditions Spot diameter0.4mm Pulse energy80mJ Pulse number density 7000(pulsa/cm)-10002013-120020010001200400 600 800 Distance from surface (um)Fig.2Residual stress depth distribution for Inconel 600.2.2 レーザ超音波法 ・金属材料などの検査対象にレーザ光をパルス照射する と、レーザ照射による熱歪みやアブレーションの反力に より超音波が発生する)。この超音波には、検査対象の内 部を伝播する成分と、検査対象の表面を伝播する成分 (表 面波:SAW)がある。特に表面波成分に着目すると、表 面波の伝播経路上にき裂が存在する場合、Fig.3 に示すよ うに、き裂の深さより短い波長の周波数成分はき裂によ って反射されるが、長い波長の周波数成分はき裂を透過 する。 Generation LaserLaser InterferometerLensDetection Lasershorter wavelength SAWCrackLonger wavelength SAWSurface Acoustic Waves* TransmittedBase metalReflectedFig.3Fundamental process of laser ultrasonic testingこのため、き裂の透過前後では、表面波の周波数成分 が変化することになる。そこで、この周波数成分の変化 に関する情報を利用することによって、微小き裂の検知 (反射法:反射した成分による検知)およびその深さの 計測(透過法:透過した成分による測定)が可能になる”。超音波励起用レーザ光源には、2.1 項で述べたレーザピ ーニングと同一のQスイッチNd:YAG レーザを用いるこ とが出来る。透過法を使用してき裂深さを測定した例をFig.4 に示す。縦軸はレーザ超音波法によるき裂深さの測 定値であり,横軸は試験片を切断して求めた実際のき裂 深さである。深さ約0.5~1.5mm のき裂に対して±0.2mm 程度の精度でサイジング可能である事を確認した。なお, Fig.4 には、放電加工 (EDM)で作成したスリットの測定 結果も記載したIV。Measured crack depth (mm)SCC EDM slit10.5 11.5 22.5Actual crack depth (mm)Fig.4 Crack depth measurement by laser-ultrasonics 2.3 水中レーザ溶接レーザ溶接は「高精度」「低ひずみ」「低入熱」といっ た特徴を有する。東芝では Nd:YAG レーザを応用し、溶 接ヘッドの周辺を部分的に気中とした水中レーザ溶接装 置(Fig.5)を開発した““。水中レーザ溶接技術は、予防 保全のためのクラッド溶接 水中レーザクラッド溶接) だ けでなく、溶接金属により割れを塞ぎ、環境隔離と漏洩 防止を行なうことができる封止溶接水中レーザ封止溶 接) に適用が可能である。 Shield gas(Ar)I Filler wireLaser beamWaterSeal weldBase metalCrackFig.5Concept of underwater laser seal welding1) 水中レーザクラッド溶接水中レーザクラッド溶接の光源には、連続発振の Nd:YAG レーザ(波長 1.06 um)を用いる。このレーザを 用いて水中に設置した 600 系ニッケル基合金肉盛材の表 面にクラッド溶接を行った結果を Fig.6に示す。192Base metal : Alloy 132, Filler metal : Alloy 52Cross-sectional micrograph Fig.6 Application to cladding on Alloy 132・ 溶加材には Cr 濃度が高く耐食性に優れたインコネル 690 系を使用し, 入数 1.2kJ/cm, ワイヤ供給速度 0.9m/min に設定した。この条件で3層の多層溶接を行い、Fig.6 に 示すように健全なクラッド層が形成されている事を確認 した。また、クラッド層の Gr 濃度を分析した結果、表 層で約 28%の Cr 濃度を有していることを確認した (Fig.7) H。Cr concentration(wt%)Cladding layerBase metal2.5-0.5 1 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0Distance from cladding surface (mm) Fig.7 Chromium concentration of laser cladding2) 水中レーザ封止溶接 - 水中レーザクラッド溶接と同じ光源を用い、水中に設 置した 316L 系オーステナイト系ステンレス鋼の模擬欠 陥に対して実施した水中レーザ封止溶接の結果を Fig.8 に示す。 Artificial crackTIG weldああいうらんらん いきがすすみま・ああ ~ 、18 ・ クルクルー30mlw29w5d. イル・まんまんま、 れからみん なふうんです。ターにありがたやのみ10mm1st batch 2nd batch3rd batch4th batchFig.8Result of mock-up test by underwater laser seal welding模擬欠陥は、開口幅0.3mm, 深さ 5mm,長さ 30mm で ある。溶接ワイヤには Y308L(40.6mm)を使用し,入 熱0.75kJ/cm, ワイヤ供給速度 0.8m/min に設定した。広範 囲の封止溶接を想定し,30mm×40mm のバッチ施工を部 分的にオーバーラップさせ4回繰返した。Fig.8 に示すよ うに、良好な溶接ビードが得られており,模擬き裂開口 部を肉盛溶接により封止できることを確認したい。3.炉内予防保全への適用東芝は、BWR プラント炉内機器の応力腐食割れ (SCC) 予防保全として、炉心シュラウド(オーステナイト系ス テンレス鋼製)や原子炉圧力容器底部の制御棒駆動機構 貫通部スタブチューブ (600 系ニッケル基合金)にレーザ ピーニングを適用してきた。さらに、PWR プラントの原 子炉容器管台の応力腐食割れ (PWSCC) 予防保全として、 四国電力株式会社伊方発電所第1号機の原子炉容器管台 にレーザピーニングを適用した。 3.1 レーザピーニング・レーザ超音波法の適用 東芝は、PWR プラントの応力腐食割れ (PWSCC) 予防保 全工事として、四国電力株式会社殿 伊方発電所第1号機 にレーザピーニングを適用した。また、炉内計装筒管台 にはレーザピーニングの施工前検査として世界で初めて レーザ超音波法(LUT)を適用した。施工システムは原子炉格納容器内フロアに配置し、施 工装置は原子炉容器キャビティ上に設置した作業台車よ り吊り下げて施工対象管台に設置した。伊方発電所第 1 号機のレーザピーニング全体工事工程は、平成 16 年 12 月に炉内計装筒管台から施工を始め、安全注入管台、冷 却材入口管台までの作業を約 20 日間で計画通り実施し、 平成17年1月に作業を全て完了したい。それぞれの管台 の施工システムについて紹介する。 *1) 炉内計装筒管台への適用PWR プラントの原子炉容器底部には、Fig.9に示すよう に炉内計装を挿入するための炉内計装筒管台(BMI)が 溶接されている。この管台内面には、溶接による引張残 留応力が残留しており、応力腐食割れ(PWSCC)が発生 する懸念がある。その予防保全としてレーザピーニング とレーザ超音波法を兼ねる施工システムを開発して適用 した。伊方発電所第1号機の予防保全システムは Fig.10 に示すようにレーザシステム、モニタ・制御システム、 レーザ伝送用光ファイバ、遠隔施工装置から構成され、 レーザピーニングとレーザ超音波法が可能である。1939.5 mmBMI Nozzles(Alloy 600)Area to be PeenedRV bottomFig.11 Laser maintenance system for BMIs at IKATA Unit-1Fig.9 Bottom-mounted instrumentation nozzles (BMI) BMI 管台は内径が約9.5mm の細径であることから、外 径が9mm 以下のレーザピーニング (LP) 用照射ヘッドを 開発した。レーザは光ファイバで照射ヘッドまで伝送さ れ、照射ヘッド内部の非球面ミラーで反射・集光して BMI 内面に照射した(Fig.10) 1)。また、レーザピーニングの 施工前検査として、世界で初めてレーザ超音波法(LUT) を適用した。LUT は送信・受信用レーザの検出が必要な ため、照射ヘッド内部の反射ミラーを2重構造とした専 用のヘッドを開発した。LUT はレーザピーニング施工装 置の先端に LUT ヘッドを装着することにより実施し、 LUT と LP の施工装置を各1台づつ炉内投入して2台施 工とした(Fig.11) [11]。2) 原子炉容器管台への適用原子炉容器の冷却材入口管台、安全注入管台と各セー フエンドは、600 系ニッケル基合金により溶接され、BMI 管台と同様に PWSCC が発生する懸念がある。これらの 管台の予防保全としてレーザピーニング施工装置を開発 して適用した。冷却材入口管台、安全注入管台の施工装 置は、BMI 管台施工装置と同様にキャビティ上の作業台 車より吊り下げ、管台に設置した。レーザシステムは BMI 管台施工システムと兼用され、管台毎に施工装置を入れ 替えて施工した。冷却材入口管台施工装置は、管台が大 口径(約の700mm)であることから、レーザピーニング 用ヘッドを2式とし、レーザをダブルで照射することに より施工時間を短縮した。安全注入管台は小口径管台(約90mm)であることから、レーザピーニング用ヘッド は1式とした。それぞれの施工装置概要を Fig.12 に示Twin Work PlatformMonitor Control systemOptical Fiber CableLaser SystemLasersyton,す。Twin Work PlatformMonitor /Control systemOptical Fiber CableLaser System (Laser Oscillators)目Optical FiberLaserMirrorこの日Laser Irradiation Head Remote Handling EquipmentFig.10Laser maintenance system concept for reactor vesselFig.12Remote equipments for reactor vessel nozzlesal FiberLaser maintenance system for BMIs at IKATA Unit-1 ) 原子炉容器管台への適用 原子炉容器の冷却材入口管台、安全注入管台と各セーInlet Nozzlesで!LP HeadsSetting image Remote Equipment for Inlet NozzlesLP HeadInstallationCore Deluge Line Core Deluge LineRemote Equipment for Core Deluge Lines - 194 - 3.2 水中レーザ溶接の適用 * 水中レーザ溶接は実機に適用していないが、水中レー ザ溶接技術を応用した水中レーザクラッド溶接、水中レ ーザ封止溶接も高経年化プラントのSCC発生防止に有効 な手段であり、また補修技術として、万が一の不具合発 生時のき裂補修対応を迅速にすることが可能である。こ れらのレーザ技術はレーザピーニング、レーザ超音波と レーザの発振形態が異なるが、工法や施工装置コンセプ トは同様であり、それぞれの施工ヘッドを1つの施工装 置に組替えるといった運用も可能と考えている。 4.結言1) 東芝は 東芝はレーザ応用技術として、予防保全としてのレ ーザピーニング技術、検査としてのレーザ超音波法、 予防保全に加えて補修技術を兼ねる水中レーザ溶接 技術を開発した。 高経年化プラントの適切な保全・補修作業における 被ばく低減の観点から、遠隔・非接触という特徴を 備えたレーザ応用技術への期待は大きい。 東芝は、プラントメーカとして、BWR プラントの保 全工事実績を生かし、国内 PWR プラント、国外プラ ントへのレーザ応用技術の適用範囲拡大を念頭に、 今後も技術開発を行っていく。謝辞1. 本稿は、四国電力株式会社殿 伊方発電所第1号機炉 内計装筒管台等レーザピーニング工事完遂実績の一部を 含むものである。
(予Engineering (ICONE 13-50141) (2005). [10] 淺井敬久他,日本原子力学会「2006 年秋の大会」(予稿:発表予定) [11] 依田正樹、他,日本原子力学会「2006年秋の大会」(予稿: 発表予定) [12] 小茂鳥岳ら、他,日本原子力学会「2006年秋の大会」(予稿:発表予定) 195 -“ “レーザを応用した炉内保全技術とそのPWRへの適用“ “佐伯 綾一,Ryoichi SAEKI,佐野 雄二,Yuji SANO,黒田 英彦,Hidehiko KURODA,落合 誠,Makoto OCHIAI,田村 雅貴,Masataka TAMURA,河野 渉,Wataru KONO
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