辻倉 米蔵 Yonezo TSUJIKURA

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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
平成16年8月9日、美浜発電所3号機における2次 系配管破損事故により、5 名もの方が尊いお命を亡く され、6 名もの方が重傷を負われました。被災者、ご 遺族、ご家族の皆様に深くお詫びをするとともに、亡 くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。設備を設置、運営管理する者として、このような重 大な事故に至った責任を痛感するとともに、二度とこ のような事故を起こしてはならないとの強い決意のも と、「安全を守る。それは私の使命、我が社の使命」と いう社長の宣言に基づいて再発防止にむけた5つの基 本行動方針を掲げ、「再発防止対策に係る行動計画」に 基づき、全社を挙げて再発防止対策に取り組んでいる。ここでは、今回の事故の重大性に鑑み、事故から得 られた知見・教訓に保全学的見地からの普遍化の検討 を加え、原子力発電所の保全業務に対する改善活動事 例を交えて、今後の保全の在り方について考えてみた
2.美浜3号機事故の概要2.1 事故発生の経緯関西電力株式会社では、昭和 50年代前半より2次系 炭素鋼配管の減肉現象に着目し、配管の肉厚調査を進 めていたが、その後の国内外トラブルを契機に、それ までに得られたデータならびに諸外国における運転経連絡先:辻倉米蔵、〒530-8270 大阪市北区中之島 3-6-16、関西電力株式会社 原子力事業本部 電話: 06-6441-8821、e-mail:tsujikura @kepco.co.jp験等も含めた当時の技術知見を集大成して、平成2年 5 月に「原子力設備 2 次系配管肉厚の管理指針(PW R)」(以下「PWR管理指針」という)を策定し、そ の後、現在に至るまでこのPWR管理指針を社内ルー ルに取り入れ、2次系配管の肉厚管理を実施してきた。破損配管の肉厚管理状況について調査した結果、美 浜3号機で初めてPWR管理指針が適用された第11回 定期検査(平成3年1~6月)から、点検箇所の点検リ ストへの登録漏れがあった。その後、2 次系配管肉厚 測定業務をプラントメーカから協力会社に移管するために、平成8年にプラントメーカから検査用図面や点 * 検リストの引渡しを受けた際も、また、平成 9年に協 力会社に検査用図面の電子化を委託した際も登録漏れ は是正されなかった。平成15年4月に協力会社が破損部位の登録漏れに気 づいたものの、原子力データ処理システムに登録した だけで、登録漏れの連絡及び同年5月からの定期検査 での点検提案はなかった。同年 11 月に次回定期検査での点検計画の提案を電 子メールで受けた際も、点検すべき 420 箇所を記載し たリストが添付されていただけで、特段の注記がなか った。次回定期検査での点検が予定されていることの 確認は行っていたが、平成16年8月9日に事故に至っ た。2212.2 事故要因分析と対策について今回の事故の直接的な原因は、2 次系配管肉厚管理 業務に関する品質保証システムや保守管理システムの 整備が不十分であったことにある。 * 設備を設置、運営管理する者として、このような要 因から重大な事故に至った責任を痛感するとともに、 二度とこのような事故を起こしてはならないとの強い 決意のもと、これらのシステムの見直しを喫緊の課題 として取組み、再発防止対策の検討を行ってきた。原 因の究明、対策の検討にあたっては、過去の業務プロ セスを詳細に調査するとともに、根本原因分析を行い、 そこから抽出された要因に基づき、当社が主体的に管 理すべき業務は自ら行うなど2次系配管肉厚管理に関 する対策、労働安全活動の充実の対策、ならびに、保 全業務品質向上の観点から、保全業務全般に反映すべ き対策を取りまとめた。また、事故の調査を進める中で、2次系配管肉厚管 理における余寿命評価に際し、PWR管理指針に照ら して、不適切な運用を行なっていたことが判明し、こ れらは事故の直接的な原因ではないが、安全確保の観 点からも改めなければならない重大な問題であること から、原子力の安全をより確実なものにしていくため、 こうした原子力事業運営の課題を徹底的に分析して対 策として取りまとめた。現在、当社は、上記検討結果を基に策定した「美浜 発電所3号機事故再発防止対策に係る行動計画」に基 づき、全社を挙げて再発防止対策に取り組んでいる。 これらの行動計画は全29項目にわたり、これらを確実 に実施するために、実施状況やスケジュール等をより 具体化した実施計画を取りまとめ、取り組みを行って いる。3.美浜3号機事故の教訓3.1 配管減肉管理に関する問題の抽出と改善今回の事故の直接原因である「管理すべき部位が管 理対象部位から漏れて、長年管理範囲外におかれてい たことを修正できなかったこと」について、組織事故 の要因分析として一般的に用いられているトライボッ トB手法により事故の構図としての整理を行った。[1]保守管理システムが不十分であったため、本来、「事 故の原因」が形成された後でも、事故の誘起を防止す る障壁となり得たものが、破られていったことを示唆 している。PWR管理指針は、策定当時は世界でも類を見ない 先進的な管理指針であった。しかしながら、管理シス テムの整備不十分ということにより、重大な事故を招 いた。事故を防ぐ障壁はいくつかあったにもかかわら ず、見逃していたことについては、原子力発電に携わ る技術者の1人として、痛恨の極みである。また、PWR 管理指針に照らした不適切な運用が行われていたこと など、管理指針そのものの見直しという根本的な改善 がなされなかったことも問題であった。このことから、実際の保全業務の流れの中で、どの ような時点で、どのような問題点があったのかをより 明確にするために、配管減肉管理業務の流れに沿って 現状分析を行い、さらに、工事計画、調達管理、工事 評価という時間に沿った保全プロセスにおいて問題点 を抽出し、改善活動の検討を行った。抽出された各プ ロセスにおける改善例を以下に示す。 O工事計画:点検リストに抜けがあり、放置された→点検リストの整備、定期的なレビューを実施 ○調達管理:調達先に対する要求事項、役割分担が不明確 →調達文書にて要求事項、役割分担の明確化 O工事評価:不適合情報の水平展開が不十分 →不適合処理にかかる仕組みの明確化 また、これらの改善が確実に行われるよう保全のシ ステムを改善し、マネージメントをしっかり実施し、 健全な保全活動が回っていくように努めている。3.2 事故から得た教訓 * 上記検討結果に基づき、原子力発電の安全を確実な」 ものにしていくために、何が重要であり、どのような 対策が有効であるか、さらに有効な対策を打っために は何が必要であったかを教訓として取りまとめた。 教訓その1:計画段階で不備があった場合、下流側で防止するには、多重、多様なチェックの取組みや多くの活動が必要 教訓その2:実施においては、力量確認が必要 教訓その3:保全は体系的に考えることが必要 教訓その4:組織としてマネージメントが必要4.今後の保全の在り方4.1 保全学的見地からの教訓の普遍化 - 美浜事故から得た教訓について、保全業務全般への 展開を図るために、保全学的見地からの普遍化の検討222を行った。美浜事故の直接要因となった点検箇所の抜けは、計 画段階初期における点検リストへの登録漏れであり、 発生した潜在的な事故原因を、下流のプロセスで防護 するには、計画段階初期の活動に比べて何倍もの創意 工夫や労力が必要になる。したがって、まず、周到な 保全体系の構築を図り、原因を作らないように努める ことが重要である。そのためにも、計画および実行を 確実なものにするために、体系だけでなく運用する人 の力量も合わせて適切なものとしておくことが大切で ある。また、実施段階においても絶えず計画段階に立 ち返って対策を検討することを意図した取組みが重要 である。また、保全活動により、設備の健全性を確保し人や 周辺環境に悪影響を与えないようにするために、どの ような活動が必要であるかを事故防止対策の完結性向」 上の観点から、3×3マトリクスに基づき展開するこ とを試みた。保全活動は計画、実行、評価の時間軸に沿った行為」 の展開である。したがって、この各々の事項に対して、 空間軸に沿った事項が存在すると考える。空間軸とは、 時間軸と直行する軸であり、「要素」、「関係」、「抽象」 という時系列の深さを表すものである。ここでは、事 故の「原因を作らない(発生防止)」「原因の事故への 発展防護(未然防止)」「事故の影響緩和」を空間軸に 沿った事項と解釈した。[2]4.2 保全業務の改善活動3×3マトリクスに見られるように、時間軸、空間」 軸を勘案し、保全活動の改善を体系的に捕らえると、 その改善活動の完結性が向上する。2次系配管破損事 故の教訓を保全活動全体に反映していくために、保全 活動を体系的に分析し、改善項目を設定した。ここで は数々の改善項目の中からいくつか具体的に事例を紹 介する。 ○ 保全の対象、頻度、方法等の充実 1 . 保全プログラムの充実 0 保全体制に係る改善(ユーザーとしてのマネージ」メントの充実) 1 . 当社、メーカ、協力会社の役割分担、責任範囲の明確化 | ○ メーカ、協力会社との協業体制の構築 1. 技術力向上、情報共有の観点からの連携強化 つ 保全体制に係る改善(ユーザーとしてのマネージメントの充実) 1 . 当社、メーカ、協力会社の役割分担、責任範囲の明確化 つメーカ、協力会社との協業体制の構築 1 . 技術力向上、情報共有の観点からの連携強化」ここで重要なことは、これら活動が一過性のもので あってはならないことであり、常に改善は継続されな ければならない。健全な保全が回っていくよう、ユーザーとしてのマ ネージメントをしっかり行い、保全業務を継続的に改 善することが安全への何よりの近道である。5.結言 一過性のもので 善は継続されなザーとしてのマ 務を継続的に改ある。5今後の保全の在り方について、今回の事故から得た 教訓を踏まえて、考えを述べてきたが、まとめると以 下の通りである。 ・トラブル防止は「発生防止」、「未然防止」、「影響緩 「和」という階層性をもつことから、システマティックな保全活動が必要 ・トラブルの「原因を作らない」ためには、「計画」、 「実行」、「評価」の各段階において、保全を体系的 に捕らえた改善活動が有効 ・保全業務の継続的改善が重要最後に、改めて、被災者の方々、ご家族の方々に心 から、陳謝するとともに、このような事故を再び起こ ないように、再発防止対策をとるように努めたいと考 えている。佐相邦英参考文献1] James Reason 著、塩見弘 監訳、高野研一,佐相邦英 一訳、「組織事故」、日科技連、1999 2] 宮健三他、保全学構築に向けて(1)、日本 AEM 学会
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