リスク概念を導入した保全プログラム策定へのアプローチ

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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
原子力発電所の保全活動における目標は、事故やトラ ブルの発生を可能な限り低く抑制し、稼働率を高い数 値に維持し、保全に掛る費用を適切なレベルにしてい くことである。このような技術的目標に対して近年は “リスク”による評価の検討も進められているが、まだ 試行の段階である。ここで“リスク”とは、機器・部 品が故障・劣化により性能や機能を低下させ、最終的に、 原子力発電所や一般公衆に及ぼす「影響度」の大きさを 意味している。更に、原子力発電所の保全活動は、一般公衆や地域 住民の“安心”と“コンセンサス”を得るという社会的 な目標にも積極的な対応が必要であり、保全活動が“リ スク”を適切なレベルに低減し、“安心”を得るレベルに あるという根拠を、客観的に分かりやすく明示すると いうアプローチも重要な手段の一つと考えられる。具体的には、保全活動の判断基準となる“リスク” 評価の根拠や、新規に導入する保全計画手法や保全方式 の適性や効果の根拠を客観的で分かりやすい形で公開、 提示していくことである。当社では 2004年度から、米国の手法を参考に、浜岡原 子力発電所運営のより一層の信頼度向上と合理化を目指 し、浜岡原子力発電所3号機以下浜岡3号機という)の給 水系を対象に米国の保全最適化手法による評価を試行し、その有効性を確認するとともに浜岡原子力発電所への適 用にあたっての課題等の抽出を行った。この中でも、保全方式の選定の主要因となる機器の重 要度については、日本特有の条件である法規制や社会的 要求等のリスクを考慮した重要度分類の必要性が明らか になったため、現在、日本特有のリスクを考慮した重要 度分類の枠組み構築に向けた検討を進めている。 2.保全プログラム策定へのリスク概念の導入 原子力発電所の保全最適化に向けた活動は、技術的な 課題と社会的な要請に対する取組みが必要とされている。保全最適化における効果的な保全プログラムの策定 において検討すべき重要課題は、以下の項目に分類でき る。 1) 設備機器の“リスク”とその重要度の明確化 2)“リスク”重要度に適応した保全方式の選定 3) 設備機器の劣化・故障特性に適応した保全方式の選定 4) “リスク”を評価した上での最適な実施時期の選定 ここでは、上記重要課題のうち、現在、当社で検討し ている米国の保全最適化手法の浜岡原子力発電所への適用 性検討の中でも課題として抽出され検討を行っている 1) の“リスク”とその重要度の明確化、及び2)の“リス ク”重要度に適応した保全方式の選定について以下に述 べることとする。
2.1機器の“リスク”とその重要度の明確化原子力発電所の機器に想定される“リスク”は、これ までも、設備重要度分類などにより整理されている。し かし、“リスク”重要度分類は専門的であるため、一般の 人にとって分かり難いものとなっている。このため、選 定した保全方式の妥当性が正しく理解され“安心”を得 るためには、“リスク”を客観的で分かりやすく、整備し ていく必要がある。米国では、ROP という法規制などの中で、確率論的安全 評価等の定量的な指標で“リスク”の重要性を提示し、 コンセンサスを得ようとしている。 我が国では、このような指標はなく、原子力発電所で 想定される事故・トラブルについて重要なものとそうで ないものの明確な切り分けが明示されていない。このた め、全てのトラブルが一般の人にとって不安要因になっ ていると考えられる。 このため、何を基準として保全方式の妥当性を理解し て良いのかが不明瞭であり、保全活動の全体について一 般の人の理解と“安心”が十分に得られない状況にある と推察される。 そこで、一つのアプローチとして原子力発電所の機器 が機能喪失に至った場合の“リスク”重要度を以下の4 つに体系的に分類し、評価した。1) 一般公衆などに対する放射線ハザードなど安全性に関する機器 2) プラント停止や発電供給の停止など運転性に関する機器3) 安全性、運転性への影響はないが労働安全や環境問題など社会性に関する機器4) 前記いずれにも関与しない“軽微なリスク”に関する機器 ここで例えば、1)は、設備機器の機能喪失が、炉心損 傷事故や放射能放出事故などに関わる機器であり、2)は、 スクラム、手動停止、出力低下などに関わる機器であり、 3)は、昨今の原子力を取り巻く情勢から、漏洩、火災、 人身事故などに関わる機器である。この3つが特に重要 と考えられ、これらと保全との関連を評価することが不 可欠となる。 2.2 “リスク”重要度に応じた保全方式の選定 保全活動の最適化に対して、正しい理解と認知を得ていくためには、機器の“リスク”重要度を明示するだけ でなく、“リスク”重要度に適応した保全方式を体系的に 選定することが重要である。米国では、RCM(信頼性重視保全 : Reliability Centered Maintenance)や、RBM(リスク基準保全:Risk Based Maintenance)などの保全計画手法を適用して、リスク、 コスト、ベネフィットのトレードオフによる論理的な方 法で保全方式を選定し、その論拠を明示することで、一 般のコンセンサスを得ようとしている。我が国でも、RCMなど適用検討が進められているが、内 容が専門的であり、一般の認知やコンセンサスを得ると いう点では十分とはいえない。 そこで、一つのアプローチとして、“リスク”重要度に応 じた、より基本的な選定基準を検討する、以下のような 方法が考えられる。 1) “安全性”に関わる機器は、健全性の確保が絶対条件となる機器であり、信頼性の高い保全活動が要 求されるため、CBM(状態監視保全 : Condition Based Maintenance)のように機器状態に依存する方式を直 ちに適用するのでなく、まずは、TBM(時間計画保 全: Time Based Maintenance)を適切な頻度で計画的 に実施し、“リスク”重要度の低い機器への CBM な どの適用において実績を積み、これを順次展開していく。 2) “運転性”に関わる機器は、放射線ハザードに関 与しないため、発電供給“ベネフィット”や保全費 用“コスト”とのトレードオフにより、まずCBMの 適用を評価し、可であれば CBM を、否であれば適切な頻度で TBMを実施する。 3) “社会性”に関わる機器は、“安全性,“運転性”に影響しないが、2次系配管の蒸気漏洩や火災発生な どの労働安全を考慮して、まずBDM(事後保全 : breakdown maintenance)の適用を評価し、可であれば BDM を、否であれば CBM もしくは適切な頻度で TBMを実施する。 4) “軽微なリスク”に関わる機器は、積極的に BDMを適用する。 以上の手順のイメージを図-1 に示す。232時間計画保全(TBM)安全性リスク・常点検順次適用拡大 衆態監視保全(CBM) ・監視の省力化する ・診断の高精度化、事後保全(BDM)・定期交換、 *・故障修理低発電供給信頼性リスク図-1 設備重要度評価による保全方式の適用手順2.3浜岡3号機における重要度分類の試行 2.1及び2.2の考え方に基づき浜岡3号機の余熱除去系 及び給復水系を対象に機器毎の重要度分類の試行を行い その妥当性と課題について確認した。試行では、安全上の重要度及び電力供給に関する重要 度をそれぞれ5段階に分類したマトリックスとした。さらに社会的信頼性については、機器の故障により放 射性物質の漏洩、火災、人身災害を引き起こす機器を抽 出し、社会的リスクの有無を確認した。なお社会的リス クについては BDM の適用可否を評価する目的実施するた め、BDM の適用検討範囲(安全上の重要度及び電力供給 に関する重要が低い範囲)を対象とした。 重要度分類のイメージを図-2 に示す。TBM周期見直し重要度分類 クラス1クラス2|クラス31 安全性重要度ICBM適用、TBM馬期見直しICBM、BDM適用堂要度分類 対象外[BDM用D2D3D4EDS「私に直接に接続出力にド 関傷しないしない主要バータ 性能 :I変談無料プラント 語力大幅・自動停止[TBM:時間計画保全 (Time Based Maintenance) CBM:状態監視保全」 (Condition Based Maintenanc BDM:事後保全 (Broke Down Maintenance)電力供給重要度→図-2 重要度分類のイメージ試行の結果、安全上の重要度、電力供給に関する重要 度及び社会的信頼性を含めた重要度分類の枠組みを構築 することができた。また、今後浜岡原子力発電所の全設 南へ展開していくにあたっての課題を抽出することがで きた。 3. まとめ保全活動の最適化を考える上では、機器の機能喪失時 のプラントへの影響度を評価することが重要である。 今回の検討で、安全に関する影響度、電力供給に関す る影響度及び社会的信頼性に関する影響度を用いて機器 の重要度を評価・分類することにより、保全最適化手法 の適用検討に向けたベースを確立することが可能である ことを確認できた。 また、このような体系的、網羅的な機器の重要度評価・ 分類が、保全の最適化に必須のものであることを改めて 認識できた。 同時にこれまで見えていなかったさまざまな課題が抽 出されたが、これも今回の検討の大きな成果であり、課 項の解決策を検討・反映することにより、更に説得力の 高い重要度分類が実施できるものと考える。33“ “リスク概念を導入した保全プログラム策定へのアプローチ “ “清水 高,Takashi SHIMIZU
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