SCC 予防保全を目的とした SUS316L 鋼レーザ表面溶融処理部における高温割れ発生挙動に関する理論的検討

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カテゴリ: 第2回
1.緒言
オーステナイト(y)系ステンレス鋼 SUS316L 製原 子炉配管の溶接継手部における粒界応力腐食割れの発 生が問題となっており、同部位の補修技術とともにそ の予防保全手法の確立が求められている。その一つと して材料のごく表層のみをレーザ照射により溶融・急 冷凝固させる、いわゆるレーザ表面溶融処理(以下、 レーザ処理と略記する)が考えられる。しかしながら、 溶融凝固部が初晶凝固組織となった場合、フェライ ト(6)含有量が大幅に減少するため、高温割れが発 生し易くなることが知られている[1]。とくに、P や S 等の不純物元素が多く含まれている場合、凝固脆性温 度域(BTR)が増大することから、割れ感受性がより 増大することになる。一方、溶融凝固部における高温 割れを解析する場合、前述の BTR あるいは延性低下温 度域(DTR)等の材料要因だけでなく、力学的要因に ついても解析する必要がある。従来より溶接金属中における高温割れについては溶接熱サイクル過程で生じ る引張ひずみが BTR あるいは DTR の臨界値を越えるこ とにより発生すると理解されてきた。しかしながら、 実際の溶接部についてそれらを解析し定量的に評価す るとともに鋼種や溶接条件による割れ感受性の変化を 証明した研究は少なく [2]、レーザ処理部については 全く検討されていないのが現状である。そこで本研究では、y系ステンレス鋼 SUS316L のレ ーザ処理部における高温割れの発生機構の解明とその 予測手法の確立を目的として、同処理部における BTR およびひずみ挙動に関する理論的検討を行った。
2. 供試材料および実験方法
レーザ処理部の高温割れ感受性に及ぼす不純物元素 (P,S)と凝固モードの影響を明らかにするために、 P+S量とCr/Ni濃度比をそれぞれ3水準に変量させた9鋼 種の316L型ステンレス鋼実験溶解材を作成し実験に供 した。それらの化学組成をTablel に示す。レーザ処理 は定格出力2kWのLDレーザを用いて、出力を2kW、 焦点位置を試料表面、シールドガスをArとして、溶接 速度を10~60mm/sに変化させて行った。同処理後、235割れ数、総割割れ発生の有無を顕微鏡により調査し、割れ数、総割 れ長さを測定して割れ感受性を評価した。Table 1 Chemical compositions of materials used (mass%).Markc si Mn P s Ni Cr Mo Co B N SUS316LA0.015 0.52 0.960.02010.004 | 12.39 16.28|2.120 .020|0,0003 0.027 SUS316LB10.016 0.73 0.92 0.0290.013 14.76 16.64 2.530,0010.027 SUS316LC | 0.016 | 0.54 1.18 0.029 0.012 13.12|16.27| 2.090.031 SUS316LD10,016 0.55 | 1,180,029 0.012 12.44|16.38| 2.10.031 SUS316LE | 0.016 10.730,910,0200.00414,84|16.57 | 2.480.026 SUS316LF | 0.013 0.53 1.180,02010.005 | 13.09|16.30| 2140.027 SUS316LG | 0.015 0.7210,900,0190.010|14.87 | 16.5212.480.032 SUS316LH 0.01510.53 | 1,180.0210,010 13.15|16.28| 2.100.033 .SUS316L | 0.015 | 0.53 | 0.99 | 0.021 0 010 | 12.45 | 16.34 |0.033| 2.103.高温割れ発生挙動・ レーザ処理部表面に発生した高温割れの観察結果を Fig.1に示す。割れは発生位置によって(a)に示すビード 中央の柱状晶会合部で発生した縦割れと(b)に示すデン ドライト境界にその成長方向に沿って発生した割れに 大別された。いずれの割れもその長さは数10μmから 数100 μm程度である。破面観察の結果をFig.2に示す。 デンドライト状の組織が観察され、またその表面は非」 常に滑らかとなっている。このような特徴から、ビー ド内に発生した割れは凝固割れであると判断される。11.19m WomenT KYSHIMANCE WIDE50ml150m(a) At bead center (b) At dendrite boundary Fig.1 Surface appearance of laser surface melted region.10 um Fig.2 Fractured surface of the hot crack in laser surface melted region.レーザ処理部の凝固割れ感受性を定量的に評価する9.2 Fractured surface of the hot crack in laser surface elted region.レーザ処理部の凝固割れ感受性を定量的に評価する ため、各鋼種の同処理部に発生した割れの総割れ長さ を測定し比較した。その結果を Fig.3 に示す。P+S 量 の少ない SUS316LE には割れの発生が認められないの に対し、P+S 量の多い鋼種である SUS316LB では割れ の発生が確認され、レーザ走行速度の増加に伴い総割 れ長さが増加する傾向が認められる。この原因として、 P+S 量が多い鋼種においてはこれらの元素の凝固偏析 が顕著となり、固液共存温度範囲が拡大することによ って凝固割れ感受性が増大したことが考えられる。Intergranular crack Center line crackIntergranular crack Center line crackTotal crack length(mm)Total crack length(mm)- 10 20 30 40 5060 Laser traveling velocity(mm/s)10 203040 5060 Laser traveling velocity(mm/s)(a) SUS316LE (P+S : 0.02%) (6) SUS316LB (P+S : 0.04%) Fig.3 Relationship between laser traveling velocity and total crack length of hot cracks in laser surface melted regions.一方、タイプ別の割れ発生挙動をみると、レーザ走 行速度の増加とともに、まずデンドライトの成長方向 に沿った割れが発生し、さらにレーザ走行速度が増加 するとビード中央に縦割れが発生することにより、デ ンドライト境界に沿った割れが減少する傾向を示す。 最終的にレーザ走行速度を60mm/sとした場合、発生 した割れはビード中央の縦割れがほぼ全てを占めるよ うになる。これはレーザ走行速度の増加に伴いビード 中央の縦割れが発生することによって溶融凝固部の応 力が解放され、その結果他の割れの発生が抑制された ものと推察される。4. 高温割れ発生挙動の理論解析レーザ処理部において発生した凝固割れ(ここでは 縦割れを対象とした)の発生機構の解明を目的として、 同割れ感受性に大きく影響を及ぼすBTRと凝固過程に 溶融凝固部に付加されるひずみ挙動をそれぞれ有限差 分法に基づく数値解析と有限要素法を用いた熱弾塑性 解析により求め、それらの計算結果をもとに同部位で の割れ感受性について検討を行った。 1. 通常の溶接時におけるBTRを求める方法としてトラ ンス・バレストレイン試験が用いられている。しかし ながら、レーザ処理過程において同試験を実施するの236は溶融部の凝固速度があまりに大きいため、極めて困 難である。そこで、本研究ではTIG溶接を用いたトラ ンス・バレストレイン試験を実施してBTRを求め、同 領域の上限に相当するレーザ処理時の凝固開始と下限 値である凝固完了の温度をそれぞれ理論解析により算 出し、それらの結果に基づきレーザ処理におけるBTR の推定を試みた。各鋼種に対して種々の付加ひずみ条 件でトランス・バレストレイン試験を行い、凝固割れ 発生温度域から通常のアーク溶接時のBTRを求めた。 凝固開始温度は急冷凝固過程でのデンドライトの成長 に関する理論モデルであるKurz-Giovanola-Trivediモデ ル (K-G-Tモデルと記す) [3]を用いて、デンドライト 先端温度を算出して求めた。凝固完了温度は、デンド ライトの断面形状を六角形と仮定し、有限差分法を適 用した理論モデル[4]を、急冷凝固過程に応用して凝 固偏析挙動の理論解析を行った後、得られた凝固偏析 量(ここでは含有量の多いPを対象とした)から、熱 力学計算 ソフトThermo-Calcを用いて求めた。トラン ス・バレストレイン試験により得られたTIG溶接時の BTRの実測結果と前述の凝固開始および完了温度の計 算結果を基に、レーザ処理部におけるBTRを推定した 結果をFig.4に示す。これらの結果より、TIG溶接部に 比べてレーザ処理部の固液共存温度域は凝固完了温度 が上昇するため狭くなることがわかる。また、レーザ 走行速度の増加とともにその傾向はより顕著となる。120mm/s ~40mm/s 60mm/s TIGStrain(%)1680_15201640 1600 1560Temperature(K)Fig.4 Solidification brittleness temperature ranges estimated in laser surface melted regions (P+S : 0.04%).レーザ処理部における凝固割れ感受性を評価するた めには、同処理部における BTR と同処理過程での溶 融凝固部におけるひずみ挙動を比較する必要がある。 しかしながら、レーザ処理部におけるひずみ挙動を実験により測定することは困難である。そこで本研究で は有限要素法による熱弾塑性解析によりレーザ処理過 程での溶融凝固部におけるひずみ挙動の算出を試みた。 計算には溶接変形解析専用プログラム Quick Welder を 用いた。凝固開始から完了までにビード中央にレーザ 走行方向に対して垂直方向に加わるひずみを解析する ために、凝固開始温度である 1678K におけるひずみを 0%とし、その時点での要素サイズを基準として凝固 過程での全ひずみの変化を求めた。前述の BTR の推 定結果と熱弾塑性解析による溶融部内中央でのひずみ 挙動の計算結果を比較した。その結果を Fig.5 に示す。 レーザ走行速度の増加に伴いレーザ走行方向に垂直の 引張ひずみ量は大きくなり、凝固過程でのひずみの増 加度(ひずみ速度)も大きくなることがわかる。ひず み曲線と各鋼種における BTR を比較すると、P+S 量 が 0.04%、レーザ走行速度が 60mm/s の条件において BTR の臨界曲線とひずみ曲線が交差していることがわ かる。この結果は溶融凝固部中央において割れが発生 することを示唆している。実際に、P+S 量が 0.04%の 鋼種においてはレーザ走行速度が 60mm/s の条件でビ ード中央に縦割れが発生していることから、本解析結 果は実現象を理論的に裏付けるものといえる。-0.02%P+S -0.04%P+S0.02%P+S ・0.04%P+SStrain(%)(%)upensParCrackedCated1690_1650153016901650 1610 15701530Temperature (K)1610_ 1570 Temperature (K)(a) LTV :20mm/s(b) LTV:40mm/sStrain (%)-0.02%P+S ----- 0.04%P+SCracked1690_15301650 1610 1570_Temperature (K)(c) LTV:60mm/s Fig.5 Comparison between solidification brittleness temperature ranges and strain curves in laser surface melted regions (LTV: Laser traveling velocity).2375.結言1. 本研究では、SUS316L 鋼のレーザ表面溶融処理部に おける高温割れ発生機構の解明を目的として、同処理 部における凝固脆性温度域 (BTR)と溶融凝固過程で のひずみ挙動を解析した。その結果、P、S の含有量 が高い鋼種では同処理部において多数の凝固割れが発 生し、その傾向はレーザ走行速度の増加とともに顕著 となることが明らかとなった。また、レーザ走行速度 が低い条件ではデンドライトの成長方向に沿った割れ が多く発生し、レーザ走行速度の増加とともにビード 中央での縦割れの発生が顕著となる傾向が認められた。 同処理部の BTR を凝固理論および凝固偏析理論に基 づく数値解析により推定した結果、レーザ走行速度の 増加にともない温度域が狭くなることがわかった。同 部位における BTR の推定結果とひずみ挙動の熱弾塑 性解析結果を比較することにより割れ発生の可否を評 価した結果、ビード中央においてはレーザ走行速度の 高い条件下で BTR の臨界曲線とひずみ曲線が交差す ることが明らかとなった。この結果は、同条件下でレ ーザ処理部中に縦割れが発生することを示唆しており、 実験事実を理論的に裏付ける結果が得られた。参考文献[1] Lippold,J.C., “Solidification Behavior and CrackingSusceptibility of Pulsed-Laser Welds in Austenitic Stainless Steels”, Welding Journal, Vol.73, No.6, 1994,pp.123s-139s. [2] M.Shibahara, H.Serizawa and H.Murakawa., “NumericalSimulation of Hot Cracking in Welding Using Temperature Dependent Interface Element, Proceedings of the 7th International Symposium of Japan WeldingSociety Vol.2, November 2001, pp.1075-1080. [3] Fukumoto, S. and Kurz, W., “The 8 to y Transition inFe-Cr-Ni Alloys during Laser Treatment”, ISIJInternational, Vol.38, No.1, 1998, pp.71-77. [4] K.Nishimoto, H.Mori, K.Esaki, S.Hongoh and M.Shirai,“Effect of Sulfur and Thermal Cycles on Reheat Cracking Susceptibility in Multi-pass Weld Metal of Fe36%Ni Alloy““, ITW Doc.IX-1934-99, July 1999.238“ “SCC 予防保全を目的とした SUS316L 鋼レーザ表面溶融処理部における高温割れ発生挙動に関する理論的検討“ “森 裕章,Hiroaki MORI,西本 和俊,Kazutoshi NISHIMOTO
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