世界初 PWR炉内構造物の一体取替工事(CIR)について

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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
1 三菱重工業株式会社は、四国電力株式会社伊方発電 所1号機において、世界で初めて、加圧水型原子炉 (PWR)の炉内構造物を一体で取り替える工事を完了した。 以下に世界初の炉内構造物一体取替工事の概要と特徴 について紹介する。本工事は、高燃焼度燃料の採用に伴う制御棒増設への 対応と、炉内構造物を構成するボルト(バッフルフォーマ ボルト)の海外での損傷事例を受けた予防保全対策として、 最新の標準型2ループプラントを基本として設計を行った 炉内構造物に、上部炉心構造物(UCI)及び下部炉心構 造物(LCI)を一体で取り替えたものである。取替工事の前半では、運転開始後20年以上を経て放 射線量の高くなった使用していた炉内構造物(旧CI)を、 気中にて上下部構造物を一体(一塊)で原子炉容器から 吊り上げ、これらを丸ごと大型鋼製保管容器に収納し、原 子炉格納容器から搬出後、蒸気発生器保管庫に保管した。 後半の新炉内構造物(新CI)の据付では高精度水中遠隔 操作による隙間計測装置を用いて原子炉容器と新炉内構 造物の間の隙間を初期プラント建設時と同等の据付状態 に復帰させた。
2. 炉内構造物の取り替えについて 2.1 炉内構造物取り替え事例 -PWR炉内構造物は、原子炉容器内にあって炉心(燃 料集合体)を支持し、一次冷却材の流路を構成する炉心 支持構造物とそれ以外の炉内構造物から構成される原子 炉容器内部構造物の総称である(図1)。 - 炉心から直接中性子照射を受け且つ高温状態となる 厳しい環境にさらされる炉内構造物の高経年化に対す る予防保全対策には、部品取替と全体取替の両方の選 択が可能である。 炉内構造物全体取り替えの事例は、 沸騰水型原子炉(BWR)では、国内外でいくつかの内部 構造物(シュラウド)の取替事例があるが、PWR では 19 年程前に米国プレーリーアイランド 1/2 号機の上部 炉心構造物のみの取替事例(1986年)が報告されてい るだけで、炉内構造物全体を取り替えた事例はない。くいしなラミーWDLERICA上部炉心構造物(UCI)200000か原子炉容器(RV)バッフルフォーマボルト燃料集合体」下部炉心構造物(LCI)図1 PWR炉内構造物2552.2 全体取り替えについて - 今般、伊方発電所 1, 2 号機の高燃焼度燃料の導入に 伴い、炉内構造物に制御棒クラスタ案内管(GT)を4体増 設するための構造変更を具体化するに当たり、以下の点 が考慮され、炉内構造物の長期信頼性並びに発電所の 安定運転を確保するための予防保全対策として、炉内構 造物一体取り替え(全体取り替え)が選択された。◆過去の PWR 炉内構造物の不具合対応 ◇伊方発電所は重要度の高い発電設備(四国電力) ◇取替工法の確実性(国のPWR炉内構造物取替工法 信頼性実証試験成果の適用)2.3 最新設計の新炉内構造物 - 新炉内構造物については、最新の標準型2ループプラ ントの炉内構造物設計に基づき、次の特徴を有する設計 と製作を行った。 主な改良点は、制御棒クラスタ案内 管の増設、上部炉心支持板の構造変更(円筒胴付鋼製 円板の採用)、バッフル構造の変更(角バッフルの採用、 バッフルフォーマボルトの構造変更)、及び熱遮へい体 の変更(円筒型から分割型)である(図2)。 特に、 バッフルフォーマボルトについては、ボルトの長尺化、 冷却孔の設置により、応力の低減と使用環境の改善を 行い、応力腐食割れに強い構造とした(2.4節参照)| 制御棒うラスタ案内管の増設29体 → 33体EEEE 年12上部炉心支持板の構造変更 鋼製円板 → ?朋付鋼製門板バッフル構造の変更 ・角バッフルの採用 ・ボルトの本数低減、 ・ボルトの長尺化。 ・ボルト冷却孔の設置熱遮へい体の構造」変更 円筒型 → 分割型旧炉内構造物新炉内構造物図2 CIの主な改良点2.4 バッフル構造の変更バッフル構造には、海外のバッフルフォーマボルト損傷 事例に鑑み、より耐SCC性に優れた構造を採用した。 表1に新旧炉内構造物のバッフル構造の比較を、図3に バッフルフォーマボルト構造の比較を示す。 - 一般的に応力腐食割れ(SCC)は、「環境」, 「応力」, 「材料」の3要素の影響を強く受ける。「環境」に対する改良には、炉心バッフル取付板にボル ト冷却孔を設けて温度低減による環境の緩和を実施した。 「応力」に対する改良には、バッフルフォーマボルトに発 生する応力のうち熱曲げ応力(炉心バッフルと炉心バッフ ル取付板との相対熱膨張差に起因して発生する変位支配 型の応力(二次応力))の低減を図った。 取替用ではボ ルトを長尺化し、これにより同じ量の熱変形を受けた場合 の熱曲げ応力を低減し、このボルト長尺化及びボルト本数 低減のため角バッフルを採用した。 加えて、バッフル領 域に流れ込む炉心バイパス流量を1.5%(最確値)まで 増加させ、バッフル構造の冷却を促進し熱変形を小さくす る環境とした。 1号炉では、首下の形状を1Rからパラボリ ック型に変更し、首下にかかる応力集中を低減している。 ボルトの「材料」については、強度の高いG316CW材を 使用した。バルーム ッフマー フォー表1 バッフル構造の比較 1 構造 | 項目 | 旧CI(伊方1号) | 取替用新CI |SUS347 材料G316CW 相当材 本数、 100%77% シャン約3.4倍 ク長さ 首下形1アール パラボリック 状 炉心SUS304 材料SUS304 バッフ相当材 構造角バッフル 平板、 材料 SUS304 SUS304 炉心バ構造 相当材、板 ッフル 取付板 ボルト 冷却孔2箇所/本 バッフル構造の バイパス流量0.0070.015ル256炉心バッフルをおさらいしく!バッフルフォーマボルト炉心バッフル取付板(旧CI)ボルト冷却孔なし図3 バッフルフォーマボルト構造の比較 3. 旧CIの気中一体撤去搬出工法旧CIを原子炉容器から撤去、搬出するため、被ばく量 を抑えて工事期間の短い効率的な撤去・搬出・運搬の方 法を新たに開発した。 以下に旧CI一体撤去搬出工法の 概要を示す。3.1 旧CIの線量当量率と一体撤去のメリット - 運転開始後約20年を経過した旧CIは、放射線量が高 い構造物となっており、工事計画においては、旧CIの外 表面線量率を2×105mSv/h と算定した。 高い放射線 量の要因は、炉内構造物材料自体が運転中に中性子照 射を受け、Coなどの放射化生成物が生成されることによ るものである。 このため、除染では炉内構造物の外表面 線量率を低減することができないため、除染せずに被ばく 量を抑え且つ工事期間の短い工法には、UCI及びLCIを 一体(一塊)でRVから吊り上げ、これらを丸ごと保管容器 に収納して搬出する工法が効果的であった。 また、気中 にて旧CIを一体で保管容器に収納する工法は、保管容 器自体をキャビティ水に汚染させずに済むため短期工程 にも寄与した。 旧CI一体撤去工法に対し、旧CIを分割・ 細断する工法も考えられたが、いずれの撤去形態でも当 面、発電所内に保管することになるため、工事期間及び 工事総線量の観点から、今般のCIR工事には、旧CI分 割・細断工法よりも、一体撤去搬出工法を選択した。旧CIの一体撤去搬出工法は、さらに、次の技術とメリッ トから成り立っている。冷却水113000カットス※冷却乳長尺化(新CI)ボルト長尺化、冷却孔設置1)原子炉格納容器の機器搬入口を利用した新旧CIの - 搬出入を可能とし、仮開口を不要とした。 2) 旧CIの放射線遮へいと専用保管容器による構内運 * 搬と保管(3.2節) 3)原子炉格納容器内での重量物の取扱技術(図4) ・原子炉格納容器内特設クレーンの設置・撤去 ・特設クレーンによる保管容器の吊り上げ・横倒し ・遠隔操作による保管容器下蓋の閉止技術3.2 高精度の大型保管容器の設計製作旧 CI は、固体状の放射性廃棄物の事業所内廃棄の規 定(実用炉規則第15条)などに基づき、所要の放射 線遮へい機能などを考慮して設計した鋼製保管容器に 封入し原子炉格納容器から搬出後、発電所構内を運搬図4 原子炉格納容器内特設クレーンと旧CI保管容器257して蒸気発生器保管庫に保管した。 旧 CI 保管容器の 遮へい設計においては、先行工事例の蒸気発生器取替 工事(SGR)における表面線量率計画値を基に、その外 表面線量率が2mSv/h以下となるように遮へい厚さを 設定した。 このため、旧 CI 保管容器は、板厚約 28cm を要し、旧 CI を丸ごと収納するため、全長約 12m、 外径約 3.8m、総重量約 450ton (旧 CI 込み)に及ぶ規 模となった。 さらに、外径及び内径制限などに加え、 作業員が接近できない環境において旧 CI を遠隔操作 により的確に吊り上げ保管容器内に収納するため、厚 肉容器にも拘らず全長に渡り内径円筒度 3mm 以下の 高精度にて設計製作を行った。 実機工事に先立ち、 製作した旧CI保管容器と実機工事に持ち込む特設ク レーンを当社神戸造船所にて組み上げ、実際に吊り上 げ横倒しを行う作業の検証試験を行った。3.3 短工期・低被ばくの実現旧CI一体撤去搬出工法を実機工事へ適用することによ り、旧CIを分割・細断する工法に比べ工事全体(旧CI撤 去~新CI据付まで)で約1/2~1/3の短工期(約70 日)を実現するとともに、工事総線量(作業員の被ばく量の 合計)も、旧CI分割工法に比べ、約1/10の低い線量に 抑えることに成功した(いずれも当社比)。4. 新CIの高精度据付けPWR炉内構造物は原子炉容器に溶接されていないた めその間には僅かな隙間が存在する。 この隙間が大き いと炉心バイパス流量が多くなるので、隙間は所要の大き さ以内に設定せねばならない。 初期建設時には、作業 者が原子炉容器の中に入って隙間を計測し規定値以内 に設定しているが、炉内構造物取替では、原子炉容器が既存のRV<据付け後のRVと新CIの隙間> | 出口ノズルの部分:約1.4mm ラジアルキーの部分:約0.4mm新CI図5_新CIの据付け結果高線量のため作業者が原子炉容器内に入って隙間調整 を行うことができない。 そこで、新CIを既存の原子炉容 器に据え付ける際に、新たに開発した水中高精度遠隔操 作による計測装置を用いて隙間を計測し、その結果に基 づき工場で加工した部品を現場において新炉内構造物 に取付け、作業者が原子炉容器内に入らずに新炉内構 造物を所定の隙間と位置に据え付ける工法を開発した。 この新炉内構造物I据付工法により、外径約2.9m、全長 約8m、重量約100tonの新炉内構造物を、原子炉容器と の最小隙間約0.4mmの極めて高精度な隙間に復帰さ せる(初期プラント建設時と同等の据付状態にもどす)こと に成功した(図5,6,7参照)。 * 水中高精度遠隔計測装置を用いた新炉内構造物据付 工法については、実機工事に先立ち、通産省(当時)委託 「原子力プラント保全技術信頼性実証試験」((財)原子力 発電技術機構)において、一定の据付手順と工法信頼性 を実証済みである。5. 結言 ・ 当社は、四国電力伊方発電所1号機において、世界で 初めてPWR炉内構造物の一体取替工事を無事故無災害 にて完了したことにより、線量の高い高経年化原子力機器 に対し、安全に且つ短工期で低い工事総線量により取替 工事を行える技術を示すことができた。 今回の経験と技 術を生かし、引き続き原子力機器の信頼性向上と予防保 全対策に積極的に取り組み、原子力発電所の安全運転 支援に全力を上げて行く。図6 新CI(UCI)の据付状況図7 新CI(LCI)の据付状況- 258 -“ “世界初 PWR炉内構造物の一体取替工事(CIR)について“ “内山 純一,Junichi UCHIYAMA,矢口 誓児,Seiji YAGUCHI
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