国内PWR原子炉容器出口管台クラッディング工事概要
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カテゴリ: 第2回
1. 序論
PWR1次冷却系統に用いられている 600 合金溶接 部は、高応力付加状態では応力腐食割れ(PWSCC)が 発生する可能性があることは既に知られている。 - 米国の発電所では、原子炉容器(図-1)と1次冷却材管との 600 合金溶接部に発生した PWSCC による き裂が貫通し、1次冷却材の漏えいに至っている。こ の損傷事例は、原子炉容器製作時の当該部の溶接やり 直しによる大きな残留応力が原因とされている。
応力腐食割れは、「材料」、「応力」、「環境」の3つの 要因が重なった時に発生することから、予防保全対策 は、どれか1つの要因を取り除く方針で実施できる(図 - 2)。本内面クラッディング工法は、このうちの材料 について、耐 PWSCC 性に優れている 690 合金を管台 の異材継手部(600 合金溶接部)の内面にクラッディ ングし、「材料」による応力腐食割れ発生要因を排除す る工法の1つである。■腐食割れは、「材料」、「応力」、「環境」の3つの 重なった時に発生することから、予防保全対策 れか1つの要因を取り除く方針で実施できる(図本内面クラッディング工法は、このうちの材料 って、耐 PWSCC 性に優れている 690 合金を管台 ■継手部(600 合金溶接部)の内面にクラッディ、「材料」による応力腐食割れ発生要因を排除す ミの1つである。材料 材料改善環境応力 | 環境改善応力改善 |図-2:SCC の発生要素と改善2. 工事計画 . 工事計画1 原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法 の適用においては、1次冷却材の流路確保及び施工 部位の検査性確保のため、クラッド溶接に必要な厚 さ分の溝を切削した後にクラッド溶接を行い、管台 内側にクラッド溶接部が突出しない構造とした。内面の溝深さは、構造強度に影響の無い範囲内に 限定し、クラッド溶接部の強度を期待しないものと した。-265溶接施工に当たっては、管台母材が低合金鋼であ り、国内法規では、溶接後熱処理が要求される。し かし、当該部に溶接後熱処理を与えると、オーステ ナイトステンレス鋼を使用しているセーフエンドが 鋭敏化する可能性があることから、溶接後熱処理の 不要なテンパービード溶接方法の導入を計画した。 溝加工及び溶接時間の短縮並びに被ばく量を最小と するため、3層のテンパービード溶接条件を確立し、 国内許認可を取得の上、実機への適用を図った。 - テンパービード溶接方法は、溶接後熱処理が出来 ない場合、溶接熱影響部の硬化領域を、後続パスに より、硬化領域を焼き戻し、じん性、延性を回復さ せる溶接方法である。 - 溶接部の健全性確認としては、試験で破壊調査を 実施し、低合金鋼熱影響部の金相観察及び硬さ試験 にて焼き戻し効果を確認している。溶接後の非破壊検査としては、外観・PT検査及 びUT検査を実施し、健全性を確認している。 実機適用に際しては、当該部にアクセスするため に、原子炉容器内部に炉内構造物がなく、気中環境 を創出することが前提となる。図-3:管台内面自動 TIG 溶接試験状況また、施工対象部位が高線量率環境下である ことから、遮へい用設備、除染、切削・溶接・ 検査などの多くの遠隔装置を開発・導入を図った。 さらに、実機大の管台モックアップにより事前 検証試験を徹底し、工法・施工性に問題の無いこと を確認した。(図-3参照)3. 実機への適用1 原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法を、 平成16年 11月四国電力株式会社伊方発電所1号機に おいて初めて適用した。伊方発電所1号機では、同時 期に炉内構造物の取替工事があり、原子炉容器内に炉 内構造物が無く、気中環境が確保できる状況を利用し て、出口管台への内面クラッディングの工事を実施し た。工事は、重量約 40 トンの遮蔽用作業架台の設置 (図 -4)から始まり、管台内面除染により環境線量率の 低減を図ったのち、切削・溶接・検査作業に遠隔装置 を用いて実施した。 * 作業は2管台を並行で実施し、工事期間は約25日 (内炉内の占有は22日間)を要した。溶接施工後の検査では、外観・PT 検査・UT 検査と も無欠陥で合格し、耐圧漏洩試験を完了した。工事の総被ばく線量実績は、0.3人・Sv であり、 計画の 1/3程度で完遂した。図-4:遮へい用作業架台設置状況4.結言1)原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法が、初適用において工事が成功したのは、工法・ 装置の開発に十分な時間を費やし、徹底した事前 検証とトレーニングの成果である。2662)原子力プラントの健全性を確保する上で、600 合 金保全対策については今後とも鋭意取組んでいく 必要があり、今回の様なクラッディングのみなら ず、応力改善・取替についても、状況に合せて 対策を提案していく計画である。謝辞原子炉容器出口管台クラッディング工事の実機適用 実績は、四国電力株殿伊方発電所での工事実績を紹介 したものである。参考文献 [11 原子力発電設備維持に係る技術基準等検討委員会、 “発電用原子力設備の維持に係る技術基準原案 平成 15 年度版 “、平成 15年9月改訂- 267 -“ “国内PWR原子炉容器出口管台クラッディング工事概要“ “中村 康夫,Nakamura YASUO,山本 剛,Yamamoto TAKESHI
PWR1次冷却系統に用いられている 600 合金溶接 部は、高応力付加状態では応力腐食割れ(PWSCC)が 発生する可能性があることは既に知られている。 - 米国の発電所では、原子炉容器(図-1)と1次冷却材管との 600 合金溶接部に発生した PWSCC による き裂が貫通し、1次冷却材の漏えいに至っている。こ の損傷事例は、原子炉容器製作時の当該部の溶接やり 直しによる大きな残留応力が原因とされている。
応力腐食割れは、「材料」、「応力」、「環境」の3つの 要因が重なった時に発生することから、予防保全対策 は、どれか1つの要因を取り除く方針で実施できる(図 - 2)。本内面クラッディング工法は、このうちの材料 について、耐 PWSCC 性に優れている 690 合金を管台 の異材継手部(600 合金溶接部)の内面にクラッディ ングし、「材料」による応力腐食割れ発生要因を排除す る工法の1つである。■腐食割れは、「材料」、「応力」、「環境」の3つの 重なった時に発生することから、予防保全対策 れか1つの要因を取り除く方針で実施できる(図本内面クラッディング工法は、このうちの材料 って、耐 PWSCC 性に優れている 690 合金を管台 ■継手部(600 合金溶接部)の内面にクラッディ、「材料」による応力腐食割れ発生要因を排除す ミの1つである。材料 材料改善環境応力 | 環境改善応力改善 |図-2:SCC の発生要素と改善2. 工事計画 . 工事計画1 原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法 の適用においては、1次冷却材の流路確保及び施工 部位の検査性確保のため、クラッド溶接に必要な厚 さ分の溝を切削した後にクラッド溶接を行い、管台 内側にクラッド溶接部が突出しない構造とした。内面の溝深さは、構造強度に影響の無い範囲内に 限定し、クラッド溶接部の強度を期待しないものと した。-265溶接施工に当たっては、管台母材が低合金鋼であ り、国内法規では、溶接後熱処理が要求される。し かし、当該部に溶接後熱処理を与えると、オーステ ナイトステンレス鋼を使用しているセーフエンドが 鋭敏化する可能性があることから、溶接後熱処理の 不要なテンパービード溶接方法の導入を計画した。 溝加工及び溶接時間の短縮並びに被ばく量を最小と するため、3層のテンパービード溶接条件を確立し、 国内許認可を取得の上、実機への適用を図った。 - テンパービード溶接方法は、溶接後熱処理が出来 ない場合、溶接熱影響部の硬化領域を、後続パスに より、硬化領域を焼き戻し、じん性、延性を回復さ せる溶接方法である。 - 溶接部の健全性確認としては、試験で破壊調査を 実施し、低合金鋼熱影響部の金相観察及び硬さ試験 にて焼き戻し効果を確認している。溶接後の非破壊検査としては、外観・PT検査及 びUT検査を実施し、健全性を確認している。 実機適用に際しては、当該部にアクセスするため に、原子炉容器内部に炉内構造物がなく、気中環境 を創出することが前提となる。図-3:管台内面自動 TIG 溶接試験状況また、施工対象部位が高線量率環境下である ことから、遮へい用設備、除染、切削・溶接・ 検査などの多くの遠隔装置を開発・導入を図った。 さらに、実機大の管台モックアップにより事前 検証試験を徹底し、工法・施工性に問題の無いこと を確認した。(図-3参照)3. 実機への適用1 原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法を、 平成16年 11月四国電力株式会社伊方発電所1号機に おいて初めて適用した。伊方発電所1号機では、同時 期に炉内構造物の取替工事があり、原子炉容器内に炉 内構造物が無く、気中環境が確保できる状況を利用し て、出口管台への内面クラッディングの工事を実施し た。工事は、重量約 40 トンの遮蔽用作業架台の設置 (図 -4)から始まり、管台内面除染により環境線量率の 低減を図ったのち、切削・溶接・検査作業に遠隔装置 を用いて実施した。 * 作業は2管台を並行で実施し、工事期間は約25日 (内炉内の占有は22日間)を要した。溶接施工後の検査では、外観・PT 検査・UT 検査と も無欠陥で合格し、耐圧漏洩試験を完了した。工事の総被ばく線量実績は、0.3人・Sv であり、 計画の 1/3程度で完遂した。図-4:遮へい用作業架台設置状況4.結言1)原子炉容器出口管台への内面クラッディング工法が、初適用において工事が成功したのは、工法・ 装置の開発に十分な時間を費やし、徹底した事前 検証とトレーニングの成果である。2662)原子力プラントの健全性を確保する上で、600 合 金保全対策については今後とも鋭意取組んでいく 必要があり、今回の様なクラッディングのみなら ず、応力改善・取替についても、状況に合せて 対策を提案していく計画である。謝辞原子炉容器出口管台クラッディング工事の実機適用 実績は、四国電力株殿伊方発電所での工事実績を紹介 したものである。参考文献 [11 原子力発電設備維持に係る技術基準等検討委員会、 “発電用原子力設備の維持に係る技術基準原案 平成 15 年度版 “、平成 15年9月改訂- 267 -“ “国内PWR原子炉容器出口管台クラッディング工事概要“ “中村 康夫,Nakamura YASUO,山本 剛,Yamamoto TAKESHI