Ni基合金溶接部の溶接条件が超音波探傷の欠陥検出に与える影響
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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
原子力発電所の事故・故障は、オーステナイト系ステン レス鋼(SUS)や Ni 基合金の溶接部に生じる応力腐食割れ (SCC)や、繰り返しの温度変化による熱疲労割れによる ものが多い。これらは、長期間の使用中に発生するもので、 定期検査時に早期に発見する必要がある。現在普及して いる非破壊検査方法の中では、超音波探傷試験(UT)が 最も適用性が高いと言われている。しかし、SUS 溶接金属 では超音波の減衰が大きいことに加え、音速の異方性に より超音波が屈曲する。そのため、SUS や Ni 基合金の溶 接部に発生した欠陥の検出性およびサイジング性能は母 材部に発生した場合と比較して劣るとされてきた。一方、これまでに溶接部の組織制御の点から、超音波 特性の向上策を検討する研究がされており1、2、著者 らは、これまでに SUS の溶接継手について、UT の欠陥 検出性に対する溶接施工条件の支配因子を明らかにし てきた。Ni基合金の溶接継手では、溶接金属に SCC が発生しているため、溶接金属内の欠陥を調査対象に した。本研究では、溶接金属に欠陥が付与された Ni 基合金溶接継手の溶接条件と超音波特性の関係につい て検討を行った。 2. 実験方法」 原子炉炉内構造物において、Ni基合金溶接材料が用 いられる母材との組合せとして、ONi 基合金、2SUS、 3低合金鋼がある。本研究では、その中で2の SUS 異 材継手を対象に調査を行った。母材は SUS304 鋼板を用い、開先角度を 30°U型開 先に加工した後、TIG 溶接を行った。溶加材は JIS 3334 YNiCr-3 を用いた。表1に製作した継手の溶接条件を 示す。継手は溶接入熱を変化させ、一部の継手につい ては、結晶粒の微細化を目的に、溶接時に磁気攪拌を 行った。また、継手 No.5 は溶接時にトーチの首振り操 作(ウィービング)を実施した。
無し | 2| 1kJ/mm | 2Hz, 400 Gauss | 無し | 5 kJ/mm 無し有り 5 kJ/mm 2 Hz, 400 Gauss 有り | 5| 1kJ/mm | 無し有り 溶接後に板の表裏面を削り、15 mm の UT 評価用試 験片を作製した。図1に試験片の寸法を示す。No.2~5 の試験片には、溶接金属の初層中央部に高さ2mm、溶 接線方向に 12 mm の EDM 矩形スリットを付与した。 縦波 5 MHz、入射角 45 ° で UT 自動探傷を行い、1 EDM スリットから得られる欠陥エコーと2溶接金属 の超音波の散乱を調査した。 自動探傷制御装置画像解析 探触子す が 、 25~30215SUS304TILsus304 EDM スリット' 12 図1 試験片の寸法ならびに UT 自動探傷方法R%3D0.6|15そして、エコー高さ比(R)として以下を定義した。 びに 1 kJ/mm でウィービングを行った継手で散乱が少溶接金属に付与したEDMスリットのエコー高さ母材に付与したEDMスリットのエコー高さ 3. 実験結果および考察 図2に継手 No.2~5 のエコー高さ比を示す。エコー5 mm 高さ比の最大は継手2で0.56 である。しかし、エコーNo.2 No.4No.5 高さ比が最も小さい継手4,5 との差は 0.11 程度であり、図4 継手の断面マクロ写真 溶接条件がエコー高さ比に与える影響は少ないと考え なくなった。この原因を明らかにするため、組織観察 られる。を行った。図4に結果を示す。No.4、No.5 は1層1パ スならびに 2 パス振り分け溶接のため、柱状晶の成長 方向が板厚方向に連続して揃う。それに対して No.2 は、 1層 2~3 パスで積層しているため、柱状晶の成長方向がパスの境界で変化し、板厚方向の均一性に欠けてい 0.4る。今後、詳細に検討する必要があるが、このような 柱状晶の成長方向の不均一性が溶接金属内の超音波の散乱に影響を与えていると考えられる。耐 SCC 性の確 23保の点から考えると、溶接入熱は小さい方が望ましく、 継手No. 図2 継手のエコー高さ比実際は 1 kJ/mm 程度で行われている。したがって、No.5 図3に各継手の自動 UT の画像解析結果(C スコー の条件で溶接を行うと欠陥検出性に優れた継手が得ら プ)を示す。丸で囲んだ部分が EDM スリットと思われる。一方、SUS 溶接継手において欠陥検出性向上に れる欠陥エコーで、それ以外のものは欠陥エコー以外 有効であった磁気攪拌は、今回実施した溶接条件なら のノイズである。欠陥エコーは、溶接金属の中央部にびに超音波探傷条件においては、その効果は認められ ほぼ一致している。継手 No.3~5 では、溶接金属中のなかった。 散乱波は継手 No.2 より小さく、欠陥エコーの識別が容 4. 結言 易である。しかし、継手 2 では欠陥エコー以外の散乱1) 今回実施した条件で作製した継手において、溶接 波が多く生じており、欠陥エコーの識別が困難である。 条件がエコー高さ比に与える影響は少なかった。 そして、EDM スリットを付与していない継手1におい 2) 柱状晶の成長方向が一方向に揃う継手は溶接金属 ても多くの散乱波が生じている。板厚方向の解析から、 内の超音波の散乱は少なかった。 このような散乱波の発生位置は、ほとんどが板厚中央 - 3) 耐 SCC 性の確保の点から、溶接入熱が 1 kJ/mm で 部であると分かったが、このような散乱波を内部欠陥 ウィービングを行った継手が、超音波による欠陥 と誤認識する可能性は十分に考えられる。溶接金属の 検出に優れた継手と考えられる。 超音波の散乱は、溶接入熱が 1 kJ/mm でウィービング。 参考文献 を行わない場合に多く生じ、溶接入熱が 5 kJ/mm なら 1) 石田、佐藤、粉川、荒川、平野 Ni基合金肉盛溶 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |接部の超音波減衰に及ぼす磁気攪拌と結晶粒組織 の影響、溶接学会全国大会講演概要第61集、P.148、149、1997 2) 梶尾、平野、荒川、安田、玉置 オーステナイト系ステンレス鋼溶接継手の磁気攪拌溶接による超 MHZ音波特性改善技術の開発、溶接学会全国大会講演概要第61集、P.152、153、1997 3) 西川、古川、米山、堀井 オーステナイト系ステンレス鋼溶接継手の超音波伝搬特性と組織、溶接 図3 各継手の自動 UT 画像解析結果(同一感度)学会全国大会講演概要第 69 集、P.116、117、2001縦波,した。“ “Ni基合金溶接部の溶接条件が超音波探傷の欠陥検出に与える影響“ “西川 聡,Satoru NISHIKAWA,古川 敬,Takashi FURUKAWA,古村 一朗,Ichiro KOMURA,堀井 行彦,Yukihiko HORII
原子力発電所の事故・故障は、オーステナイト系ステン レス鋼(SUS)や Ni 基合金の溶接部に生じる応力腐食割れ (SCC)や、繰り返しの温度変化による熱疲労割れによる ものが多い。これらは、長期間の使用中に発生するもので、 定期検査時に早期に発見する必要がある。現在普及して いる非破壊検査方法の中では、超音波探傷試験(UT)が 最も適用性が高いと言われている。しかし、SUS 溶接金属 では超音波の減衰が大きいことに加え、音速の異方性に より超音波が屈曲する。そのため、SUS や Ni 基合金の溶 接部に発生した欠陥の検出性およびサイジング性能は母 材部に発生した場合と比較して劣るとされてきた。一方、これまでに溶接部の組織制御の点から、超音波 特性の向上策を検討する研究がされており1、2、著者 らは、これまでに SUS の溶接継手について、UT の欠陥 検出性に対する溶接施工条件の支配因子を明らかにし てきた。Ni基合金の溶接継手では、溶接金属に SCC が発生しているため、溶接金属内の欠陥を調査対象に した。本研究では、溶接金属に欠陥が付与された Ni 基合金溶接継手の溶接条件と超音波特性の関係につい て検討を行った。 2. 実験方法」 原子炉炉内構造物において、Ni基合金溶接材料が用 いられる母材との組合せとして、ONi 基合金、2SUS、 3低合金鋼がある。本研究では、その中で2の SUS 異 材継手を対象に調査を行った。母材は SUS304 鋼板を用い、開先角度を 30°U型開 先に加工した後、TIG 溶接を行った。溶加材は JIS 3334 YNiCr-3 を用いた。表1に製作した継手の溶接条件を 示す。継手は溶接入熱を変化させ、一部の継手につい ては、結晶粒の微細化を目的に、溶接時に磁気攪拌を 行った。また、継手 No.5 は溶接時にトーチの首振り操 作(ウィービング)を実施した。
無し | 2| 1kJ/mm | 2Hz, 400 Gauss | 無し | 5 kJ/mm 無し有り 5 kJ/mm 2 Hz, 400 Gauss 有り | 5| 1kJ/mm | 無し有り 溶接後に板の表裏面を削り、15 mm の UT 評価用試 験片を作製した。図1に試験片の寸法を示す。No.2~5 の試験片には、溶接金属の初層中央部に高さ2mm、溶 接線方向に 12 mm の EDM 矩形スリットを付与した。 縦波 5 MHz、入射角 45 ° で UT 自動探傷を行い、1 EDM スリットから得られる欠陥エコーと2溶接金属 の超音波の散乱を調査した。 自動探傷制御装置画像解析 探触子す が 、 25~30215SUS304TILsus304 EDM スリット' 12 図1 試験片の寸法ならびに UT 自動探傷方法R%3D0.6|15そして、エコー高さ比(R)として以下を定義した。 びに 1 kJ/mm でウィービングを行った継手で散乱が少溶接金属に付与したEDMスリットのエコー高さ母材に付与したEDMスリットのエコー高さ 3. 実験結果および考察 図2に継手 No.2~5 のエコー高さ比を示す。エコー5 mm 高さ比の最大は継手2で0.56 である。しかし、エコーNo.2 No.4No.5 高さ比が最も小さい継手4,5 との差は 0.11 程度であり、図4 継手の断面マクロ写真 溶接条件がエコー高さ比に与える影響は少ないと考え なくなった。この原因を明らかにするため、組織観察 られる。を行った。図4に結果を示す。No.4、No.5 は1層1パ スならびに 2 パス振り分け溶接のため、柱状晶の成長 方向が板厚方向に連続して揃う。それに対して No.2 は、 1層 2~3 パスで積層しているため、柱状晶の成長方向がパスの境界で変化し、板厚方向の均一性に欠けてい 0.4る。今後、詳細に検討する必要があるが、このような 柱状晶の成長方向の不均一性が溶接金属内の超音波の散乱に影響を与えていると考えられる。耐 SCC 性の確 23保の点から考えると、溶接入熱は小さい方が望ましく、 継手No. 図2 継手のエコー高さ比実際は 1 kJ/mm 程度で行われている。したがって、No.5 図3に各継手の自動 UT の画像解析結果(C スコー の条件で溶接を行うと欠陥検出性に優れた継手が得ら プ)を示す。丸で囲んだ部分が EDM スリットと思われる。一方、SUS 溶接継手において欠陥検出性向上に れる欠陥エコーで、それ以外のものは欠陥エコー以外 有効であった磁気攪拌は、今回実施した溶接条件なら のノイズである。欠陥エコーは、溶接金属の中央部にびに超音波探傷条件においては、その効果は認められ ほぼ一致している。継手 No.3~5 では、溶接金属中のなかった。 散乱波は継手 No.2 より小さく、欠陥エコーの識別が容 4. 結言 易である。しかし、継手 2 では欠陥エコー以外の散乱1) 今回実施した条件で作製した継手において、溶接 波が多く生じており、欠陥エコーの識別が困難である。 条件がエコー高さ比に与える影響は少なかった。 そして、EDM スリットを付与していない継手1におい 2) 柱状晶の成長方向が一方向に揃う継手は溶接金属 ても多くの散乱波が生じている。板厚方向の解析から、 内の超音波の散乱は少なかった。 このような散乱波の発生位置は、ほとんどが板厚中央 - 3) 耐 SCC 性の確保の点から、溶接入熱が 1 kJ/mm で 部であると分かったが、このような散乱波を内部欠陥 ウィービングを行った継手が、超音波による欠陥 と誤認識する可能性は十分に考えられる。溶接金属の 検出に優れた継手と考えられる。 超音波の散乱は、溶接入熱が 1 kJ/mm でウィービング。 参考文献 を行わない場合に多く生じ、溶接入熱が 5 kJ/mm なら 1) 石田、佐藤、粉川、荒川、平野 Ni基合金肉盛溶 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |接部の超音波減衰に及ぼす磁気攪拌と結晶粒組織 の影響、溶接学会全国大会講演概要第61集、P.148、149、1997 2) 梶尾、平野、荒川、安田、玉置 オーステナイト系ステンレス鋼溶接継手の磁気攪拌溶接による超 MHZ音波特性改善技術の開発、溶接学会全国大会講演概要第61集、P.152、153、1997 3) 西川、古川、米山、堀井 オーステナイト系ステンレス鋼溶接継手の超音波伝搬特性と組織、溶接 図3 各継手の自動 UT 画像解析結果(同一感度)学会全国大会講演概要第 69 集、P.116、117、2001縦波,した。“ “Ni基合金溶接部の溶接条件が超音波探傷の欠陥検出に与える影響“ “西川 聡,Satoru NISHIKAWA,古川 敬,Takashi FURUKAWA,古村 一朗,Ichiro KOMURA,堀井 行彦,Yukihiko HORII