長時間クリープ損傷を受けるオーステナイト系ステンレス鋼の磁気変化

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カテゴリ: 第2回
1.緒言
プラントの信頼性・安全性を向上させるために、こ れまで以上に信頼性の高い非破壊検出技術の開発が望 まれている。現在までに開発されている非破壊検出手 法には、超音波、放射線、渦電流などを用いたものが ある[1]。しかし、これらはいずれもき裂発生後の損傷、 つまりき裂を非破壊的に検出する方法である。プラン トの信頼性・安全性を確保する上では、き裂発生以前 からの損傷を検出する必要があると考える。これまで のところ、き裂発生以前の損傷を検出する技術は確立 されていない。従って、き裂発生以前からの損傷を検 出できるような非破壊検出技術法の開発が必要となる。
ここでは、高温構造材料として使用されている SUS304 鋼及び SUS316FR 鋼に着目する。本鋼はオース テナイト相を有しており、非磁性である。しかし、室 温での引張損傷や疲労損傷により、磁性相であるマル テンサイトが生成するとの報告がある[2-4]。さらに著 者らは、923K のクリープ破断時間が 1000 時間程度の 試験条件で、SUS304 鋼の磁気特性変化と金属組織変化 との関連について検討してきた[6-8]。その結果、き裂 発生以前のクリープ変形の初期から磁気特性変化を生 じ、それは体心立方構造を有する強磁性相の生成と関 連していることが分かった。このような変化を、外部から非破壊的に磁気特性変 化として検出することにより、き裂発生以前の損傷状況を把握できる可能性があると考える。しかし、これまでの研究報告は比較的短時間で、高 速炉の使用温度域よりも高い温度でのクリープ損傷に 伴う磁気特性変化に限られている。実機プラントの非 破壊検出技術の開発においては、長時間クリープ損傷 への適用性が問題となる。そこで、SUS304 鋼及び SUS316FR 鋼における長時間クリープ損傷の磁気特性変 化について検討することとした。
2.実験手法 2.1 試験片 * 本試験で使用したSUS304鋼 (304SS) 及び SUS316FR鋼 (316FR) の受入時の組成分析結果を Table 1 に示す。ま た、漏えい磁束密度の測定を行ったクリープ破断試験 片の試験条件を、Table 2に示す。
Table 1 Composition of 304SS and 316FR| (mass%) | c | N | si | Mn | | 304SS | 0.05 | - | 0.60 | 0.87 | | 316FR | 0.012 | 0.08 | 0.52 | 0.86 | | (mass%) | Ni | Cr | Mo | Fe | | 304SS | 8.94 | 18.59 | - 「balance |316FR | 10.6 | 16.6 | 2.14 | balance測定に用いた試験片は、破断面から離れたつば部近 傍から採取した。試料の大きさは、6mm×6mm×3mm363とした。Figure 1 に試料採取の模式図を示す。破断面 からの距離は損傷の経時的な変化を示していると考え られる。つまり、破断面から一番離れたつば部近傍は 損傷が破断部ほどは進行していない領域と考えられる。304SS の場合には、受入時から強磁性体である6相 が存在する。このび相は圧延によって圧延方向に伸ば され、圧延面に垂直な方向にはつぶされている、いわ ゆる円板状の形状をしている。従って、切断の方向や 着磁方向によっては漏えい磁束密度が異なる可能性が ある。304SS の場合には切断方向を統一する必要があ ると考える。そこで、Figure 1に示すように圧延面に 平行な面が XY 面となるように切断した。一方、316FR には6相は観察されなかったので、任意の方向に切断 した。Table 2 Creep conditions | 材料 | 温度, K | 応力, MPa | 破断時間, h| 773 | 2754,401 304SS 773 21634,562 823 324986 316FR 823 27820146熱時刻材損傷材つば部破断面?延方向 応力軸着磁?延面3mm6mm6mmFigure 1 Preparation of samples2.2漏えい磁束密度測定 - 永久磁石を用いて試料のZ軸方向に 0.3Tで着磁した 後、 Z 軸方向の漏えい磁束密度測定を行った。漏えい 磁束密度の測定には、島津製作所製のフラックスゲー トセンサ[9]を用いた。リフトオフは 1mm とした。 クリープ損傷材との比較を行うために、同試験片のネジ部を無負荷材 (熱時効材)として試験片を採取し 測定を行った。3.実験結果および考察 3.1 受入材の漏えい磁束密度測定まず、304SS と 316FR の受入時の漏えい磁束密度測 定の結果を Figure 2(a)及び(b)に示す。BIGY/mm19X1mm0.10.080.06BIG0.040.020-0.02Y! mm12169xlmmFigure 2 Leakage magnetic flux density for as received materials: (a) 304SS and (b) 316FR漏えい磁束密度のスケールが異なっていることに注 意して両者を比較すると、304SS ではび相の影響で、 316FR と比較して受入時から漏えい磁束密度が大きい ことが分かる。漏えい磁束密度の最大値は 0.2G であっ た。また、316FR では0相は観察されなかったが、僅 かではあるが明らかな量の漏えい磁束密度が測定され ている。最大値は 0.07G であった。3643.2 クリープ破断材の漏えい磁束密度測定クリープ破断材と熱時効材の漏えい磁束密度測定結 果の一例を、304SS については Figure 3 に、316FR に ついては Figure 4 に示す。 - 304SS において熱時効材は、受入時の漏えい磁束密 度分布と大きく変わることはなく、最大値は 0.2G であ った。それと比較して、クリープ損傷材は漏えい磁束 密度が増加していた。最大値は 0.9G であり、受入材や 熱時効材と比較して、0.7G も増加していた。 - 一方、316FR においても熱時効材は、受入時の漏え い磁束密度分布と大きく変わることはなく、最大値は 0.07G であった。しかし、クリープ損傷を受けた場合 は、漏えい磁束密度は増加していた。ただし、304SS で見られるように受入時と比較して 4~5 倍も増加す ることはなく、2~3 倍程度の増加(最大値は 0.17G) であった。Creep damageBIGY/mm69xlmm1| AgingBIGY / mmxlmmFigure 3 An example of leakage magnetic flux density in crept and aged 304SS (The time to rupture is 4,401 hours)0.2Creep damageBIGY mmXImm0.2Aging0.150.1.....BIG0.060Y / mmXImmFigure 4 An example of leakage magnetic flux density in crept and aged 316FR (The time to rupture is 20,146 hours)- 以上のように、いずれの素材においても、熱時効材 の漏えい磁束密度の変化はほとんどなく、長時間クリ ープ破断材のそれは大きく変化することが分かった。 そこで次に、クリープ破断時間と漏えい磁束密度の最 大値の関係を Figure 5(a)及び(b)に示す。 1 10,000 時間を越えるようなクリープ破断時間を持つ 試験片において、漏えい磁束密度が明らかに増加して いることが分かる。漏えい磁束密度は、負荷を受ける ことによって大きく変化し、単に高温環境下に晒され るだけでは大きく変化しないと考えられる。304SS 及 び 316FR のいずれの試験材においても、クリープ破断 時間が短くなると、漏えい磁束密度の変化量は小さく なる傾向にある。これは、つば部近傍で破断面から離 れているため大きな損傷を受けておらず、大きな変化 が見られなかったことが考えられる。36511.5(a) 304SSOCreep Aging9180.31 As-received---------0102103104105Time 1 hr0.2(b) 316FRCreep Aging0.15OBIGAs-received0.050102103105Time/hr104Time / hrFigure 5 Maximum leakage magnetic flux density for crept or aged materials: (a) 304SS and (b) 316FR3.3 漏えい磁束密度変化の要因 - これまで、著者らは 923K でのクリープ損傷材[6-8] や疲労損傷材[10]の金属組織観察より、304SS の磁気変 化の要因は、結晶構造変化であると報告してきた。 304SS は、非磁性であるオーステナイト相が準安定相 であるため、負荷を与えることにより、磁性を持つ相 に変態することが考えられる。773K での 304SS の長時 間クリープ破断材の磁気変化においても、これまでの 報告同様、結晶構造変化によるものと考えられる。また、304SS の長時間熱時効材で、漏えい磁束密度 が増加しているように見える。この原因は、(1)773K 近 傍ではa相が析出するため、(2)受入時から存在する6 相の不均一分布により初期から漏えい磁束密度が高か ったためのいずれかが考えられる。しかし、漏えい磁 束密度の増加量は小さい。つまり、熱時効によって、 漏えい磁束密度の大きな変化はないと考えられる。 一方、316FR は 304SS と比べてオーステナイト相が安定ではあるが、厳しい損傷を受けることによりわず かな領域で変態することも考えられる。304SS 及び 316FR とも、金属組織観察を行って磁気変化の要因に ついて明らかにする必要がある。4.結言1) 高速炉の使用温度域において長時間クリープ損 -- 傷を受けた 304SS及び316FRの漏えい磁束密度を測 定した結果、受入時及び熱時効材と比較して明らか に漏えい磁束密度が増加していた。特に、316FR は非磁性相であるオーステナイト相 が安定にも係わらず、漏えい磁束密度が変化するこ とが示された。 2)この結果より、実機プラントにおいても磁気変化に基づいて非破壊的に損傷を評価できる可能性が - あると考えられる。参考文献[1] 例えば、 (社)日本非破壊検査協会, 「非破壊検査技術 の保守検査への適用例一検査と材料評価-」, (2000) 49. [2] M.Bayerlein, H.-J.Christ and H.Mughrabi, Mater. Sci. Eng., A114 , (1989) L11. [3] K.Aoto, Z.Chen, Y.Nagae and S.Kato, Proceedings of Relationship between Magnetic and Structural Properties, (2000) 125. [4] 日本 AEM 学会, 「電磁破壊力学を応用した劣化・ 損傷の非破壊評価技術に関する調査研究分科会報告 書」, JSAEM-R-9803, (1999). [5] Y.Nagae and K.Aoto, Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, 15, (2001/2002), 295. [6] 永江勇二, 青砥紀身, 日本 AEM 学会誌, 10, (2002), 360. [7] 青砥紀身, 永江勇二, U.Sudjadi, 阪本善彦, フォー ラム保全学, 1, (2002), 37. [8] Y.Nagae, Mater.Sci.Eng.,A387-389, (2003) 665. [9] 務中達也,吉見健一,中西博昭,山田康晴,飯島健 二,加納郁夫,島津評論,53, (1996) 75. [10] 高屋茂,永江勇二,第 14 回 MAGDA コンファレ ンス講演論文集, (2005) 233.366“ “長時間クリープ損傷を受けるオーステナイト系ステンレス鋼の磁気変化“ “永江 勇二,Yuji NAGAE,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,青砥 紀身,Kazumi AOTO
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