BWRプラント再循環系配管溶接部の硬化パラメータの測定と
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カテゴリ: 第2回
1. 背景および概要
- 平成15年10月から健全性評価制度(いわゆる維持基準) が法制化され,SCC 等の欠陥が生じた原子力プラント機器 についても,日本機械学会維持規格に基づく欠陥評価によ り健全性が確認されれば、継続運転が可能となった。しか しながら,沸騰水型原子力発電プラント(BWR)の再循環 系配管(以下,PLR 配管)に生じる応力腐食割れ(以下, SCC)については、(a)超音波探傷法によるき裂寸法測定精 度が不十分であること,(b)き裂進展に及ぼす材料硬化の影 響が必ずしも明らかになっていないこと,等の課題が残さ れていることから,暫定措置として欠陥評価段階において 大幅な保守性を考慮することが要求されている。その結果、 現状では高い頻度での検査実施が必要となっており,評価 の合理化が喫緊の課題となっている。上記の課題(b)に関する検討の前提として,客観的・合理 的なデータ・知見の拡充を図るため、 当社実プラントでSCC を生じて取替えたPLR 配管溶接部の詳細調査を実施してき た。本報告では,その概略を示す。ータの測定と
:母材硬化部(定荷重) A :溶接金属(定荷重) ◇:溶接金属(定変位)2019/10/06鋭敏化ステンレス鋼-き裂進展速度(mm/s)2019/10/07低炭素ステンレス鋼針2019/10/08109110100応力拡大係数 (MPa/m) 図 1. PLR 配管モックアップを用いたSCC進展試験結果2. SCC進展速度に及ぼす材料硬化の影響PLR 配管やシュラウドで用いられている低炭素ステンレ ス鋼は機械加工や塑性変形により硬化すると,硬化してい ない状態と比較して SCC進展速度の上昇を伴うことが報告 されている[1][2]。 PLR 配管の溶接継手ルート部近傍には、379溶接時の繰返し熱変形に伴って硬化領域が形成され,SCC ら, 材料の硬化度合いは配管径や溶接方法,き裂発生位置・ は主にこの硬化領域内を進展することから, SCC 進展速度。 進展経路等によって様々に異なると考えられ,現状のよう の上昇を適切に考慮する必要がある。図1は、実機配管と。 にすべてのき裂に対し一律に高い進展速度を想定すること 同一の材料および施工条件で 600A の PLR 配管溶接継手モは必ずしも合理的な評価結果を与えない可能性がある。 ックアップを作成し,硬化部から採取した試験片での SCC3. 実機 PLR 配管溶接部の硬化度測定 進展試験結果を,維持規格のSCC 進展速度線図上にプロッ トしたものである[3]。材料は母材,溶接金属ともに低炭素SCC 進展に及ぼす硬化の影響を適切に考慮するためには、 ステンレス鋼 SUS316NG であるが,母材硬化部データ(黒 O評価対象継手に想定される材料の硬化度合い,2材料の 丸印)のうちいくつかは,低炭素ステンレス鋼の線図と鋭 硬化度合いと SCC進展速度上昇の定量的な関係,のそれぞ 敏化ステンレス鋼の線図の中間付近に位置することが確認れを明らかにする必要がある。そこで,第一段階として課 されている。維持規格の線図は当該材料の現有データ群のIDを明らかにするために,当社プラントにおいて超音波 上限を包絡する形で設定されているが,現状で硬化部のデ探傷試験によりインディケーションが確認され,取替えが ータ数は十分とは言えないことから,保守性を確保するた実施された38のPLR配管溶接継手について詳細な調査を実 め便宜的に硬化部データを十分に包絡する鋭敏化ステンレ施し,配管口径や溶接条件毎に材料硬化度合いの系統的整 ス鋼の線図を使用することが要求されている。しかしなが理を行った。■290-300 9280-290 9270-280 ■260-270 0250-260 0240-250 0230-240 0220-230 0210-220 0200-210 0190-200 0160-190 0170~180 0160-1700290-300 ■260-290 ■270-260 ■260-270 日250-260 目240-250 0230-240 0220-230 口210-220 0200-210 0190-200 0180-190 0170-180 0160-170TUNION-16UNLIMITE] JanIOLA TUTKINNOILLANYMKNA400習い事やYYPHf7yourooで(6) B 社製継手(a) A 社製継手図2 継手断面の2次元ビッカース硬さ分布..3001003からビッカース硬さ(HV)ビッカース硬さ(HV)ンルー]サOpen: Aft Solid: B社50Open: A社 Solid: Bit-2525-20 -15 -10 -5_ 0_ 5_ 10 15 20 25-25 -20 -15 -10 -5.0 5 .10 15 20 溶接中心からの距離(mm)溶接中心からの距離(mm) (a) 大径管(外径約 600mm,板厚約 40mm)(b) 中径管(外径約300mm, 板厚約 20mm) 図3 内表面近傍のビッカース硬さ分布253803.1 ビッカース硬さ HV の測定 * 実機 38 継手の溶接線に垂直な断面内でビッカース硬さ (HV)の2次元分布測定を実施した。図2に結果の一例を示 す。継手毎に若干のバラツキがあるが,SCC が多数確認さ れた外径 600mm(以下,600A)の大径管で比較すると,A 社製継手の方がB社製と比較しての硬化度合いが高い傾向 が認められた。その傾向を確認するため,600A 配管の内表 面から深さ 3mm の線上の硬さ分布をまとめた結果を図3(a) に示す。白抜きシンボルで示すB社製継手の硬さは、塗り つぶしのシンボルで示すA社製継手のばらつきの下限程度 に位置することが確認された。一方,300A の中径管で比較 すると, 図3(b)に示す通り、逆にB社製継手の方が硬くなっ ていることが確認された。3.2 硬化パラメータ管の定量的関係の評価 ・ これまで一連の SCC 欠陥評価においては、材料の硬化度のおばされたMB ライス-TA■290-300 ■260-290 ■270-280 ■260-270 9250-260 日240-250 0230-240 0220-230 0210-220 0200-210 0190-200 0180-190 0170-180 0160-170Veld meWeld metalT16-2T16-59-9ILTTSIhitent11ffffffH.Weld metal図4. 配管継手部からの小型引張試験片採取要領10000.2%耐え0.436805555555556:5950.10210.2%耐力:467Nmm)10.29:3840mm-T16-2T16-5T16-6-引品-引:720N引脳炎:引品:663Nm引張之:6290mm9TH (N/mm2)H12 02:40.2.2.1024 024図5(b) 引張試験結果 合いを表す指標として主にHV が用いられた。HV は測定が 容易であることから,図 2 に示すような硬化度合いの分布 を詳細に評価する場合に適している。一方, 材料硬化が SCC 進展速度に及ぼす影響を定量評価するという観点では,材 料の降伏応力(a)や電子線後方散乱(EBSD)を用いた塑 性ひずみ(s) 測定値をパラメータとした整理4]が試みられ ているものの, HV との直接的関係を調べた報告はほとんど ない。したがって,今後の維持基準評価合理化の一環とし て, SCC 進展速度に及ぼす材料硬化の影響を適切に考慮す るためには,それぞれの硬化パラメータの関係を定量的に 把握しておくことが有用である。そこで実機廃材について 複数の硬化パラメータ HV,, sを測定し,それぞれの定 量的関係を評価した。 (a)ayとHV の関係図4に示すように,実機 PLR 配管継手の硬化度合いの異 なる位置から合計 64 本の小型引張試験片(平行部: 9x2x1 mm)を採取し、室温大気中で引張試験を実施した。結果の図5(a) 小型引張試験片採取位置381降伏応力 a, (MPa)ay = 2.93 HV - 14710_501001502002503000_50250100 150 200 ビッカース硬さ (HV)図6 ビッカース硬さと降伏応力の関係一例として,図5(a)に示す位置から採取した試験片の応力 -変位の関係を図 5(b)に示す。両図より,溶接ルートに近 く,硬化度合いの高い位置ほど降伏応力(0.2%耐力)・引 張強さの上昇や伸びの低下が顕著であり,材料硬化の傾 向が明確に読み取れる。図6は試験片平行部のビッカー ス硬さ HV と降伏応力、の関係を示す。両者は良好な直 線関係を示すことが確認された。 (6) 塑性ひずみんとHV の関係図7にEBSD を用いた PLR 配管内表面近傍の塑性ひず み分布測定結果を示す。図7(a)は, A 社製の「鍛造材(F316) ーステンレス鋳鋼弁体(Cast)の継手部」の測定結果と, B社製「鍛造材 (F316)-配管材 (316TP)の継手部」の測 定結果を示す。鋳造材ではが著しいバラツキを示すこ とがわかる。また,両社に共通する F316のデータの比較 から,出に着目する限り施工メーカーによる差異はさほ ど明確でないと判断される。図 7(b)は同一施工メーカー 継手の配管径による差異を示す。この図から,配管径が 大きくなるほど高い塑性ひずみが生じており,硬化の度 合いには明確な差異が認められる。この結果は,配管径 によらず一律なSCC進展速度上昇を考慮する現状評価の 過度な保守性の存在を示唆するものと考えられる。図8 はビッカース硬さとほぼ等価なヌープ硬さ(HK)との関 係を示す。HK が 200 の箇所に着目しても心は3~13% 程度の広い範囲の値を示しており,図6のような高い相 関は認められなかった。B社, F316.4. A社,Cast *x.A社. F316000 「B社,316TP x x+'Scan Aメン。「Scanc) /塑性ひずみ (%)でも!10 OX+K200 +OOK一大Scan CScan At-25-20152025-15 -10 -5 0_ 5_ 10 溶融境界からの相対距離(mm) (a) 施工メーカーによる差異30600A * x-ai 400AA 300A600A OOE 400A 300A20.06. | Scan CScan A。oOo。....Scan CScan A-252025-20 -15 -10 -5 0 _ 5_ 10 15溶融境界からの相対距離 (mm) (b) 配管口径による差異 (A 社製継手)図7 EBSD による配管内表面近傍の塑性ひずみ分布測定結果図7ヌープ硬さ (HK)Scan DScan A - Scan BSUSF316 A Scan C ? Scan FScan E SUS316TP A Scan DJScan C Scan B Scan AScan E Scan F5 塑性ひずみ (8) 15120 図8 塑性ひずみと硬さの関係38220600A相当の硬化材の 進展速度を使用した場合 (試解析結果)維持規格を満足するき裂深さき裂深さ(mm)300A相当の硬化材の 進展速度を使用した場合 (概念線図)き裂が10mmの深さまで硬化した母材中を進展し その後溶接金属内に進展する場合の例 (初期き裂:長さ20mm×深さ2mm )10_ 2_ 4_ 6_ 8_ 10_12_ 1416_18_20時間(年) 図9 SCC 進展評価への反映の概念図(300A 配管の試解析結果)4.維持基準評価への反映指針上述のように、現状の暫定維持基準評価では,母材硬化 部内を進展するき裂に対して,配管径やき裂進展経路によ らず、一律に鋭敏化ステンレス鋼の進展速度を想定してい る。鋭敏化ステンレス鋼の進展速度線図は 600A 配管モック アップから採取したデータと比較して図1のように2倍近 い裕度を有しており、さらに,口径の小さい 400A や 300A の中径管においては、硬化度合い自体が図 7(b)に示す通り低 いことが想定されることから,特に中径管に対する SCC進 展評価においては過剰な裕度を含む可能性がある。図9は 300A 管における SCC 進展評価の試解析結果(破 線)と,材料硬化影響に着目した今後の評価合理化の概念 図 (実線) を示す。いずれの場合も, 初期き裂 (長さ20mm, 深さ 2mm)が母材硬化部内を 10mm の深さまで進展し,そ の後溶接金属内に入る場合を想定している。破線で示す現 状の暫定評価結果では、母材硬化部で 600A 配管と同様に鋭 敏化ステンレス鋼の進展速度を想定するため, 6年あまりで 板厚を貫通するという極めて保守的な評価結果となる。今 後, 3 章課題2に示したように材料硬化度合いによる SCC 進展速度データを拡充により,300A 管の硬化度合いに見合 った進展速度を適用し,図9 実線で概念的に示すように硬 化部内での進展評価をより実態に近づけることで,点検保 守計画等の合理化を図れる可能性がある。5. まとめと今後の課題* 実機 PLR 配管廃材調査により, 溶接部の材料硬化が SCC 進展速度に及ぼす影響を定量評価するための基礎データを 取得した。得られた結果をまとめると以下の通りである。 ・ 配管口径が大きいほど, 硬化度合いは高い傾向が認められる ・ 上記傾向は EBSD による塑性ひずみをパラメータとした場合に顕著に現れる 施工メーカー間では若干の差異が認められるが,配管口径毎に傾向は異なる ・ SCC進展速度の上昇を定量的に評価するために適切な 硬化度パラメータの特定とデータの拡充が今後の課題 である参考文献[1] Andresen, P. L., et al., Corrosion, Paper 02511, NACE, Houston, TX., 2002 [2] Jenssen, A., et al., Proc. 7th international symposium on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems - Water Reactors, pp.553-562, 1995 [3] Kumagai, K., et al., Proc. ASME/JSME PVP2004., 2004 [4] Andresen, P. L., 11th Int. Environmental Degradation of Materials in Nuclear Systems, 2003383“ “BWRプラント再循環系配管溶接部の硬化パラメータの測定と“ “鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,熊谷 克彦,Katsuhiko KUMAGAI,浅野 恭一,Kyoichi ASANO
- 平成15年10月から健全性評価制度(いわゆる維持基準) が法制化され,SCC 等の欠陥が生じた原子力プラント機器 についても,日本機械学会維持規格に基づく欠陥評価によ り健全性が確認されれば、継続運転が可能となった。しか しながら,沸騰水型原子力発電プラント(BWR)の再循環 系配管(以下,PLR 配管)に生じる応力腐食割れ(以下, SCC)については、(a)超音波探傷法によるき裂寸法測定精 度が不十分であること,(b)き裂進展に及ぼす材料硬化の影 響が必ずしも明らかになっていないこと,等の課題が残さ れていることから,暫定措置として欠陥評価段階において 大幅な保守性を考慮することが要求されている。その結果、 現状では高い頻度での検査実施が必要となっており,評価 の合理化が喫緊の課題となっている。上記の課題(b)に関する検討の前提として,客観的・合理 的なデータ・知見の拡充を図るため、 当社実プラントでSCC を生じて取替えたPLR 配管溶接部の詳細調査を実施してき た。本報告では,その概略を示す。ータの測定と
:母材硬化部(定荷重) A :溶接金属(定荷重) ◇:溶接金属(定変位)2019/10/06鋭敏化ステンレス鋼-き裂進展速度(mm/s)2019/10/07低炭素ステンレス鋼針2019/10/08109110100応力拡大係数 (MPa/m) 図 1. PLR 配管モックアップを用いたSCC進展試験結果2. SCC進展速度に及ぼす材料硬化の影響PLR 配管やシュラウドで用いられている低炭素ステンレ ス鋼は機械加工や塑性変形により硬化すると,硬化してい ない状態と比較して SCC進展速度の上昇を伴うことが報告 されている[1][2]。 PLR 配管の溶接継手ルート部近傍には、379溶接時の繰返し熱変形に伴って硬化領域が形成され,SCC ら, 材料の硬化度合いは配管径や溶接方法,き裂発生位置・ は主にこの硬化領域内を進展することから, SCC 進展速度。 進展経路等によって様々に異なると考えられ,現状のよう の上昇を適切に考慮する必要がある。図1は、実機配管と。 にすべてのき裂に対し一律に高い進展速度を想定すること 同一の材料および施工条件で 600A の PLR 配管溶接継手モは必ずしも合理的な評価結果を与えない可能性がある。 ックアップを作成し,硬化部から採取した試験片での SCC3. 実機 PLR 配管溶接部の硬化度測定 進展試験結果を,維持規格のSCC 進展速度線図上にプロッ トしたものである[3]。材料は母材,溶接金属ともに低炭素SCC 進展に及ぼす硬化の影響を適切に考慮するためには、 ステンレス鋼 SUS316NG であるが,母材硬化部データ(黒 O評価対象継手に想定される材料の硬化度合い,2材料の 丸印)のうちいくつかは,低炭素ステンレス鋼の線図と鋭 硬化度合いと SCC進展速度上昇の定量的な関係,のそれぞ 敏化ステンレス鋼の線図の中間付近に位置することが確認れを明らかにする必要がある。そこで,第一段階として課 されている。維持規格の線図は当該材料の現有データ群のIDを明らかにするために,当社プラントにおいて超音波 上限を包絡する形で設定されているが,現状で硬化部のデ探傷試験によりインディケーションが確認され,取替えが ータ数は十分とは言えないことから,保守性を確保するた実施された38のPLR配管溶接継手について詳細な調査を実 め便宜的に硬化部データを十分に包絡する鋭敏化ステンレ施し,配管口径や溶接条件毎に材料硬化度合いの系統的整 ス鋼の線図を使用することが要求されている。しかしなが理を行った。■290-300 9280-290 9270-280 ■260-270 0250-260 0240-250 0230-240 0220-230 0210-220 0200-210 0190-200 0160-190 0170~180 0160-1700290-300 ■260-290 ■270-260 ■260-270 日250-260 目240-250 0230-240 0220-230 口210-220 0200-210 0190-200 0180-190 0170-180 0160-170TUNION-16UNLIMITE] JanIOLA TUTKINNOILLANYMKNA400習い事やYYPHf7yourooで(6) B 社製継手(a) A 社製継手図2 継手断面の2次元ビッカース硬さ分布..3001003からビッカース硬さ(HV)ビッカース硬さ(HV)ンルー]サOpen: Aft Solid: B社50Open: A社 Solid: Bit-2525-20 -15 -10 -5_ 0_ 5_ 10 15 20 25-25 -20 -15 -10 -5.0 5 .10 15 20 溶接中心からの距離(mm)溶接中心からの距離(mm) (a) 大径管(外径約 600mm,板厚約 40mm)(b) 中径管(外径約300mm, 板厚約 20mm) 図3 内表面近傍のビッカース硬さ分布253803.1 ビッカース硬さ HV の測定 * 実機 38 継手の溶接線に垂直な断面内でビッカース硬さ (HV)の2次元分布測定を実施した。図2に結果の一例を示 す。継手毎に若干のバラツキがあるが,SCC が多数確認さ れた外径 600mm(以下,600A)の大径管で比較すると,A 社製継手の方がB社製と比較しての硬化度合いが高い傾向 が認められた。その傾向を確認するため,600A 配管の内表 面から深さ 3mm の線上の硬さ分布をまとめた結果を図3(a) に示す。白抜きシンボルで示すB社製継手の硬さは、塗り つぶしのシンボルで示すA社製継手のばらつきの下限程度 に位置することが確認された。一方,300A の中径管で比較 すると, 図3(b)に示す通り、逆にB社製継手の方が硬くなっ ていることが確認された。3.2 硬化パラメータ管の定量的関係の評価 ・ これまで一連の SCC 欠陥評価においては、材料の硬化度のおばされたMB ライス-TA■290-300 ■260-290 ■270-280 ■260-270 9250-260 日240-250 0230-240 0220-230 0210-220 0200-210 0190-200 0180-190 0170-180 0160-170Veld meWeld metalT16-2T16-59-9ILTTSIhitent11ffffffH.Weld metal図4. 配管継手部からの小型引張試験片採取要領10000.2%耐え0.436805555555556:5950.10210.2%耐力:467Nmm)10.29:3840mm-T16-2T16-5T16-6-引品-引:720N引脳炎:引品:663Nm引張之:6290mm9TH (N/mm2)H12 02:40.2.2.1024 024図5(b) 引張試験結果 合いを表す指標として主にHV が用いられた。HV は測定が 容易であることから,図 2 に示すような硬化度合いの分布 を詳細に評価する場合に適している。一方, 材料硬化が SCC 進展速度に及ぼす影響を定量評価するという観点では,材 料の降伏応力(a)や電子線後方散乱(EBSD)を用いた塑 性ひずみ(s) 測定値をパラメータとした整理4]が試みられ ているものの, HV との直接的関係を調べた報告はほとんど ない。したがって,今後の維持基準評価合理化の一環とし て, SCC 進展速度に及ぼす材料硬化の影響を適切に考慮す るためには,それぞれの硬化パラメータの関係を定量的に 把握しておくことが有用である。そこで実機廃材について 複数の硬化パラメータ HV,, sを測定し,それぞれの定 量的関係を評価した。 (a)ayとHV の関係図4に示すように,実機 PLR 配管継手の硬化度合いの異 なる位置から合計 64 本の小型引張試験片(平行部: 9x2x1 mm)を採取し、室温大気中で引張試験を実施した。結果の図5(a) 小型引張試験片採取位置381降伏応力 a, (MPa)ay = 2.93 HV - 14710_501001502002503000_50250100 150 200 ビッカース硬さ (HV)図6 ビッカース硬さと降伏応力の関係一例として,図5(a)に示す位置から採取した試験片の応力 -変位の関係を図 5(b)に示す。両図より,溶接ルートに近 く,硬化度合いの高い位置ほど降伏応力(0.2%耐力)・引 張強さの上昇や伸びの低下が顕著であり,材料硬化の傾 向が明確に読み取れる。図6は試験片平行部のビッカー ス硬さ HV と降伏応力、の関係を示す。両者は良好な直 線関係を示すことが確認された。 (6) 塑性ひずみんとHV の関係図7にEBSD を用いた PLR 配管内表面近傍の塑性ひず み分布測定結果を示す。図7(a)は, A 社製の「鍛造材(F316) ーステンレス鋳鋼弁体(Cast)の継手部」の測定結果と, B社製「鍛造材 (F316)-配管材 (316TP)の継手部」の測 定結果を示す。鋳造材ではが著しいバラツキを示すこ とがわかる。また,両社に共通する F316のデータの比較 から,出に着目する限り施工メーカーによる差異はさほ ど明確でないと判断される。図 7(b)は同一施工メーカー 継手の配管径による差異を示す。この図から,配管径が 大きくなるほど高い塑性ひずみが生じており,硬化の度 合いには明確な差異が認められる。この結果は,配管径 によらず一律なSCC進展速度上昇を考慮する現状評価の 過度な保守性の存在を示唆するものと考えられる。図8 はビッカース硬さとほぼ等価なヌープ硬さ(HK)との関 係を示す。HK が 200 の箇所に着目しても心は3~13% 程度の広い範囲の値を示しており,図6のような高い相 関は認められなかった。B社, F316.4. A社,Cast *x.A社. F316000 「B社,316TP x x+'Scan Aメン。「Scanc) /塑性ひずみ (%)でも!10 OX+K200 +OOK一大Scan CScan At-25-20152025-15 -10 -5 0_ 5_ 10 溶融境界からの相対距離(mm) (a) 施工メーカーによる差異30600A * x-ai 400AA 300A600A OOE 400A 300A20.06. | Scan CScan A。oOo。....Scan CScan A-252025-20 -15 -10 -5 0 _ 5_ 10 15溶融境界からの相対距離 (mm) (b) 配管口径による差異 (A 社製継手)図7 EBSD による配管内表面近傍の塑性ひずみ分布測定結果図7ヌープ硬さ (HK)Scan DScan A - Scan BSUSF316 A Scan C ? Scan FScan E SUS316TP A Scan DJScan C Scan B Scan AScan E Scan F5 塑性ひずみ (8) 15120 図8 塑性ひずみと硬さの関係38220600A相当の硬化材の 進展速度を使用した場合 (試解析結果)維持規格を満足するき裂深さき裂深さ(mm)300A相当の硬化材の 進展速度を使用した場合 (概念線図)き裂が10mmの深さまで硬化した母材中を進展し その後溶接金属内に進展する場合の例 (初期き裂:長さ20mm×深さ2mm )10_ 2_ 4_ 6_ 8_ 10_12_ 1416_18_20時間(年) 図9 SCC 進展評価への反映の概念図(300A 配管の試解析結果)4.維持基準評価への反映指針上述のように、現状の暫定維持基準評価では,母材硬化 部内を進展するき裂に対して,配管径やき裂進展経路によ らず、一律に鋭敏化ステンレス鋼の進展速度を想定してい る。鋭敏化ステンレス鋼の進展速度線図は 600A 配管モック アップから採取したデータと比較して図1のように2倍近 い裕度を有しており、さらに,口径の小さい 400A や 300A の中径管においては、硬化度合い自体が図 7(b)に示す通り低 いことが想定されることから,特に中径管に対する SCC進 展評価においては過剰な裕度を含む可能性がある。図9は 300A 管における SCC 進展評価の試解析結果(破 線)と,材料硬化影響に着目した今後の評価合理化の概念 図 (実線) を示す。いずれの場合も, 初期き裂 (長さ20mm, 深さ 2mm)が母材硬化部内を 10mm の深さまで進展し,そ の後溶接金属内に入る場合を想定している。破線で示す現 状の暫定評価結果では、母材硬化部で 600A 配管と同様に鋭 敏化ステンレス鋼の進展速度を想定するため, 6年あまりで 板厚を貫通するという極めて保守的な評価結果となる。今 後, 3 章課題2に示したように材料硬化度合いによる SCC 進展速度データを拡充により,300A 管の硬化度合いに見合 った進展速度を適用し,図9 実線で概念的に示すように硬 化部内での進展評価をより実態に近づけることで,点検保 守計画等の合理化を図れる可能性がある。5. まとめと今後の課題* 実機 PLR 配管廃材調査により, 溶接部の材料硬化が SCC 進展速度に及ぼす影響を定量評価するための基礎データを 取得した。得られた結果をまとめると以下の通りである。 ・ 配管口径が大きいほど, 硬化度合いは高い傾向が認められる ・ 上記傾向は EBSD による塑性ひずみをパラメータとした場合に顕著に現れる 施工メーカー間では若干の差異が認められるが,配管口径毎に傾向は異なる ・ SCC進展速度の上昇を定量的に評価するために適切な 硬化度パラメータの特定とデータの拡充が今後の課題 である参考文献[1] Andresen, P. L., et al., Corrosion, Paper 02511, NACE, Houston, TX., 2002 [2] Jenssen, A., et al., Proc. 7th international symposium on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems - Water Reactors, pp.553-562, 1995 [3] Kumagai, K., et al., Proc. ASME/JSME PVP2004., 2004 [4] Andresen, P. L., 11th Int. Environmental Degradation of Materials in Nuclear Systems, 2003383“ “BWRプラント再循環系配管溶接部の硬化パラメータの測定と“ “鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,熊谷 克彦,Katsuhiko KUMAGAI,浅野 恭一,Kyoichi ASANO