鋳造ステンレス鋼の超音波探傷技術
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
12 鋳造ステンレス鋼は、耐食性が良く、強度が高く、 溶接性が優れているので、加圧水型原子炉(PWR) の 1 次冷却材管、1 次冷却材ポンプケーシングなどに使用 されている。これら1次冷却材圧力バウンダリー機器 の溶接部は、定期検査中に供用期間中検査 (In-Service Inspection: ISI)として、超音波探傷検査が行われてい る。鋳造ステンレス鋼は、結晶粒が粗大であり、結晶 異方性(特に柱状晶を有する遠心鋳造材)を有すると いう特性を持つ。粗大な結晶粒は、材料中を透過する 超音波ビームの散乱、減衰を引き起こし、SN比 (Signal Noise 比) の低下すなわち欠陥検出性低下の原因となる。このため、鋳造ステンレス鋼の超音波探傷検査は、 欠陥の識別に関し、熟練検査員の経験および技量を必 要としていた。散乱・減衰への対処法として、比較的 低周波の超音波を使用すること、材料中で超音波を光 学的に集束させる集束探触子や送受信振動子分割方式 によりたものが開発あるいは推奨されている。 [1-9] 1. 本研究においては、球面振動子を送信側、受信側そ れぞれに搭載した大型 2 振動子探触子を開発した。こ の探触子は、高いエネルギーの超音波を発生し、球面 振動子と2振動子の両方の集束効果により、材料の目 的の位置に効率的に超音波を伝えることが可能である。 この探触子を専用の自動走査機構に取り付け、実機と
て自動超音波同寸の一次冷却材管溶接部試験体を用いて自動超音波 探傷した。2.配管試験体自動超音波探傷の実施 2.1 装置 - 自動超音波探傷では、一度超音波探傷データを採取 すれば、欠陥かどうかを識別するための分析作業は、 場所を移して行うことが可能である。したがって、本 研究でも1次冷却材管のような放射線環境下の超音波 探傷に適していると判断し、自動超音波探傷を採用す ることとした。[10] 本研究で採用した自動超音波探傷 システムを Fig.1 に示す。配管探触子自動走査機構制御ユニット送受信器データ処理 装置溶接線自動走?機構PCFig.1 自動超音波探傷システム自動駆動機構のフレーム上に探触子が配置され、探 触子は配管の軸方向を往復する。同時に自動駆動機構 全体が配管周方向に移動する。高速データ処理装置/送 受信器は、探触子への送受信を行うと同時に、各位置 でのAスキャンデータを探触子位置情報とともに採取39し、制御装置のハードディスクに保存する。 - Fig.2に本研究で開発した大型2振動子探触子の概念 を示す。本研究では、大型の球面振動子 (76mmb) を 2 つに分割、送受信側に配置し、集束型探触子と2振動 子探触子の両方の相乗効果をねらった大型 2 振動子探 触子を製作した。平面振動子 - 二振動子探触子(TRL)送信人十音響レンズメ 従来の焦点探触子受信受信ト大型球面振動子(76mml) 球面型焦点探触子Fig.2 大型2振動子探触子Fig.3 は大型 2 振動子探触子の設計画面の例である。 振動子の各部分から発生した超音波が材料の裏面で集 束している様子がわかる。ただし、振動子の下半分は、 超音波の集束に効果的に寄与していないこともわかる。 なお、本探触子の周波数と超音波のモードならびに入 射角に関しては、関連する各種研究成果を参考に、 1MHz、縦波、45°とした。/ 球面振動子-+-++++++++++材料表面インターになPANNININフェイ材料裏面Fig.3 大型2振動子探触子の設計画面例2.2 試験体 1. 本研究では、人工欠陥を有する加圧水型炉の 1 次冷 却材配管溶接部を模擬した実寸大の試験体を製作した。 Fig.4 に試験体の写真を示す。直管部は遠心鋳造製、エ ルボー部は静鋳造製の鋳造ステンレス鋼 (CF-8M) を使 用し、溶接施工されている。直管部板厚は約 70mm、 エルボー部板厚は約90~110mm であるが、溶接部内面 側にカウンターボアが施工されている。このため、溶 接部付近の板厚は配管側で約 67mm、エルボー側で約 72~77mm である。溶接余盛り部表面は、手入れがな されているが、配管と余盛りの境界部に約3~5mm の 凸凹が存在する。Fig.4 1次冷却材配管模擬試験体試験体の溶接部付近に、人工的に数個の欠陥を導入 した。欠陥の大きさ (深さ)は、試験体の板厚t(=70mm) に対する%で表すと 10%t~40%t である。なお、1箇所 の溶け込み不良以外の欠陥は、全て配管内表面の開口 欠陥である。2.3 試験の結果 * 本自動探傷においては、配管軸方向に1mm、配管周 方向に 3mm ピッチで、A-scan データを採取した。この A-scan データを探触子位置情報をもとに B、C、D-scan 画像を表示した。B-scan は溶接線に垂直な断面、C-scan は上から見た平面、D-scan は溶接線に平行な断面のイ メージである。各-scan において、信号強度に応じて色 が変わる。C-scan においては、A-scan のうち、あらか じめ定められた範囲の最大値が表示される。このよう に視覚的に信号強度を表示することにより、鋳造ステ40ンレス鋼のようなノイズが多く探傷データの SN 比の 悪い状況でも欠陥の識別が容易になった。 - Fig.4 に探傷結果の画像表示例を示す。図中の C-scan 画面から2個の欠陥の存在が識別できる。NEWSの日のうるさ!! TDISONIA FINITに は『1000m2に(なお、当時は0)C-scanD-scan欠陥10mm2月2012年 1B-scanA-scan月11815Fig.5 探傷結果の例このように、新しい探触子および自動超音波探傷の 適用により、鋳造ステンレス鋼中欠陥の信号識別性が、 飛躍的に向上した。3.結言1) 開発した大型の球面振動子を用いた2振動子探触子は、従来の探触子と比べ、はるかに高 SN 比で欠陥 を検出することが可能であった。 2) 探傷結果を画像表示することにより、欠陥の識別性 - が向上した。その結果、実機大の1次冷却材配管模擬試験体の全ての欠陥を検出することができた。 3)開発した自動超音波探傷システムは、実際の PWR原子力発電所に適用可能である。 4) 全ての欠陥を検出する一方で、欠陥の誤識別も発生した。これは、開発した探触子の感度が鋭いことと、 超音波の焦点深さの照準が、材料の内表面に合わせてあることが原因であると思われる。 5) 実機適用にあたっては、欠陥が検出された場合のサイジングが必要である。本手法による欠陥のサイジ ング精度に関する検証が今後必要になると思われる。参考文献[1] 西野俊一, 肥田善雄, 山本通雄, ““オーステナイト系ステンレス鋼溶接部超音波探傷法の研究““, 三菱重工技報, Vol.18, No.6, pp.783-788 (1981) [2] (財)原子力工学試験センター, ““溶接部等熱影響 - 部信頼性実証試験に関する調査報告書““, (1983) [3] P Dombret, P Caussin, P Rorive, ““Developing ultrsonicsfor PWR pump bowl in-service inspection““., NuclearEngineering, Vol.35, pp.42-44 (1990) [4] P.Dombret, ““Methodology for the ultrasonic testing ofaustenitic stainless steel““., Nuclear Engineering andDesign 131, pp.279-284 (1991) [5] C.Boveyron, D. Villard, R.Boudot, ““Ultrasonic Testingof Cast Stailess Steel Components““., Proc. 11th Int. Conf. on NDE in the Nuclear and Pressure VesselIndustries (1992) [6] C.Boveyron, D.Villard, R.Boudot, ““Ultrasonic testingof cast stainless steel components““.,EDF-93-NB-00096 (1994) [7] M.Serre, PBenoist, D.Villard, N.Mathan,““Enhancement of ultrasonic non-destructive techniques for the inspection of cast stainless steel components““.,EDF-96-NB-00060 (1995) [8] C.Poidevin, M.Serre, O.Roy, N.Mathan, D.Villard,““Ultrasonic examination of cast stainless steel““., 14th Int. Conf. on NDE in the Nuclear and Pressure VesselIndustries (1996) [9] P.Lemaitre, T.D.Koble, ““Report on the evaluation of theinspection results of the cast-to-cast PISC III Assemblies no.41, 42 and weld B of Assembly 43““., PISC III Reportno.34 European Commission, (1995) [10] Kurozumi, “Development of an ultrasonic inspectiontechnique for cast stainless steel”., INSIGHT, Vol.44, No.7, pp437-442(2002)“ “鋳造ステンレス鋼の超音波探傷技術“ “黒住 保夫,Yasuo KUROZUMI
12 鋳造ステンレス鋼は、耐食性が良く、強度が高く、 溶接性が優れているので、加圧水型原子炉(PWR) の 1 次冷却材管、1 次冷却材ポンプケーシングなどに使用 されている。これら1次冷却材圧力バウンダリー機器 の溶接部は、定期検査中に供用期間中検査 (In-Service Inspection: ISI)として、超音波探傷検査が行われてい る。鋳造ステンレス鋼は、結晶粒が粗大であり、結晶 異方性(特に柱状晶を有する遠心鋳造材)を有すると いう特性を持つ。粗大な結晶粒は、材料中を透過する 超音波ビームの散乱、減衰を引き起こし、SN比 (Signal Noise 比) の低下すなわち欠陥検出性低下の原因となる。このため、鋳造ステンレス鋼の超音波探傷検査は、 欠陥の識別に関し、熟練検査員の経験および技量を必 要としていた。散乱・減衰への対処法として、比較的 低周波の超音波を使用すること、材料中で超音波を光 学的に集束させる集束探触子や送受信振動子分割方式 によりたものが開発あるいは推奨されている。 [1-9] 1. 本研究においては、球面振動子を送信側、受信側そ れぞれに搭載した大型 2 振動子探触子を開発した。こ の探触子は、高いエネルギーの超音波を発生し、球面 振動子と2振動子の両方の集束効果により、材料の目 的の位置に効率的に超音波を伝えることが可能である。 この探触子を専用の自動走査機構に取り付け、実機と
て自動超音波同寸の一次冷却材管溶接部試験体を用いて自動超音波 探傷した。2.配管試験体自動超音波探傷の実施 2.1 装置 - 自動超音波探傷では、一度超音波探傷データを採取 すれば、欠陥かどうかを識別するための分析作業は、 場所を移して行うことが可能である。したがって、本 研究でも1次冷却材管のような放射線環境下の超音波 探傷に適していると判断し、自動超音波探傷を採用す ることとした。[10] 本研究で採用した自動超音波探傷 システムを Fig.1 に示す。配管探触子自動走査機構制御ユニット送受信器データ処理 装置溶接線自動走?機構PCFig.1 自動超音波探傷システム自動駆動機構のフレーム上に探触子が配置され、探 触子は配管の軸方向を往復する。同時に自動駆動機構 全体が配管周方向に移動する。高速データ処理装置/送 受信器は、探触子への送受信を行うと同時に、各位置 でのAスキャンデータを探触子位置情報とともに採取39し、制御装置のハードディスクに保存する。 - Fig.2に本研究で開発した大型2振動子探触子の概念 を示す。本研究では、大型の球面振動子 (76mmb) を 2 つに分割、送受信側に配置し、集束型探触子と2振動 子探触子の両方の相乗効果をねらった大型 2 振動子探 触子を製作した。平面振動子 - 二振動子探触子(TRL)送信人十音響レンズメ 従来の焦点探触子受信受信ト大型球面振動子(76mml) 球面型焦点探触子Fig.2 大型2振動子探触子Fig.3 は大型 2 振動子探触子の設計画面の例である。 振動子の各部分から発生した超音波が材料の裏面で集 束している様子がわかる。ただし、振動子の下半分は、 超音波の集束に効果的に寄与していないこともわかる。 なお、本探触子の周波数と超音波のモードならびに入 射角に関しては、関連する各種研究成果を参考に、 1MHz、縦波、45°とした。/ 球面振動子-+-++++++++++材料表面インターになPANNININフェイ材料裏面Fig.3 大型2振動子探触子の設計画面例2.2 試験体 1. 本研究では、人工欠陥を有する加圧水型炉の 1 次冷 却材配管溶接部を模擬した実寸大の試験体を製作した。 Fig.4 に試験体の写真を示す。直管部は遠心鋳造製、エ ルボー部は静鋳造製の鋳造ステンレス鋼 (CF-8M) を使 用し、溶接施工されている。直管部板厚は約 70mm、 エルボー部板厚は約90~110mm であるが、溶接部内面 側にカウンターボアが施工されている。このため、溶 接部付近の板厚は配管側で約 67mm、エルボー側で約 72~77mm である。溶接余盛り部表面は、手入れがな されているが、配管と余盛りの境界部に約3~5mm の 凸凹が存在する。Fig.4 1次冷却材配管模擬試験体試験体の溶接部付近に、人工的に数個の欠陥を導入 した。欠陥の大きさ (深さ)は、試験体の板厚t(=70mm) に対する%で表すと 10%t~40%t である。なお、1箇所 の溶け込み不良以外の欠陥は、全て配管内表面の開口 欠陥である。2.3 試験の結果 * 本自動探傷においては、配管軸方向に1mm、配管周 方向に 3mm ピッチで、A-scan データを採取した。この A-scan データを探触子位置情報をもとに B、C、D-scan 画像を表示した。B-scan は溶接線に垂直な断面、C-scan は上から見た平面、D-scan は溶接線に平行な断面のイ メージである。各-scan において、信号強度に応じて色 が変わる。C-scan においては、A-scan のうち、あらか じめ定められた範囲の最大値が表示される。このよう に視覚的に信号強度を表示することにより、鋳造ステ40ンレス鋼のようなノイズが多く探傷データの SN 比の 悪い状況でも欠陥の識別が容易になった。 - Fig.4 に探傷結果の画像表示例を示す。図中の C-scan 画面から2個の欠陥の存在が識別できる。NEWSの日のうるさ!! TDISONIA FINITに は『1000m2に(なお、当時は0)C-scanD-scan欠陥10mm2月2012年 1B-scanA-scan月11815Fig.5 探傷結果の例このように、新しい探触子および自動超音波探傷の 適用により、鋳造ステンレス鋼中欠陥の信号識別性が、 飛躍的に向上した。3.結言1) 開発した大型の球面振動子を用いた2振動子探触子は、従来の探触子と比べ、はるかに高 SN 比で欠陥 を検出することが可能であった。 2) 探傷結果を画像表示することにより、欠陥の識別性 - が向上した。その結果、実機大の1次冷却材配管模擬試験体の全ての欠陥を検出することができた。 3)開発した自動超音波探傷システムは、実際の PWR原子力発電所に適用可能である。 4) 全ての欠陥を検出する一方で、欠陥の誤識別も発生した。これは、開発した探触子の感度が鋭いことと、 超音波の焦点深さの照準が、材料の内表面に合わせてあることが原因であると思われる。 5) 実機適用にあたっては、欠陥が検出された場合のサイジングが必要である。本手法による欠陥のサイジ ング精度に関する検証が今後必要になると思われる。参考文献[1] 西野俊一, 肥田善雄, 山本通雄, ““オーステナイト系ステンレス鋼溶接部超音波探傷法の研究““, 三菱重工技報, Vol.18, No.6, pp.783-788 (1981) [2] (財)原子力工学試験センター, ““溶接部等熱影響 - 部信頼性実証試験に関する調査報告書““, (1983) [3] P Dombret, P Caussin, P Rorive, ““Developing ultrsonicsfor PWR pump bowl in-service inspection““., NuclearEngineering, Vol.35, pp.42-44 (1990) [4] P.Dombret, ““Methodology for the ultrasonic testing ofaustenitic stainless steel““., Nuclear Engineering andDesign 131, pp.279-284 (1991) [5] C.Boveyron, D. Villard, R.Boudot, ““Ultrasonic Testingof Cast Stailess Steel Components““., Proc. 11th Int. Conf. on NDE in the Nuclear and Pressure VesselIndustries (1992) [6] C.Boveyron, D.Villard, R.Boudot, ““Ultrasonic testingof cast stainless steel components““.,EDF-93-NB-00096 (1994) [7] M.Serre, PBenoist, D.Villard, N.Mathan,““Enhancement of ultrasonic non-destructive techniques for the inspection of cast stainless steel components““.,EDF-96-NB-00060 (1995) [8] C.Poidevin, M.Serre, O.Roy, N.Mathan, D.Villard,““Ultrasonic examination of cast stainless steel““., 14th Int. Conf. on NDE in the Nuclear and Pressure VesselIndustries (1996) [9] P.Lemaitre, T.D.Koble, ““Report on the evaluation of theinspection results of the cast-to-cast PISC III Assemblies no.41, 42 and weld B of Assembly 43““., PISC III Reportno.34 European Commission, (1995) [10] Kurozumi, “Development of an ultrasonic inspectiontechnique for cast stainless steel”., INSIGHT, Vol.44, No.7, pp437-442(2002)“ “鋳造ステンレス鋼の超音波探傷技術“ “黒住 保夫,Yasuo KUROZUMI