高経年化対応ロードマップにおける保全高度化の役割

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カテゴリ: 第2回
1. 緒言
(独)原子力安全基盤機構の委託の下,平成 16 年度 に(社)日本原子力学会において「発電炉の安全に関す る研究開発ロードマップ作成」特別専門委員会が設置 され,この中で「高経年化対応に関するロードマップ」 の検討が行われた。これは,我が国における原子力発電プラントの高経 年化に対応し,原子力発電プラントの安全性の確保を 更に揺るぎないものにしていくために,産官学共通認 識の下,今後実施すべき施策の方向性について検討し た結果をとりまとめたものである [1, 2]。 1. 本稿では,高経年化対応ロードマップにおいて検討 された内容について概説するとともに,保全高度化の 役割・意義について述べる。
2. 高経年化対応ロードマップの概要
原子力発電プラントの高経年化に対応したロードマ ップの最終目標を明確にし,これを達成するための施 策のあり方と具体化の方向性について,産官学による 集中的な議論と検討が行われた。 ・ ロードマップ検討の基本的な方針と方向性を検討し た上で,以下のように時間軸と各要素への具体的な展 開を行い,全体像のとりまとめを進めた。連絡先:関村直人, 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻 電話 :03-5841-6986, e-mail: sekimura@q.t.u-tokyo.ac.jp2.1 ロードマップ作成の基本方針と検討の方向性 ロードマップを作成するにあたっては,その目標と するところを「原子力発電プラントの高経年化に対す る安全性・信頼性確保の達成」であると定めた。 ・ロードマップ検討の基本的な方向性として, 「ハード 面」とともに「ソフト面」の充実の必要性が示された。 これまで高経年化に対応するために,技術データ等の 取得のため多くのエネルギーが注がれ,主としてハー ド面の充実が図られてきた。今後は技術面のみならず, 制度とその基盤整備等のソフト面のシステム的な充実 が必要である。これらを踏まえ,高経年化に対応した課題を次の4 大要素に着目して,今後の効果的な展開について具体 的な検討を実施することとした。1 技術情報基盤の整備 2 技術開発の推進 3 規格基準類の整備 4 保全高度化2.2 ロードマップ要素への展開 ・ロードマップを構成する具体的な技術開発要素と施 策を検討する上で, Fig.1 に示す4大要素とそれらの階 層的構造に関する議論を進めた。1) 技術情報基盤の整備 原子力発電プラントの高経年化に係る運転保守経験 や国内外の事故・故障等の情報また電気事業者,プ404ラントメーカ, 大学等の学術機関、国等のそれぞれに おいて実施されている技術開発成果、さらには海外に おける同様の情報や規格基準類の整備状況等を絶えず 収集・整理・評価する必要がある。また,この活動を 長期間にわたり維持する仕組みが重要である。更に高 経年化に関する技術情報が受発信できる産官学のネッ トワークを整備する必要がある。原子力発電プラントの高経年化に対する安全性・信頼性確保の達成技術情報基盤)の整備技術開発の推進規格基準類 の整備保全高度化 の推進経年変化技術情報 データベース経年変化 画技術規格基準化保全最適化新技術リスク保全学の包括的 経年管理 プログラム 情報 構築データベース|シュラウド等、 ステンレス 照射誘起接部| 応力腐食 SCC 割れ 非破壊検査Hスキームブラント 性能指標 調査「構築と応用保全手法Fig. 1Elements of the Roadmap2) 技術開発の推進原子力発電プラントの高経年化に係る機器と材料の 経年変化の挙動を踏まえ,「検査・モニタリング技術」, 「予防保全・補修取替技術」,「経年変化評価技術」の 各分野において必要な技術開発を推進していく必要が ある。また,推進にあたっては,高経年化を迎えるプ ラントに対し,点検方法や点検結果等の実機の実績に 関する情報の有効性を踏まえ, 技術情報基盤を基とし, 技術開発状況を定期的に評価し,海外研究機関等との 協力も考慮しつつ,重要性,緊急性等による優先度を 確認しながら戦略的に実施する必要がある。3) 規格基準類の整備海外情報を含む技術情報基盤を活用し,透明性,客 観性及び説明性の観点も踏まえ,原子力発電プラント の高経年化に関する技術開発成果の活用と迅速な規格 基準類の整備が必要である。さらに,これらのための 基本指針の確立と仕組み作りを行う必要がある。4) 保全高度化原子力発電や電気事業者を取り巻く環境の変化, 材基盤の確保の必要性等を踏まえると,1)~3)の成果に基づいて,現状の保全を体系的に整理すると ともに,保全重要度の策定等やこれに基づく効果的か つ効率的な保全を検討,実施する必要がある。それに は、 リスクを考慮した保全・規制の検討や人材の確保・ 育成による技術力の維持向上等の最適化,高度化に資 する取り組みを行うことが有効である。2.3 ロードマップの全体概念 ・ロードマップ検討の方向性及び4大要素の具体的な 展開の検討を踏まえ,ロードマップ全体構成の概念図 を示せば、Fig. 2 のようになる。これまでの流れ 今後の方向性ハード面の充実ソフト面の充実保全高度化の推進規格基準類の整備 一過性客観性・男性 つ迅速な規格基準類の ○技調発成の活用●技術開発を 主体に実施」基盤の整備 ●制度面の整備 ●技術面の整備技術情報基盤の整備続的な収集・要理・甲価 O産官学の連携 O情報発信のためのネットワーク● 主要なデー タ・評価手法 は整備されつ つある運用による高度化 ●知見の反映、 ●運用による検証技術開発の推進 経年変化評価技術 O検査・モニタリング 予防保全・補修費技術将来展望Fig. 2Concept of the Roadmap2.4 時間軸の検討 --今後20年間程度を展望すると,以下のように3期 に分けてロードマップを要素へ展開することが効果的 であると考えられる。1)I期(基盤の整備:初期の原子力発電プラントが 40年を迎える時点) 「技術開発の推進」に着実に取り組むとともに, 第一に「基盤の整備」として、制度面の整備や技 術面を整備するための「技術情報基盤の整備」「規 格基準類の整備」について早急にかつ重点的に推 進を図る。2)III期(運用による高度化:初期の原子力発電プラ ントが40年を超えて50年を迎える時点) 「技術開発の推進」に加え「技術情報基盤の整備」 「規格基準類の整備」の運用を通じて得られた経 験・知見を絶えずフィードバックすることにより 高度化を図る。4053) III期(将来展望:初期の原子力発電プラントが 50年を超える時点) 「基盤の整備」「運用の高度化」を通じた高経年化 プラントの将来展望,高経年化プラントを踏まえ たエネルギー戦略等を発信していく。H17H22H32H361期II期III期「初期の原子力発電)プラントが40年を し迎える時点40年を超えて50年 を迎える時点50年を超える時点基盤の整備 ・制度面の整輸 ・技術面の整運用による高度化 ・知見の反映 ・運用による検証将来展望Fig. 3Time Scale for the Roadmap2.5 ロードマップ要素の具体化ロードマップの要素となる研究開発課題として,72 件が具体的に示された。さらに,この中から産官学の エキスパートによる評価により,「必要度」の観点から 重点事項を摘出した結果,Table 1 に示すような 26 件 が摘出されている。これらについては,具体的なロー ドマップが前項の時間軸を踏まえて検討された。Table 1 Important SubjectsNo.1013 14項目名 | 原子炉圧力容器の照射命化予測手法の高度化 | 原子炉(圧力)容器の朝性監視技術の確立(ALI再生) 熱化した2相ステンレス鋼の健全性評価技術の確立 原子力用ステンレス鋼の耐応力腐食割れ試験 | 照射誘起応力腐食割れ評価技術ニッケル基合金の応力腐食割れき裂進展評価 | ニッケル基合金溶接部金属の破壊評価手法に関する実証疲労評価(1):戸水環境中疲労き裂の発生評価 | 疲労評価(2) :炉水環境中疲労き裂進展評価 | ケーブル経年変化(絶縁劣化)評価手法の確立 コンクリート構造物の劣化モニタリング技術の実証 「経年劣化を想定した炉内設替・配管の耐震安全評価手法の整備原子力プラント照射材料安全補修溶接技術 「シュラウド等ステンレス鋼溶接部のSCCに対する非破壊検査技術の実証 | 低炭素ステンレス配管溶接部のSCCに対するUT技術の実証 「圧力容器貫通部狭隘部の非破壊検査技術(ECT, TOFD)の実証 | リスクペース保全手法の確立 | 高経年化軽水炉機器の構造信頼性評価手法の確立 |保全学の構築と応用 包括的経年変化管理ガイドラインの整備 産官学研究開発データベースの相楽 高経年化に関する故障・トラブル情報データベースの構築 | PU点検データベース 高経年化対策に関する基本方針の策定 原子力発電プラントの性能指標に関する調査 | 高経年化プラントへ新技術適用のためのスキーム構築11618124262.6 産官学の役割の検討ロードマップ要素に挙げられた研究開発課題を効果 的,効率的に実現し,推進していくためには,Fig. 4 に示すように,産官学の役割の検討を踏まえ,俯瞰・ 連携・調整の機能を持った中立性を持つ組織体が必要 となる。「電気事業者]プラントメーカー●一義的には事業者自らの責任と努力が基本。 ●保全の置要性を鑑み、技術力の維持・ ●適切な保全の実施と継続的改善強化に努め最適・最善の技術を開発、 ●現存施設の運用、保守に関連した研究産業界 |俯瞰・連携・調整の機能を持った組織体 規制当局学術界●事業者の事集活動の厳格な ●規制度や規制基準の科学的根拠等に関する安全研究 ●研究基盤施設の確保、研究に携わる人材 の育成、確保●基礎的研究を通じた論理的な根拠の提供 ●人材育成を通じた優秀な人材の提供 ●ニーズを捉えた産官とのネットワークの強 化と体制づくりFig. 4Cooperation of Industrial, Governmentaland Academic Communities3.保全高度化の意義と役割3.1 4大要素間の関係における保全高度化 - 以上のように,高経年化対応ロードマップにおいて は、最終目標に向けた階層的構造を有する各要素への 展開,時間軸,産官学の役割等について検討された。 14大要素のうち「技術情報基盤の整備」や「技術開 発の推進」の成果を踏まえ,「規格基準類の整備」によ り,合理性のある保全活動を進めるとともに,これら を支える人材の確保・育成が必要となる。さらに社会・ 経営環境等の外的要因とその変化を踏まえ,時間軸因 子を加えたシステムを対象とした保全最適解を見出す ことが重要である。このような総合的な施策全体を「保全高度化の推進」 として位置づけることができよう。また,それ故に保 全高度化は,産官学が総合的に推進する課題となって いる。3.2 保全高度化の具体的な方向性 - 高経年化対応の具体的な課題の中での保全高度化の 位置づけをふまえれば、リスク情報の活用が重点的な 課題となる。 これまで原子力発電所の保全は,安全機能等による406決定論的考え方に基づく重要度や設計情報,運転経験 等を基本として実施されている状況にある。一方で, 機器区分,故障率等の保全関連情報の収集と集約を基 に,経年変化事象の発生確率の検討や確率論的破壊力 学手法を用いた機器信頼性評価の精緻化等によるリス ク情報の保全への活用法が開発されてきている。このようなリスク情報の活用や,リスクの発見・定 量化に関する研究開発, 情報の海外の状況等も参考に, 日本における実績,情勢等を踏まえ,保全高度化を推 進していく必要がある。また,社会への保全高度化の 効果を発信する役割についても,検討されるべきであ ろう。| 高経年化に対する安全性・信頼性確保の達成」保全高度化の推進保全最適化規格基準類の整備技術情報基盤の整備技術開発の推進人材の確保・育成社会・経営環境Fig. 5Roles of Synthetic and Advanced Maintenance Activities3.3 総合的な保全システム設計 - 高経年化に伴い蓄積される膨大な情報を構造的に整 理し,活用されるようにするためには,データベース システムとともに,異なる領域間の知識の翻訳・変換 作業も重要となる。また技術開発分野内においても,検査・モニタリ ング,予防保全・補修技術開発並びに経年変化評価に 関するバランスが要請される。さらに,これらの知見の蓄積に基づいて,高経年化 プラントの活用の仕組みの全体像が,規制や民間基準 の一層の具体化とともに,社会制度設計として定着さ れることが必要である。 以上を長期間にわたり総合的に運用するシステム (Holistic System)の構築こそ,保全学の果たすべき重 要な役割であろう。4.結言原子力発電プラントにおける高経年化対応ロードマ ップの検討成果を踏まえて,保全高度化の役割・意義 について述べた。 - 高経年化に対する原子力発電プラントの安全性・信」 頼性の確保を更に揺るぎないものにしていくために, 技術情報基盤の整備や技術開発の推進,そして規格基 準類の整備とともに,実効性のある保全最適化の推進 を図る必要がある。また,これらをリードする人材基 盤の確保・育成を根底に据えなければならない。さら に社会・経営環境の外的要因を踏まえ,時間軸を加え た保全高度化の推進が中心的課題となってくる。高経年化システムの安全性・信頼性確保の達成のた めの保全高度化は,原子力発電システムのみならず, 21世紀社会が直面する安全・安心社会の構築をめざ した課題解決に応えるものであり,このための総合的 なシステム造りが要請される。参考文献[1] (社)日本原子力学会「2005 春の年会」総合講演・報告,“高経年化対応ロードマップ”平成 17年3[2] 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会第3回高経年化対策検討委員会資料,“(社)日本原 子力学会における高経年化対策に関する取り組み 状況について”平成17年2月- 407 -“ “高経年化対応ロードマップにおける保全高度化の役割“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA,西田 泰信,Yasunobu NISHIDA
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