知的革新炉実現のための計測融合仮想システム
公開日:
カテゴリ: 第2回
1. 緒言
2. 計測融合仮想システムの要素研究 ライフサイクル全般にわたってプラント各部の構 「計測融合仮想システム」の構成を図1に示す。対 告材にやさしい運転条件を動的に自己創出し続けるこ象となる原子炉内や冷却系統に有限個のセンサを配 とができる知的な原子炉(知的革新炉)が実現すれば、 置し、その計測結果に基づいた計測融合シミュレーシ トラブルフリーの長期運転によって「優れた安全性」 ョンに基づいて、プラント内の流動と構造物の負荷を と「経済性の大幅な向上」を達成できる。この知的革 完全に把握する。この状態量に基づいて保全を考慮し 新炉を実現するためには、プラント内の状態をリアル つつ運転制御を行い、プラントライフサイクルを通し タイムで正確に把握し、これを制御する必要がある。 て運転を最適化するものである。このための、1) セ 合理的な保全を念頭においた場合、その制御はプラン ンサ群と計測融合シミュレーションシステム、2) ラ トの状態に基づいて構造物の劣化・損傷という時間ス イフサイクルシミュレーションシステム、3) 可視化 コールでの予測に基づいたものである必要がある。東 システム、を統合化したシステム全体を「計測融合反 北大学流体科学研究所、電気通信研究所と日本原子力 想システム」と呼ぶ。以下では、本システムの構築の 再究所を始めとする共同グループでは、知的革新炉を ための要素研究について紹介する。 実現するための要素技術として「計測融合仮想システ
1) 計測融合シミュレータ ム」を提唱している。「計測融合仮想システム」とは有 眼個のワイヤレスヘルスモニタリング計測データから - 東北大学流体科学研究所では、実験と計算という 2 令却材流れ場、構造材の状態の全てを正しく再現でき つの研究手法を一体化した“計測融合シミュレーショ る「計測融合シミュレータ」、プラント内の保全も考慮ン [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超高 こ入れた脆弱な部分を抽出する「耐性評価システム」、 速かつ高精度にこれらの問題を解決している。従来の 及び「計測融合シミュレータ」と「耐性評価システム」 計測は、実際の計測対象システムの特定の場所に設置 とを高速ネットワークを用いて統合し可視化する「可 された有限個の計測器から得られるデータをもとに、 見化統合システム」からなる。当該ポイントの物理量のみを把握する計測であった。 本稿では、知的革新炉を実現するための「計測融合 これに対し、「計測融合シミュレーション」では、コン 反想システム」について紹介し、本システムを構築すピュータ上で計測対象システムの全ての場所における るため要素研究と今後の計画について概説する。 すべての物理量を推測することが可能である。しかも、この推測は、個別の計測データをそのまま用いるので 連絡先: 内一 哲哉,〒980-8577 宮城県仙台市青葉区方平はなく、異なる場所・異なる時間に得られた異なる計 タイムで正確に把握し、これを制御する必要がある。 合理的な保全を念頭においた場合、その制御はプラン トの状態に基づいて構造物の劣化・損傷という時間ス ケールでの予測に基づいたものである必要がある。東 北大学流体科学研究所、電気通信研究所と日本原子力 研究所を始めとする共同グループでは、知的革新炉を 実現するための要素技術として「計測融合仮想システ ム」を提唱している。「計測融合仮想システム」とは有 限個のワイヤレスヘルスモニタリング計測データから 反想システム」について紹介し、本システムを積 るため要素研究と今後の計画について概説する。 連絡先: 内一哲哉, 〒980-8577 宮城県仙台市青葉区方平 2-1-1, 東北大学流体科学研究所,電話: 022-217-5262、 e-mail: uchimoto@ifs.tohoku.ac.jp「計測融合仮想システム」の構成を図1に示す。対 象となる原子炉内や冷却系統に有限個のセンサを配 置し、その計測結果に基づいた計測融合シミュレーシ ョンに基づいて、プラント内の流動と構造物の負荷を 完全に把握する。この状態量に基づいて保全を考慮し つつ運転制御を行い、プラントライフサイクルを通し東北大学流体科学研究所では、実験と計算という つの研究手法を一体化した“計測融合シミュレーシ ン” [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超 ン” [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超高 速かつ高精度にこれらの問題を解決している。従来の 計測は、実際の計測対象システムの特定の場所に設置 された有限個の計測器から得られるデータをもとに、 当該ポイントの物理量のみを把握する計測であった。 これに対し、「計測融合シミュレーション」では、コン ピュータ上で計測対象システムの全ての場所における すべての物理量を推測することが可能である。しかも、 この推測は、個別の計測データをそのまま用いるので はなく、異なる場所・異なる時間に得られた異なる計 - 46 -測物理量の間の整合性がシミュレーションモデルを介 して相互に確保された形で推測されたものである。従 って、その推測結果の信頼性は高く、現実の挙動を非 常に忠実に再現することが可能となる。東北大学流体 科学研究所では、原子力発電プラント内の流動や航空 機・宇宙用推進機における流動を、計測技術とシミュ レーション技術の統合により、リアルタイムにて高精 度で解析する「次世代融合手法」を提案し、その研究 開発を推進している[2]。2) 数値非破壊評価学とヘルスモニタリング東北大学流体科学研究所では、「数値非破壊評価 学」を提唱し、数値解析との融合により電磁非破壊評 価手法を高度化してきた。特に探傷プローブからの計 測データに基づきき裂の位置と形状を推定する逆問題 解析について大きな進展が見られる。原子力プラント の高温環境で構造材健全性をモニタするいわゆるヘル スモニタリングに関する研究を行っており、得られた 信号からき裂の進展を定量的に評価する手法を確立し ている[3]。また、プラント内のプローブと高速ネット ワークを接続し、遠隔地にてプラントの状態を把握す る遠隔計測融合シミュレーションに関する取り組みが 東北大学流体科学研究所と神戸大学との共同研究にて 行われてきており、その実現の見通しを得ている[4]。4 計測融合仮想システムの構築に向けて上記の要素研究に加え、東北大学流体科学研究所及 び原子力研究所にて蓄積された熱流動数値解析技術、 東北大学電気通信研究所で開発されたワイヤレス超小 型超低消費電力デバイスによる情報処理システムを統 合することにより、「計測融合仮想システム」を構築す ることを計画している。この「計測融合仮想システム」 を開発するために、以下の3課題について取り組む。1)計測融合シミュレーションにより炉内の流れ場、 構造物の負荷を有限の観測点から完全に推定するシステムの構築 2)計測融合シミュレーションの出力に基づいて、プラント内においてトラブルに至る可能性のあ る脆弱な箇所を抽出するシステムの構築 3) 1)、2)のシミュレーションを統合した計測融 合仮想システムを用いて、現行の炉におけるセ ンサの最適配置と運転制御/メインテナンス方 法を議論する知的革新炉は、原子力プラントと計測融合仮想シス テムとを図2に示される形で統合することで実現する。 知的革新炉の概念は、軽水炉、高速増殖炉等を含むあ らゆる炉型の将来炉に適用可能である。合理的なメインテナンスと運転制御を可能とする経済性と安全性・ * 信頼性を両立させた炉の設計も可能であり、最終的には、メインテナンスフリー炉や高寿命炉につながると 考えられる。計測融合シミュレーションプラント内の任意の点に おける状態量の把握流動十熱士構造連成解析冷却材に関する計測データ構造材に関する 計測データ耐性評価システムプラントの弱い部分の抽出ト振動計測流超音波探傷計測」 渦電流探傷計測」流速可視化・統合システムひずみ計測冷却材の 流れ場構造材の温度計測応力場プラントに優しい 合理的な 高度な運転制御メインテナンス|プラント制御パラメータFig. 1Fig.1 Schematic drawing of measurement-integrated virtualsystem.スーパーコンピュータプラントの 流動データITBL / Super SINET 構造データ計測融合仮想システム・計測融合シミュレータ ・耐性評価システム ・可視化・統合システムプラントにやさしい制御 合理的な保全計画端末無線付きセンサ群Fig. 2Intelligent nuclear power plant with measurementintegrated virtual system.参考文献 [1] 早瀬敏幸, “流れ場の数値シミュレーションと仮想計測”,計測と制御, Vol. 40, 2001, pp. 790-794. [2] 平成 16 年度研究活動報告書, 東北大学流体科学研究所流体融合研究センター,2005. [3] T.Kasuya, T.Okuyama, N.Sakurai, H.Huang, T.Uchimoto,T.Takagi, Y. Lu and T.Shoji, “In-situ Eddy Current Monitoring under High Temperature Environment, International Journal of Applied Electromagnetics inMaterials, Vol. 20, 2004, pp.163-170. [4] 学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET) 成果報告集, 国立情報学研究所, 2004.“ “知的革新炉実現のための計測融合仮想システム“ “内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,早瀬 敏幸,Toshiyuki HAYASE,井小萩 利明,Toshiaki IKOHAGI,松岡 浩,Hiroshi MATSUOKA
2. 計測融合仮想システムの要素研究 ライフサイクル全般にわたってプラント各部の構 「計測融合仮想システム」の構成を図1に示す。対 告材にやさしい運転条件を動的に自己創出し続けるこ象となる原子炉内や冷却系統に有限個のセンサを配 とができる知的な原子炉(知的革新炉)が実現すれば、 置し、その計測結果に基づいた計測融合シミュレーシ トラブルフリーの長期運転によって「優れた安全性」 ョンに基づいて、プラント内の流動と構造物の負荷を と「経済性の大幅な向上」を達成できる。この知的革 完全に把握する。この状態量に基づいて保全を考慮し 新炉を実現するためには、プラント内の状態をリアル つつ運転制御を行い、プラントライフサイクルを通し タイムで正確に把握し、これを制御する必要がある。 て運転を最適化するものである。このための、1) セ 合理的な保全を念頭においた場合、その制御はプラン ンサ群と計測融合シミュレーションシステム、2) ラ トの状態に基づいて構造物の劣化・損傷という時間ス イフサイクルシミュレーションシステム、3) 可視化 コールでの予測に基づいたものである必要がある。東 システム、を統合化したシステム全体を「計測融合反 北大学流体科学研究所、電気通信研究所と日本原子力 想システム」と呼ぶ。以下では、本システムの構築の 再究所を始めとする共同グループでは、知的革新炉を ための要素研究について紹介する。 実現するための要素技術として「計測融合仮想システ
1) 計測融合シミュレータ ム」を提唱している。「計測融合仮想システム」とは有 眼個のワイヤレスヘルスモニタリング計測データから - 東北大学流体科学研究所では、実験と計算という 2 令却材流れ場、構造材の状態の全てを正しく再現でき つの研究手法を一体化した“計測融合シミュレーショ る「計測融合シミュレータ」、プラント内の保全も考慮ン [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超高 こ入れた脆弱な部分を抽出する「耐性評価システム」、 速かつ高精度にこれらの問題を解決している。従来の 及び「計測融合シミュレータ」と「耐性評価システム」 計測は、実際の計測対象システムの特定の場所に設置 とを高速ネットワークを用いて統合し可視化する「可 された有限個の計測器から得られるデータをもとに、 見化統合システム」からなる。当該ポイントの物理量のみを把握する計測であった。 本稿では、知的革新炉を実現するための「計測融合 これに対し、「計測融合シミュレーション」では、コン 反想システム」について紹介し、本システムを構築すピュータ上で計測対象システムの全ての場所における るため要素研究と今後の計画について概説する。 すべての物理量を推測することが可能である。しかも、この推測は、個別の計測データをそのまま用いるので 連絡先: 内一 哲哉,〒980-8577 宮城県仙台市青葉区方平はなく、異なる場所・異なる時間に得られた異なる計 タイムで正確に把握し、これを制御する必要がある。 合理的な保全を念頭においた場合、その制御はプラン トの状態に基づいて構造物の劣化・損傷という時間ス ケールでの予測に基づいたものである必要がある。東 北大学流体科学研究所、電気通信研究所と日本原子力 研究所を始めとする共同グループでは、知的革新炉を 実現するための要素技術として「計測融合仮想システ ム」を提唱している。「計測融合仮想システム」とは有 限個のワイヤレスヘルスモニタリング計測データから 反想システム」について紹介し、本システムを積 るため要素研究と今後の計画について概説する。 連絡先: 内一哲哉, 〒980-8577 宮城県仙台市青葉区方平 2-1-1, 東北大学流体科学研究所,電話: 022-217-5262、 e-mail: uchimoto@ifs.tohoku.ac.jp「計測融合仮想システム」の構成を図1に示す。対 象となる原子炉内や冷却系統に有限個のセンサを配 置し、その計測結果に基づいた計測融合シミュレーシ ョンに基づいて、プラント内の流動と構造物の負荷を 完全に把握する。この状態量に基づいて保全を考慮し つつ運転制御を行い、プラントライフサイクルを通し東北大学流体科学研究所では、実験と計算という つの研究手法を一体化した“計測融合シミュレーシ ン” [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超 ン” [1] という手法を世界に先駆けて創生して、超高 速かつ高精度にこれらの問題を解決している。従来の 計測は、実際の計測対象システムの特定の場所に設置 された有限個の計測器から得られるデータをもとに、 当該ポイントの物理量のみを把握する計測であった。 これに対し、「計測融合シミュレーション」では、コン ピュータ上で計測対象システムの全ての場所における すべての物理量を推測することが可能である。しかも、 この推測は、個別の計測データをそのまま用いるので はなく、異なる場所・異なる時間に得られた異なる計 - 46 -測物理量の間の整合性がシミュレーションモデルを介 して相互に確保された形で推測されたものである。従 って、その推測結果の信頼性は高く、現実の挙動を非 常に忠実に再現することが可能となる。東北大学流体 科学研究所では、原子力発電プラント内の流動や航空 機・宇宙用推進機における流動を、計測技術とシミュ レーション技術の統合により、リアルタイムにて高精 度で解析する「次世代融合手法」を提案し、その研究 開発を推進している[2]。2) 数値非破壊評価学とヘルスモニタリング東北大学流体科学研究所では、「数値非破壊評価 学」を提唱し、数値解析との融合により電磁非破壊評 価手法を高度化してきた。特に探傷プローブからの計 測データに基づきき裂の位置と形状を推定する逆問題 解析について大きな進展が見られる。原子力プラント の高温環境で構造材健全性をモニタするいわゆるヘル スモニタリングに関する研究を行っており、得られた 信号からき裂の進展を定量的に評価する手法を確立し ている[3]。また、プラント内のプローブと高速ネット ワークを接続し、遠隔地にてプラントの状態を把握す る遠隔計測融合シミュレーションに関する取り組みが 東北大学流体科学研究所と神戸大学との共同研究にて 行われてきており、その実現の見通しを得ている[4]。4 計測融合仮想システムの構築に向けて上記の要素研究に加え、東北大学流体科学研究所及 び原子力研究所にて蓄積された熱流動数値解析技術、 東北大学電気通信研究所で開発されたワイヤレス超小 型超低消費電力デバイスによる情報処理システムを統 合することにより、「計測融合仮想システム」を構築す ることを計画している。この「計測融合仮想システム」 を開発するために、以下の3課題について取り組む。1)計測融合シミュレーションにより炉内の流れ場、 構造物の負荷を有限の観測点から完全に推定するシステムの構築 2)計測融合シミュレーションの出力に基づいて、プラント内においてトラブルに至る可能性のあ る脆弱な箇所を抽出するシステムの構築 3) 1)、2)のシミュレーションを統合した計測融 合仮想システムを用いて、現行の炉におけるセ ンサの最適配置と運転制御/メインテナンス方 法を議論する知的革新炉は、原子力プラントと計測融合仮想シス テムとを図2に示される形で統合することで実現する。 知的革新炉の概念は、軽水炉、高速増殖炉等を含むあ らゆる炉型の将来炉に適用可能である。合理的なメインテナンスと運転制御を可能とする経済性と安全性・ * 信頼性を両立させた炉の設計も可能であり、最終的には、メインテナンスフリー炉や高寿命炉につながると 考えられる。計測融合シミュレーションプラント内の任意の点に おける状態量の把握流動十熱士構造連成解析冷却材に関する計測データ構造材に関する 計測データ耐性評価システムプラントの弱い部分の抽出ト振動計測流超音波探傷計測」 渦電流探傷計測」流速可視化・統合システムひずみ計測冷却材の 流れ場構造材の温度計測応力場プラントに優しい 合理的な 高度な運転制御メインテナンス|プラント制御パラメータFig. 1Fig.1 Schematic drawing of measurement-integrated virtualsystem.スーパーコンピュータプラントの 流動データITBL / Super SINET 構造データ計測融合仮想システム・計測融合シミュレータ ・耐性評価システム ・可視化・統合システムプラントにやさしい制御 合理的な保全計画端末無線付きセンサ群Fig. 2Intelligent nuclear power plant with measurementintegrated virtual system.参考文献 [1] 早瀬敏幸, “流れ場の数値シミュレーションと仮想計測”,計測と制御, Vol. 40, 2001, pp. 790-794. [2] 平成 16 年度研究活動報告書, 東北大学流体科学研究所流体融合研究センター,2005. [3] T.Kasuya, T.Okuyama, N.Sakurai, H.Huang, T.Uchimoto,T.Takagi, Y. Lu and T.Shoji, “In-situ Eddy Current Monitoring under High Temperature Environment, International Journal of Applied Electromagnetics inMaterials, Vol. 20, 2004, pp.163-170. [4] 学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET) 成果報告集, 国立情報学研究所, 2004.“ “知的革新炉実現のための計測融合仮想システム“ “内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,早瀬 敏幸,Toshiyuki HAYASE,井小萩 利明,Toshiaki IKOHAGI,松岡 浩,Hiroshi MATSUOKA