渦電流探傷法における階層型自然き裂モデルによるき裂診断解析法
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
近年、原子力発電プラントの高経年化に伴い、各種 構造物の検査・診断が不可欠となっている。しかし、 シュラウドの特に溶接部分に応力腐食割れ(Stress Corrosion Crack; SCC)等の自然き裂が発見された事例 が多数報告され、その検査・補修が早急の課題となっ ている。シュラウド等、金属構造物の表面・表層欠陥 の検査技術としては電磁現象を利用した非破壊検査技 術である渦電流探傷試験(Eddy Current Testing;ECT)が ある。その検査データから逆問題解析による欠陥推定 には渦電流探傷シミュレータによる支援が有効であり、 これまでこれを利用した原子炉のき裂形状推定の逆解 析の研究が行われてきた[1]。しかし、これを用いてき 裂形状の同定を行うにはその前準備としてき裂の正確 なモデリングを行うことが必要不可欠である。そこで、 本研究では、応力腐食割れ等の自然き裂に関する階層 的導電率モデルによるシミュレータを構築し、き裂形 状の推定を行う。
2. ECT 検査モデルの記述- ECT は、励磁コイルに交流電流を流すことで、磁場 が発生し、その磁場が導体に作用し導体に渦電流が流 れる。導体表面にき裂があると渦電流に変化が生じ、 それによって起こる受信コイルの誘起電圧の変化をと連絡先:小島史男、〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台 町 1-1 、神戸大学大学院自然科学研究科、電話: 078-803-6493、e-mail:kojima@cs.kobe-u.ac.jpらえることにより、き裂の特徴を得る。マクスウェル の方程式に磁気ベクトルポテンシャルA および、電気 スカラーポテンシャルのを導入することで渦電流問題 の支配方程式は次のように記述できる[2]。 - Lv-A + joo(A + ) =0_in_v_ (1)joo(A + VI) =0_in_v_ (2)- Lv-A = J in R-V (3)Hoここで、ム。は真空の透磁率、のは励磁コイルの交流 電流の角周波数、中は電気スカラーポテンシャル中の 時間積分である。試験体に発生したき裂はその導電率 o の変化によって表される。 11式(1)-(3)の支配方程式は有限要素・境界要素併用法 により以下のような有限次元の線形システムで記述できる。A) SF,J,([P] + jo[Q](on) +>く・ き裂の形状は、対応する要素の導電率を変化させた導 電率ベクトル on = {g““ } によって表される。ただしM は導体の有限要素の分割数である。 * 励磁コイルの強制電流 J.に対応する受信コイルの誘 起電圧は、補間マトリクス[C] によって以下の式で近 似できる。-43.自然き裂のモデリング自然き裂は、Fig.1(a)のように表面部分が完全に破断 しているが、き裂が深くなっていくにしたがってき裂 幅が狭くなっていき、さらに深いところでは一部接触 する個所があり、そこでは通電していると考えられる。 以上を考慮して、き裂部分の要素にも導電率を与え, 深さ方向に導電率を変化させる自然き裂に関する階層 型導電率モデルを用いる(Fig.1(b))。san..(a) Photograph of SCC(b) Deep-lying conductivitiesFig. 1Modeling of SCC4. 逆解析によるき裂形状推定* 自然き裂は材料表面で多数の枝分かれを繰り返して おり、幾何学的に特徴を捉えるのは困難とされている。 そこで、自然き裂を短形き裂の集合として扱う。個々 のき裂の状態を Fig.2 において x, 方向の位置、x, 方向 のき裂の下端の位置、長さ、深さの4つのパラメータ 列q = (q', q', q0,q) で表現する。き裂を表わしている 短形き裂の個数を K とすると、このき裂の形状はパラ メータベクトルq = (q,., qk)で表わされる。 本研究の逆問題解析はコイルを周波数の で励磁を行うことによって得られる2次元測定イメージ {AZ4 1.01...とパラメータベクトルqに対応する仮想磁 気イメージ{17.11 (9)} .1... のイメージ間距離Error[oql = ZAZ (4) - AZAW-6131m3D1の最適化問題として扱う。応力腐食割れを付与した試験体(SUS316)の渦電流探傷 試験による測定データと、階層型導電率モデルを用い て構築したシミュレータによるモデル出力を利用し、 き裂形状の推定を行った。欠陥推定の目標精度を、x, 方向の長さに対しては+20% 、 x, 方向の深さに対して は±1mm 以内の誤差とした。測定データから推定され13mend540mm20mmX1.5mm2.5min2.5mm131| TanantalanfanfaultuntanThomentenetE 40 mm\220mm2011.20mm1.5mm2.72mm2.5m?n2.50mm(a) True shape(b) Estimated shape Fig. 2 True and estimated shape た結果を Fig.2 に示す。5.結言本研究では、渦電流探傷試験における検査のシミュ レータの開発を行い、その際、き裂のモデルとして階 層型導電率モデルを適用した。 - 階層型導電率モデルを使用した順解析結果を利用し、 逆問題解析により、き裂形状の推定を行い、目標精度 を達成した。「謝辞本論文は「革新的実用原子力技術開発提案公募事業 ((財)エネルギー総合工業研究所)として実施された 技術開発の一部である。また実験データの提供をいた だいた日立製作所電力電機開発研究所の西水亮、小池 正浩、松井哲也氏に深甚の謝意を表する。参考文献(1)小島史男、河合信弘、“境界要素・有限要素併用法を用いた渦電流探傷法による自然き裂の同定手法”、境界要素法論文集、Vol.21、2004、pp.13-18. [2] 坪井始、内藤督、“数値電磁解析法の基礎”、養賢堂、 1995、 pp.57-61.“ “渦電流探傷法における階層型自然き裂モデルによるき裂診断解析法“ “小島 史男,Fumio KOJIMA,池田 拓也,Takuya IKEDA
近年、原子力発電プラントの高経年化に伴い、各種 構造物の検査・診断が不可欠となっている。しかし、 シュラウドの特に溶接部分に応力腐食割れ(Stress Corrosion Crack; SCC)等の自然き裂が発見された事例 が多数報告され、その検査・補修が早急の課題となっ ている。シュラウド等、金属構造物の表面・表層欠陥 の検査技術としては電磁現象を利用した非破壊検査技 術である渦電流探傷試験(Eddy Current Testing;ECT)が ある。その検査データから逆問題解析による欠陥推定 には渦電流探傷シミュレータによる支援が有効であり、 これまでこれを利用した原子炉のき裂形状推定の逆解 析の研究が行われてきた[1]。しかし、これを用いてき 裂形状の同定を行うにはその前準備としてき裂の正確 なモデリングを行うことが必要不可欠である。そこで、 本研究では、応力腐食割れ等の自然き裂に関する階層 的導電率モデルによるシミュレータを構築し、き裂形 状の推定を行う。
2. ECT 検査モデルの記述- ECT は、励磁コイルに交流電流を流すことで、磁場 が発生し、その磁場が導体に作用し導体に渦電流が流 れる。導体表面にき裂があると渦電流に変化が生じ、 それによって起こる受信コイルの誘起電圧の変化をと連絡先:小島史男、〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台 町 1-1 、神戸大学大学院自然科学研究科、電話: 078-803-6493、e-mail:kojima@cs.kobe-u.ac.jpらえることにより、き裂の特徴を得る。マクスウェル の方程式に磁気ベクトルポテンシャルA および、電気 スカラーポテンシャルのを導入することで渦電流問題 の支配方程式は次のように記述できる[2]。 - Lv-A + joo(A + ) =0_in_v_ (1)joo(A + VI) =0_in_v_ (2)- Lv-A = J in R-V (3)Hoここで、ム。は真空の透磁率、のは励磁コイルの交流 電流の角周波数、中は電気スカラーポテンシャル中の 時間積分である。試験体に発生したき裂はその導電率 o の変化によって表される。 11式(1)-(3)の支配方程式は有限要素・境界要素併用法 により以下のような有限次元の線形システムで記述できる。A) SF,J,([P] + jo[Q](on) +>く・ き裂の形状は、対応する要素の導電率を変化させた導 電率ベクトル on = {g““ } によって表される。ただしM は導体の有限要素の分割数である。 * 励磁コイルの強制電流 J.に対応する受信コイルの誘 起電圧は、補間マトリクス[C] によって以下の式で近 似できる。-43.自然き裂のモデリング自然き裂は、Fig.1(a)のように表面部分が完全に破断 しているが、き裂が深くなっていくにしたがってき裂 幅が狭くなっていき、さらに深いところでは一部接触 する個所があり、そこでは通電していると考えられる。 以上を考慮して、き裂部分の要素にも導電率を与え, 深さ方向に導電率を変化させる自然き裂に関する階層 型導電率モデルを用いる(Fig.1(b))。san..(a) Photograph of SCC(b) Deep-lying conductivitiesFig. 1Modeling of SCC4. 逆解析によるき裂形状推定* 自然き裂は材料表面で多数の枝分かれを繰り返して おり、幾何学的に特徴を捉えるのは困難とされている。 そこで、自然き裂を短形き裂の集合として扱う。個々 のき裂の状態を Fig.2 において x, 方向の位置、x, 方向 のき裂の下端の位置、長さ、深さの4つのパラメータ 列q = (q', q', q0,q) で表現する。き裂を表わしている 短形き裂の個数を K とすると、このき裂の形状はパラ メータベクトルq = (q,., qk)で表わされる。 本研究の逆問題解析はコイルを周波数の で励磁を行うことによって得られる2次元測定イメージ {AZ4 1.01...とパラメータベクトルqに対応する仮想磁 気イメージ{17.11 (9)} .1... のイメージ間距離Error[oql = ZAZ (4) - AZAW-6131m3D1の最適化問題として扱う。応力腐食割れを付与した試験体(SUS316)の渦電流探傷 試験による測定データと、階層型導電率モデルを用い て構築したシミュレータによるモデル出力を利用し、 き裂形状の推定を行った。欠陥推定の目標精度を、x, 方向の長さに対しては+20% 、 x, 方向の深さに対して は±1mm 以内の誤差とした。測定データから推定され13mend540mm20mmX1.5mm2.5min2.5mm131| TanantalanfanfaultuntanThomentenetE 40 mm\220mm2011.20mm1.5mm2.72mm2.5m?n2.50mm(a) True shape(b) Estimated shape Fig. 2 True and estimated shape た結果を Fig.2 に示す。5.結言本研究では、渦電流探傷試験における検査のシミュ レータの開発を行い、その際、き裂のモデルとして階 層型導電率モデルを適用した。 - 階層型導電率モデルを使用した順解析結果を利用し、 逆問題解析により、き裂形状の推定を行い、目標精度 を達成した。「謝辞本論文は「革新的実用原子力技術開発提案公募事業 ((財)エネルギー総合工業研究所)として実施された 技術開発の一部である。また実験データの提供をいた だいた日立製作所電力電機開発研究所の西水亮、小池 正浩、松井哲也氏に深甚の謝意を表する。参考文献(1)小島史男、河合信弘、“境界要素・有限要素併用法を用いた渦電流探傷法による自然き裂の同定手法”、境界要素法論文集、Vol.21、2004、pp.13-18. [2] 坪井始、内藤督、“数値電磁解析法の基礎”、養賢堂、 1995、 pp.57-61.“ “渦電流探傷法における階層型自然き裂モデルによるき裂診断解析法“ “小島 史男,Fumio KOJIMA,池田 拓也,Takuya IKEDA