保守管理へのリスク情報活用に関する検討
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カテゴリ: 第2回
1.緒言
米国をはじめ、諸外国では原子力プラントの保守管 理にリスク情報を積極的に活用しており、保守費の低 減、プラント稼働率の向上などに大きく貢献している。 - 一方国内では諸外国に比べ遅れをとっており、原子 力安全・保安院の審議会・研究会等でリスク情報の活 用の推奨と、活用に向けての検討がされているものの、 本格的な実用化には至っていない。 - 国内でのリスク情報活用の実用化に向けて、本研究 ではリスク情報を活用可能な保守管理活動を網羅的に 抽出し、国内適用の場合の導入メリット、実現性を考 慮した上で優先的に取り組むべき活用項目を選択する 体系的な評価手法を確立し、その評価を実施した。 * 尚、本研究での“リスク情報の定義は PSA に限ら ず、“不確定性を含む利益と不利益を評価する指標”、 つまり一般的にリスクと呼ばれる情報を全て含めるも のとした。
2. 体系的な評価手法の検討 2.1 保守管理活動の精査と体系化(ステップ1)保全管理全体の大きな流れの中で一貫してリスク情 報を活用するのが困難な場合においても、保全要素レ ベルまで分解することにより、たとえ一部であっても 活用可能な断面があることが考えられる。また、その ような活用可能な部分を明らかにすることにより、全 体的な応用につなげる一助となることも考えられる。 この調査では、以上のような観点から、保守管理全体 ではなく、個々の保守管理要素毎にリスク情報活用方 法を検討する方法を採用した。そのための第1ステッ プとして、本節では保守管理そのものを詳細に精査し、 個々の保守管理要素(保全要素)にブレイクダウンす る作業を行う。保守管理の分析は、まず、米国 NEI が推奨する原子 力発電所の業務プロセスのモデル Standard Nuclear Performance Model(SNPM)を参考に、個々の保守管 理要素を下記の5つのカテゴリに分類することとした。 尚、この5つのカテゴリは、SNPM の8つのプロセス から保守管理に特に関連のあるカテゴリを抽出したも のである。Fig.4 に本調査で導出した保守管理活動のプ ロセスモデルを示す。 1. 次に、IAEA、NRC、NEI 等から発行されている公開 文献を参考に、保守管理に関する要素を網羅的に拾い 集め、保守管理を75の保全要素にブレイクダウンし、 上記で設定したカテゴリに分類した。
A:機器信頼性 (Equipment Reliability) * 広範囲に渡る機器信頼性の様々な活動に含まれる 保全要素をまとめた項目。この項目には、機器の重 要度の評価、長期的機器健全性計画の策定・実施、 機器の性能と状態の監視等が含まれる。尚、項目名 称で機器としているが、その集合である系統・プラ ント全体の信頼性に係わる要素も、当項目に含む。 B:保全作業管理 (Work Management)発電所内の作業において、プラントの安全性・効 率性を向上するために重要な要素をまとめた項目。 この項目には、適切な作業の計画・実施、作業に係 わるリスクの管理、作業のプラントへの影響の認識、 作業員・資材の利用効率の最適化等が含まれる。 C:設備運用管理(構成変更管理)(ConfigurationManagement) 経営者・規制の要求を満たすように設備運用(運 転構成、設計構成、基本設計)を管理するための保 全要素をまとめた項目。この項目には、プラントの 安全・効率性改善のための変更、変更のための効果的な実行方法などが含まれる。 _D:調達管理(Materials & Services)プラントで使用する消耗品・予備品の調達、保管、 及びプラント従事者を管理するための保全要素をま とめた項目。 E:訓練管理 (Training)プラントの安全性、効率性向上を目的として、従 事者に対する訓練の必要性の分析、訓練方法の策定、 訓練の実施・評価を管理するための保全要素をまと めた項目。2.2 リスク情報活用可否の評価 (ステップ2)ステップ2では、保守管理の分析でくまなく抽出し た保全要素に対し、リスク情報の活用可能性を1要素 ずつ検討した。検討作業は以下の手順で実施した。1 「リスク情報の活用パターン」を整理・分類する。(分類結果は Table.1 参照) 保全要素毎に対し、1項の「リスク情報活用パターン」のいずれが適用可能であるか検討する。 3 1つでも「リスク情報活用パターン」を適用可能と判断された保全要素を、リスク情報活用が 可能な保全要素として選定する。a-1用。2019/06/02b-3Table.1 リスク情報活用パターンの分類結果 | リスク情報活用パター | 記| リスク情報活用 |対象の分類」 CDF※や LERF※値その | PSA評価の活用 ものの評価の活用。が可能な項目 CDF や LERF の変化量 (その1) a-2 を評価し、保全計画を (CDF/LERF 見直す活用。等米国で保守管 保全を具体化する際に理に活用されて PSA モデルから評価さ おり、国内でもモれる重要度分類を活用 デル化・実評価 a-3し、全体計画にリスク情 等が進められて 報からの重み付けを取 いるPSA評価技 り入れる活用。術) 自動トリップ確率等の値| PSA評価の活用 そのものの評価を活が可能な項目(その2) 自動トリップ確率等の変(CDFやLERF 化量を評価し、保全計への感度の低い 画を見直す活用。非安全系等に対 保全を具体化する際にして、別の指標 PSA モデルから評価さ(例えば自動トリ れる重要度分類を活用ップ確率のような し、全体計画にリスク情もの)で PSA 評 報からの重み付けを取価する技術) り入れる活用。 統計学的な手法(故障 確率や進展評価等)に 基づき、保全計画を適 正化させる活用。 経済的に評価した「事故 や故障の影響度」と、そ の「発生確率」から「経 済性リスク」を評価し、 その指標を基に保全計 | PSA評価以外の 画を適正化させる活「△ 「リスク情報の活用が可能な項目 「事故や故障時に想定 される労働災害や放射 線被ばく」と、その「発生確率」から「ハザードリ c-3スク(災害発生のリス ク)」を評価し、その指標 を基に保全計画を適正 | 化させる活用。| リスク情報を活^ | 用できない項目 | ※CDF(Core Damage Frequency): 炉心損傷頻度 ※LERF(Large Early Relief Frequency) : 早期大規模放出頻度c-2用。952.3 リスク情報活用の実用化優先度評価 (ステップ3)ステップ 3では、約 47 項目のリスク情報活用可能な 保全要素から実機への適用を優先的に検討すべき項目 を絞り込むことを目的とし、実機適用への優先度評価 を実施した。本調査での優先度は、リスク情報活用による「メリ ット」並びにその「実現性」のそれぞれの大きさから、 Fig.3 の評価マトリックスに基づき評価した。ここで、 原子力産業特有の事情として、「メリット」では「保全 適正化メリット」の他に「対外説明のメリット」を、 「実現性」では「技術面」だけではなく「規制面」の 考慮が不可欠であるため、「メリット」、「実現性」をそ れぞれ Fig.1. Fig.2 のサブマトリックスで評価する2段 階評価方式を採用した。尚、優先度評価の方法としては、このようなマトリ ックス方式の他に、各要素の点数を加算する方法など もあるが、「メリット」、「実現性」ともに主観的な判断 をする部分が多いため、ここでは、 1. 定性的に評価が可能 1. 要素毎に評価に対して重み付けが比較的容易 という理由から、このマトリックス方式が最適と判断 して採用した。以下に優先度評価方法の詳細を纏める。2.3.1 メリット面での実用化優先度評価保守管理へリスク情報を活用した際のメリットに応 じて実機適用への優先度評価を実施した。実機適用メ リットには、1保全適正化によるメリット、2対外説 明性でのメリットの2項目を考慮した。これら2項目 について、実機適用のメリットを大・中・小の3段階 でそれぞれ評価し、この評価結果から Fig 1 の評価マト リックスに従って両項目を考慮したメリット面での優 先度をa~dの4段階で評価した。の保全適正化| 大|中|小|c_d【保全適正化】 大:保全の適正化が期待できる中:保全の適正化が期待できるが、 中|c|c|b| 現状の評価技術と比較して有意なメリットは小さい 小:保全適正化に有効でない【対外説明】 小|中|大|大:対外説明時に必要 中:対外説明に利用可能 小:対外説明には関係無い小d |c|b_Fig.1 メリット面での優先度評価 マトリックス2.3.2 実現性での実用化優先度評価保守管理へのリスク情報活用の実機適用の実現性に 応じて優先度評価を行った。実現性評価では、1規制 面での実現性と、2技術面での実現性の 2 項目を考慮 した。これら2項目について、実機適用の実現性を大・ 中・小の3段階でそれぞれ評価し、この評価結果から Fig.2 の評価マトリックスに従って両項目を考慮した 実現性での優先度をa~dの4段階で評価した。の規制面 大 |中|小| d_d_d|【規制面】 大:現行の規制で対応可能、または実現化のための規制変更が容易 中:実現化のための規制変更は困難 小:実現化のための規制変更は現実的ではない」 d|d|d| 【技術面】大:評価技術/ツールは既存である、または 小|中★開発が容易である 2技術面] 中:評価技術/ツールの開発難度が高い小:評価技術/ツールの開発は現実的でないFig.2 実現性での優先度評価マトリックス2.3.3 総合の実用化優先度評価リスク情報活用のメリット面並びに実現性の評価結 果(それぞれランクa~dの4段階評価)から総合優 先度を評価した。総合優先度は、適用のメリットと適用の実現性の組 合せに応じて決定し、「ランクA」(メリット「ランク as: 実現性「ランクa」)から「ランクE」(メリット 「ランク d」 : 実現性「ランクd」)までの5段階で評 価した。メリット面、実現性の組合せと総合優先度の 関係を示したマトリックスを Fig.3 に示す。 ・ メリットが大きいリスク情報活用方法は、例え実現 性が低くても開発ニーズが高い。一方で、実現性が高 くてもメリットが皆無であるリスク情報活用方法は開 発ニーズが低い。そのため、総合優先度の評価マトリ ックスは対角線に対して非対称とし、実現性よりもメ リット面を重視する評価とした。のメリット面A:メリットが大きく、現状直ちに実現可能であるため、早期の D D C B 試評価&実用化が望ましい。B:早期の活用方法・評価技術の CE EDC 開発が望ましい。C:活用方法・評価技術の開発が d E EEE 望ましい。D:活用方法・評価技術を検討し、 d|c|bla1 実現性を再評価する。 E:検討による成果の見込みは小さい。 Fig.3 総合面での優先度評価マトリックス3. 評価結果保守管理を体系的に分析・整理し、国内原子力発電 所においてリスク情報を活用可能な保守管理活動を全 て抽出し、リスク情報の活用メリット、活用の実現性 を考慮して、実機導入を検討する優先度評価を実施し た。2.2項のリスク情報活用可否の評価の結果、リスク情 報活用可能な要素は 47 項目あり、とりわけ安全性、信 頼性を管理する“A 機器信頼性”“C設備運用管理”の カテゴリで多く挙げられた。一方、“B保全作業管理” 等では、リスク評価が不可能または困難であるもの、 技術評価や経験による判断が支配的であるものを含む ため、リスク活用対象項目は少なかった。また、具体 的な活用項目に関しては、リスク情報活用項目の抽出 のための網羅的かつ体系的な評価を行った結果、「機器 の重要度分類」、「OLM」など従来から検討が進められ ている項目の他に、「パフォーマンス目標の設定」や「作 業員安全管理」など、これまであまり検討が行われて こなかったリスク活用項目を挙げることができた。2.3 項の優先度評価では、現状の保全負荷が多く保全 適正化によるメリットが期待でき、技術面でも評価手 法が整備されている点から、CDF・LERFの評価 対象である安全関連系統・機器の保全適正化に係わる 活用項目を優先度が高い項目として評価した。一方、 非安全系統・機器(CDF・LERF対象外)につい ては、新たに定量的なリスク指標の開発が必要である ため、技術面の実現性が低いと判断して優先度を低く 評価した。また、保全項目の削減に関わる項目につい ても、規制面の課題が多く高く実現性が低いと判断し て優先度を低く評価した。優先度A及びBと評価したリスク情報活用対象を以 下に示す。【優先度A】プラントの安全性・信頼性目標の設定(CDF、 LERF) 系統のパフォーマンス目標の設定 ・ 装置・機器のパフォーマンス目標の設定 ・ 保全実績のフィードバック (目標達成の確認) 1. ISIの検査対象範囲・頻度の適正化設備・構成(Configuration)変更の妥当性評価【優先度B】 ・ プラントの安全性・信頼性目標の設定(自動トリップ確率) ・ 保全対象系統の選定 保全対象装置・機器の選定 保全方式の選定 運転中保守(OLM)の採用サーベランス検査の適正化 ・ 保全実績のフィードバック(故障率の更新)トラブル重大度評価経済性を考慮した保全計画 ・ 原子炉安全リスクを加味した定検スケジュール策定 ・ 作業員の安全管理 ・ 設定要求事項(AOT、STIなど)の変更 ? Backfitの要否判断4.結言保全管理活動を保全要素に分解し、PSAも活用パ ターンに分類し、それぞれを相互に組み合わせ得られ るケースを検討し、さらに多面的に優先度評価を行う ための体系的手法を構築できた。今後、国内原子力発 電所の保守に対するリスク情報活用の本格運用に向け て、今後は活用優先度の高いリスク情報活用項目から 実機適用へ向けた検討作業を行うこととなるが、とり わけ優先度 A の項目は、活用メリット並びに実現性が 高い項目であるため、早期導入に向けた検討作業、試 評価、並びに、必要であればツール開発を実施するこ とが望まれる。また、優先度 B の項目は、活用メリッ トが高いものの、規制や技術面で比較的課題が多い項 一目であるため、近い将来の導入に向けて、現段階から 規制対応や技術開発を着実に進めていくことが望まれ る。参考文献 [1]Nuclear Asset Management Overview, Marc Goettel (NEI), ANS Summer Meeting, 2003 [2]IAEA-TECDOC-928 Good practices for cost effective maintenance of nuclear power plant, IAEA, 1997 [3]IAEA-TECDOC-1138 Advance in safety related maintenance, IAEA, 2001 [4]プラントシステム保全における信頼性と経済性の最 適化に向けた技術的方策に関する研究, 千種直樹, 200497PM(予防保全)の実施保全結果の定量化化・老朽化出事項の整理と対抗の実ライフサイクルマネジメント怪済性を考慮した保全計画 コ原 因の切済方法選定NP6HEWトラブル運転に続可否の判断」 是正措置の優先度付け コーリスク情報活用可否評価PSA評価活用可 PSA以外のリスク情報活用可 リスク情報活用不可:トラブル!大度評価機界故の原因究明 是正措置足正直の定に転中保守の用機能・性能の監視と向は監パラメータの定ANGERNET LTD機能性能目標を考慮した保全計画ISIの最適化(RJ-151)Hサーベイランス査の適正化分解点検頻度の適正化消耗品取替時期の決定。 保全対象設備の管理基準の決定■| パフォーマンス管理プラントの安全性・信所性目標の設定[秋のバフォーマンス目標の設定 医置・種別のパフォーマンス目標の設定 構成部品のパフォーマンス目標の設定。GATーTCGTHETaEGHE...1049484年)モードの抽出継続的な機器信頼性向上保全実のフィードバック (故事データのアップデート)研究知見のフィードバック抜き取り検査方式の採用|状態監視保全の採用保全方式の選定専門家知見を反映した保全計画A:機器信頼性機器の重要度分類 重要な機能の特定保全対象系統の選定 保全対象装重・種別の選定 民全対象構成部品の選定Fig4 保守管理活動のプロセスモデル (リスク情報活用可否評価結果含む)|ヒューマンエラーの低 保全作業要領の決定情報管理システム変更の要否判断」 変更が必要な項目の整理 バックフィットの要否判断設備・運用構成の変更設計要求事項の変更TEGOCHI「整憧・運用構成の変更の実施| (プラント運転)]B:作業管理 「計画とスケジューリングM1H16作「作業員安全性 合理的な定後短航坂の球入 原子炉安全リスクを加味した定技スケジュール玩定 放射線管理....H10H-XOND O1224は.30許目出国語保全作業の実施TTideo 理由6時衣FTHEIGENTHANGRY|C:設備運用管理 「設備・運用構成変更のニーズ・目標西川模内容の作成・改善アトレーニングの要否判断 E:訓練管理 体系化した訓練プロセス 作業員に委求される能力の整理““ 多能工化など)......おD:調達管理ローテーションパーツの活用 [アウトソーシングル会社の定予備品の維持“ “保守管理へのリスク情報活用に関する検討“ “佐藤 寿彦,Toshihiko SATO,坂田 薫,Kaoru SAKATA,千種 直樹,Naoki CHIGUSA,成宮 祥介,Yoshiyuki NARUMIYA
米国をはじめ、諸外国では原子力プラントの保守管 理にリスク情報を積極的に活用しており、保守費の低 減、プラント稼働率の向上などに大きく貢献している。 - 一方国内では諸外国に比べ遅れをとっており、原子 力安全・保安院の審議会・研究会等でリスク情報の活 用の推奨と、活用に向けての検討がされているものの、 本格的な実用化には至っていない。 - 国内でのリスク情報活用の実用化に向けて、本研究 ではリスク情報を活用可能な保守管理活動を網羅的に 抽出し、国内適用の場合の導入メリット、実現性を考 慮した上で優先的に取り組むべき活用項目を選択する 体系的な評価手法を確立し、その評価を実施した。 * 尚、本研究での“リスク情報の定義は PSA に限ら ず、“不確定性を含む利益と不利益を評価する指標”、 つまり一般的にリスクと呼ばれる情報を全て含めるも のとした。
2. 体系的な評価手法の検討 2.1 保守管理活動の精査と体系化(ステップ1)保全管理全体の大きな流れの中で一貫してリスク情 報を活用するのが困難な場合においても、保全要素レ ベルまで分解することにより、たとえ一部であっても 活用可能な断面があることが考えられる。また、その ような活用可能な部分を明らかにすることにより、全 体的な応用につなげる一助となることも考えられる。 この調査では、以上のような観点から、保守管理全体 ではなく、個々の保守管理要素毎にリスク情報活用方 法を検討する方法を採用した。そのための第1ステッ プとして、本節では保守管理そのものを詳細に精査し、 個々の保守管理要素(保全要素)にブレイクダウンす る作業を行う。保守管理の分析は、まず、米国 NEI が推奨する原子 力発電所の業務プロセスのモデル Standard Nuclear Performance Model(SNPM)を参考に、個々の保守管 理要素を下記の5つのカテゴリに分類することとした。 尚、この5つのカテゴリは、SNPM の8つのプロセス から保守管理に特に関連のあるカテゴリを抽出したも のである。Fig.4 に本調査で導出した保守管理活動のプ ロセスモデルを示す。 1. 次に、IAEA、NRC、NEI 等から発行されている公開 文献を参考に、保守管理に関する要素を網羅的に拾い 集め、保守管理を75の保全要素にブレイクダウンし、 上記で設定したカテゴリに分類した。
A:機器信頼性 (Equipment Reliability) * 広範囲に渡る機器信頼性の様々な活動に含まれる 保全要素をまとめた項目。この項目には、機器の重 要度の評価、長期的機器健全性計画の策定・実施、 機器の性能と状態の監視等が含まれる。尚、項目名 称で機器としているが、その集合である系統・プラ ント全体の信頼性に係わる要素も、当項目に含む。 B:保全作業管理 (Work Management)発電所内の作業において、プラントの安全性・効 率性を向上するために重要な要素をまとめた項目。 この項目には、適切な作業の計画・実施、作業に係 わるリスクの管理、作業のプラントへの影響の認識、 作業員・資材の利用効率の最適化等が含まれる。 C:設備運用管理(構成変更管理)(ConfigurationManagement) 経営者・規制の要求を満たすように設備運用(運 転構成、設計構成、基本設計)を管理するための保 全要素をまとめた項目。この項目には、プラントの 安全・効率性改善のための変更、変更のための効果的な実行方法などが含まれる。 _D:調達管理(Materials & Services)プラントで使用する消耗品・予備品の調達、保管、 及びプラント従事者を管理するための保全要素をま とめた項目。 E:訓練管理 (Training)プラントの安全性、効率性向上を目的として、従 事者に対する訓練の必要性の分析、訓練方法の策定、 訓練の実施・評価を管理するための保全要素をまと めた項目。2.2 リスク情報活用可否の評価 (ステップ2)ステップ2では、保守管理の分析でくまなく抽出し た保全要素に対し、リスク情報の活用可能性を1要素 ずつ検討した。検討作業は以下の手順で実施した。1 「リスク情報の活用パターン」を整理・分類する。(分類結果は Table.1 参照) 保全要素毎に対し、1項の「リスク情報活用パターン」のいずれが適用可能であるか検討する。 3 1つでも「リスク情報活用パターン」を適用可能と判断された保全要素を、リスク情報活用が 可能な保全要素として選定する。a-1用。2019/06/02b-3Table.1 リスク情報活用パターンの分類結果 | リスク情報活用パター | 記| リスク情報活用 |対象の分類」 CDF※や LERF※値その | PSA評価の活用 ものの評価の活用。が可能な項目 CDF や LERF の変化量 (その1) a-2 を評価し、保全計画を (CDF/LERF 見直す活用。等米国で保守管 保全を具体化する際に理に活用されて PSA モデルから評価さ おり、国内でもモれる重要度分類を活用 デル化・実評価 a-3し、全体計画にリスク情 等が進められて 報からの重み付けを取 いるPSA評価技 り入れる活用。術) 自動トリップ確率等の値| PSA評価の活用 そのものの評価を活が可能な項目(その2) 自動トリップ確率等の変(CDFやLERF 化量を評価し、保全計への感度の低い 画を見直す活用。非安全系等に対 保全を具体化する際にして、別の指標 PSA モデルから評価さ(例えば自動トリ れる重要度分類を活用ップ確率のような し、全体計画にリスク情もの)で PSA 評 報からの重み付けを取価する技術) り入れる活用。 統計学的な手法(故障 確率や進展評価等)に 基づき、保全計画を適 正化させる活用。 経済的に評価した「事故 や故障の影響度」と、そ の「発生確率」から「経 済性リスク」を評価し、 その指標を基に保全計 | PSA評価以外の 画を適正化させる活「△ 「リスク情報の活用が可能な項目 「事故や故障時に想定 される労働災害や放射 線被ばく」と、その「発生確率」から「ハザードリ c-3スク(災害発生のリス ク)」を評価し、その指標 を基に保全計画を適正 | 化させる活用。| リスク情報を活^ | 用できない項目 | ※CDF(Core Damage Frequency): 炉心損傷頻度 ※LERF(Large Early Relief Frequency) : 早期大規模放出頻度c-2用。952.3 リスク情報活用の実用化優先度評価 (ステップ3)ステップ 3では、約 47 項目のリスク情報活用可能な 保全要素から実機への適用を優先的に検討すべき項目 を絞り込むことを目的とし、実機適用への優先度評価 を実施した。本調査での優先度は、リスク情報活用による「メリ ット」並びにその「実現性」のそれぞれの大きさから、 Fig.3 の評価マトリックスに基づき評価した。ここで、 原子力産業特有の事情として、「メリット」では「保全 適正化メリット」の他に「対外説明のメリット」を、 「実現性」では「技術面」だけではなく「規制面」の 考慮が不可欠であるため、「メリット」、「実現性」をそ れぞれ Fig.1. Fig.2 のサブマトリックスで評価する2段 階評価方式を採用した。尚、優先度評価の方法としては、このようなマトリ ックス方式の他に、各要素の点数を加算する方法など もあるが、「メリット」、「実現性」ともに主観的な判断 をする部分が多いため、ここでは、 1. 定性的に評価が可能 1. 要素毎に評価に対して重み付けが比較的容易 という理由から、このマトリックス方式が最適と判断 して採用した。以下に優先度評価方法の詳細を纏める。2.3.1 メリット面での実用化優先度評価保守管理へリスク情報を活用した際のメリットに応 じて実機適用への優先度評価を実施した。実機適用メ リットには、1保全適正化によるメリット、2対外説 明性でのメリットの2項目を考慮した。これら2項目 について、実機適用のメリットを大・中・小の3段階 でそれぞれ評価し、この評価結果から Fig 1 の評価マト リックスに従って両項目を考慮したメリット面での優 先度をa~dの4段階で評価した。の保全適正化| 大|中|小|c_d【保全適正化】 大:保全の適正化が期待できる中:保全の適正化が期待できるが、 中|c|c|b| 現状の評価技術と比較して有意なメリットは小さい 小:保全適正化に有効でない【対外説明】 小|中|大|大:対外説明時に必要 中:対外説明に利用可能 小:対外説明には関係無い小d |c|b_Fig.1 メリット面での優先度評価 マトリックス2.3.2 実現性での実用化優先度評価保守管理へのリスク情報活用の実機適用の実現性に 応じて優先度評価を行った。実現性評価では、1規制 面での実現性と、2技術面での実現性の 2 項目を考慮 した。これら2項目について、実機適用の実現性を大・ 中・小の3段階でそれぞれ評価し、この評価結果から Fig.2 の評価マトリックスに従って両項目を考慮した 実現性での優先度をa~dの4段階で評価した。の規制面 大 |中|小| d_d_d|【規制面】 大:現行の規制で対応可能、または実現化のための規制変更が容易 中:実現化のための規制変更は困難 小:実現化のための規制変更は現実的ではない」 d|d|d| 【技術面】大:評価技術/ツールは既存である、または 小|中★開発が容易である 2技術面] 中:評価技術/ツールの開発難度が高い小:評価技術/ツールの開発は現実的でないFig.2 実現性での優先度評価マトリックス2.3.3 総合の実用化優先度評価リスク情報活用のメリット面並びに実現性の評価結 果(それぞれランクa~dの4段階評価)から総合優 先度を評価した。総合優先度は、適用のメリットと適用の実現性の組 合せに応じて決定し、「ランクA」(メリット「ランク as: 実現性「ランクa」)から「ランクE」(メリット 「ランク d」 : 実現性「ランクd」)までの5段階で評 価した。メリット面、実現性の組合せと総合優先度の 関係を示したマトリックスを Fig.3 に示す。 ・ メリットが大きいリスク情報活用方法は、例え実現 性が低くても開発ニーズが高い。一方で、実現性が高 くてもメリットが皆無であるリスク情報活用方法は開 発ニーズが低い。そのため、総合優先度の評価マトリ ックスは対角線に対して非対称とし、実現性よりもメ リット面を重視する評価とした。のメリット面A:メリットが大きく、現状直ちに実現可能であるため、早期の D D C B 試評価&実用化が望ましい。B:早期の活用方法・評価技術の CE EDC 開発が望ましい。C:活用方法・評価技術の開発が d E EEE 望ましい。D:活用方法・評価技術を検討し、 d|c|bla1 実現性を再評価する。 E:検討による成果の見込みは小さい。 Fig.3 総合面での優先度評価マトリックス3. 評価結果保守管理を体系的に分析・整理し、国内原子力発電 所においてリスク情報を活用可能な保守管理活動を全 て抽出し、リスク情報の活用メリット、活用の実現性 を考慮して、実機導入を検討する優先度評価を実施し た。2.2項のリスク情報活用可否の評価の結果、リスク情 報活用可能な要素は 47 項目あり、とりわけ安全性、信 頼性を管理する“A 機器信頼性”“C設備運用管理”の カテゴリで多く挙げられた。一方、“B保全作業管理” 等では、リスク評価が不可能または困難であるもの、 技術評価や経験による判断が支配的であるものを含む ため、リスク活用対象項目は少なかった。また、具体 的な活用項目に関しては、リスク情報活用項目の抽出 のための網羅的かつ体系的な評価を行った結果、「機器 の重要度分類」、「OLM」など従来から検討が進められ ている項目の他に、「パフォーマンス目標の設定」や「作 業員安全管理」など、これまであまり検討が行われて こなかったリスク活用項目を挙げることができた。2.3 項の優先度評価では、現状の保全負荷が多く保全 適正化によるメリットが期待でき、技術面でも評価手 法が整備されている点から、CDF・LERFの評価 対象である安全関連系統・機器の保全適正化に係わる 活用項目を優先度が高い項目として評価した。一方、 非安全系統・機器(CDF・LERF対象外)につい ては、新たに定量的なリスク指標の開発が必要である ため、技術面の実現性が低いと判断して優先度を低く 評価した。また、保全項目の削減に関わる項目につい ても、規制面の課題が多く高く実現性が低いと判断し て優先度を低く評価した。優先度A及びBと評価したリスク情報活用対象を以 下に示す。【優先度A】プラントの安全性・信頼性目標の設定(CDF、 LERF) 系統のパフォーマンス目標の設定 ・ 装置・機器のパフォーマンス目標の設定 ・ 保全実績のフィードバック (目標達成の確認) 1. ISIの検査対象範囲・頻度の適正化設備・構成(Configuration)変更の妥当性評価【優先度B】 ・ プラントの安全性・信頼性目標の設定(自動トリップ確率) ・ 保全対象系統の選定 保全対象装置・機器の選定 保全方式の選定 運転中保守(OLM)の採用サーベランス検査の適正化 ・ 保全実績のフィードバック(故障率の更新)トラブル重大度評価経済性を考慮した保全計画 ・ 原子炉安全リスクを加味した定検スケジュール策定 ・ 作業員の安全管理 ・ 設定要求事項(AOT、STIなど)の変更 ? Backfitの要否判断4.結言保全管理活動を保全要素に分解し、PSAも活用パ ターンに分類し、それぞれを相互に組み合わせ得られ るケースを検討し、さらに多面的に優先度評価を行う ための体系的手法を構築できた。今後、国内原子力発 電所の保守に対するリスク情報活用の本格運用に向け て、今後は活用優先度の高いリスク情報活用項目から 実機適用へ向けた検討作業を行うこととなるが、とり わけ優先度 A の項目は、活用メリット並びに実現性が 高い項目であるため、早期導入に向けた検討作業、試 評価、並びに、必要であればツール開発を実施するこ とが望まれる。また、優先度 B の項目は、活用メリッ トが高いものの、規制や技術面で比較的課題が多い項 一目であるため、近い将来の導入に向けて、現段階から 規制対応や技術開発を着実に進めていくことが望まれ る。参考文献 [1]Nuclear Asset Management Overview, Marc Goettel (NEI), ANS Summer Meeting, 2003 [2]IAEA-TECDOC-928 Good practices for cost effective maintenance of nuclear power plant, IAEA, 1997 [3]IAEA-TECDOC-1138 Advance in safety related maintenance, IAEA, 2001 [4]プラントシステム保全における信頼性と経済性の最 適化に向けた技術的方策に関する研究, 千種直樹, 200497PM(予防保全)の実施保全結果の定量化化・老朽化出事項の整理と対抗の実ライフサイクルマネジメント怪済性を考慮した保全計画 コ原 因の切済方法選定NP6HEWトラブル運転に続可否の判断」 是正措置の優先度付け コーリスク情報活用可否評価PSA評価活用可 PSA以外のリスク情報活用可 リスク情報活用不可:トラブル!大度評価機界故の原因究明 是正措置足正直の定に転中保守の用機能・性能の監視と向は監パラメータの定ANGERNET LTD機能性能目標を考慮した保全計画ISIの最適化(RJ-151)Hサーベイランス査の適正化分解点検頻度の適正化消耗品取替時期の決定。 保全対象設備の管理基準の決定■| パフォーマンス管理プラントの安全性・信所性目標の設定[秋のバフォーマンス目標の設定 医置・種別のパフォーマンス目標の設定 構成部品のパフォーマンス目標の設定。GATーTCGTHETaEGHE...1049484年)モードの抽出継続的な機器信頼性向上保全実のフィードバック (故事データのアップデート)研究知見のフィードバック抜き取り検査方式の採用|状態監視保全の採用保全方式の選定専門家知見を反映した保全計画A:機器信頼性機器の重要度分類 重要な機能の特定保全対象系統の選定 保全対象装重・種別の選定 民全対象構成部品の選定Fig4 保守管理活動のプロセスモデル (リスク情報活用可否評価結果含む)|ヒューマンエラーの低 保全作業要領の決定情報管理システム変更の要否判断」 変更が必要な項目の整理 バックフィットの要否判断設備・運用構成の変更設計要求事項の変更TEGOCHI「整憧・運用構成の変更の実施| (プラント運転)]B:作業管理 「計画とスケジューリングM1H16作「作業員安全性 合理的な定後短航坂の球入 原子炉安全リスクを加味した定技スケジュール玩定 放射線管理....H10H-XOND O1224は.30許目出国語保全作業の実施TTideo 理由6時衣FTHEIGENTHANGRY|C:設備運用管理 「設備・運用構成変更のニーズ・目標西川模内容の作成・改善アトレーニングの要否判断 E:訓練管理 体系化した訓練プロセス 作業員に委求される能力の整理““ 多能工化など)......おD:調達管理ローテーションパーツの活用 [アウトソーシングル会社の定予備品の維持“ “保守管理へのリスク情報活用に関する検討“ “佐藤 寿彦,Toshihiko SATO,坂田 薫,Kaoru SAKATA,千種 直樹,Naoki CHIGUSA,成宮 祥介,Yoshiyuki NARUMIYA