炉内保全用レーザピーニングシステムの高度化
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
レーザは、その非接触性と高いエネルギー密度を利用 レーザのパルス時間幅を数 ns まで短パルス化し, ピー することにより、従来は不可能と考えられていた様々な ク出力密度を数 GW/cm2まで高めて照射すると、材料の 加工に適用されている。レーザピーニング (Laser 表面に高圧のプラズマが発生する(Fig. 1)。水中では水 Peening)は、水中の構造物に短パルスのレーザを照射す の慣性でプラズマの膨張が妨げられて狭い領域にレーザ ることによって表面に残留応力を形成する技術である。 のエネルギーが集中するため、プラズマの圧力は瞬間的 前処理を必要とせずレーザを照射するだけのシンプルなに数 GPaに達する。この圧力により材料のごく表面がわ プロセスを開発し、その結果として発生する表面の圧縮 ずかに塑性変形して周囲に伸展しようとするが、材料内 残留応力は応力腐食割れ(SCC; Stress Corrosion部の未変形部分の拘束により実際には変形できないため、 Cracking)の発生と進展を抑制するため、原子炉(圧力) 材料表面に高い圧縮残留応力が形成される(1123141。 容器内機器のSCC予防保全対策として1999年より実用化 レーザピーニングの光源には、QスイッチNd:YAG レ され、これまでに BWR、PWR プラントを対象に合計 13 回 *ーザの第2高調波(波長 532nm、パルスエネルギー約 工事がおこなわれてきた。この間、レーザビーム伝送方Pulse laser 式の変更など施工システムの改良が続けられ、ファイバ レーザピーニング (FLP)方式が現在の主流となっている。
Plasma 本稿ではこれまでのシステムの概要に触れた後、最新の ピーニングプロセス、および小型の発振器内蔵型レーザMaterial ピーニング装置の開発状況について紹介する。>LensCompression
Fig.1Basic process of laser peening.112OyResidual stress (MPa)Procssing conditions Spot diameter0.4mm Pulse energy80mJ Pulse number density 7000pulse/cm)-1000-10001200600 800 Distance from surface (4m)-1200200 400 Fig.2 Residual stress depth distribution for Inconel 600. 60~250mJ、パルス幅6~10ns)のパルスレーザを用い る。典型的な条件下ではステンレス鋼、ニッケル基合金 などの材料によらず深さ1 mm程度まで圧縮応力を形成 することができる。600 系ニッケル基合金に対する応力改 善の結果の例を Fig.2 に示する。また、これまでに、発電設備技術検査協会による確性 委員会において、レーザピーニング施工により、材料に 対して悪影響がないこと、炉内構造物表面に微小な亀裂 がある部位へ施工しても、亀裂の進展させるような影響 はないことが確認されている。 また、これまでに、発電設備技術検査協会による確性Fig.3 Laser peening system concept with mirror delivery 委員会において、レーザピーニング施工により、材料にfor a BWR core shroud. 対して悪影響がないこと、炉内構造物表面に微小な亀裂納した可搬式クリーンルームと制御装置を設置し、ミラ がある部位へ施工しても、亀裂の進展させるような影響ーを内蔵した気密パイプを組み立ててレーザ伝送路とし はないことが確認されている。て使用する。レーザ発振器から施工ヘッドまでレーザビ 3. レーザピーニングシステム岡ームを約40m 伝送する必要があるため、機械的振動による影響を排除するビームトラッキングシステム、施工装 レーザピーニングでは前述のようにパルスあたりのレ置の位置変更に追従して各部ミラーを調整する自動アラ ーザエネルギーは 60ml~250ml 程度と非常に小さく、繰イメントシステムを搭載している。施工ヘッド部にはビ り返し周波数も現状で 300 パルス/秒が最高であり、照射ームを集光し2次元操作できる機構が備えられており、 中の平均パワーとしてみても 30W に満たない。しかしなある一定の範囲をレーザピーニング処理できるようにな がらひとつのパルスの時間幅は 10ns 以下であり、ピークっている。 パワーとしては 10~20MW 程度となる。ビームの伝送を空間伝送型レーザピーニングシステムは伝送可能なレ 簡便に行うには光ファイバの利用が考えられるが、炉内ーザパワーに制限が少ないため、比較的高いパルスエネ への展開を開始した当時最も太い光ファイバがコア直径ルギー条件(200~250ml/パルス)で施工するのに適して 1.5mm のものしかなく、また通常のファイバ入射方式でおり、またレーザビームの空間モードが良いため焦点裕 はファイバ内部にレーザ光が集光するため、光ファイバ度が広いという特長がある。 の追億を避けるアとが困難であった。そのため最初のレレーザピーニングでは前述のようにパルスあたりのレ ーザエネルギーは 60mJ~250mJ 程度と非常に小さく、繰 り返し周波数も現状で 300 パルス秒が最高であり、照射 中の平均パワーとしてみても 30w に満たない。しかしな がらひとつのパルスの時間幅は 10ns 以下であり、ピーク パワーとしては 10~20MW 程度となる。ビームの伝送を 簡便に行うには光ファイバの利用が考えられるが、炉内 への展開を開始した当時最も太い光ファイバがコア直径 1.5mm のものしかなく、また通常のファイバ入射方式で はファイバ内部にレーザ光が集光するため、光ファイバ の損傷を避けることが困難であった。このため最初のレ ーザピーニング工事では空間伝送方式が採用された。3.1 空間伝送型レーザピーニングシステム - 空間伝送型システムで沸騰水型原子炉(BWR; Boiling Water Reactor)シュラウド(Shroud)のレーザピーニング 施工を行ったときの装置概念を Fig.3 に示す。シュラウド の溶接熱影響部にレーザを照射して表面を圧縮応力状態 とすることにより、応力腐食割れを防ぐものである。原 子炉建屋のオペレーションフロアにレーザシステムを収3.2 ファイバ伝送型レーザピーニングシステム空間伝送型システムによる適用開始の後炉内狭隘部へ の施工要求があり、ファイバ伝送型レーザピーニングシ ステムが開発された。レーザ発振器から照射レンズまで に必要な光学素子やガイドパイプなどが不用になり、空 間伝送型システムと比較すると非常にシンプルな構成と なっている。これを実現するために、レーザビームによ るファイバの損傷を避ける目的でホモジナイザを利用し- 113 -Laser systemGuide pipeControl unitこのお店ShroudJet pumpIrradiationheadRPVFig.3た入射光学系を開発し、コア直径 2.0mm または 2.4mm の 大口径ファイバでビーム伝送している。また同様の理由 から、照射条件として低エネルギー条件(60mJ~100ml) を採用している。低エネルギー条件では照射数密度を多 くとる必要があり、処理速度を確保するためにレーザ照 射繰返し周波数を空間伝送方式の 2.5 倍速である 300Hz としている。さらに 2 系統のファイバへ同時供給できる ようにしたことから、実質的に空間伝送型の2倍以上の 処理速度が得られている。施工ヘッド部に導かれた光フ ァイバは照射レンズに接続され、このレンズを施工ヘッ ド内にある駆動機構で走査することで一定の範囲の応力 改善を行う。4. 次世代型レーザピーニング現状のシステムに対し、施工システム/工事体制の小型 化や工期短縮のための処理速度向上と複数箇所の同時施 工を目標に、次世代に向けたレーザピーニングプロセス、 システムを開発中である。4.1 レーザピーニングプロセスの改良これまでのレーザピーニングプロセスでは基本的に円 形のスポットを重ねていく方式であり、処理速度を確保 するために速い走査が必要であった。現在開発中の方式 を従来方式と比較して Fig.4 に示す。ラインフォーカス走 査プロセスは照射面でのレーザビームのエネルギー密度 を従来方式と同等としたまま、直線状にビームを照射す る方式であり、ラインを横に走査するだけで一定の幅に 対して応力改善することが可能であり、施工装置への要 求を緩和することができる。Fig.5 にラインフォーカス条 件での応力改善結果の例を示す。縦軸は処理後の表面残 留応力値であり、横軸は単位面積あたりの照射パルス数 である。照射条件はパルスあたりのエネルギーを 200mJ とした。照射スポットをライン状にすることで重ね打ち に無駄がなくなることなどの効果があり、同じレーザ出 力で照射する場合に、出力あたりの処理速度が従来比の3 ~5倍速くできることが確認されている。4.2 次世代型レーザピーニングシステムの試作 * 現在開発を進めている次世代型レーザピーニングシス テムの概念図と写真を Fig.6 に示す。施工装置本体上部に 小型の水密レーザ発振器が搭載されており、その下部に ビーム調整部、焦点調整ユニット付き導光管部、ビーム 走査機構が備えられている。このようにファイバ伝送型scanscanshifta) Circular-focus processb) Line-focus processFig.4Conceptual drawing of improved irradiation method.0xCoverage with circular-focus processResidual stress (MPa)Line-focus process・リピートピー......0 _ 10 20 30 40 50 60 701 . Pulse number density (pulse/mm2) Fig.5 Relation between surface residual stress and pulsenumber density in line focusing process. (Pulse energy =200m),Line width=0.23mm, Line length=5.6mm)レーザシステムと比較してもさらにシンプルな構成とな っている。また使用するレーザ発振器は高繰り返し型の 水密小型 YAG レーザであり、平均出力は 10W 程度であ る。施工プロセスにラインフォーカス方式を採用してお り、一台の施工装置あたりの処理速度は従来比で 2.5倍程 度の高速化が見込まれている。このような次世代型のレーザピーニングシステムでは 以下のような特長を有する。 1 発振器から施工部までの空間伝送方式とすること 1 により焦点裕度を広く取れる。 2 照射スポットの形状設定に自由度が高くラインフォーカスプロセスの採用ができる。 小規模の工事から多点同時施工による大規模工事 まで、柔軟に対応できる。 4 オペレーションフロア上に設置する各種設備の小型化が可能となる。 このような特長は特に複雑な面形状をした部位を施工 対象としたとき、例えば BWR 炉底部近傍の溶接熱影響 部を施工対象とする場合などに有利である。また、ライ ンフォーカスプロセスを採用するため、従来のファイバ114なおRemote handling uniコランWaterproof laserLine focus opticsIrradiation head 1,300mmFig.6Working prototype model of the next generation laser peening system for bottom of BWR vessel.[3] 佐野雄二, 他, 日本原子力学会誌, 42,567 (2000). [4] 佐野雄二, 他, 溶接技術,平成17年5月号 [5] 小畑稔 他, 日本材料学会第 53 期学術講演会論文集, 1 51,(2004) [6] 向井成彦, 他, レーザー研究,444,Vol.33,No7, (2005).伝送型の施工装置と比較して施工中の制御が簡便になる ことや、レンズから照射点までの距離が長く取れるため 炉内構造物との干渉を回避しやすいなど、施工時の裕度 が大きく向上する。 ・また、実際の工事を考慮すると、従来 2 系統までしか 同時施工できなかったのに対し、レーザビーム供給の制 限がなくなったことから 4 箇所同時施工も十分可能であ る。これらの結果トータル的には従来と比較して5倍程 度の処理速度が得られるため、大幅に工事期間の短縮が 可能になる。 現在装置のハードウエアとしての試作は ほぼ完了し、各種機能の確認試験を進めている。5.結言1999 年に世界ではじめてレーザピーニングによる原子 炉内構造物の応力改善工事が行われて合計13回の保全工 事が実施された。その間、空間伝送方式からファイバ伝 送方式にレーザビームの供給方式は改良されてきたが、- 115 -シスザピ照射方式は初期の頃からほとんど変化していない。シス テム的には現在 2 系統同時施工できるファイバレーザピ ーニング方式が主流となっている。本報で紹介した次世代型レーザピーニングシステムは、 照射プロセス自体の改良とレーザビーム供給方式の変更 を行っており、小型でシンプルであるにもかかわらず、 施工速度を従来以上に向上できる。今後、施工対象部位 に応じて、この次世代型レーザピーニングシステムを有 力な工法として適用していく計画である。参考文献[1][2]“ “炉内保全用レーザピーニングシステムの高度化“ “向井 成彦,Naruhiko MUKAI,上原 拓也,Takuya UEHARA,末園 暢一,Nobuichi SUEZONO,佐伯 綾一,Ryoichi SAEKI,佐野 雄二,Yuji SANO
レーザは、その非接触性と高いエネルギー密度を利用 レーザのパルス時間幅を数 ns まで短パルス化し, ピー することにより、従来は不可能と考えられていた様々な ク出力密度を数 GW/cm2まで高めて照射すると、材料の 加工に適用されている。レーザピーニング (Laser 表面に高圧のプラズマが発生する(Fig. 1)。水中では水 Peening)は、水中の構造物に短パルスのレーザを照射す の慣性でプラズマの膨張が妨げられて狭い領域にレーザ ることによって表面に残留応力を形成する技術である。 のエネルギーが集中するため、プラズマの圧力は瞬間的 前処理を必要とせずレーザを照射するだけのシンプルなに数 GPaに達する。この圧力により材料のごく表面がわ プロセスを開発し、その結果として発生する表面の圧縮 ずかに塑性変形して周囲に伸展しようとするが、材料内 残留応力は応力腐食割れ(SCC; Stress Corrosion部の未変形部分の拘束により実際には変形できないため、 Cracking)の発生と進展を抑制するため、原子炉(圧力) 材料表面に高い圧縮残留応力が形成される(1123141。 容器内機器のSCC予防保全対策として1999年より実用化 レーザピーニングの光源には、QスイッチNd:YAG レ され、これまでに BWR、PWR プラントを対象に合計 13 回 *ーザの第2高調波(波長 532nm、パルスエネルギー約 工事がおこなわれてきた。この間、レーザビーム伝送方Pulse laser 式の変更など施工システムの改良が続けられ、ファイバ レーザピーニング (FLP)方式が現在の主流となっている。
Plasma 本稿ではこれまでのシステムの概要に触れた後、最新の ピーニングプロセス、および小型の発振器内蔵型レーザMaterial ピーニング装置の開発状況について紹介する。>LensCompression
Fig.1Basic process of laser peening.112OyResidual stress (MPa)Procssing conditions Spot diameter0.4mm Pulse energy80mJ Pulse number density 7000pulse/cm)-1000-10001200600 800 Distance from surface (4m)-1200200 400 Fig.2 Residual stress depth distribution for Inconel 600. 60~250mJ、パルス幅6~10ns)のパルスレーザを用い る。典型的な条件下ではステンレス鋼、ニッケル基合金 などの材料によらず深さ1 mm程度まで圧縮応力を形成 することができる。600 系ニッケル基合金に対する応力改 善の結果の例を Fig.2 に示する。また、これまでに、発電設備技術検査協会による確性 委員会において、レーザピーニング施工により、材料に 対して悪影響がないこと、炉内構造物表面に微小な亀裂 がある部位へ施工しても、亀裂の進展させるような影響 はないことが確認されている。 また、これまでに、発電設備技術検査協会による確性Fig.3 Laser peening system concept with mirror delivery 委員会において、レーザピーニング施工により、材料にfor a BWR core shroud. 対して悪影響がないこと、炉内構造物表面に微小な亀裂納した可搬式クリーンルームと制御装置を設置し、ミラ がある部位へ施工しても、亀裂の進展させるような影響ーを内蔵した気密パイプを組み立ててレーザ伝送路とし はないことが確認されている。て使用する。レーザ発振器から施工ヘッドまでレーザビ 3. レーザピーニングシステム岡ームを約40m 伝送する必要があるため、機械的振動による影響を排除するビームトラッキングシステム、施工装 レーザピーニングでは前述のようにパルスあたりのレ置の位置変更に追従して各部ミラーを調整する自動アラ ーザエネルギーは 60ml~250ml 程度と非常に小さく、繰イメントシステムを搭載している。施工ヘッド部にはビ り返し周波数も現状で 300 パルス/秒が最高であり、照射ームを集光し2次元操作できる機構が備えられており、 中の平均パワーとしてみても 30W に満たない。しかしなある一定の範囲をレーザピーニング処理できるようにな がらひとつのパルスの時間幅は 10ns 以下であり、ピークっている。 パワーとしては 10~20MW 程度となる。ビームの伝送を空間伝送型レーザピーニングシステムは伝送可能なレ 簡便に行うには光ファイバの利用が考えられるが、炉内ーザパワーに制限が少ないため、比較的高いパルスエネ への展開を開始した当時最も太い光ファイバがコア直径ルギー条件(200~250ml/パルス)で施工するのに適して 1.5mm のものしかなく、また通常のファイバ入射方式でおり、またレーザビームの空間モードが良いため焦点裕 はファイバ内部にレーザ光が集光するため、光ファイバ度が広いという特長がある。 の追億を避けるアとが困難であった。そのため最初のレレーザピーニングでは前述のようにパルスあたりのレ ーザエネルギーは 60mJ~250mJ 程度と非常に小さく、繰 り返し周波数も現状で 300 パルス秒が最高であり、照射 中の平均パワーとしてみても 30w に満たない。しかしな がらひとつのパルスの時間幅は 10ns 以下であり、ピーク パワーとしては 10~20MW 程度となる。ビームの伝送を 簡便に行うには光ファイバの利用が考えられるが、炉内 への展開を開始した当時最も太い光ファイバがコア直径 1.5mm のものしかなく、また通常のファイバ入射方式で はファイバ内部にレーザ光が集光するため、光ファイバ の損傷を避けることが困難であった。このため最初のレ ーザピーニング工事では空間伝送方式が採用された。3.1 空間伝送型レーザピーニングシステム - 空間伝送型システムで沸騰水型原子炉(BWR; Boiling Water Reactor)シュラウド(Shroud)のレーザピーニング 施工を行ったときの装置概念を Fig.3 に示す。シュラウド の溶接熱影響部にレーザを照射して表面を圧縮応力状態 とすることにより、応力腐食割れを防ぐものである。原 子炉建屋のオペレーションフロアにレーザシステムを収3.2 ファイバ伝送型レーザピーニングシステム空間伝送型システムによる適用開始の後炉内狭隘部へ の施工要求があり、ファイバ伝送型レーザピーニングシ ステムが開発された。レーザ発振器から照射レンズまで に必要な光学素子やガイドパイプなどが不用になり、空 間伝送型システムと比較すると非常にシンプルな構成と なっている。これを実現するために、レーザビームによ るファイバの損傷を避ける目的でホモジナイザを利用し- 113 -Laser systemGuide pipeControl unitこのお店ShroudJet pumpIrradiationheadRPVFig.3た入射光学系を開発し、コア直径 2.0mm または 2.4mm の 大口径ファイバでビーム伝送している。また同様の理由 から、照射条件として低エネルギー条件(60mJ~100ml) を採用している。低エネルギー条件では照射数密度を多 くとる必要があり、処理速度を確保するためにレーザ照 射繰返し周波数を空間伝送方式の 2.5 倍速である 300Hz としている。さらに 2 系統のファイバへ同時供給できる ようにしたことから、実質的に空間伝送型の2倍以上の 処理速度が得られている。施工ヘッド部に導かれた光フ ァイバは照射レンズに接続され、このレンズを施工ヘッ ド内にある駆動機構で走査することで一定の範囲の応力 改善を行う。4. 次世代型レーザピーニング現状のシステムに対し、施工システム/工事体制の小型 化や工期短縮のための処理速度向上と複数箇所の同時施 工を目標に、次世代に向けたレーザピーニングプロセス、 システムを開発中である。4.1 レーザピーニングプロセスの改良これまでのレーザピーニングプロセスでは基本的に円 形のスポットを重ねていく方式であり、処理速度を確保 するために速い走査が必要であった。現在開発中の方式 を従来方式と比較して Fig.4 に示す。ラインフォーカス走 査プロセスは照射面でのレーザビームのエネルギー密度 を従来方式と同等としたまま、直線状にビームを照射す る方式であり、ラインを横に走査するだけで一定の幅に 対して応力改善することが可能であり、施工装置への要 求を緩和することができる。Fig.5 にラインフォーカス条 件での応力改善結果の例を示す。縦軸は処理後の表面残 留応力値であり、横軸は単位面積あたりの照射パルス数 である。照射条件はパルスあたりのエネルギーを 200mJ とした。照射スポットをライン状にすることで重ね打ち に無駄がなくなることなどの効果があり、同じレーザ出 力で照射する場合に、出力あたりの処理速度が従来比の3 ~5倍速くできることが確認されている。4.2 次世代型レーザピーニングシステムの試作 * 現在開発を進めている次世代型レーザピーニングシス テムの概念図と写真を Fig.6 に示す。施工装置本体上部に 小型の水密レーザ発振器が搭載されており、その下部に ビーム調整部、焦点調整ユニット付き導光管部、ビーム 走査機構が備えられている。このようにファイバ伝送型scanscanshifta) Circular-focus processb) Line-focus processFig.4Conceptual drawing of improved irradiation method.0xCoverage with circular-focus processResidual stress (MPa)Line-focus process・リピートピー......0 _ 10 20 30 40 50 60 701 . Pulse number density (pulse/mm2) Fig.5 Relation between surface residual stress and pulsenumber density in line focusing process. (Pulse energy =200m),Line width=0.23mm, Line length=5.6mm)レーザシステムと比較してもさらにシンプルな構成とな っている。また使用するレーザ発振器は高繰り返し型の 水密小型 YAG レーザであり、平均出力は 10W 程度であ る。施工プロセスにラインフォーカス方式を採用してお り、一台の施工装置あたりの処理速度は従来比で 2.5倍程 度の高速化が見込まれている。このような次世代型のレーザピーニングシステムでは 以下のような特長を有する。 1 発振器から施工部までの空間伝送方式とすること 1 により焦点裕度を広く取れる。 2 照射スポットの形状設定に自由度が高くラインフォーカスプロセスの採用ができる。 小規模の工事から多点同時施工による大規模工事 まで、柔軟に対応できる。 4 オペレーションフロア上に設置する各種設備の小型化が可能となる。 このような特長は特に複雑な面形状をした部位を施工 対象としたとき、例えば BWR 炉底部近傍の溶接熱影響 部を施工対象とする場合などに有利である。また、ライ ンフォーカスプロセスを採用するため、従来のファイバ114なおRemote handling uniコランWaterproof laserLine focus opticsIrradiation head 1,300mmFig.6Working prototype model of the next generation laser peening system for bottom of BWR vessel.[3] 佐野雄二, 他, 日本原子力学会誌, 42,567 (2000). [4] 佐野雄二, 他, 溶接技術,平成17年5月号 [5] 小畑稔 他, 日本材料学会第 53 期学術講演会論文集, 1 51,(2004) [6] 向井成彦, 他, レーザー研究,444,Vol.33,No7, (2005).伝送型の施工装置と比較して施工中の制御が簡便になる ことや、レンズから照射点までの距離が長く取れるため 炉内構造物との干渉を回避しやすいなど、施工時の裕度 が大きく向上する。 ・また、実際の工事を考慮すると、従来 2 系統までしか 同時施工できなかったのに対し、レーザビーム供給の制 限がなくなったことから 4 箇所同時施工も十分可能であ る。これらの結果トータル的には従来と比較して5倍程 度の処理速度が得られるため、大幅に工事期間の短縮が 可能になる。 現在装置のハードウエアとしての試作は ほぼ完了し、各種機能の確認試験を進めている。5.結言1999 年に世界ではじめてレーザピーニングによる原子 炉内構造物の応力改善工事が行われて合計13回の保全工 事が実施された。その間、空間伝送方式からファイバ伝 送方式にレーザビームの供給方式は改良されてきたが、- 115 -シスザピ照射方式は初期の頃からほとんど変化していない。シス テム的には現在 2 系統同時施工できるファイバレーザピ ーニング方式が主流となっている。本報で紹介した次世代型レーザピーニングシステムは、 照射プロセス自体の改良とレーザビーム供給方式の変更 を行っており、小型でシンプルであるにもかかわらず、 施工速度を従来以上に向上できる。今後、施工対象部位 に応じて、この次世代型レーザピーニングシステムを有 力な工法として適用していく計画である。参考文献[1][2]“ “炉内保全用レーザピーニングシステムの高度化“ “向井 成彦,Naruhiko MUKAI,上原 拓也,Takuya UEHARA,末園 暢一,Nobuichi SUEZONO,佐伯 綾一,Ryoichi SAEKI,佐野 雄二,Yuji SANO