配管内面軸方向応力腐食割れ試験法とき裂進展挙動
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
一応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking; SCC)は、閉じ た性状や溶接部周辺の複雑形状・材質の変化などの影 響により非破壊検査(Non-destructive Inspection; NDDに よる検出が他の欠陥と比較すると困難な場合が多く、 例えば沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor: BRW)に おいては再循環系配管やシュラウド等、加圧水型原子 炉(Pressurized Water Reactor; PWR)においては、制御棒 駆動装置用管台や、炉内計装筒管台等における SCC が 大きな問題となってきており[1] [2]、各種 NDI 手法の SCC に対する性能評価を適切に実施し、プラントの保 全に反映していくことが必要である。しかし、現在 NDI 手法の性能評価に用いられている 試験体は、平板あるいは大型径の配管の一部を利用し た比較的単純な形状の試験体に SCCを発生させたもの が多く、さらにこのとき導入される SCC は高温高圧水 環境下で導入されたものではなくポリチオン酸等を環 境溶液に使用したものが多い。そこで本研究では、SCC に対する NDI手法の性能を 評価するための試験体を作製することを目的に、実機 と同様の環境条件により、配管形状の試験体内面に軸 方向 SCC を導入する試験法を開発したので報告する。
2. 配管状試験体を用いたSCC 試験法
本研究で提案する SCC 試験法では、内面軸方向に応 力集中源を有する配管状試験体を使用する。配管内面 には高温高圧水を循環させ、試験体長手方向中央部に 上下から集中荷重を負荷することで配管内面に軸方向 SCC を発生させる。供試材は溶体化処理された Ni 基合金 600 であり、 Fig.1 に示す PWR炉内計装筒管台形状の試験体へと加 工した。試験体内部を循環する高温高圧水(PWR1 次系 模擬水(1200pm B+2ppm L、溶存水素量 2.8~3.0ppm)) に所定の流速を保つため、試験体内部には中子が挿入 されている。また応力集中源として長さ 40mm、深さ がそれぞれ 4mm と 6mm の2つの軸方向 EDM スリッ トが導入されている。本試験片に Fig.1 に示したような 負荷方法で、93kN の集中荷重を負荷した。負荷荷重は、 有限要素法による線形解析により、EDM スリット前縁 の応力拡大係数(K)分布が約20MPam になる荷重とし て決定されたものである。 12 時間毎に定期的除荷(応力 比 0.7)を含む台形波荷重波形で試験を行った。Concentrated load SpecimenTamrEDM SI 1JCylindrical Core-pHIPMR or votarEDM slit 2Concentrated load280 1Fig. 1 Cross section of a mock-up of the bottom mountinstrumentation tube.3. 結果及び考察 3.1 破面形状 SCC 試験終了後、疲労負荷により試験片を破断して116Loading line Fig. 2 Fracture surface around EDM slit 11500 P93kNElasticStross in the crack opening direction. MPaElastic-Plastic-20-10 -oto0Position, mmFig. 3 Stress distribution in crack opening directioncalculated by FEM along the crack tip line. 破面観察に供した。Fig.2 に深さ 4mm の EDM スリット 周辺の破面の写真と SEM像を示す。スリット先端から 疲労予き裂が発生し、疲労予き裂の先端から SCC が生 じている。 SEM像に示したように本研究により得られ た SCC は全て粒界型であった。 - Fig.2 に示したように、荷重線周辺では SCC は発生 せず(深さ6mmのEDM スリットでも荷重線周辺では疲 労予き裂、SCC ともに発生していなかった)、荷重線の 両脇において最もき裂進展量が大きい結果となった。 3.2 予き裂前縁の応力分布SCC 試験時の荷重線周辺におけるき裂開口方向の応 力分布を求めるため、深さ4mm の EDM スリットから 生じた疲労予き裂形状をモデル化し弾塑性有限要素解 析を実施した。 Fig.3 には線形解析にて得られた結果を 合わせて示したが、線形解析では荷重線周辺の応力が 急激に大きくなっているのに対し、弾塑性解析では荷 重線周辺では応力が大きく減少し圧縮側まで達してい ることが分かる。荷重点直下においては集中荷重によ り塑性変形領域が存在するが、線形解析ではそれが解 析に反映されないためこのような結果になったものと 考えられる。このように集中荷重では、荷重線周辺で の圧縮応力場の存在によりき裂が発生しない。 3.3 荷重負荷方法の変更と再試験結果 - 前節までの検討で、荷重線周辺においては圧縮応力 の影響によりき裂が発生せず、荷重線の両脇において、 疲労予き裂、SCC ともに最も大きなき裂が発生するこ とが分かった。これらを踏まえて、荷重負荷方法を Fig.4 に示すように変更し再試験を行った。試験体は先の試験と同様に配管形状としたが、外径 89mm、内径 67mm に変更し、材質は SCC が発生しやすい鋭敏化 SUS304 鋼、試験環境は BWR 模擬環境下とした。初期 深さ 3mm のスリット周辺の破面写真を Fig.5 に示した が、スリット最深部から SCC が発生・進展しているこ とが分かる。初期深さ 6mm のスリット周辺においても 同様の結果が得られた。このように、荷重負荷方法を 変更することで、応力集中源最深部から軸方向 SCC を 発生させることが出来る。Cylindrical Core404ト......680 299 S99ト 551150Load 15-290Fig. 4 Cross section of the modified tube specimen.Loading line2mmSCC (0.678mm at the tip) Machined slit (3 mm at the tip)Fig. 5 Fracture surface around EDM slit 1 in the modifiedtube specimen.4. 結言 1) 提案した SCC 試験法により配管内面に軸方向 SCCを導入することが出来る。 2) 荷重線周辺の予き裂先端における応力は圧縮となり、き裂は発生しない。 3) 荷重負荷方法を変更することで、応力集中源最深部から SCC を発生させることが出来る。謝辞本研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤機構 安全調査研究として実施した。参考文献[1] W. Banford et al., A Review of Alloy 600 Cracking inOperating Nuclear Plants: Historical Experience and Future Trends, Proc. 11th Int. Symp. Environ. Degradation Mater. Nuclear Power Systems- WaterReactors, 2003, pp.1071-1081. [2] 鈴木俊一 他、BWR における低炭素ステンレス鋼の SCC 形態の評価、圧力技術、第 42 巻、第4号、 2004、pp.12-22.117“ “配管内面軸方向応力腐食割れ試験法とき裂進展挙動“ “佐藤 康元,Yasumoto SATO,荒井 健作,Kensaku ARAI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI
一応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking; SCC)は、閉じ た性状や溶接部周辺の複雑形状・材質の変化などの影 響により非破壊検査(Non-destructive Inspection; NDDに よる検出が他の欠陥と比較すると困難な場合が多く、 例えば沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor: BRW)に おいては再循環系配管やシュラウド等、加圧水型原子 炉(Pressurized Water Reactor; PWR)においては、制御棒 駆動装置用管台や、炉内計装筒管台等における SCC が 大きな問題となってきており[1] [2]、各種 NDI 手法の SCC に対する性能評価を適切に実施し、プラントの保 全に反映していくことが必要である。しかし、現在 NDI 手法の性能評価に用いられている 試験体は、平板あるいは大型径の配管の一部を利用し た比較的単純な形状の試験体に SCCを発生させたもの が多く、さらにこのとき導入される SCC は高温高圧水 環境下で導入されたものではなくポリチオン酸等を環 境溶液に使用したものが多い。そこで本研究では、SCC に対する NDI手法の性能を 評価するための試験体を作製することを目的に、実機 と同様の環境条件により、配管形状の試験体内面に軸 方向 SCC を導入する試験法を開発したので報告する。
2. 配管状試験体を用いたSCC 試験法
本研究で提案する SCC 試験法では、内面軸方向に応 力集中源を有する配管状試験体を使用する。配管内面 には高温高圧水を循環させ、試験体長手方向中央部に 上下から集中荷重を負荷することで配管内面に軸方向 SCC を発生させる。供試材は溶体化処理された Ni 基合金 600 であり、 Fig.1 に示す PWR炉内計装筒管台形状の試験体へと加 工した。試験体内部を循環する高温高圧水(PWR1 次系 模擬水(1200pm B+2ppm L、溶存水素量 2.8~3.0ppm)) に所定の流速を保つため、試験体内部には中子が挿入 されている。また応力集中源として長さ 40mm、深さ がそれぞれ 4mm と 6mm の2つの軸方向 EDM スリッ トが導入されている。本試験片に Fig.1 に示したような 負荷方法で、93kN の集中荷重を負荷した。負荷荷重は、 有限要素法による線形解析により、EDM スリット前縁 の応力拡大係数(K)分布が約20MPam になる荷重とし て決定されたものである。 12 時間毎に定期的除荷(応力 比 0.7)を含む台形波荷重波形で試験を行った。Concentrated load SpecimenTamrEDM SI 1JCylindrical Core-pHIPMR or votarEDM slit 2Concentrated load280 1Fig. 1 Cross section of a mock-up of the bottom mountinstrumentation tube.3. 結果及び考察 3.1 破面形状 SCC 試験終了後、疲労負荷により試験片を破断して116Loading line Fig. 2 Fracture surface around EDM slit 11500 P93kNElasticStross in the crack opening direction. MPaElastic-Plastic-20-10 -oto0Position, mmFig. 3 Stress distribution in crack opening directioncalculated by FEM along the crack tip line. 破面観察に供した。Fig.2 に深さ 4mm の EDM スリット 周辺の破面の写真と SEM像を示す。スリット先端から 疲労予き裂が発生し、疲労予き裂の先端から SCC が生 じている。 SEM像に示したように本研究により得られ た SCC は全て粒界型であった。 - Fig.2 に示したように、荷重線周辺では SCC は発生 せず(深さ6mmのEDM スリットでも荷重線周辺では疲 労予き裂、SCC ともに発生していなかった)、荷重線の 両脇において最もき裂進展量が大きい結果となった。 3.2 予き裂前縁の応力分布SCC 試験時の荷重線周辺におけるき裂開口方向の応 力分布を求めるため、深さ4mm の EDM スリットから 生じた疲労予き裂形状をモデル化し弾塑性有限要素解 析を実施した。 Fig.3 には線形解析にて得られた結果を 合わせて示したが、線形解析では荷重線周辺の応力が 急激に大きくなっているのに対し、弾塑性解析では荷 重線周辺では応力が大きく減少し圧縮側まで達してい ることが分かる。荷重点直下においては集中荷重によ り塑性変形領域が存在するが、線形解析ではそれが解 析に反映されないためこのような結果になったものと 考えられる。このように集中荷重では、荷重線周辺で の圧縮応力場の存在によりき裂が発生しない。 3.3 荷重負荷方法の変更と再試験結果 - 前節までの検討で、荷重線周辺においては圧縮応力 の影響によりき裂が発生せず、荷重線の両脇において、 疲労予き裂、SCC ともに最も大きなき裂が発生するこ とが分かった。これらを踏まえて、荷重負荷方法を Fig.4 に示すように変更し再試験を行った。試験体は先の試験と同様に配管形状としたが、外径 89mm、内径 67mm に変更し、材質は SCC が発生しやすい鋭敏化 SUS304 鋼、試験環境は BWR 模擬環境下とした。初期 深さ 3mm のスリット周辺の破面写真を Fig.5 に示した が、スリット最深部から SCC が発生・進展しているこ とが分かる。初期深さ 6mm のスリット周辺においても 同様の結果が得られた。このように、荷重負荷方法を 変更することで、応力集中源最深部から軸方向 SCC を 発生させることが出来る。Cylindrical Core404ト......680 299 S99ト 551150Load 15-290Fig. 4 Cross section of the modified tube specimen.Loading line2mmSCC (0.678mm at the tip) Machined slit (3 mm at the tip)Fig. 5 Fracture surface around EDM slit 1 in the modifiedtube specimen.4. 結言 1) 提案した SCC 試験法により配管内面に軸方向 SCCを導入することが出来る。 2) 荷重線周辺の予き裂先端における応力は圧縮となり、き裂は発生しない。 3) 荷重負荷方法を変更することで、応力集中源最深部から SCC を発生させることが出来る。謝辞本研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤機構 安全調査研究として実施した。参考文献[1] W. Banford et al., A Review of Alloy 600 Cracking inOperating Nuclear Plants: Historical Experience and Future Trends, Proc. 11th Int. Symp. Environ. Degradation Mater. Nuclear Power Systems- WaterReactors, 2003, pp.1071-1081. [2] 鈴木俊一 他、BWR における低炭素ステンレス鋼の SCC 形態の評価、圧力技術、第 42 巻、第4号、 2004、pp.12-22.117“ “配管内面軸方向応力腐食割れ試験法とき裂進展挙動“ “佐藤 康元,Yasumoto SATO,荒井 健作,Kensaku ARAI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI