圧延した FeCu モデル合金の析出挙動と磁気特性の関係
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
原子力発電プラントの運転期間延長に伴い、高経年 化した機器構造物の維持管理や健全性評価に関する技 術開発が求められている。特に、原子炉圧力容器の照 耐脆化を把握するために行われているシャルピー衝撃 試験(破壊試験)について、炉内に装荷された監視試 験片の不足が懸念されている。その対策技術の一つと して磁気的非破壊評価技術を提案する。圧力容器鋼は中性子照射により転位ループや Cu 析 出物などの損傷組織を形成する[1]。これらの格子欠陥 の形成により脆化が進み、延性-脆性遷移温度(DBTT) が上昇する。我々のグループは、圧力容器鋼の磁気特 生について中性子照射中に連続的にその場計測するこ とに成功している[2]。その中で照射量の増加に伴う硬・脆化の進行に対して、磁気的物理量が減少する場 合があることを明らかにした。この振る舞いは照射欠 陥の形成に伴い、もともと存在した転位近傍の応力場 が緩和されたと考えることで説明できる。この仮説を 検証するために、冷間圧延により初期転位密度を高め た上で熱時効させたFeCuモデル合金を作製し、硬度・ 磁気測定、TEMによる内部組織観察を行い、機械特性 と磁気特性の相関メカニズムの仮説について検証を行 った。
2. 実験方法Fe-1wt%Cu試料を 850°Cで5時間均一化処理を施し た後、水急冷して過飽和固溶体を作製した。この急冷 材と、さらに 10%冷間圧延した圧延材の2種類の試料 について 500°Cで熱処理した。硬度測定用と磁気測定 用(リング型:外径 18mm、内径 12mm、厚さ 2mm) の2試料を用意し、所定時間(10~2×10 分)の熱処 理と、硬度・磁気測定を同一試料について繰り返し実 施した。磁気測定では、試料に巻いた励磁コイルに 0.05Hz の三角波電流を流し、検出コイルに発生した誘 導起電力を AD 変換器によりデジタル化して積分し、 BH 曲線を測定した。解析にはマイナーループ法を用い た[3]。組織観察用に圧延率 40%の試料を別途作製し、 代表的な熱時効時間で熱処理を行い、超高圧電子顕微 鏡を用いて Cu の析出挙動を調べた。3. 結果及び考察* Fig.1 に未圧延材、10%圧延材の硬度の 500°C熱時効 時間依存性を示す。未圧延材は時効時間とともに硬度 が増加して約 500 分で最大となり、その後減少した。 これは熱時効に伴う Cu 析出物の形成と粗大化による と考えられる。一方 10%圧延材では熱時効初期に硬度 が増加後、緩やかとなり、100 分付近から硬度が再度 大きく増加した後、約 500 分以降で減少した。即ち、 熱時効時間に対して硬度が2段階で増加した。TEM 観察の結果、熱時効前の組織は典型的な冷間圧 延組織となっており、転位密度が高く圧延方向に伸び120たセル組織を有することがわかった。短時間の熱時効 後に数 nm の大きさの黒いコントラストが転位に沿っ て見られ、最初に転位上に Cu析出物が形成した。さら に長時間熱処理した2×10^ 分後では析出物の粗大化と fcc-Cu の形成を確認した。このとき転位上だけでなく Feマトリックス中にもCu析出物が確認できた(Fig.2)。Fig.3 に 10%圧延材の磁気ヒステリシス・マイナール ープ係数 WF の熱時効時間依存性に示す。10%圧延材 では熱時効によりマイナーループ係数が急激に減少し た。他の係数 WRCH についても同様の傾向を示した。 1. 圧延材で観察された硬度の2段階増加と、マイナー ループ係数の熱時効初期の大きな減少は、Cu の析出挙 動と密接に関係していると考えられる。圧延材では、 熱時効初期に弾性エネルギーの高い転位上でまず Cu 析出物の核生成が起こり、転位が固着され、第一段階 の硬度増加が生じたと考えられる。続いてマトリック ス内で Cu析出物の均一核生成が起こり、第二段階の硬 度増加が生じたと考えられる。転位はそのまわりに応 力場を有し、磁気弾性相互作用を通して磁気的物理量 に大きな影響を与える。転位上で Cu析出物が形成する と、もともと存在した転位周りの応力場は緩和される と考えられる。その結果、熱時効初期において硬度の 増加に対してマイナーループ係数 WA、WR、Hが大 きく減少したと考えられる。44.結言Fe-1wt%Cu 合金を圧延・熱時効した脆化模擬材を作 製し、硬度・磁気測定を行った結果、中性子照射材で 観察された硬度と磁気的物理量の相反する変化を、模 擬材を用いて再現することに成功した。さらにその現 象を電子顕微鏡による直接観察に基づき、転位近傍で の Cu 析出物の形成に伴う応力場の緩和効果として説 明することができた。謝辞本研究は平成 17 年度原子力安全基盤調査研究「原子 炉圧力容器鋼の磁気的非破壊検査技術に関する研究」 の成果の一部である。参考文献[1] 福谷耕司, 大野勝巳,中田早人, 原子炉圧力容器鋼の照射組織変化, INSS Monographs No.1, 2001, pp.1-5. [2] S. Takahashi et al., Journal Applied Physics, to be - 121 -published. [3] S. Takahashi and L. Zhang, Journal of the PhysicalSociety of Japan, 73 (2004) pp.1567-1575.HOHVickers Hardness (Hv). CR10% ・ CR0%1010°10' 10' 10' 10““Aging time (min) Vickers hardness as a function of aging time.Fig. 1100nmFig. 2TEM image of thermally aged cold-rolled FeCu alloy.Cer).2 010°10' 10' 10' 10Aging time (min) Fig. 3 Minor-loop parameter W;““ as a function of aging time.“ “圧延した FeCu モデル合金の析出挙動と磁気特性の関係“ “鎌田 康寛,Yasuhiro KAMADA,高橋 正氣,Seiki TAKAHASHI,越後谷 淳一,Junichi ECHIGOYA,荒 克之,Katsuyuki ARA,菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,小林 悟,Satoru KOBAYASHI,登澤 雄介,Yusuke TOZAWA
原子力発電プラントの運転期間延長に伴い、高経年 化した機器構造物の維持管理や健全性評価に関する技 術開発が求められている。特に、原子炉圧力容器の照 耐脆化を把握するために行われているシャルピー衝撃 試験(破壊試験)について、炉内に装荷された監視試 験片の不足が懸念されている。その対策技術の一つと して磁気的非破壊評価技術を提案する。圧力容器鋼は中性子照射により転位ループや Cu 析 出物などの損傷組織を形成する[1]。これらの格子欠陥 の形成により脆化が進み、延性-脆性遷移温度(DBTT) が上昇する。我々のグループは、圧力容器鋼の磁気特 生について中性子照射中に連続的にその場計測するこ とに成功している[2]。その中で照射量の増加に伴う硬・脆化の進行に対して、磁気的物理量が減少する場 合があることを明らかにした。この振る舞いは照射欠 陥の形成に伴い、もともと存在した転位近傍の応力場 が緩和されたと考えることで説明できる。この仮説を 検証するために、冷間圧延により初期転位密度を高め た上で熱時効させたFeCuモデル合金を作製し、硬度・ 磁気測定、TEMによる内部組織観察を行い、機械特性 と磁気特性の相関メカニズムの仮説について検証を行 った。
2. 実験方法Fe-1wt%Cu試料を 850°Cで5時間均一化処理を施し た後、水急冷して過飽和固溶体を作製した。この急冷 材と、さらに 10%冷間圧延した圧延材の2種類の試料 について 500°Cで熱処理した。硬度測定用と磁気測定 用(リング型:外径 18mm、内径 12mm、厚さ 2mm) の2試料を用意し、所定時間(10~2×10 分)の熱処 理と、硬度・磁気測定を同一試料について繰り返し実 施した。磁気測定では、試料に巻いた励磁コイルに 0.05Hz の三角波電流を流し、検出コイルに発生した誘 導起電力を AD 変換器によりデジタル化して積分し、 BH 曲線を測定した。解析にはマイナーループ法を用い た[3]。組織観察用に圧延率 40%の試料を別途作製し、 代表的な熱時効時間で熱処理を行い、超高圧電子顕微 鏡を用いて Cu の析出挙動を調べた。3. 結果及び考察* Fig.1 に未圧延材、10%圧延材の硬度の 500°C熱時効 時間依存性を示す。未圧延材は時効時間とともに硬度 が増加して約 500 分で最大となり、その後減少した。 これは熱時効に伴う Cu 析出物の形成と粗大化による と考えられる。一方 10%圧延材では熱時効初期に硬度 が増加後、緩やかとなり、100 分付近から硬度が再度 大きく増加した後、約 500 分以降で減少した。即ち、 熱時効時間に対して硬度が2段階で増加した。TEM 観察の結果、熱時効前の組織は典型的な冷間圧 延組織となっており、転位密度が高く圧延方向に伸び120たセル組織を有することがわかった。短時間の熱時効 後に数 nm の大きさの黒いコントラストが転位に沿っ て見られ、最初に転位上に Cu析出物が形成した。さら に長時間熱処理した2×10^ 分後では析出物の粗大化と fcc-Cu の形成を確認した。このとき転位上だけでなく Feマトリックス中にもCu析出物が確認できた(Fig.2)。Fig.3 に 10%圧延材の磁気ヒステリシス・マイナール ープ係数 WF の熱時効時間依存性に示す。10%圧延材 では熱時効によりマイナーループ係数が急激に減少し た。他の係数 WRCH についても同様の傾向を示した。 1. 圧延材で観察された硬度の2段階増加と、マイナー ループ係数の熱時効初期の大きな減少は、Cu の析出挙 動と密接に関係していると考えられる。圧延材では、 熱時効初期に弾性エネルギーの高い転位上でまず Cu 析出物の核生成が起こり、転位が固着され、第一段階 の硬度増加が生じたと考えられる。続いてマトリック ス内で Cu析出物の均一核生成が起こり、第二段階の硬 度増加が生じたと考えられる。転位はそのまわりに応 力場を有し、磁気弾性相互作用を通して磁気的物理量 に大きな影響を与える。転位上で Cu析出物が形成する と、もともと存在した転位周りの応力場は緩和される と考えられる。その結果、熱時効初期において硬度の 増加に対してマイナーループ係数 WA、WR、Hが大 きく減少したと考えられる。44.結言Fe-1wt%Cu 合金を圧延・熱時効した脆化模擬材を作 製し、硬度・磁気測定を行った結果、中性子照射材で 観察された硬度と磁気的物理量の相反する変化を、模 擬材を用いて再現することに成功した。さらにその現 象を電子顕微鏡による直接観察に基づき、転位近傍で の Cu 析出物の形成に伴う応力場の緩和効果として説 明することができた。謝辞本研究は平成 17 年度原子力安全基盤調査研究「原子 炉圧力容器鋼の磁気的非破壊検査技術に関する研究」 の成果の一部である。参考文献[1] 福谷耕司, 大野勝巳,中田早人, 原子炉圧力容器鋼の照射組織変化, INSS Monographs No.1, 2001, pp.1-5. [2] S. Takahashi et al., Journal Applied Physics, to be - 121 -published. [3] S. Takahashi and L. Zhang, Journal of the PhysicalSociety of Japan, 73 (2004) pp.1567-1575.HOHVickers Hardness (Hv). CR10% ・ CR0%1010°10' 10' 10' 10““Aging time (min) Vickers hardness as a function of aging time.Fig. 1100nmFig. 2TEM image of thermally aged cold-rolled FeCu alloy.Cer).2 010°10' 10' 10' 10Aging time (min) Fig. 3 Minor-loop parameter W;““ as a function of aging time.“ “圧延した FeCu モデル合金の析出挙動と磁気特性の関係“ “鎌田 康寛,Yasuhiro KAMADA,高橋 正氣,Seiki TAKAHASHI,越後谷 淳一,Junichi ECHIGOYA,荒 克之,Katsuyuki ARA,菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,小林 悟,Satoru KOBAYASHI,登澤 雄介,Yusuke TOZAWA