女川原子力発電所で発見された SCC 破面上の酸化皮膜評価

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
国内 BWR において低炭素ステンレス鋼の応力腐食 割れ(SCC)が顕在化して以降,これまでに増して機 構解明などに関する研究報告が多数行われている。筆 者らも,女川原子力発電所1号機において発見された シュラウドおよび PLR 配管の SCC 部の破面上に生成 した酸化皮膜に対するラマン分光等を用いた調査によ り,き裂内の化合物分布と進展挙動の関連性について 報告してきた[1]~[3]。 CT 試験片を用いた実験室にお けるラボ試験結果と比較することにより,き裂内の酸 化物の種類と分布は実機とラボとにおいて類似性が多 く認められ, CT 試験片を用いたラボ試験片による評価 が実機挙動を十分模擬していることを確認した。PLR 配管における調査では, SCC は深さ方向より周方向へ 優先的に進展している傾向が認められた。シュラウド における SCC は深さ方向への進展傾向が確認された が周方向への進展に関する知見は得られていない。進 展性はa-Fe2O3(ヘマタイト)の分布との関連性が高 く,進展速度が大きいほどき裂先端に a-Fe2O3が確認 されない領域が広い傾向が認められている。a-Fe2O3 は高酸素濃度下で安定な化合物であることから,進展 するき裂先端には炉水と比較し酸素濃度が低下した水環境が形成されていることになる。進展性き裂,すな わちき裂進展速度がある程度大きなき裂については, き裂先端は鋭く,鈍化しないことは破壊力学的な解析 より確認されており,炉水によるき裂内水環境の希釈 が少ないため, a-Fe2O3 が生成しない領域が広いと推 定される。 1. 本研究では,これまで得られた知見の確認・適用拡 大を目的に,実機シュラウドおよびラボ試験片の破面 上酸化皮膜に対し,ラマン分光や TEM 等を用いた分 析を実施した。
2. SCC 破面上の酸化皮膜評価 2.1 試料および評価法について * 本研究で使用したサンプルの化学組成を Table 1に, ラボ試験の試験条件を Table 2 に示した。実機サンプ ルは定格負荷相当年数 14.55 年の SUS304L 製シュラ ウドに発生した SCC 部より採取した。採取時における 同部位における UTによる最大深さは17mm と測定さ れており,試験片は比較的浅い深さ 5mm 程度の部位 より採取している。Table 2に示した試料 No.1~No.5 の試験条件としては、1TCT を用い大気中疲労予き裂 を導入後, 溶存酸素量 20ppm のオートクレーブ中で2 段階の疲労予き裂を導入した後, 定荷重で250~2327h 保持した。定荷重中は定期的な抜重は実施していない。 試料 No.6 は停止き裂における酸化皮膜挙動の調査を
目的とした試料で,高温水中で疲労き裂を進展させた 後,荷重を 1/4 程度まで低下させて 1463h 保持した。評価としては、破面観察には SEM を用い,酸化皮 膜分析には, TEM, TEM-EDX, EPMA, SEM-EDX, およびラマン分光を使用した。TEM は皮膜の断面方向 から観察を実施し, SEM とラマン分光は破面表面から 分析を行っている。分析位置についてはき裂先端部か らの距離をパラメータとして整理した。法2Table 1 本研究で用いた試料の化学成分| 鋼種 |c| si | Mn | Pis | Ni | cr | N | 実機シュラウド|SUS304L | 0.01 | 0.49 | 0.9 | 0.028 0.007|10.0518.32 | . SUS304L| 0.01 | 0.51 | 1.27| 0.51 | 1.27 0.038 0.029.49 | 18.29 0.04 ラボサンプルSUS304 | 0.05 | 0.45 | 0.85 | 0.0260.001| 8.21 | 18.16 - Table 2 進展試験条件・結果 SCC試験条件(時間、最大値)試験結果 料 鋭敏化 三角波 三角波進展速度 No. 条件進展速度 0.01Hz定荷重 0.001Hz R-0.5 R=0.5mm/s] 100h 100h1000h 1 304L 620°C/24n| 約28MPam | 約28MPam. | 28.5MPam's4.3x10 100h 100h1000h 2 304L 6200/24h|約20MPam | 約20MPam. | 20.8MPams100h2327h 3 304L | なし 約27MPam's | 約27MPam. | 27.7MPam.9.7x10““ 100h 100h250h 4 304L なし 927MPamos $927MPames1.5x10| 27.6MPam 25h25h1 259h | 6200/24h約34MPam 約34MPam. 34.5MPam's 100h 100h1463h 6 |304L なしSCC破面認められず #27MPamo #927MPamo.57.5MPamo1.4x10100h2.5x1011000*1 進展速度算出法についてA:直流電位差法の試験後半部の傾きより算出 B:SCC面積を用いた全定荷重時間の平均速度2.2 結果SCC進展速度の試験結果を Table 2 内に示した。進 展速度算出法としては,表中に示したように2種の手 法を併用している。試料 No.1~5においてはそれぞれ の定荷重保持時間で深さ 50~数百um 程度の明瞭な IGSCC 破面が観察されている。定荷重保持時の荷重を 7.5MPam0.5 とした試料 No.6 では IGSCC 破面が全く 観察されなかった。試料 No.3における TEM観察結果をFig.1に示した。 試料はき裂先端から 3mm 位置の大気中予き裂部より FIB加工により採取した。 Fig.1(c)に示した TEM 試料 採取後の SEM 写真のようにサンプリングは 5um 前 後の粒状酸化物が析出している破面側より実施してい る。 Fig.1(a)には断面の TEM 写真を, (b)には各分析点 において回折像より決定した構造と EDX による Fe,Cr,Ni の濃度比を示した。Fig.1(a)(b)より酸化皮膜 の厚さは数um であり,点 6 の母材部の元素濃度はTable 1 の成分値と大きくは異ならないことが確認さ れる。皮膜厚さが数μm 程度であったことから, Fig.1(c)で見られる粒径 5um 程度の酸化物は観察範囲 には含まれておらず, Fig.1(a)では“下地”のみを観察 していると推定される。皮膜内では5個所に対して分 析を実施したが,母材直上の点 5 では高い Cr 濃度が 検出され, 点 1~4ではほぼ Fe のみが分析されている。 回折像より決定したこれらの構造は点4だけが立方晶 (Cubic)で他の4個所は六方晶(Hexagonal)であった。 ステンレス鋼に生成する皮膜に含まれる酸化物として, 立方晶は,a-Fe2O3 と Cr2O3 が,六方晶は FegOg, NiFe2O等のスピネル型化合物がある。EDX と回折像 の結果を合わせて生成している化合物を推定した模式 図を Fig.1(d)に示した。点 1~3 はa-Fe203, 点 4は FegO4と同定され, 点5は(Fe,Cr,Ni)203と表記できる。 これらの化合物の積層順は皮膜内の電位勾配を反映し たものとして解釈できる。点5 は Fig.1(a)の母材直上 数百 nm の灰色の帯状部内に観察されることから,こ の領域において Cr が濃化した皮膜が生成していると 推定される。点4で Fe304 と同定された個所は,同じ 結晶構造・元素濃度を有する ] ・Fe2O3の可能性も含ま| (a)MAFE+Cr+N) 1%|特造FeCrNiHex.19911Hex.9% 10Hex. 9111酸化皮膜←、→母材4cub.9915 [Hex. 2952196材6420500nm夢でa Fe203Fe304(Ee.CrNi1203Fig.1 試料 No.3 き裂先端から 3mm 位置の酸 化皮膜の断面 TEM 分析結果,(a)観察写真,(b) 回折および EDX 分析結果,(c)サンプリング個所 のSEM 写真,(d)模式図123れているが TEM 観察結果からは判別不可能である。 同試料においてき裂先端から2~5mm離れた位置にお いて 1mm ピッチで TEM 観察を実施したが,結果は ほぼ類似していた。他の分析点における違いとしては, 2mm, 4mm および 5mm 位置では Ni を含んだスピネ ル化合物が, 4mm と 5mm 位置では Cr を 10~20%含 んだスピネル化合物が確認されていることが挙げられ る。2~5mm 位置において TEM 観察結果からは先端 からの距離に依存した化合物の分布や元素濃度分布の 傾向は把握できなかった。よって Fig.1 の 3mm 位置 ではスピネル化合物として Fe304のみが検出されてい るが, 全体的に NiFe2O4 や FeCr2O4 も混在していると 推定される。 Fig.1(d)の模式図も 3mm 位置の結果を表 したものであり,先端から 2mm 以上はなれた皮膜全 体では中間層として(Fe,Cr,Ni)30と表記されるスピ ネル化合物が形成していた。Fig.2 には実機シュラウドおよびラボ試験片のき裂 先端部を TEM 観察した結果を示した。サンプリング 方法としては,実機シュラウドでは,破面の開口加工 を施さず断面を鏡面研磨した断面観察試料から試料採 取を行っている。このため観察部位は主き裂先端部で はない可能性もあるが,採取はき裂の最深部近傍から 行っているため,進展停止後長時間が経過した「枝状 き裂」である可能性は低いと考えられる。ラボサンプ ルのサンプリング方法は Fig.1 同様に破面表面側から FIB 加工を実施しており, IGSCC が確認された “進展 性き裂”である試料 No.3 は,SCC 破面上からの観察 試料採取を,SCC の進展が認められなかった“非進展 性き裂”の試料 No.6は疲労破面上から観察試料を採取 している。疲労破面では母材表面に転位が多数導入さ れていることから,母材側の金属元素の拡散挙動の変 化が皮膜性状へ影響を及ぼす可能性があることが予測 されるが,本研究ではこの影響は無視して考察した。Fig.2(a)では 5 個所の皮膜部の測定を実施している が,全ての個所で立方晶が確認されており,元素濃度 は母材濃度とほぼ同等の値が得られている。このこと からき裂先端部では Fe,Cr, Ni が混合したスピネル 型の(Fe,Cr,Ni)304 が生成していると同定される。これ に対し Fig.2(b)の進展性き裂のラボサンプルでは,先 端から 100um以内の 2 個所の観察結果を示している が,立方晶と六方晶の両者が確認されており,元素濃 度は全ての部位で母材より Cr 濃度が増加している。こ の こ と か ら 生成化 合 物 は (Fe,Cr,Ni)304 と(Fe,Cr,Ni)203 と同定される。試料 No.3 以外の進展性 試料(No.1,2,4,5)全てのき裂先端部において母材以上 の Cr の濃化が確認されており,構造も No.1,2 の2試 料では立方晶と六方晶の両者が確認されている。しか し,試料 No.1~5 の試験条件の違い(荷重値,試験時 間,鋼種,進展速度)に依存した皮膜性状の違いは認 められていない。これらのラボサンプルと比較すると, シュラウド先端部は,六方晶が観察されない,Cr 量が 若干低いなどの違いがあるが,前述したように採取方 向が異なり,また観察試料も1試料しか採取していな いため,明確な違いを見出すには至っていない。Fig.2(c)の“非進展性き裂”では皮膜部から2個所の 分析を実施しているが, 1 個所は立方晶が観察された が,もう1個所は結晶構造の同定ができなかった。ま た元素濃度結果が, シュラウド材や進展性ラボサンプ ルと大きくことなっており, 2個所ともほぼ Fe しか検(a) 実機シュラウドM(Fe-Cr+Ni) 10%)点造FeCrNi68膜」1 Cub. 2 Jcup. 3 cub. 4 Cub.67 81 67 72500mm5cub.6母材7422(b)試料 No.3 (進展性ラボサンプル)M/(Fe-Cr+Ni) [%]点構造FeCrNi1Hex.563113361122 Hex.| 31母材691124Cub.2948235S2cub. 42 母材69| 20|皮膜200mm(c) 試料 No.6 (非進展性ラボサンプル)NiM/(Fe-Cr+Ni) 18 | 点構造| Fe I cr 1 Cub.| 98 | 2 | 2|?| 882001| 母材69|19 19112Fig.2き裂先端部における TEM 分析結果124る。出されていない。この部位の化合物は Fe304 が主体と較的遅めの進展速度(9.7x10-9mm/s)で,後者は速めの 推定される。進展速度(2.5x107mm/s)を有するものである。両者の ラボサンプル間の比較により,き裂先端部に生成し 破面に生成した皮膜中の化合物を比較すると,(b)の進 た酸化物の結晶構造では進展性の有無による違いは観展の遅いき裂ではき裂先端から 1.5mm 以上離れた位 察されていないが,元素濃度に特徴的な変化が確認さ 置で明瞭なa-Fe2O3 が検出されるのに対し,(d)の速い れている。進展性の先端には母材以上に Cr の濃化傾向 き裂では先端から 3.0~5.0mm 離れた位置においても が顕著に見られて,非進展性の先端では Fe 以外の元素 a-Fe2O3が観察されていない。このような進展速度と はほとんど観察されていない。この傾向をシュラウド 化合物分布の関係を(a)の実機き裂に照合すると,実機 に照合すると,今回観察したシュラウド部は母材以上き裂では 4.5mm 以上離れた位置から明瞭なa-Fe2O3 の Cr 濃度は認められていないが,Fe 以外の Cr,Ni が が見られることから,この試料を採取した実機シュラ 確認されていることから進展性のある部位であると推ウドき裂部位は進展性が高い位置であったと推定され 定される。Fig.3にラマン分光分析装置を用いて,実機シュラウ 皮膜中の化合物に影響を及ぼす因子としては, 水質, ド, 進展性き裂(試料 No.3,4,5)および非進展性き裂(試 時間,温度が主要因であるが,上述した(b)と(d)は定荷 料 No.6)のラボサンプルを分析した結果を示した。分 重保持時間が,2327h と 259h と 10 倍程度異なってい 析は試料の破面より実施し,各図の最上部にき裂先端ることから,進展速度の影響に加え,高温水に晒され における結果を示し,下方に開口側方向の結果を示し た時間の影響も重畳されてしまう。そこで試験時間の た。全試料において 200~400cm1付近に3本のメイン影響調査を目的に,(b)と同様な荷重条件で,定荷重保 ピークが存在するa-Fe2O3 と 600~700cm-1付近にメイ 持を 250h で中断したのが(C)に示した試料 No.4 であ ンピークが存在するスピネル化合物が観察される。ス る。この試料 No.4 においても,明瞭なa-Fe2O3 はき裂 ピネル化合物(Fes04, NiFe204, FeCr2O4)のピーク、先端に比較的近い 2.0mm 位置から観察され始めるこ 位置は非常に近接しており判別が容易ではないことかとから,試験時間の影響は小さく進展速度との相関関 ら本研究では区別は行わなかった。実機シュラウドお係が強い傾向が確認される。 よびラボサンプルにおいて生成している化合物の種類 - Fig.3(e)に示した試料 No.6 は荷重が極端に低いため および分布が類似していることから, CT 試験片を用い SCC 破面が見られていない非進展性のき裂であるが, た SCC の評価は実機のき裂内環境を十分模擬できて他の結果とは異なる様子が観察されている。これまで いることが確認できる。得られた傾向から,非進展性のき裂ではa-Fe2O3 が開 Fig.3(b)と(d)に示した試料 No.3 と試料 No.5 は, 口側からき裂先端付近まで広範囲に分布していること Table 2 に示した様に荷重条件はほぼ同様であるが鋼が予測されたが,明瞭なa-Fe2O3 は 3.0mm 位置および 種が SUS304L と SUS304 と異なることから前者は比き裂外部の機械加工スリット部でのみしか観察されな (a)実機シュラウド (b)進展性き裂 (C)進展性き裂 (d)進展性き裂 (e)非進展性き裂 (試料 No.3) (試料 No.4) (試料 No.5)(試料 No.6)Crack tipCrack tipCrack tipCrack tip0.5mm0.5mmCrack tip0.5mm0.2mm1.0mm1.0mm0.4mm1.0mm1.0mm1.5mm1.2mm1.5mmIntensity Coul1.5mmIntensity (au)2.6mm2.0mm2.0mm2.0mm3.0mm3.8mm3.0mm3.0mm.5.0mm4.4mm4.0mm4.0mm4.0mm4.5mm6.0mmwer4.5mmMUM5.1mm (き裂外)5.3mm4.9mm7.3mm20043050000001000200004000000309001000mmam Roman thin lem')Roma Alem-1)m12000040504070000101000 mmmmmの100Ramen shift (cm-1]≪ Fe.0スピネル化合物Fig.3 各試料のラマン分光分析結果マン分光分析結果- 125 -かった。さらに,1.0~1.5mm 位置において 300~ 400cm・1 付近にブロードなピークが観察されており, さらにスピネル化合物のピークにおいて 700cm・1より 高波数側にショルダーピークが見られる。これは,y -Fe2O3 の生成に起因すると推定されるが,通常,高温 水中において ・Fe2O3 の安定性は低いと考えられるた め,非進展性き裂において y Fe2O3と思われる化合物 が検出された原因は今後の課題として残されている。 - Fig.4に実機シュラウドおよび試料 No.3に対し試料 の破面の元素濃度を EPMA および SEM-EDX で分析 した結果を示す。分析は,50μm 四方の面分析を実施 し,得られた値の Fe, Cr, Ni の濃度比を算出し, Fe と Cr の結果のみを図に示した。(b)の試料 No.3 ではき裂 先端から 5mm までがき裂内で,それ以上のデータは 機械加工によるスリット部を分析している。(a)の実機 (a) 実機シュラウド () 進展性き裂(試料 No.3)FeFe...M/(Fa+C+N) [8]M/(Fe+C+N) [8]2018Cr....0. 01. 02. 03040 500.01.02.03. 04. 05. 06.07.0 き型先からの距離(mm)き裂先端からの距離(mm)Fig.4元素濃度分析結果(a)EPMA, (b)SEM-EDX(a) き裂先端から 0.5mm 位置点A130m2白線部拡大写真1.0920000490599E+27numanshm;点B2 Luin() き裂先端から 1mm 位置・点A白線部拡大写真10203040050....500.09910mBB2umRomSDA-11Fig.5試料 No.3 におけるラマン分光結果と観察位置の SEM像シュラウドの結果では 4.5~5.0mm 位置で Fe の濃化 と Cr の低下傾向が確認され,(b)の試料 No.3 では 1.0 ~5.0mm まで同様な傾向が見られる。この元素濃度の 変化はa-Fe2O3 の生成に起因すると推定され, Fig.3 と Fig.4 とを比較すると, ラマン分光によりa-Fe2O3 のピ ークが明瞭に見られる位置と, 元素分析により Fe 濃度 が増加している位置が一致していることが確認される。 - Fig.5 に試料 No.3 におけるき裂先端から 0.5mm 位 置と 1.0mm 位置におけるラマン分析結果と分析位置 の SEM 写真を示した。分析には SEM チャンバー中で のラマン分光を可能とした SEM ラマン装置を使用し た。本装置では、SEM 中に設置したサンプルに対し顕 微ラマン装置から光ファイバーを介してレーザー光の 入射および試験片からの散乱光の受光を可能としたも ので, SEM による高深度観察下においてラマン分析を 行うことができる。 Fig.5 中央部の SEM 写真に示した ように,先端から 0.5mm 位置, 1.0mm位置ともに破 面上には数十um 程度の多面体の酸化物と数um 程度 の粒状酸化物が観察され両位置とも同様な外観となっ ている。この多面体上と粒状酸化物上にレーザーをあ てラマン分光を測定したところ,酸化物の形状によら ず, 0.5mm 位置では 600~700cm・1にピークを有する スピネル型化合物が観察され,1.0mm 位置では 200~ 400cmに シャープなピークが数本観察される a-Fe2O3が観察された。Fig.5 の右側に白線で囲んだ多 面体状酸化物の一部の拡大写真を示した。0.5mm 位置126では多面体表面に析出物がほとんど観察されないのに 対し, 1.0mm 位置では多面体粒子がサブマイクロオー ダーの細かい酸化物に覆われているのが確認される。 この結果より, a-Fe2O3 はサブマイクロオーダーの細 かい粒子形状をしていると考えられる。さらに多面体 の酸化物と数μm 程度の粒状酸化物の両者はスピネル 型化合物であると推定される。 - 1.0mm 位置のラマン分光結果が Fig.3 と Fig.5 とで 異なっているが,これは,前者では He-Ne,後者では Ar のレーザー源を用いていることなど使用した装置 が異なり,後者でa-Fe2O3 の感度が高いためと推定さ れる。ラマン分光装置は使用する装置・レーザー源に よりピーク強度比などが若干異なることが知られてい るため,a-Fe2O3 が検出され始める閾値がシフトする 可能性はあるが,前述した進展性との関連性は装置に 依存するものではないと考えられる。Fig.6 にはラマン分光より観察されたa-Fe2O3が認 められない領域の長さと進展速度との関係を示した。 図示したように進展速度を対数表示した場合,ほぼ直 線関係にある傾向が確認された。これまで実施した PLR 配管のラマン分光結果では深さ方向の先端部で はa-Fe2O3 が認められない領域が 1mm 程度であり,周 方向の先端部においても 2mm 程度である。この傾向 よりこれまで PLR では周方向へ優先的に進展してい ることを推定してきたが, Fig.6 より周方向の先端にお いても進展速度はそれほど大きくないことが推定され る。さらにシュラウドではa-Fe2O3が認められない領 域が深さ方向に 4mm 程度あることから比較的大きな10.10 _ 1_ 2_ 3_ 4_ 5_ 6_ 7 a-Fe2O3 が確認されないき裂先端からの距離 [mm]Fig.6 進展性試験片におけるa-Fe2O3が観察さ れないき裂先端からの距離と進展速度の関係進展速度で進展していた部位であったことが推定され る。しかし,前述したようにシュラウドのサンプリン グ部位が最大深さ 17mm に対し,深さ 5mm 程度の部 位を評価していることから,最大深さ位置における進 展挙動については本研究では言及できない。3.結言1) TEM 観察より進展性を有するラボ試験片のき裂の 先端には立方晶と六方晶が混在しており, Cr が母材以上に濃化している傾向が確認された。 2) TEM 観察より非進展性ラボ試験片のき裂の先端に - は Fe のみが観察された。シュラウドのき裂先端部においても比較的高い Cr 濃度が確認されたことから,進展性を有していると推定された。 3) ラマン分光より実機シュラウドと種々の試験条件で実施したラボサンプルにおけるき裂内の皮膜に含まれる化合物分布が類似していることから,CT 1 試験片を用いたラボ試験の妥当性が確認された。 4) ラマン分光より,き裂内のa-Fe2O3 の存在領域と進展性の関連性が確認された。 5) ラマン分光より非進展性のき裂内にはa-Fe2O3が広 く存在せず, y -Fe2O3 と思われるピークが確認され た。・Fe2O3 の生成と進展性との関連は今後の課題として残された。 6) き裂先端付近のa-Fe2O3はサブマイクロオーダーの 1 : 粒子でスピネル型化合物の表面上に析出していた。「謝辞- 本研究の分析にあたり, 東北発電工業株式会社 相澤 威一郎氏および東北緑化環境保全株式会社 網田真一 朗氏の協力を得ました。感謝致します。参考文献 [1] A.Kai, M. P. Short, Y. Terayama, T. Tatsuki, T.Watanabe, T. Shoji, Proc. 12th Int. Conf. Nuclear Engineering, Arlington, Virginia_ USAICONE12-49400(2004) [2] 田附氏,渡辺剛史,相澤威一郎,甲斐彰,寺山雄一郎,庄子哲雄,材料と環境 2004, B-110 [3] 田附匡,渡辺剛史,小林隆,寺山雄一郎,甲斐彰,庄子哲雄,材料と環境 2005, A-303127“ “女川原子力発電所で発見された SCC 破面上の酸化皮膜評価“ “田附 匡,Tadashi TATSUKI,遠藤 利浩,Toshihiro ENDO,甲斐 彰,Akira KAI,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI
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