閉じたき裂の熱応力開口挙動について

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
疲労き裂についてき裂閉口はよく知られており[1]、 また応力腐食割れにおいてもき裂面間の酸化物はき裂 閉口の要因となり得る。閉じたき裂を超音波探傷する 場合、超音波はき裂面の部分接触を介して透過するた め、超音波受信強度は開いたき裂のそれと比較して著 しく低下し、き裂寸法の誤評価を招く。近年、閉じた き裂の問題を克服すべく、熱応力を利用したき裂開口 手法が提案されている[2][3]。本報では、閉じたき裂を 有する試験片を局所的に冷却することでき裂面に引張 熱応力を発生させ、これにより一旦開口させたき裂の き裂面からの後方散乱波を長時間に亘りモニタリング することで、熱応力の変化に伴うき裂の開閉口挙動の 経時的変化を明らかにする。
2. 実験方法四点曲げ試験により導入した閉じた疲労き裂を有す るSUS316L製平板試験片 (164×82×15mm)を、き裂を 裏面として水槽中に配置し、これを鋼中屈折角 45° の 水浸斜角横波法で探傷した。き裂中央部の平板表面に 直径 25mm の氷柱を3分間接触させて平板内に熱応力 を発生させ、冷却終了後約7時間の超音波応答を観察 した。冷却前に様々な超音波探触子位置で受信波形を 収録したところ、いずれの探触子位置においてもき裂 底部と平板裏面との角部からのコーナーエコー以外の 際立った波形成分は観察されなかった。冷却後、き裂
面からの後方散乱波およびき裂端部エコーが確認でき たので、き裂面後方散乱波が最大値を示す探触子位置 において後方散乱波と端部エコーの両方をモニタリン グした。なお、コーナーエコーと後方散乱波が最大値 を示す探触子位置の移動距離差は 3.0mm であった。 3.3. 実験結果および考察- Fig.1 に冷却開始からの時間が0(冷却前)、60s(冷 却中)、210s (冷却終了後)、1h、6h の受信波形を示す。 図中、波形成分 A はコーナーエコーであり、冷却前は これ以外の顕著な波形成分が観測されなかった。この ことは探傷したき裂が閉じていたことを示す。対して 冷却中の受信波形ではき裂面後方散乱波(波形成分 B) が明瞭に識別できる。また端部エコーが後方散乱波よ り早い伝搬時間において観察されることを踏まえれば、 明瞭に認識できる後方散乱波とコーナーエコーとの位 置関係より端部エコー(波形成分 C)を認識すること ができる。冷却終了後長時間経過した受信波形は冷却 前のそれと類似しており、冷却中に確認されたき裂面15(a) 'TAmplitude (V)| Vopol68 Time-of-flight (us)““Fig.1 Received signals at the time after starting cooling Os (a), 60s (b), 210s (c), 1h (d) and oh (e).&(AP)ay|-O- During coolingAfter cooling stopped(AP)|Stage (1)Stage (II)Stage (III)060120 180 240 300 360 420 480 540 600Time after starting cooling (s)TTTTTTTTTTTUpper figure (a) shows the magnification view of this area up to 0.17 h$(dB)1 2 3 4 5 6 7Time after starting cooling (h) Fig.2 Relationship between & and time after starting cooling. Upper (a) is the short time scale up to 600s, and below (b) is the long time scale up to 7h.Cooling Time after starting coolingIncreaseT.S.DecreaseT.S.WithoutT.S.Crack}InitialStage (1)Stage (II)Stage (III)Fig.3 Schematic of change in the contact condition between crack surfaces with change in the thermal stress.後方散乱波の際立った向上が認められない。超音波探 傷後に破断試験を実施したところ、測定位置における き裂深さaは6.2mm であり、幾何学的モデルより、き 裂面後方散乱波は超音波ビームの中心がき裂の中央に 一致する際に最大値を示すことが確認された[3]。熱応力が作用していない場合と比較したき裂面後方 散乱波の向上は次式で dB表示される。 ___ = 20 log (Vpp/Vrep.)(1) ここで Vp-pはき裂面散乱波の受信振幅、Vappo(= 1.15V) は冷却前のそれである。Fig.2 にどを冷却開始からの時 間の関数として示す。図よりき裂面後方散乱波の向上 が冷却中のみならず,冷却後の数時間に亘って持続さ れることわかる。また、その特徴は Fig. 3 に模式的に示すように三領域に分けられよう。領域(I)は冷却中 であり、熱応力の増加に伴い後方散乱波が向上する。 領域 (II)は冷却終了直後であり、熱応力の消失に伴い 冷却中に一旦向上した後方散乱波が再び低下する。領 域(III)は冷却終了後、平板内の熱応力が消失してい るにもかかわらず後方散乱波の向上が認められる領域 である。片側にき裂のある帯板の一様引張のき裂底部 での開口変位は次式で与えられる[4]。 __=(4ao/E')V(2) * V = {1.4643.42 [1-cos(ng/2)]} / [cos(ng/2)] (3) ここにdは応力、E' = E/(1-V)、 E (= 193GPa) ヤング率、 v(= 0.3) ポアソン比、 = a/W、W (= 15mm)板厚で あり、三次元有限要素法解析で得た冷却中の平板裏面 における発生熱応力の最大値 13.9MPa をに代入すれ ば、S = 5.5um と算定される。き裂面性状にも大いに依 存するが、数μm 程度のき裂開口変位が十分に音響的な き裂開口を与えることが実験結果より明らかである。 領域(III)でのき裂面散乱波の向上はき裂面の接触状 態の変化を反映しており、微小突起からなるき裂破面 の隙間が数um から数 nm に変化するのに長時間要する ことを示唆している。従って、この期間においては閉 じたき裂が顕在化された状態にある。4.結言熱応力開口法により閉じたき裂を一旦開かせ、熱応 力の消失に伴うき裂面からの後方散乱波の変化をモニ タリングした。一旦開口させた閉じたき裂はき裂面の 部分接触状況の緩和に長時間を要し、この期間におい ては熱応力が消失した後でも閉じたき裂が顕在化され た状態にあることが明らかとなった。参考文献[1] W. Elber, “The significance of fatigue crack closure,”「ASTM STP, Vol. 486, 1971, pp. 230-242. [2] M. Saka, H. Tohmyoh and Y. Kondo, “Techniquesfor NDE of closed cracks,” Proceedings of 16thWCNDT, 2004, CD-ROM. [3] H. Tohmyoh, M. Saka and Y. Kondo, “Thermal openingtechnique for non-destructive evaluation of closedcracks““, ASME J. Press. Vess. Tech., in press. [4] H. Tada, P.C. Paris and G.R. Irwin, “The stress analysisof cracks handbook,” Del Research Corporation, 1973.129“ “閉じたき裂の熱応力開口挙動について“ “燈明 泰成,Hironori TOHMYOH,坂 真澄,Masumi SAKA
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