オーステナイト系ステンレス鋼の多層溶接部における ・ 溶接直後急冷による残留応力改善技術の開発
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カテゴリ: 第3回
.緒言
オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部では、引張 留応力、材料の鋭敏化および腐食環境が重畳して応 力腐食割れが発生することがある。オーステナイト系 ステンレス鋼溶接部の健全性を確保するために、応力 気食割れの発生を抑制することは重要である。著者ら は、残留応力を改善して応力腐食割れの発生を抑制す るという観点から、溶接直後に高温状態の溶接部表面 を急冷し、溶接部表面の引張残留応力を低減する方法 について検討してきた。これまでに、ビードオンプレ ートを対象とした解析および実験より、引張残留応力 を効率良く低減するための最適施工条件を求め、その 妥当性を確認した[1],[2]。ところで、実機の溶接は、ビ ードオンプレートではなく多層溶接が用いられる場合 がほとんどである。それゆえ、応力腐食割れ発生の抑 制を目的とした、開発手法の実機への適用においては、 ビードオンプレートで検討した方法および最適施工条 牛が、実機の多層溶接でも効果があることを確認して おく必要がある。そこで、本研究では、開発手法の多 引溶接に対する有効性について検討した。 2.検討条件本研究で取扱う溶接方法は、Fig. 1 に示すように、最終層の施工の際に、トーチからの入熱により溶けた溶 接金属が凝固した直後にその表面を水冷却し、溶接部 表面に圧縮残留応力を付与するものである。 * 本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼の平板 にV型溝を設け、それに積層する場合について検討し た。Table 1 に検討した施工条件を示す。最終パスにお いて、周囲の空気で冷却される場合(Case A)および水冷 却の場合(Case B)を検討の対象とし、残留応力を有限要 素法により解析した。また、検証実験として試験体を 製作し、ひずみゲージ法により残留応力を測定して、 解析結果の妥当性を確認した。
Shower nozzleTorchWelding directionBeadWater-shower cooling Fusion areaFig. 1 Schematic of the developed welding methodTable 1 Heat input and cooling conditions 1st-11th pass12th passHeat input (kJ/cm)Cooling Case A 12 Ambient 20 | Ambient CaseB 12 | Ambient | 201 ShowerHeat inputCooling(kJ/cm)- 130 -3.残留応力解析有限要素法を用いて温度および残留応力を解析した。 解析では、試験体形状の対称性を考慮して 1/2 の領域 をモデル化した。Fig. 2 に最終パス施工中の温度分布を 等高線図で示す。Case A では、入熱領域が通過した後 も表面は 200°C以上になった。一方、Case B では表面 付近は急冷され、入熱領域の後方の溶接部表面の温度 は 100°C以下になった。Fig. 3 に解析により得られた溶 接線平行方向の残留応力を等高線図で示す。Case A で は、溶接部は 200 MPa 以上の引張応力になった。一方、 Case B では、溶接部表面では、絶対値が 100 MPa以上 の圧縮応力になった。以上の結果から、溶接部表面の 残留応力は、最終パスにおける水冷却により、圧縮応 力に改善できることが確認できた。4.検証実験」解析結果の妥当性を検証することを目的として, Table 1 に示す二つの条件の試験体をそれぞれ製作し て、ひずみゲージ法による残留応力の測定を行った。Fig. 4 に溶接部表面における溶接線平行方向応力の 解析結果と実験結果の比較を示す。解析結果と実験結 果は良好に一致した。実験結果は、解析結果と同様に、 周囲の空気で冷却されるCase Aでは溶接部とその近傍 の残留応力は引張応力になった。一方、最終パスで水 冷却を行う Case B では圧縮応力になり、急冷により引 張残留応力が低減できることが確認できた。5.結言溶接中のトーチ後方を急冷する溶接方法を多層溶接 の最終パスに適用することにより、溶接部表面に圧縮 残留応力を付与できることを確認した。本方法の適用 により、オーステナイト系ステンレス鋼溶接部におけ る応力腐食割れ発生の抑制が期待できる。参考文献 [1] 柳田信義、ほか2名、“SUS316L ステンレス鋼の溶接残留応力に及ぼす溶接後表面急冷の影響”、日本 機械学会 関東支部第7期総会講演会 講演論文集、東京、2001、pp.383-384. [2] 柳田信義、ほか3名、“水急冷による引張残留応力低減溶接方法の施工条件の最適化”、日本機械学会 関東支部第9期総会講演会 講演論文集、横浜、2003、 pp.459-460.temprt400 \300 /200(Nodal) “1.E+02)+76001 ■600014,500 目+3.00011.500 50,00010050Heat input areaCase A: Ambient-air coolingtemprtCooling region(Nodal ) ““1.E+02)+7,500 146,00014.600 目+3.000+1,000 0.00010050Heat input area200CDSCase B: Water-shower cooling Fig. 2 Contour line of temperature at the final passsig.yy (MID ) Nodal) (*1.E+02)\14,000 3343.000 ■+2,000+1,000 10,000 -1.000 |-2,000 |-3,000 14,000-100、+200)WeldLongitudinal stressCase A: Ambient-air coolingCC-200sig-yy (MID ) (Nodal) (*1.E+02) 114,000+3000 場+2,000 21,000-1.000 -2.000 -4.0000-10013WeldLongitudinal stress Case B: Water-shower coolingCDSFig. 3 Contour line of longitudinal stressConditionFEM | Exp.2005 - .41Ambient air Water-showerニューーーーーーーLongitudinal stress (MPa)トーーー-------Weld80204060Distance from weld center (mm)Fig. 4 Comparison between analytical and experimental data131“ “オーステナイト系ステンレス鋼の多層溶接部における ・ 溶接直後急冷による残留応力改善技術の開発“ “柳田 信義,Nobuyoshi YANAGIDA,小出 宏夫,Hiroo KOIDE
オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部では、引張 留応力、材料の鋭敏化および腐食環境が重畳して応 力腐食割れが発生することがある。オーステナイト系 ステンレス鋼溶接部の健全性を確保するために、応力 気食割れの発生を抑制することは重要である。著者ら は、残留応力を改善して応力腐食割れの発生を抑制す るという観点から、溶接直後に高温状態の溶接部表面 を急冷し、溶接部表面の引張残留応力を低減する方法 について検討してきた。これまでに、ビードオンプレ ートを対象とした解析および実験より、引張残留応力 を効率良く低減するための最適施工条件を求め、その 妥当性を確認した[1],[2]。ところで、実機の溶接は、ビ ードオンプレートではなく多層溶接が用いられる場合 がほとんどである。それゆえ、応力腐食割れ発生の抑 制を目的とした、開発手法の実機への適用においては、 ビードオンプレートで検討した方法および最適施工条 牛が、実機の多層溶接でも効果があることを確認して おく必要がある。そこで、本研究では、開発手法の多 引溶接に対する有効性について検討した。 2.検討条件本研究で取扱う溶接方法は、Fig. 1 に示すように、最終層の施工の際に、トーチからの入熱により溶けた溶 接金属が凝固した直後にその表面を水冷却し、溶接部 表面に圧縮残留応力を付与するものである。 * 本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼の平板 にV型溝を設け、それに積層する場合について検討し た。Table 1 に検討した施工条件を示す。最終パスにお いて、周囲の空気で冷却される場合(Case A)および水冷 却の場合(Case B)を検討の対象とし、残留応力を有限要 素法により解析した。また、検証実験として試験体を 製作し、ひずみゲージ法により残留応力を測定して、 解析結果の妥当性を確認した。
Shower nozzleTorchWelding directionBeadWater-shower cooling Fusion areaFig. 1 Schematic of the developed welding methodTable 1 Heat input and cooling conditions 1st-11th pass12th passHeat input (kJ/cm)Cooling Case A 12 Ambient 20 | Ambient CaseB 12 | Ambient | 201 ShowerHeat inputCooling(kJ/cm)- 130 -3.残留応力解析有限要素法を用いて温度および残留応力を解析した。 解析では、試験体形状の対称性を考慮して 1/2 の領域 をモデル化した。Fig. 2 に最終パス施工中の温度分布を 等高線図で示す。Case A では、入熱領域が通過した後 も表面は 200°C以上になった。一方、Case B では表面 付近は急冷され、入熱領域の後方の溶接部表面の温度 は 100°C以下になった。Fig. 3 に解析により得られた溶 接線平行方向の残留応力を等高線図で示す。Case A で は、溶接部は 200 MPa 以上の引張応力になった。一方、 Case B では、溶接部表面では、絶対値が 100 MPa以上 の圧縮応力になった。以上の結果から、溶接部表面の 残留応力は、最終パスにおける水冷却により、圧縮応 力に改善できることが確認できた。4.検証実験」解析結果の妥当性を検証することを目的として, Table 1 に示す二つの条件の試験体をそれぞれ製作し て、ひずみゲージ法による残留応力の測定を行った。Fig. 4 に溶接部表面における溶接線平行方向応力の 解析結果と実験結果の比較を示す。解析結果と実験結 果は良好に一致した。実験結果は、解析結果と同様に、 周囲の空気で冷却されるCase Aでは溶接部とその近傍 の残留応力は引張応力になった。一方、最終パスで水 冷却を行う Case B では圧縮応力になり、急冷により引 張残留応力が低減できることが確認できた。5.結言溶接中のトーチ後方を急冷する溶接方法を多層溶接 の最終パスに適用することにより、溶接部表面に圧縮 残留応力を付与できることを確認した。本方法の適用 により、オーステナイト系ステンレス鋼溶接部におけ る応力腐食割れ発生の抑制が期待できる。参考文献 [1] 柳田信義、ほか2名、“SUS316L ステンレス鋼の溶接残留応力に及ぼす溶接後表面急冷の影響”、日本 機械学会 関東支部第7期総会講演会 講演論文集、東京、2001、pp.383-384. [2] 柳田信義、ほか3名、“水急冷による引張残留応力低減溶接方法の施工条件の最適化”、日本機械学会 関東支部第9期総会講演会 講演論文集、横浜、2003、 pp.459-460.temprt400 \300 /200(Nodal) “1.E+02)+76001 ■600014,500 目+3.00011.500 50,00010050Heat input areaCase A: Ambient-air coolingtemprtCooling region(Nodal ) ““1.E+02)+7,500 146,00014.600 目+3.000+1,000 0.00010050Heat input area200CDSCase B: Water-shower cooling Fig. 2 Contour line of temperature at the final passsig.yy (MID ) Nodal) (*1.E+02)\14,000 3343.000 ■+2,000+1,000 10,000 -1.000 |-2,000 |-3,000 14,000-100、+200)WeldLongitudinal stressCase A: Ambient-air coolingCC-200sig-yy (MID ) (Nodal) (*1.E+02) 114,000+3000 場+2,000 21,000-1.000 -2.000 -4.0000-10013WeldLongitudinal stress Case B: Water-shower coolingCDSFig. 3 Contour line of longitudinal stressConditionFEM | Exp.2005 - .41Ambient air Water-showerニューーーーーーーLongitudinal stress (MPa)トーーー-------Weld80204060Distance from weld center (mm)Fig. 4 Comparison between analytical and experimental data131“ “オーステナイト系ステンレス鋼の多層溶接部における ・ 溶接直後急冷による残留応力改善技術の開発“ “柳田 信義,Nobuyoshi YANAGIDA,小出 宏夫,Hiroo KOIDE