磁気的手法による SUS304 鋼の高温疲労初期損傷評価
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
磁気特性変化を利用した劣化評価手法を適用できる 能性が示された。磁気特性変化を利用した劣化評価手法を適用できる可 能性が示された。そこで、本研究では、全ひずみ範囲の異なる疲労試 験を 923 K の高温環境下で実施し、さらに磁束密度測 定を行なうことにより、磁気特性を用いた SUS304 鋼 の高温疲労初期損傷の定量的評価の可能性について検 討する。損傷がき裂として顕在化する前に、その損傷程度を 非破壊で評価できれば、保全活動の選択肢が広がるこ とによりプラントの安全性・経済性が向上すると期待 される。高速増殖炉構造材料の候補材料のひとつであるオー ステナイト系ステンレス鋼(SUS304 鋼)に関しては、 機械的負荷を加えることにより、常磁性を示す FCC 相 から強磁性を示す BCC 相に無拡散相変態(マルテンサ イト変態)することによって、磁気特性が変化するこ とが知られており、この現象を利用したき裂発生前劣 化評価手法の開発が行われている[1]。ただし、マルテ ンサイト変態が起こる上限温度が 623 K程度であるた め[2]、評価対象の多くは常温以下の環境における劣化 であった。 _ しかしながら、最近の我々の研究により、上とは機 構が異なると考えられるものの、900 K 程度の高温環 境におけるクリープ損傷や疲労損傷によっても、 SUS304 鋼の磁気特性が変化することが明らかにされ [3, 4]、高速増殖炉のような高温環境の劣化に対しても、
2.1 試験片
供試材には、熱間圧延した後、1050°Cで 0.2 時間保 持し、その後水冷することによって溶体化処理を施し た SUS304 鋼(C:0.05, Si:0.57, Mn:0.86, P..027, S:0.002, Ni:8.92, Cr:18.43, Fe:bal.(wt%)を用いた。試験片形状を Fig.1 に示す。試験片は軸方向が素材の圧延方向と一致 するように採取した。また漏洩磁束密度の測定が容易 なように、平行部を平板形状とした。2.2 高温環境下疲労試験高温環境下疲労試験の試験条件を Table 1 に示す。本 研究では、高温環境下疲労損傷による磁気特性変化の 全ひずみ範囲依存性を調べるために、全ひずみ範囲(c) を 0.4, 0.5, 0.7%の三条件とした。さらに負荷サイクル連絡先: 高屋茂、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町 成田町 4002、日本原子力研究開発機構次世代原子力シ ステム研究開発部門材料技術開発グループ、 電話: 029-267-4141、e-mail: takaya.shigeru@jaea.go.jp- 137 -2.実験方法2.1 試験片 2.2 高温環境下疲労試験高温環境下疲労試験の試験条件を Table 1 に示す。本 研究では、高温環境下疲労損傷による磁気特性変化の 全ひずみ範囲依存性を調べるために、全ひずみ範囲(c) を 0.4, 0.5, 0.7%の三条件とした。さらに負荷サイクル数による変化を調べるために、各全ひずみ範囲に関し て、遷移硬化領域まで、破損推定サイクル(N)の 1/4 サイクルまで、および同 1/2 サイクルまでの試験を実 施した。ここで、破損サイクルとは、引張側最大応力 が定常値から 25%低下するサイクル数として定義した。 今回試験に供した素材の破損サイクルは、既実施試験 データより、全歪み範囲 0.4, 0.5, 0.7%の各条件に関し て、約 68,000 サイクル、約 16,800 サイクル、約 4,800 サイクルと推定される。926979- R35R35Osample No.Sample No.1926SLDMeasurement Area of Magnetic Flux Density160Fig. 1Fatigue test specimen dimensions and the magneticflux density measurement areaFig. 1Table 1 Conditions of fatigue test at elevated temperature Temperature (K)923 AtmosphereAir Total strain range (%) | 0.4, 0.5, 0.7 Strain rate (%/s)0.1 Strain waveform | Triangular2.3 磁束密度変化測定* サイクル数の増加に伴う疲労損傷の蓄積による磁 気特性変化を調べるために、疲労試験実施前後に磁束 密度分布の測定を行った。測定領域を Fig.1 に示す。変 動交流磁場を用いて試験片を消磁した後に、約 0.1T の 外部磁場により軸方向に着磁を行い、その後、残留磁 化状態で磁束密度の軸方向成分を測定した。磁束密度 の測定には、島津製作所製薄膜フラックスゲートセン サ[51を用いた。センサの検出感度は約 50 nT、センサ サイズは 2.5 mm×2.5 mm である。試験片表面-センサ 間の距離は約 0.5mm とした。なお、測定は試験片を疲 労試験機から取り外し、室温環境下にて実施した。3.実験結果と考察19本の試験片を疲労試験に供し、Table 2 に示したサ イクル数にて試験を終了した。本研究に用いた SUS304 鋼中には溶体化処理後も強 磁性体である6フェライトが 1%前後存在しており、場 所によって磁束密度が若干異なっている。そのため、 疲労試験の実施前にも磁束密度測定を行い、疲労試験 実施後の測定結果から実施前の測定結果を差し引くこ とで、高温環境下疲労損傷による正味の磁束密度変化 量を求めた。また、本研究のように、試験片の軸方向 に試験片を着磁し、磁束密度の軸方向成分を測定する 場合、疲労損傷集中部と関係するような局所的な磁化 の直上で、着磁方向と逆方向の磁束密度が測定される (Fig.2)。そこで、疲労試験前後の測定結果から求めた 正味の磁束密度変化が負になる領域のみに着目するこ ととした。ただし、着磁方向に向く磁束密度を正とする。Fig.3 に、負荷サイクル数と測定領域内における磁束 密度の負への最大変化量(絶対値)との関係を示す。 ここで、図中の Side A, B は、試験片の二つの平滑面を 示し、疲労試験機に取り付けた際の空間的関係から便 宜的に定義した。まず、遷移硬化領域までで試験を終 了した試験片では、いずれも磁束密度はほとんど変化 しなかった。試験開始から遷移硬化領域までにおいてTable 2 The cycles to finish fatigue tests==0.4% | E=0.5% | =0.7% Transition103 105 hardening stage ~1/4Nf14910 3005 1204 ~1/2Nf33005 8005 2405153Magnetization DirectionFG SensorMagnetic Line of ForceLocal MagnetizationFig.2 Direction of the magnetic line of force due tolocal magnetization138は、材料内の転位密度が増加し加工硬化が起こるが、 このような遷移硬化領域までの転位密度の増加が、磁 気特性の急激な変化を導くわけではないことがわかる。 一方、試験開始から 1/2N,サイクルまでに関しては、磁 束密度の最大変化量が、いずれの全ひずみ範囲に関し ても、サイクル数の増加に伴い、線形に増加すること が示された。ただしその傾きは、全ひずみ範囲に依存 しており、磁束密度の最大変化量をABmag、サイクル数 を N とすると、両者には次の関係が成り立っているこ とがわかる。AB.max = a(c)N-1係数 a の全ひずみ範囲依存性を明らかにできれば、 (1)式の関係を用いることにより、磁束密度の最大変化 量から、負荷サイクル数および破損するまでのサイク ル数を推定することが可能になる。しかしながら、実 環境においては、全ひずみ範囲が変化することも考え られ、(1)式に基づく損傷評価は現実的ではないと思わ れる。我々は、最近、高温環境下疲労試験片の透過型電子 顕微鏡および磁気力顕微鏡観察を行うことにより、高 温環境下疲労損傷による磁気特性変化の原因が、損傷 集中部における FCC 相から BCC 相への相変態である ことを明らかにした[3]。相変態が起こるためには、新 しい界面生成エネルギー等の駆動力が材料内部に蓄え られる必要がある。このことから、相変態による磁気 特性変化と疲労による蓄積エネルギーの間には、強いMaximum change in magnetic flux density (UT)%3D 0.4% (Side A) %3D0.4% (Side B) %3D0.5% (Side A)== 0.5% (Side B) E%3D0.7% (Side A)E%3D 0.7% (Side B)TE 5000100001500020000250003000035000Number of loading cycleswwwwww|Fig.3 Number of loading cycles versus maximum change in magnetic flux density during the fatigue testsconducted at 923 K.-2相関があると考えられる。 - 疲労により材料内部に蓄積されるエネルギーを考え る前に、簡単のため、Fig.4 に示す単軸引張により蓄積 されるエネルギーを考える[6]。O→A→B の過程中に材 料内部に散逸されるエネルギーをゆとすると、中は次 式で求められる。11== fode-Joe-2ここで、ぜ は弾性ひずみであり、とは塑性ひずみであ る。(2)式右辺第一項は材料に投入された全エネルギー を表し、同じく第二項は A→B の過程で開放される弾 性エネルギーを表している。降伏点以降の応力を初期 降伏応力oyと等方硬化係数 R (E)を用いて、0 = 0, + R-3のように表せるとすると、(2)式は次のように変形する ことが出来る。0 = [ Oyd? + Rd (4) ここで、右辺第一項は主に熱として散逸するエネルギ ーであり、第二項が材料内部に蓄積されるエネルギー である。 本研究では、疲労の場合も引張の場合と同様に蓄積工 ネルギーを評価できるとし、1 サイクルあたりに材料 内部に蓄積するエネルギーを次式により推定した。accum-oyle (5) 全ひずみ範囲 0.4, 0.5, 0.7%に関して、測定によってStress 1Accumulated energyEnergy dissipated: mainly as heatStrainFig.4Schematic diagram of energy accumulated due tosimple uniaxial tensile loading.139得られた応カーひずみ曲線から(5)式を用いて求めた 1 サイクルあたりの推定蓄積エネルギー密度は、それぞ れ、0.115, 0.164 および 0.511 ml/mm2であった。材料内 部の総蓄積エネルギーU が、 1 サイクルあたりに蓄積 されるエネルギー.comにサイクル数 N をかけて求め られるとすると、U = Poem.NE-6となる。このようにして推定した蓄積エネルギーと、 Fig.3 に示した磁束密度の最大変化量との関係を Fig.5 に示す。この図より、我々は、磁束密度の最大変化量 と蓄積エネルギーの間に次の関係が成り立つことを提 案した。AB max = bU(7) ここで b は、(1)式中の係数aと異なり、全ひずみ範囲 によらない係数であり、最小自乗法を用いて、 b = 14.44 μT/(J/mm2)と求められた。また近似線と実験値との相関 係数は、0.90 であった。 ー どのような負荷様式の場合でも、微視的き裂発生ま でに蓄えられるエネルギーは同一である(U)と考え ると[6、7J、磁束密度の最大変化量を測定することによ り、微視き裂発生までに必要な残りのエネルギーAU を、次式を用いて推定可能であると思われる。AU =U - AB16 |(8)式は、全ひずみ範囲に依存しないことから、(1)式に 基づく損傷評価に比べて、実環境への適用可能性が高 いと考えられる。Maximum change in magnetic flux density (UT)E.%3D0.4% (Side A). = 0.4% (Side B) E = 0.5% (Side A) E %3D0.5% (Side B)0.7% (Side A)E %3D0.7% (Side B) uuuu 0. 51. 01. 52. 02.5 3.354 Estimated accumulated energy (J/mm)Fig.5 Estimated accumulated energy versus maximum change in magnetic flux density during the fatigue tests.3.結言923 K の高温環境下において疲労試験を実施し、その 前後で磁束密度測定を行うことによって以下の結論を 得た。 1) 磁束密度の最大変化量が、サイクル数に線形に増加 することを示した。ただし、その傾きは全ひずみ範 囲に依存する。 2) 疲労による蓄積エネルギーを推定し、蓄積エネルギ * ーと磁束密度最大変化量の間に全ひずみ範囲によらない線形関係があることを提案した。 3) 上記提案関係に基づき、磁束密度最大変化量から微 視的き裂発生までに必要なエネルギーを定量評価 できる可能性が示された。「謝辞疲労試験を実施していただいた常陽産業の矢口様に 「感謝いたします。参考文献 [1] Z. Chen, K. Aoto, S. Kato, Y. Nagae, and K. Miya, ““Anexperimental study on the correlation of natural magnetization and mechanical damage in an austenitic stainless steel”, Int. J. Appl. Electrom, Vol.16, 2002,pp.197-206. [2] K. Mumtaz, S. Takahashi, J. Echigoya, L. Zhang, Y.Kamada, M. Sato, Temperature dependence of martensitic transformation in austenitic stainless steel, J.Mater. Sci. Lett., Vol.22, 2003, pp.423-427. [3] S. Takaya, Y. Nagae, Magnetic property change of type304 stainless steel due to accumulation of fatigue damage at elevated temperature, Int. J. Appl.Electrom,submitted. [4] 永江勇二、青砥紀身、“SUS304 鋼の高温損傷による磁気特性および金属組織変化”、材料、Vol.54、2005、pp.116-121. [5] 吉見健一、藤山陽一、務中達也、山田康晴、中西博昭、吉田多見男、“小型薄膜フラックスゲー ト磁気センサとその応用”、島津評論、Vol.56、No.1・2、1999、pp.19-28. [6] 村上澄男、“連続体損傷力学 一損傷・破壊解析の連続体力学的方法一”、出版予定. [7] 伊原千秋、 五十嵐件顕人、“低炭素鋼の高サイクル疲労におけるき裂発生モデル”、 材料、 Vol.29, No.320、1980、 pp.434-438.140“ “磁気的手法による SUS304 鋼の高温疲労初期損傷評価“ “高屋 茂,Shigeru TAKAYA,永江 勇二,Yuji NAGAE
磁気特性変化を利用した劣化評価手法を適用できる 能性が示された。磁気特性変化を利用した劣化評価手法を適用できる可 能性が示された。そこで、本研究では、全ひずみ範囲の異なる疲労試 験を 923 K の高温環境下で実施し、さらに磁束密度測 定を行なうことにより、磁気特性を用いた SUS304 鋼 の高温疲労初期損傷の定量的評価の可能性について検 討する。損傷がき裂として顕在化する前に、その損傷程度を 非破壊で評価できれば、保全活動の選択肢が広がるこ とによりプラントの安全性・経済性が向上すると期待 される。高速増殖炉構造材料の候補材料のひとつであるオー ステナイト系ステンレス鋼(SUS304 鋼)に関しては、 機械的負荷を加えることにより、常磁性を示す FCC 相 から強磁性を示す BCC 相に無拡散相変態(マルテンサ イト変態)することによって、磁気特性が変化するこ とが知られており、この現象を利用したき裂発生前劣 化評価手法の開発が行われている[1]。ただし、マルテ ンサイト変態が起こる上限温度が 623 K程度であるた め[2]、評価対象の多くは常温以下の環境における劣化 であった。 _ しかしながら、最近の我々の研究により、上とは機 構が異なると考えられるものの、900 K 程度の高温環 境におけるクリープ損傷や疲労損傷によっても、 SUS304 鋼の磁気特性が変化することが明らかにされ [3, 4]、高速増殖炉のような高温環境の劣化に対しても、
2.1 試験片
供試材には、熱間圧延した後、1050°Cで 0.2 時間保 持し、その後水冷することによって溶体化処理を施し た SUS304 鋼(C:0.05, Si:0.57, Mn:0.86, P..027, S:0.002, Ni:8.92, Cr:18.43, Fe:bal.(wt%)を用いた。試験片形状を Fig.1 に示す。試験片は軸方向が素材の圧延方向と一致 するように採取した。また漏洩磁束密度の測定が容易 なように、平行部を平板形状とした。2.2 高温環境下疲労試験高温環境下疲労試験の試験条件を Table 1 に示す。本 研究では、高温環境下疲労損傷による磁気特性変化の 全ひずみ範囲依存性を調べるために、全ひずみ範囲(c) を 0.4, 0.5, 0.7%の三条件とした。さらに負荷サイクル連絡先: 高屋茂、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町 成田町 4002、日本原子力研究開発機構次世代原子力シ ステム研究開発部門材料技術開発グループ、 電話: 029-267-4141、e-mail: takaya.shigeru@jaea.go.jp- 137 -2.実験方法2.1 試験片 2.2 高温環境下疲労試験高温環境下疲労試験の試験条件を Table 1 に示す。本 研究では、高温環境下疲労損傷による磁気特性変化の 全ひずみ範囲依存性を調べるために、全ひずみ範囲(c) を 0.4, 0.5, 0.7%の三条件とした。さらに負荷サイクル数による変化を調べるために、各全ひずみ範囲に関し て、遷移硬化領域まで、破損推定サイクル(N)の 1/4 サイクルまで、および同 1/2 サイクルまでの試験を実 施した。ここで、破損サイクルとは、引張側最大応力 が定常値から 25%低下するサイクル数として定義した。 今回試験に供した素材の破損サイクルは、既実施試験 データより、全歪み範囲 0.4, 0.5, 0.7%の各条件に関し て、約 68,000 サイクル、約 16,800 サイクル、約 4,800 サイクルと推定される。926979- R35R35Osample No.Sample No.1926SLDMeasurement Area of Magnetic Flux Density160Fig. 1Fatigue test specimen dimensions and the magneticflux density measurement areaFig. 1Table 1 Conditions of fatigue test at elevated temperature Temperature (K)923 AtmosphereAir Total strain range (%) | 0.4, 0.5, 0.7 Strain rate (%/s)0.1 Strain waveform | Triangular2.3 磁束密度変化測定* サイクル数の増加に伴う疲労損傷の蓄積による磁 気特性変化を調べるために、疲労試験実施前後に磁束 密度分布の測定を行った。測定領域を Fig.1 に示す。変 動交流磁場を用いて試験片を消磁した後に、約 0.1T の 外部磁場により軸方向に着磁を行い、その後、残留磁 化状態で磁束密度の軸方向成分を測定した。磁束密度 の測定には、島津製作所製薄膜フラックスゲートセン サ[51を用いた。センサの検出感度は約 50 nT、センサ サイズは 2.5 mm×2.5 mm である。試験片表面-センサ 間の距離は約 0.5mm とした。なお、測定は試験片を疲 労試験機から取り外し、室温環境下にて実施した。3.実験結果と考察19本の試験片を疲労試験に供し、Table 2 に示したサ イクル数にて試験を終了した。本研究に用いた SUS304 鋼中には溶体化処理後も強 磁性体である6フェライトが 1%前後存在しており、場 所によって磁束密度が若干異なっている。そのため、 疲労試験の実施前にも磁束密度測定を行い、疲労試験 実施後の測定結果から実施前の測定結果を差し引くこ とで、高温環境下疲労損傷による正味の磁束密度変化 量を求めた。また、本研究のように、試験片の軸方向 に試験片を着磁し、磁束密度の軸方向成分を測定する 場合、疲労損傷集中部と関係するような局所的な磁化 の直上で、着磁方向と逆方向の磁束密度が測定される (Fig.2)。そこで、疲労試験前後の測定結果から求めた 正味の磁束密度変化が負になる領域のみに着目するこ ととした。ただし、着磁方向に向く磁束密度を正とする。Fig.3 に、負荷サイクル数と測定領域内における磁束 密度の負への最大変化量(絶対値)との関係を示す。 ここで、図中の Side A, B は、試験片の二つの平滑面を 示し、疲労試験機に取り付けた際の空間的関係から便 宜的に定義した。まず、遷移硬化領域までで試験を終 了した試験片では、いずれも磁束密度はほとんど変化 しなかった。試験開始から遷移硬化領域までにおいてTable 2 The cycles to finish fatigue tests==0.4% | E=0.5% | =0.7% Transition103 105 hardening stage ~1/4Nf14910 3005 1204 ~1/2Nf33005 8005 2405153Magnetization DirectionFG SensorMagnetic Line of ForceLocal MagnetizationFig.2 Direction of the magnetic line of force due tolocal magnetization138は、材料内の転位密度が増加し加工硬化が起こるが、 このような遷移硬化領域までの転位密度の増加が、磁 気特性の急激な変化を導くわけではないことがわかる。 一方、試験開始から 1/2N,サイクルまでに関しては、磁 束密度の最大変化量が、いずれの全ひずみ範囲に関し ても、サイクル数の増加に伴い、線形に増加すること が示された。ただしその傾きは、全ひずみ範囲に依存 しており、磁束密度の最大変化量をABmag、サイクル数 を N とすると、両者には次の関係が成り立っているこ とがわかる。AB.max = a(c)N-1係数 a の全ひずみ範囲依存性を明らかにできれば、 (1)式の関係を用いることにより、磁束密度の最大変化 量から、負荷サイクル数および破損するまでのサイク ル数を推定することが可能になる。しかしながら、実 環境においては、全ひずみ範囲が変化することも考え られ、(1)式に基づく損傷評価は現実的ではないと思わ れる。我々は、最近、高温環境下疲労試験片の透過型電子 顕微鏡および磁気力顕微鏡観察を行うことにより、高 温環境下疲労損傷による磁気特性変化の原因が、損傷 集中部における FCC 相から BCC 相への相変態である ことを明らかにした[3]。相変態が起こるためには、新 しい界面生成エネルギー等の駆動力が材料内部に蓄え られる必要がある。このことから、相変態による磁気 特性変化と疲労による蓄積エネルギーの間には、強いMaximum change in magnetic flux density (UT)%3D 0.4% (Side A) %3D0.4% (Side B) %3D0.5% (Side A)== 0.5% (Side B) E%3D0.7% (Side A)E%3D 0.7% (Side B)TE 5000100001500020000250003000035000Number of loading cycleswwwwww|Fig.3 Number of loading cycles versus maximum change in magnetic flux density during the fatigue testsconducted at 923 K.-2相関があると考えられる。 - 疲労により材料内部に蓄積されるエネルギーを考え る前に、簡単のため、Fig.4 に示す単軸引張により蓄積 されるエネルギーを考える[6]。O→A→B の過程中に材 料内部に散逸されるエネルギーをゆとすると、中は次 式で求められる。11== fode-Joe-2ここで、ぜ は弾性ひずみであり、とは塑性ひずみであ る。(2)式右辺第一項は材料に投入された全エネルギー を表し、同じく第二項は A→B の過程で開放される弾 性エネルギーを表している。降伏点以降の応力を初期 降伏応力oyと等方硬化係数 R (E)を用いて、0 = 0, + R-3のように表せるとすると、(2)式は次のように変形する ことが出来る。0 = [ Oyd? + Rd (4) ここで、右辺第一項は主に熱として散逸するエネルギ ーであり、第二項が材料内部に蓄積されるエネルギー である。 本研究では、疲労の場合も引張の場合と同様に蓄積工 ネルギーを評価できるとし、1 サイクルあたりに材料 内部に蓄積するエネルギーを次式により推定した。accum-oyle (5) 全ひずみ範囲 0.4, 0.5, 0.7%に関して、測定によってStress 1Accumulated energyEnergy dissipated: mainly as heatStrainFig.4Schematic diagram of energy accumulated due tosimple uniaxial tensile loading.139得られた応カーひずみ曲線から(5)式を用いて求めた 1 サイクルあたりの推定蓄積エネルギー密度は、それぞ れ、0.115, 0.164 および 0.511 ml/mm2であった。材料内 部の総蓄積エネルギーU が、 1 サイクルあたりに蓄積 されるエネルギー.comにサイクル数 N をかけて求め られるとすると、U = Poem.NE-6となる。このようにして推定した蓄積エネルギーと、 Fig.3 に示した磁束密度の最大変化量との関係を Fig.5 に示す。この図より、我々は、磁束密度の最大変化量 と蓄積エネルギーの間に次の関係が成り立つことを提 案した。AB max = bU(7) ここで b は、(1)式中の係数aと異なり、全ひずみ範囲 によらない係数であり、最小自乗法を用いて、 b = 14.44 μT/(J/mm2)と求められた。また近似線と実験値との相関 係数は、0.90 であった。 ー どのような負荷様式の場合でも、微視的き裂発生ま でに蓄えられるエネルギーは同一である(U)と考え ると[6、7J、磁束密度の最大変化量を測定することによ り、微視き裂発生までに必要な残りのエネルギーAU を、次式を用いて推定可能であると思われる。AU =U - AB16 |(8)式は、全ひずみ範囲に依存しないことから、(1)式に 基づく損傷評価に比べて、実環境への適用可能性が高 いと考えられる。Maximum change in magnetic flux density (UT)E.%3D0.4% (Side A). = 0.4% (Side B) E = 0.5% (Side A) E %3D0.5% (Side B)0.7% (Side A)E %3D0.7% (Side B) uuuu 0. 51. 01. 52. 02.5 3.354 Estimated accumulated energy (J/mm)Fig.5 Estimated accumulated energy versus maximum change in magnetic flux density during the fatigue tests.3.結言923 K の高温環境下において疲労試験を実施し、その 前後で磁束密度測定を行うことによって以下の結論を 得た。 1) 磁束密度の最大変化量が、サイクル数に線形に増加 することを示した。ただし、その傾きは全ひずみ範 囲に依存する。 2) 疲労による蓄積エネルギーを推定し、蓄積エネルギ * ーと磁束密度最大変化量の間に全ひずみ範囲によらない線形関係があることを提案した。 3) 上記提案関係に基づき、磁束密度最大変化量から微 視的き裂発生までに必要なエネルギーを定量評価 できる可能性が示された。「謝辞疲労試験を実施していただいた常陽産業の矢口様に 「感謝いたします。参考文献 [1] Z. Chen, K. Aoto, S. Kato, Y. Nagae, and K. Miya, ““Anexperimental study on the correlation of natural magnetization and mechanical damage in an austenitic stainless steel”, Int. J. Appl. Electrom, Vol.16, 2002,pp.197-206. [2] K. Mumtaz, S. Takahashi, J. Echigoya, L. Zhang, Y.Kamada, M. Sato, Temperature dependence of martensitic transformation in austenitic stainless steel, J.Mater. Sci. Lett., Vol.22, 2003, pp.423-427. [3] S. Takaya, Y. Nagae, Magnetic property change of type304 stainless steel due to accumulation of fatigue damage at elevated temperature, Int. J. Appl.Electrom,submitted. [4] 永江勇二、青砥紀身、“SUS304 鋼の高温損傷による磁気特性および金属組織変化”、材料、Vol.54、2005、pp.116-121. [5] 吉見健一、藤山陽一、務中達也、山田康晴、中西博昭、吉田多見男、“小型薄膜フラックスゲー ト磁気センサとその応用”、島津評論、Vol.56、No.1・2、1999、pp.19-28. [6] 村上澄男、“連続体損傷力学 一損傷・破壊解析の連続体力学的方法一”、出版予定. [7] 伊原千秋、 五十嵐件顕人、“低炭素鋼の高サイクル疲労におけるき裂発生モデル”、 材料、 Vol.29, No.320、1980、 pp.434-438.140“ “磁気的手法による SUS304 鋼の高温疲労初期損傷評価“ “高屋 茂,Shigeru TAKAYA,永江 勇二,Yuji NAGAE