Ni基超合金のクリープ,

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カテゴリ: 第3回
1.緒言
ガスタービン高温部材の中でも特に過酷な環境下で 使用されるガスタービン動翼材の経年劣化には,クリ ープや疲労が挙げられる. 一方向凝固 Ni 基超合金 CM247LC におけるクリープ損傷の支配的因子は, 材料 表面に形成された窒化アルミニウム(AIN),および材 料内部の粒界上に析出・粗大化した炭化物,粒界上の 共晶r/y,相界面等において発生したき裂の成長であ ると考えられている.材料の寿命消費率が 50%を過ぎ たあたりから,クリープ損傷の進行に伴い発生するキ ャビティの密度がわずかに増加し始め、80%以降にお いては急激に増加することが明らかになっている.こ のキャビティ密度の増加が寿命後期における急激な変 形量の増加に関与し,破壊の支配的因子であると考え られる。60%を超えるような非常に高い体積率の相を有す る Ni基超合金として CM247LC が使用されている. 本 合金は他の Ni 基超合金と同様に析出強化型合金であ る. 母相である相中に析出強化相である相が微細 に分散された構造となることで耐熱特性の向上が図ら れている.この合金をクリープ時効させると,新材時 において立方体状に整然と析出していたy'相が,応力 負荷方向とは垂直方向に互いに連なる現象が観察され る.この現象は Raft 化(Rafting)と呼ばれ,応力軸に
疲労損傷の非破壊評価法の基礎検討対して垂直方向に形成される(図1参照). この Raft 化が,転位の上昇運動を抑制しクリープ特性向上(変 形抵抗の増加)に寄与すると考えられてきた微細分散 構造を破壊し,粒内き裂の進展が容易となるため急激 にクリープ損傷が進行するものと考えられている「12). 実際にこの Raft 化が生じた試料では,き裂の進展経路 が結晶粒界から結晶粒内へと明確に変化していること が確認されている.このクリープ損傷の進行過程にお いて,分散されたr相,r'相の寸法が粗大化,層状化 することから,この各組織の代表寸法変化を測定する ことができれば、クリープ損傷の進行度合いを定量的 に評価できる見通しも得られているしたがって, この微細組織変化を非破壊・非接触で測定することが できれば、実機における損傷の進行を評価することが
います(a)As-received(b)t/tr=0.05WAKE(c)t/r=0.15r%3D1 Fig. 1 Texture change of Ni-base superalloy caused by creep damage (tr: life time)154 -Table 1 Composition of Ni-base superalloy (CM247LC) Co Co Mo W Ta Al T B ZE HEN 007 8 9 05 10 32 56 07 0015 0010 14 bd.(ntArArHe-NeGaNRelative ratio of reflectance of ylyrein2010400_ 500 600 700Wavelength of a laser beam (nm)Fig. 2 Wavelength dependence of the reflectance of y and y' phases可能となり,余寿命診断や部品交換時期の判断の定量化,高信頼化の加速が期待できる. ・ そこで,本研究ではこの Raft 化に起因した Ni 基超 合金内部における局所的なア相r'相の分散組織変化 の非破壊・非接触評価を,走査型レーザ顕微鏡を応用 して試みた概要について報告する.2. 組織変化の観察原理- 一般に金属元素の光学的反射率には波長依存性が存 在し,各元素固有のスペクトル分布を示す.例えば銀 の反射率は可視光領域ではほぼ一定であるのに対し, 金の反射率は波長約 520 nm で急激に減少することが 知られており,この波長依存性がそれぞれの色を決定 している.したがって,材料の中に反射率の波長依存 性が異なる領域が混在している場合には、観察波長を 最適化すると各領域を分離観察できる可能性がある. 実際,レーザ光を使用してアモルファス相中の微結晶 領域の観察成功例などが報告されている.そこで,本 研究の対象である Ni 基超合金内のr相と相それぞ れの光学的反射率の波長依存性を測定した.実験に使用した一方向凝固 Ni基超合金 CM247LC の 主要組成を表1に示す.本合金に対し,温度 900°Cで 一軸応力 216MPa を連続して所定の時間負荷し, クリ ープ強度を測定するとともに,電子顕微鏡を使用して 組織変化を観察し,粗大化した各相の位置を確認して(a) i = 628 nm(b) ] = 405 nm Fig. 3 Effect of wavelength of a laser microscope on the quality of scanning laser micrographs測定視野内が単一の相からなることを確認した.図2に相の反射率強度で規格化したr相反射率 の波長依存性測定例を示す.両相の反射率は波長が 550 nm 以上の長波長領域では実質的に同一であり,相 違は認められない.しかし,波長が 500 nm 以下の短波 長側では,r'相の反射率はr相のそれと比較して単調 に減少し, 波長 400 nm では強度比は約91%と相対的に 9%もの相違が存在することが明らかとなった.したが って, 紫外~青色レーザ光を使用して Ni基超合金表面 に発生する組織変化 (r相と相の粗大化や層状化) を観察できる可能性を示すことができた.3. 走査型ブルーレーザ顕微鏡によるクリー プ損傷の非破壊・非接触観察観察系には(株)レーザテック社製のブルーレーザ 顕微鏡を使用した. 赤外線加熱を使用し,室温から約 1000°Cまでの温度範囲で,試料に対し 50 N のロードセ ルを使用して単純引張,疲労及び三点曲げ試験法によ る曲げ負荷を与えながら試料表面の組織や形状変化を in-situ 観察することが可能である. 試験雰囲気も真空 から不活性ガス,空気雰囲気まで制御可能である。 - まず,図2に示した反射率の波長依存性を実証する ことを目的に,クリープ破断した試料の組織を波長を 変化させて観察した結果を図3に示す図3(a)は,r 相と相の反射率に実質的な相違が無いと考えられ る波長 628 nm の He-Ne レーザを使用した場合の試料 表面観察例である.本試料では,走査型電子顕微鏡観 察結果から Raft 化が確認されたが,レーザ光では明瞭 には確認することができなかった.しかし,観察波長 を両相の分離観察が期待された 405 nm に変更するこ とで、同図(b)に示したように明確に相とr'相の Raft 化を確認することができた.したがって,観察レーザ 光の波長を最適化することで,Ni基超合金における微1555m15m(a) As-received(b) Fractured Fig. 4. Scanning laser micrographs of an as-received sample and a fractured sample細組織変化(r相とr'相の粗大化や Raft 化)を非破壊」 非接触で可視化できる見通しが得られた。そこで次に,観察波長は 405 nm 一定として,クリー プ損傷レベルの異なる試料の組織変化観察を試みた. 図4にクリープ負荷前の試料(図(a))と破断試料(図 (b))の観察例をそれぞれ示す.各図(写真)中の相対 的に白く見える(反射率が高い)領域が r相,黒く見 える領域が r相にそれぞれ対応しているものと考え ている.負荷前の試料においては両相が微細分散(平 均粒径:数 100 nm)されている状況が捉えられている. 一方,破断した試料(図(b)では負荷方向は図の上下方 向)においては負荷と直交する方向に両相が層状に再 配列 (Raft 化)している状況が明確に捉えられている. したがって,走査型ブルーレーザ顕微鏡を応用するこ とで, Ni基超合金内の微細組織(r相と相の分散状 況)を非破壊・非接触でかつ定量的に観察できること が実証された.今後画像処理技術を応用し,積分処理 や二値化処理を施すことで、画質はさらに向上できる ものと考えている.4. 微視組織の代表寸法測定方法の最適化クリープ損傷評価のパラメータとしては一軸負荷に 垂直方向の相長さ,また一軸負荷と垂直方向のr' 相長さと平行方向の相長さの比といった代表寸法 を用いることが有効である)しかし, Y, Y相の各 代表組織寸法を決定する場合に,最適な評価領域形状 (寸法)があると考えられることから,図5に示すよ うに長方形の評価領域を設定し、その幅を変化させ, 代表寸法の測定を試みた.図中には参考のため測定例 を濃く表示している. 長方形の幅は,新材における分 散r'相粒径の代表寸法である 0.5 um とその二倍の 1.0 um, 半分の 0.25 yum として評価を行った.また,今回 は寿命全域における各パラメータの傾向を把握するた(a) As-received(b) Fractured Fig. 5 Measurement of the aspect ratio of the shape of a gamma-prime phase (black areas)MaximumAverageo oo Ratio of average length of y’ phaseoRatio of maximum length of y' phasea100~20 40 60 80Damage rate (%) 10TMaximumAverageRatio of average length of y' phaseRatio of maximum length of y' phaseb02040 60 Damage rate80100°Fig. 6 Change of the aspect ratio of shape of the gamma-1 prime phase during an uni- axial creep testめ,試験片には新材,寿命 50%, 100%のものをそれ ぞれ用いた.クリープ損傷に伴う),相組織の代表寸法変化の一 例を図6に示す. Raft 化に伴い成長する相あるいは Y相組織は,図4にも示したように必ずしも直線的に 連なった形状とはなっていない。例えば組織の代表長 さとしては島状組織の中心線に沿った長さを採用すべ きではあるが,自動画像処理に基づく非破壊検査シス テムの構築を意識して,今回は島状組織を内包する長 方形(楕円)形状を仮定し,その短・長辺寸法を組織 の代表長さと定義した.したがって、成長した島状組 織の代表寸法は,負荷と垂直あるいは平行方向の連続 した長さ(幅)となり,実際の組織寸法とは異なった 数値になる.今回は典型的な組織につき 15 um 平方領 域の組織観察を行い代表長さを決定した. 短軸方向寸 法には極小値をとる損傷率が存在するが,相対変化率 は長軸方向変化の方が大きいため,結果としては損傷 の進行にほぼ比例してこの寸法比(アスペクト比)は 単調に増加する.平均値,最大値いずれも単調に増加156しているので,損傷評価にはいずれの値も使用可能で, ある.以上,Ni基超合金 CM247LC の一軸負荷環境に おける Rat 化に起因した相あるいは相組織の代 表寸法がクリープ損傷率にほぼ比例して増加すること が明らかとなった.したがって,組織変化の観察を非 破壊で実施することが可能となったことから,各組織 の代表寸法(一軸負荷と直交方向の代表長さから組織 形状を楕円(長方形)近似した場合の長軸と短軸の寸 法比)を測定することで,クリープ損傷状態を定量的 に評価できる見通しが得られた.今後さらに評価試験 片を増やし,統計的にも最も組織変化を定量的に表す 評価手法を確立する予定である. ...5. 疲労損傷評価への適用検討- これまで,Ni基超合金の結晶粒内組織が,クリー プ損傷の進行に伴い粒子分散組織から層状化組織に変 化すること,その形状変化を測定することで定量的な 損傷の進行状況を評価できる可能性が高いことを明ら かにしてきた.近年,同じNi基超合金において,疲 労破壊の進展挙動に関しても高温環境では,粒界き裂 進展から粒内き裂進展に破壊モードが変化する場合が あることが報告されている.このような疲労破壊過程 の変化も結晶内の微細組織の変化に起因している可能 性が想定される.そこで次に,一軸の繰返し負荷を与 え疲労破壊させたNi基超合金における破断面近傍の 結晶内組織について同様にレーザ顕微鏡を使用して観 察評価した.疲労試験は 900°Cにおいて負荷振幅 300 MPa, 周波数 f=0.01 Hz で行った.破断させた試験片の表面組織観察 を行った結果を図7に示す. 観察は破断面から約1mm 離れた点(a)と,その位置からそれぞれ約1.5 mm 離れた 点(b)(C)の合計三点で行った. (c)点においては,粒内組 織は初期状態の分散組織とほぼ一致しており,特に大 きな変化は認められない.しかし,破断面に近づく(b) 点においては分散状態はほぼ保たれてはいるものの, 一部の隣接粒子間で結合が開始している状況が確認さ れる. さらに破断面から約1mm 離れた位置である (a) 一点では明確に層状化現象の発生が認められている.この層状化現象が認められた試料は破壊モードが粒界破 壊ではなく,粒内破壊(き裂進展)を生じたものであ る。このように,一軸負荷により疲労破壊(粒内き裂 進展)した試料においても破断面近傍においてクリー プ損傷した試料と同様な層状化現象が発生しているこ-157(a) lmm from a FS(b) 2.5 mm from a FS1:5 um 2 (C) 4.0 mm from a FS EN A(FS: Fracture surface) Fig. 7 Scanning laser micrographs of a sample fractured by a fatigue testとが初めて明らかになった.したがって,Ni基超合金においては,結晶粒内の微 細組織変化を観察し,その組織形状変化を定量的に評 価することで,損傷の進行メカニズム(クリープか疲 労か)に依存せず,粒内き裂進展に伴う破断寿命を決 定する材料損傷率を定量的に評価できる可能性がある ものと考えられる.実際のタービン翼においては複雑 な負荷が発生しており,本組織変化が統一的な材料損 傷評価パラメータとして使用できる可能性が高いこと から,今後さらに詳細に検討を進めていく.6.結言Ni基超合金 CM247LC の一軸負荷環境における高温 クリープあるいは疲労損傷の非破壊・非接触評価方法 の確立を目指し,青色レーザ光を使用することで,合 金内の微細組織(r相とr'相の分散状況)を明確に観 察でき,その組織形状寸法変化から損傷度合いを定量 的に評価できる見通しを得ることができた.謝辞本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金, 東北大学 21COE プログラムの支援によるものである.参考文献[1]駒崎,庄子,武市,佐藤,機論, Vol. 64-623A, 1997, (1998). [2]駒崎,庄子,佐藤,機論,Vol. 65-633A, 1147, (1999). [3]赤星,小川,三浦,庄子,機械学会東北学生会第 35 回卒業研究発表講演会講演論文集, (2005.3), pp. 51-52.“ “Ni基超合金のクリープ,“ “赤星 国晃,Kuniaki AKAHOSHI,鈴木 研,Ken SUZUKI,三浦 英生,Hideo MIURA
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