原子力関連事業者のパブリックリレーションズと住民参画の調査
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カテゴリ: 第3回
1.はじめに
者の合計 14 事業者に対して、広報・広聴活動の内容に 近年、エネルギー及び環境問題の深刻化が懸念され ついて、ヒヤリング及びアンケートを実施し、12 事業 る中、世界各国において、今後の原子力エネルギー利 者から回答を得た(2004.11~2005.2)。 用に関する様々な議論がある。米国では、原子力推進 調査の結果、理解促進のための広報活動事例は、多 の動きが顕著化し、Nuclear Energy Institute(NEI) 数あるが、リスクコミュニケーションは、必要性が認 は、国民世論調査の結果、大多数のアメリカ人が、将識されつつも、本格的な活動事例は少なかった。その 来のエネルギー源として原子力の重要性を認識してい 概要について、広報・広聴ツールの活用状況を分析し ると発表した。国内では、原子力白書において、相 たマップを Fig.1 に示す。広報ツールは、電子媒体や紙 次いだ事故や不祥事により失墜した信頼回復及び高レ 媒体より、専門的な情報提供が行われているが、関心 ベル放射性廃棄物処分など新たな事業実施に向けた理の低い層向けの情報内容やツールは数少ない。一方で、 解促進を図るため、リスクコミュニケーションの継続 広聴ツールは、原子力施設立地地域住民を中心にモニ が指摘されている。ター制度や意見交換会によって広聴が試みられている 1. 本調査では、原子力関連事業者のパブリックリレーものの、意見反映プロセスが不明瞭であり、十分な広 ションズ(ここでは、利害関係者との信頼構築を目的 聴のツールにはなっていないことが明らかとなったり。 とした広報・広聴活動と定義する)及び住民参画の現専門的(原子力・科学・リスク等の情報) 状を把握し、住民と事業者との相互理解を深めていく●広報ツール「実施事業者数)●安全協定(12)0. NA ための双方向コミュニケーションの方策を提案する。
2.調査概要「環境報告書(9) ・施設見学会(12) コウェブサイト(12) 講演会・シンポジウム(7) マガジン(2) ●職場体験(9)パンフレット(12) ビデオ(8) 能動的 「講師派遣(12)関心の高い層)受動的に1時間) (関心の低い。)Mess lassessemesses2.1 原子力関連事業者の現状把握調査 国内の原子力発電施設を有する 10 事業者、再処理施広報誌等(12 マスメディア(10)ちらし(7)●PR館・展示館(11)連絡先:郡司郁子 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4.33一般的(イベント・地域交流・子供向け等の情報)22.調査概要2.1 原子力関連事業者の現状把握調査 国内の原子力発電施設を有する 10 事業者、再処理施連絡先:郡司郁子 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 核燃料サイクル工学研究所 リスクコミュニケーション室 電話:029-282-1111 e-mail:gunji.ikuko@jaea.go.jp- 17 - Fig. 1 Map of Public Relations Toolsin the Nuclear Energy Field以上から、関心の低い層に対しては、わかりやすく、 ニーズに合致した情報を提供するための親しみやすい 広報ツール及び原子力に対する不安や疑問を把握する ための広聴ツールの充実が必要である。また原子力リ スクなどの知識が豊富で、積極的にアクセスする関心 の高い層に対しては、意見反映プロセスに参画できる ような双方向コミュニケーションのツールを検討して いくことが重要である。2.2 住民参画の事例調査 - 双方向のコミュニケーションによる住民参画の事例 として、米国及び国内原子力事業者における取組み調 査を実施した。 - 米国の事例として、Florida Power & Light Company (FPL)の原子力発電所(St.Lucie)に対してヒ ヤリング調査を行った。ここでは、事業を円滑に進め るため、地域の理解と支持獲得を目的に設置した情報 提供及び意見聴取の場“Community Advisory Panel““ (CAP)を運営する。参加者は、利害関係者(環境・経済・ 社会・教育・医療などの主要グループの代表)である。 CAP の利点は、トラブルをメディアに報道される以前 に、直接地域の代表に説明し、意見を聞くことが出来 るため、周辺地域と良好な関係を保っている点、また 継続的な会合の場にて、住民へのプレゼンテーション 資料やパンフレット原案のレビューを行い、意見聴取 の結果を反映し、地域社会に伝えていくことで、住民 とのトラブルの未然防止として大変有効な点である。 - 国内の事例として、茨城県東海村における「メッセ ージ作成ワーキンググループ(以下、MWG)」に対して ワークショップ及びアンケートにより活動を調査した。 MWG の活動目的は、体験や学習を通して原子力リス クリテラシーを向上し、住民の視点でわかりやすいメ ッセージを作成することである。MWG のメンバーは、 住民の素朴な意見を取り入れるため、原子力関係者と 疎遠であった東海村在住の 20~60 歳代の男女7名で、 各人の職業は様々である。運営は、地元のNPO団体 が行い、メッセージ作成に必要な情報やフィールド等 の提供は、(独)日本原子力研究開発機構が協力支援して いる。この活動の利点としては、MWG の活動を通し て、住民と事業者が相互に影響を与え合うことで、作 業効率化と活動成果が高まる「コラボレーション効果」 と、現物・客観的事実の確認と知識習得を繰り返し行 うことで、原子力に対する住民の意識・行動がよりポジティブに変容する「リスクリテラシー向上効果」が 派生した点である5)。 - いずれの事例も住民の意見を反映した活動を主体と しているため、ニーズに応じたパブリックリレーショ ンズを実現し、効果をあげている。3.結果と考察以上により、国内原子力関連事業者の広報・広聴体 制の現状は、双方向コミュニケーションの場が不足し ており、改善のためには住民参画と協働の新たな場を 構築し、住民の視点や意見を踏まえた双方向コミュニ ケーションを発展させていくことが重要と考える。 - 本調査では、このような住民参画の場では、住民あ るいは地域 NPO の中から、住民と事業者との間をつ なぐ中立的立場の「ブリッジセクター」が重要な役割 を果たすものと提案したい。ブリッジセクターの役割 は、情報の仲介役で、住民と事業者との情報伝達の際 に介在し、無関心層と事業者との橋渡しを担うことで ある。ブリッジセクターを中心に展開していく、住民 と事業者の関係構図を Fig. 2 に示す5。第五段階自立ブリッジ セクター(事業者住民第四段階アウトリーチ(事業者→()→ 住民第三段階 連携| (事業者)です(事業者笑)(住民)住民入第二段階 組織化住民(事業者ころ第一段階 不在(事業者)事業者(住民)住民Fig. 2 5-Step Public Participation Model住民の参画及び協働を経て、最終的には、ブリッジ セクターが自立することで(第五段階)、住民と事業者 との間で、中立的立場から、円滑な意思疎通を促すよ うな構図を作り出すことが今後の課題と考える。18ブリッジセクターのリスクリテラシーは活動と共に 向上していくことが推測されるため、常に住民の視点 を忘れないよう留意すべきある。また事業者との関係 に配慮することも必要である。過剰な信頼・信用は、 中立的立場を失いかねないことから、住民及び事業者 との双方向の関係をバランスよく保つことが肝要であ る。今後も原子力への信頼・信用確保のため、住民参画 と協働を目指し、双方向コミュニケーションのさらな る発展に努めていく。「謝辞本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構 原子力 安全基盤調査研究「リスクリテラシー向上のための広 報広聴体制と住民参画の研究」として実施したもので ある。参考文献 [1] Nuclear Energy Institute, ““Perspective on PublicOpinion” (2006) [2] 内閣府,原子力委員会, 原子力白書” (2005), pp.3-69. [3] 平成 15 年度原子力安全基盤調査研究, “リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研究”研究成果報告書(2004), pp.10-29. [4] 平成16年度原子力安全基盤調査研究, ““リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研究”研究成果報告書(2005), pp.9-15. [5] 平成 17 年度原子力安全基盤調査研究, ““リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研 究”研究成果報告書(2006), pp.43-68.“ “原子力関連事業者のパブリックリレーションズと住民参画の調査“ “郡司 郁子,Ikuko GUNJI,田端 理美子,Rimiko TABATA,大歳 幸男,Sachio OTOSHI,桑垣 玲子,Reiko KUWAGAKI,石橋 陽一郎,Yoichiro ISHIBASHI
者の合計 14 事業者に対して、広報・広聴活動の内容に 近年、エネルギー及び環境問題の深刻化が懸念され ついて、ヒヤリング及びアンケートを実施し、12 事業 る中、世界各国において、今後の原子力エネルギー利 者から回答を得た(2004.11~2005.2)。 用に関する様々な議論がある。米国では、原子力推進 調査の結果、理解促進のための広報活動事例は、多 の動きが顕著化し、Nuclear Energy Institute(NEI) 数あるが、リスクコミュニケーションは、必要性が認 は、国民世論調査の結果、大多数のアメリカ人が、将識されつつも、本格的な活動事例は少なかった。その 来のエネルギー源として原子力の重要性を認識してい 概要について、広報・広聴ツールの活用状況を分析し ると発表した。国内では、原子力白書において、相 たマップを Fig.1 に示す。広報ツールは、電子媒体や紙 次いだ事故や不祥事により失墜した信頼回復及び高レ 媒体より、専門的な情報提供が行われているが、関心 ベル放射性廃棄物処分など新たな事業実施に向けた理の低い層向けの情報内容やツールは数少ない。一方で、 解促進を図るため、リスクコミュニケーションの継続 広聴ツールは、原子力施設立地地域住民を中心にモニ が指摘されている。ター制度や意見交換会によって広聴が試みられている 1. 本調査では、原子力関連事業者のパブリックリレーものの、意見反映プロセスが不明瞭であり、十分な広 ションズ(ここでは、利害関係者との信頼構築を目的 聴のツールにはなっていないことが明らかとなったり。 とした広報・広聴活動と定義する)及び住民参画の現専門的(原子力・科学・リスク等の情報) 状を把握し、住民と事業者との相互理解を深めていく●広報ツール「実施事業者数)●安全協定(12)0. NA ための双方向コミュニケーションの方策を提案する。
2.調査概要「環境報告書(9) ・施設見学会(12) コウェブサイト(12) 講演会・シンポジウム(7) マガジン(2) ●職場体験(9)パンフレット(12) ビデオ(8) 能動的 「講師派遣(12)関心の高い層)受動的に1時間) (関心の低い。)Mess lassessemesses2.1 原子力関連事業者の現状把握調査 国内の原子力発電施設を有する 10 事業者、再処理施広報誌等(12 マスメディア(10)ちらし(7)●PR館・展示館(11)連絡先:郡司郁子 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4.33一般的(イベント・地域交流・子供向け等の情報)22.調査概要2.1 原子力関連事業者の現状把握調査 国内の原子力発電施設を有する 10 事業者、再処理施連絡先:郡司郁子 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 核燃料サイクル工学研究所 リスクコミュニケーション室 電話:029-282-1111 e-mail:gunji.ikuko@jaea.go.jp- 17 - Fig. 1 Map of Public Relations Toolsin the Nuclear Energy Field以上から、関心の低い層に対しては、わかりやすく、 ニーズに合致した情報を提供するための親しみやすい 広報ツール及び原子力に対する不安や疑問を把握する ための広聴ツールの充実が必要である。また原子力リ スクなどの知識が豊富で、積極的にアクセスする関心 の高い層に対しては、意見反映プロセスに参画できる ような双方向コミュニケーションのツールを検討して いくことが重要である。2.2 住民参画の事例調査 - 双方向のコミュニケーションによる住民参画の事例 として、米国及び国内原子力事業者における取組み調 査を実施した。 - 米国の事例として、Florida Power & Light Company (FPL)の原子力発電所(St.Lucie)に対してヒ ヤリング調査を行った。ここでは、事業を円滑に進め るため、地域の理解と支持獲得を目的に設置した情報 提供及び意見聴取の場“Community Advisory Panel““ (CAP)を運営する。参加者は、利害関係者(環境・経済・ 社会・教育・医療などの主要グループの代表)である。 CAP の利点は、トラブルをメディアに報道される以前 に、直接地域の代表に説明し、意見を聞くことが出来 るため、周辺地域と良好な関係を保っている点、また 継続的な会合の場にて、住民へのプレゼンテーション 資料やパンフレット原案のレビューを行い、意見聴取 の結果を反映し、地域社会に伝えていくことで、住民 とのトラブルの未然防止として大変有効な点である。 - 国内の事例として、茨城県東海村における「メッセ ージ作成ワーキンググループ(以下、MWG)」に対して ワークショップ及びアンケートにより活動を調査した。 MWG の活動目的は、体験や学習を通して原子力リス クリテラシーを向上し、住民の視点でわかりやすいメ ッセージを作成することである。MWG のメンバーは、 住民の素朴な意見を取り入れるため、原子力関係者と 疎遠であった東海村在住の 20~60 歳代の男女7名で、 各人の職業は様々である。運営は、地元のNPO団体 が行い、メッセージ作成に必要な情報やフィールド等 の提供は、(独)日本原子力研究開発機構が協力支援して いる。この活動の利点としては、MWG の活動を通し て、住民と事業者が相互に影響を与え合うことで、作 業効率化と活動成果が高まる「コラボレーション効果」 と、現物・客観的事実の確認と知識習得を繰り返し行 うことで、原子力に対する住民の意識・行動がよりポジティブに変容する「リスクリテラシー向上効果」が 派生した点である5)。 - いずれの事例も住民の意見を反映した活動を主体と しているため、ニーズに応じたパブリックリレーショ ンズを実現し、効果をあげている。3.結果と考察以上により、国内原子力関連事業者の広報・広聴体 制の現状は、双方向コミュニケーションの場が不足し ており、改善のためには住民参画と協働の新たな場を 構築し、住民の視点や意見を踏まえた双方向コミュニ ケーションを発展させていくことが重要と考える。 - 本調査では、このような住民参画の場では、住民あ るいは地域 NPO の中から、住民と事業者との間をつ なぐ中立的立場の「ブリッジセクター」が重要な役割 を果たすものと提案したい。ブリッジセクターの役割 は、情報の仲介役で、住民と事業者との情報伝達の際 に介在し、無関心層と事業者との橋渡しを担うことで ある。ブリッジセクターを中心に展開していく、住民 と事業者の関係構図を Fig. 2 に示す5。第五段階自立ブリッジ セクター(事業者住民第四段階アウトリーチ(事業者→()→ 住民第三段階 連携| (事業者)です(事業者笑)(住民)住民入第二段階 組織化住民(事業者ころ第一段階 不在(事業者)事業者(住民)住民Fig. 2 5-Step Public Participation Model住民の参画及び協働を経て、最終的には、ブリッジ セクターが自立することで(第五段階)、住民と事業者 との間で、中立的立場から、円滑な意思疎通を促すよ うな構図を作り出すことが今後の課題と考える。18ブリッジセクターのリスクリテラシーは活動と共に 向上していくことが推測されるため、常に住民の視点 を忘れないよう留意すべきある。また事業者との関係 に配慮することも必要である。過剰な信頼・信用は、 中立的立場を失いかねないことから、住民及び事業者 との双方向の関係をバランスよく保つことが肝要であ る。今後も原子力への信頼・信用確保のため、住民参画 と協働を目指し、双方向コミュニケーションのさらな る発展に努めていく。「謝辞本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構 原子力 安全基盤調査研究「リスクリテラシー向上のための広 報広聴体制と住民参画の研究」として実施したもので ある。参考文献 [1] Nuclear Energy Institute, ““Perspective on PublicOpinion” (2006) [2] 内閣府,原子力委員会, 原子力白書” (2005), pp.3-69. [3] 平成 15 年度原子力安全基盤調査研究, “リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研究”研究成果報告書(2004), pp.10-29. [4] 平成16年度原子力安全基盤調査研究, ““リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研究”研究成果報告書(2005), pp.9-15. [5] 平成 17 年度原子力安全基盤調査研究, ““リスクリテラシー向上のための広報広聴体制と住民参画の研 究”研究成果報告書(2006), pp.43-68.“ “原子力関連事業者のパブリックリレーションズと住民参画の調査“ “郡司 郁子,Ikuko GUNJI,田端 理美子,Rimiko TABATA,大歳 幸男,Sachio OTOSHI,桑垣 玲子,Reiko KUWAGAKI,石橋 陽一郎,Yoichiro ISHIBASHI